養子縁組の前に生まれていた養子のお子さんは、養親から見て「孫」にはならず、養子が先に亡くなっても代襲相続人にはなれません。孫への相続時精算課税も使えません。縁組の後に生まれたお子さんだけが、孫として扱われます。
具体例:同じ養子の子でも、生まれた時期で結論が分かれる
伯父甲さんの養子になった方(以下「養子」)に、縁組前に生まれた子Aと、縁組後に生まれた子Bがいる場合を考えます。
| 比べる点 | 子A(縁組前に出生) | 子B(縁組後に出生) |
|---|---|---|
| 養親(伯父甲)から見て孫か | 孫にならない | 孫になる |
| 養子が先に亡くなったときの代襲相続権 | なし | あり |
| 孫への相続時精算課税 | 選択できない | 他の要件を満たせば選択できる |
兄弟でありながら、養親との関係では「親族になる子」と「親族にならない子」に分かれます。
なお、相続時精算課税は、原則として贈与年の1月1日時点で、贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上であることなどが要件です。
理由:親族関係が生じるのは「縁組の日から」
養子縁組によって、養子と養親およびその血族との間に親族関係が生じるのは、縁組の日からです(民法727条)。縁組前に生まれた子Aは、縁組の時点ですでに生まれていますが、養親との間に親族関係は生じません。この考え方は、古い大審院の判例(大判昭和7年5月11日)でも示されています。
一方、代襲相続については、民法887条2項が、被相続人の子が相続開始前に死亡した場合などに、その子(被相続人の孫など)が代わって相続人になると定めています。ただし書で、代襲相続人は「被相続人の直系卑属」でなければならないとされています。養親から見て直系卑属とならない子Aは、ここで外れることになります。
国税庁の見解:2つの公表資料で同じ結論
国税庁は、次の2つの資料で、縁組前に生まれた養子の子を養親の孫として扱わない立場を示しています。
- 質疑応答事例「養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権の有無」:被相続人の養子Cの子G・H・Iが縁組前に生まれていた事例です。民法887条2項の「被相続人の直系卑属」は、相続開始前に死亡した被相続人の子を通じて直系卑属でなければならないと解されるため、G・H・Iは養子Cの代襲相続人にならないと回答しています。
- タックスアンサーNo.4303「年の中途に推定相続人又は孫となった場合の相続時精算課税の適用」:縁組前に生まれた子Aは養親の孫に当たらず、縁組後に生まれた子Bは孫に当たると回答しています。孫に当たらない子Aは、孫に対する相続時精算課税の特例を受けられません。
タックスアンサーでは、親族関係の発生時期(民法727条)を理由に挙げたうえで、この考え方は代襲相続権にも同様に当てはまると説明されています。つまり、養親が亡くなった時に養子がすでに亡くなっていれば、代襲相続権があるのは縁組後に生まれた子Bだけです。
実務の注意点:相続税と贈与税の両方に影響する
- 相続税の場面:養子が養親より先に亡くなっている場合、代襲相続人になれるのは縁組後に生まれた子だけです。代襲相続人が誰になるかで、法定相続人の数や各人の法定相続分が変わり、遺産分割の協議や相続税の基礎控除の計算にも影響します。
- 遺言で財産を渡す場合:縁組前に生まれた子に遺贈で財産を渡すことはできます。ただし、相続人としての取得ではなく遺贈になり、養子縁組をしていない子Aへの遺贈は、一親等の血族ではないため、原則として相続税額の2割加算の対象になります。
- 贈与税の場面:孫に対する相続時精算課税は、孫に当たる子Bだけが選べます。子Aは、通常の暦年課税での贈与を検討することになります。
- 事実の確認:まず戸籍で、縁組の日と子の出生日を確認してください。出生日が縁組の日の前か後かで、結論が逆になります。
対応策:縁組前に生まれた子にも財産を残したいとき
縁組前に生まれた子Aを孫と同じように遇したい場合、一般には次のような選択肢があります。いずれも家族構成や財産の状況で結論が変わるため、実行前に個別の確認が必要です。
- 遺言で財産を渡す:代襲相続権がなくても、遺言で遺贈すれば財産を残せます。
- 暦年課税による生前贈与:精算課税は使えませんが、暦年課税での贈与は可能です。
- 子Aを養親の養子にする:縁組により子Aが養親の養子となれば、養親との間に法律上の親族関係が生じます。ただし、相続税の計算で法定相続人に数えられる養子の数には制限があります。一方、子Aはもともと養親の法律上の孫ではないため、通常の孫養子とは異なり、原則として相続税額の2割加算の対象にはなりません。
縁組は身分関係を変える手続きですので、税金だけで判断せず、ご家族でよく話し合ってから進めることが大切です。
Q&A:国税庁の質疑応答事例で相続分を確認する
国税庁の質疑応答事例の相続人関係図を例に、実際の相続分を確認します。前提は次のとおりです。

出典:国税庁「養子縁組前に出生した養子の子の代襲相続権の有無」
- 被相続人には、実子E・Fがいます。
- 昭和47年に、CとDが被相続人の養子になりました。CとDは夫婦で、Cは相続開始前に亡くなっています。
- CとDの子G・H・Iは、縁組前の昭和33年、37年、42年に生まれました。
- G・H・Iは、昭和58年に被相続人と直接養子縁組をしています。
- 被相続人の配偶者はすでに亡くなっており、相続人は子だけとします。
Q1 G・H・Iは、亡くなったCの代襲相続人になれますか。
なれません。G・H・Iは、Cの縁組前に生まれているため、被相続人の直系卑属ではなく、代襲相続人にはなりません。国税庁の回答も同じ結論です。
Q2 では、G・H・Iは相続できないのですか。
できます。昭和58年に被相続人の養子になっているため、被相続人の子として、自分自身の権利で相続人になります。代襲相続人としてではなく、養子としての相続です。
Q3 各人の相続分はどうなりますか。
養子も実子と同じ相続分です(民法900条)。相続人は6人で、各自1/6になります。
| 相続人 | 立場 | 相続分 |
|---|---|---|
| E | 実子 | 1/6 |
| F | 実子 | 1/6 |
| D | 養子(昭和47年縁組) | 1/6 |
| G | 養子(昭和58年縁組) | 1/6 |
| H | 養子(昭和58年縁組) | 1/6 |
| I | 養子(昭和58年縁組) | 1/6 |
Cは被相続人より先に亡くなっており、G・H・IにはCを通じた代襲相続権がありません。そのため、Cの相続分を代襲するのではなく、被相続人の養子として、それぞれ独立して1/6の法定相続分を有します。
Q4 相続税の基礎控除では、何人で計算しますか。
実子がいる場合、法定相続人の数に含められる養子は1人までです(相続税法15条2項)。養子はD・G・H・Iの4人ですが、数えるのは1人だけです。E・Fと合わせて3人となり、基礎控除は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。
ここで注意したいのは、養子の人数制限は、民法上の相続権を制限するものではないということです。G・H・Iは、いずれも相続人として各1/6の相続分を持ちます。一方、相続税の基礎控除や相続税の総額の計算では、養子の人数制限が適用されます。
Q5 G・H・Iが相続すると、相続税が2割加算されますか。
G・H・Iは、C・Dの養子縁組前に生まれているため、被相続人の法律上の孫ではありません。昭和58年に被相続人と直接養子縁組しており、一親等の法定血族として相続するため、原則として相続税額の2割加算の対象にはなりません(相続税法18条)。
同じ事例でも、被相続人に生存している配偶者がいれば、相続分は大きく変わります。縁組の時期や配偶者の有無で結論が変わりますので、早めにご相談ください。
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養子縁組が絡む相続や贈与は、戸籍で事実関係を確認しないと結論が出せません。相続対策や生前贈与をお考えの方は、お気軽にご相談ください。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案に当てはまる結論を示すものではありません。








