船場後退線の相続税評価|セットバックと後退後の区分地上権評価、附則5項道路まで解説

附則5項道路に面した宅地の相続税評価|船場建築線とセットバック70%評価減

旧市街地建築物法の建築線を引き継ぐ道路に面する宅地では、建替え時に後退が必要となる部分について、財産評価基本通達24-6(セットバックを必要とする宅地の評価)を踏まえて70%の評価減を行う考え方があります。ただし、現況幅員4m未満の道路と、船場建築線のように現況4m以上の道路とでは、その根拠が異なります。

附則5項道路(「付則5項道路」とも表記されます)や、旧市街地建築物法の建築線を引き継いだ道路は、大阪市内に多く残っています。その中でも特殊な例が、大阪市中央区の「船場建築線」です。この記事では、制度の成り立ち、評価の考え方、計算例、実務上の留意点を順に説明します。

目次

附則5項道路とは

建築基準法附則5項は、戦前の市街地建築物法7条ただし書によって指定された「建築線」のうち、建築線間の距離が4m以上あるものについて、42条1項5号の道路の位置の指定があったものとみなす規定です。大阪市では、旧市街地建築物法による建築線を引き継ぐものについて、現在の道路種別上、「法附則5項」と「建築線」に分けて整理しています。条文は次のとおりです。

市街地建築物法第七条但書の規定によつて指定された建築線で、その間の距離が四メートル以上のものは、その建築線の位置にこの法律第四十二条第一項第五号の規定による道路の位置の指定があつたものとみなす。

建築線とは「ここから道路側には建物を建ててはいけない」という線です。昭和25年に建築基準法が施行された際、向かい合う建築線の間隔が4m以上あるものは、位置指定道路(42条1項5号)の指定があったものとみなされました。

そのため、現況の道路が建築線より狭い場合、建替え時には建築線まで後退する必要があります。この点が2項道路のセットバックとよく似ています。

大阪市では2つに区分されている

附則5項に基づく建築線は、大阪市の道路種別では「法附則5項」と「建築線」の2つに分かれます。どちらも戦前の建築線を引き継いだものですが、後退する位置が違います。

項目2項道路法附則5項(一括指定)建築線(個別指定)
大阪市の区分法42条2項法附則5項法42条1項5号(建築線)
成り立ち法の適用時に建物が立ち並んでいた幅員4m未満の道を、特定行政庁が指定認定幅員4m未満の市道等に沿って、建築線を一括指定道路境界線を個別に指定
主な場所市内各所市内各所の狭い認定道路船場地区、住吉区苅田・長居、東住吉区矢田・公園南矢田、平野区加美、生野区巽
道路境界とみなされる線原則として道路中心線から2m道路中心線から各2m指定された建築線(船場は中心から5mまたは6m)
評基通24-6直接適用2項道路として取り扱われ、適用(専門誌の事例)準用(実務上の判断)

「附則5項道路は中心線から2m後退」という説明は、一括指定された狭い道路についてのものです。船場などの個別指定では、後退するのは指定された建築線までです。

船場建築線:個別に指定された建築線の代表例

船場建築線は、土地の高度利用を図るため、昭和14年4月4日の大阪府告示第404号により、旧市街地建築物法7条ただし書に基づいて指定された建築線です。現在は、建築基準法42条1項5号の規定による道路の境界線とみなされています。以下は大阪市の説明と「船場建築線についてのQ&A」に基づく内容です。

船場地区は、幅員約6mと約8mの道路を中心に古くから市街地が形成された地区です。現況の道路は4m以上あり、建築線はさらにその外側に指定されています。

項目内容
南北方向の道路道路中心から5m後退した位置(建築線の間隔10m)
東西方向の道路道路中心から6m後退した位置(建築線の間隔12m)
交差部2.5mのすみ切り(街角剪除)
片側だけが区域内の道路区域内の側のみ後退

一部にこの説明と異なる箇所があるため、個別の土地は大阪市の「船場建築線の指定状況図(参考図)」で確認します。

後退部分の建築基準法上の扱い

  • 建築線と現況の道路境界に挟まれた部分、すみ切り部分は、建築基準法上の道路とみなされます。
  • この部分は建築敷地にできず、建ぺい率・容積率を計算する際の敷地面積にも算入できません。
  • 道路斜線制限や前面道路幅員による容積率制限では、建築線の間隔が道路幅員とみなされます。
  • 後退部分は歩道の形態に整備するよう求められ、青空駐車場としての利用も想定されていません。
  • 建築線は土地の所有権とかかわりなく指定されています。

つまり、後退部分は所有していても建物の敷地として使えない土地です。

相続税評価の考え方

建替え時に建築線まで後退しなければならない部分については、道路の区分に応じて、通達24-6の適用またはその考え方の準用により、70%の評価減を検討します。

「東北篤『プロが教える土地評価の要諦』(清文社)でも、船場建築線の未後退部分は通達24-6を準用し、自用地価額の30%相当額で評価すると整理されています。

通達24-6の定め

通達24-6は、次の2つを満たす宅地を対象としています。

  1. 建築基準法42条2項に規定する道路に面していること
  2. 将来、建物の建替え時等に、同法の規定に基づき道路敷きとして提供しなければならない部分を有すること

評価額は、道路敷きとして提供する必要がないものとした場合の価額から、次の割合を乗じた金額を控除して求めます。

控除割合 =(将来、道路敷きとして提供しなければならない部分の地積 ÷ 宅地の総地積)× 0.7

現況4m未満の場合と、船場建築線では根拠が異なる

通達24-6は文言上、42条2項の道路を対象としています。附則5項に基づく道路は、そのままでは対象に当たらないため、場面を分けて整理します。

① 現況幅員が4m未満の場合

税務研究会「ウェブ版 資産税通信」の事例(現況幅員4m未満の建築基準法附則5項道路に面する宅地の評価)は、現況幅員1.82m、指定幅員4.545mの附則5項道路についてのものです。指定幅員4m未満の道路や、指定幅員4m以上で現況幅員4m未満の道路は、42条2項の道路として取り扱われるため、通達24-6により評価して差し支えないとされています。

これは「附則5項道路だから準用する」のではなく、「2項道路として取り扱われるから通達24-6を適用する」という説明です。

② 船場建築線など、現況幅員が4m以上の場合

船場建築線は42条1項5号の道路の境界線とみなされ、現況の幅員も約6m・約8mあります。そのため、通達24-6の直接の適用対象ではありません。国税庁が公表した質疑応答事例等も確認できていません。

ただし私は、将来の建替え時に道路敷きとして使用することが予定され、地上部分を建物敷地として自由に利用できないという経済的制約は、2項道路のセットバック部分と本質的に共通していると考えています。そのため、通達24-6の趣旨を踏まえてこれを準用し、後退部分について70%の評価減を行っています。専門書でも、船場建築線の未後退部分は通達24-6を準用し、自用地価額の30%相当額で評価すると整理されています。

①は公表資料で確認できる取扱いです。②は国税庁の公表事例では確認できませんが、専門書に同様の整理があり、私も実務上この方法で評価しています。個別案件では、建築線の指定状況や土地の利用状況を確認したうえで判断する必要があります。申告にあたっては、建築線の指定状況図や後退面積の計算根拠を資料として整えておくことをおすすめします。

計算例

次の設例では、後退部分20㎡について1,400万円が控除され、評価額は1億8,600万円になります。数値は説明用の仮定です。

前提内容
所在船場建築線の区域内、東西方向の道路に面する宅地
現況の道路幅員8m(道路中心から現況の道路境界まで4m)
建築線道路中心から6m(後退距離は2m)
間口・奥行間口10m、奥行20m
地積200㎡
路線価100万円/㎡(奥行価格補正率は1.00と仮定)
手順計算計算結果
1. 後退を考慮しない価額100万円 × 1.00 × 200㎡2億円
2. 後退部分の地積間口10m × 後退距離2m20㎡
3. 控除割合20㎡ ÷ 200㎡ × 0.70.07
4. 控除額2億円 × 0.071,400万円
5. 評価額2億円 − 1,400万円1億8,600万円

角地で2.5mのすみ切りがかかる場合は、すみ切り部分の地積も後退部分に加えます。

実務上の留意点

すでに後退が済んでいる場合

通達24-6の対象は「将来」道路敷きとして提供しなければならない部分です。すでに建築線まで後退し、歩道状に整備されている部分は対象になりません。

この場合、後退部分については、通達24-6ではなく、現況の利用状況に応じて私道の評価(通達24)を準用します。不特定多数の人の通行の用に供されていれば、その部分は評価しません。ただし、地下を利用している場合や、構築物を設置して公共の用に供していない場合は扱いが変わります。現地で建物の位置と歩道状部分を確認することが出発点になります。

普通のセットバックとの違い:地下を利用している場合

船場建築線が2項道路のセットバックと大きく違うのは、後退部分の地下を利用できる点です。大阪市のQ&Aでも、後退部分の所有権があれば地下には建築でき、その床面積は延べ面積に算入されるとされています。

後退部分が歩道として不特定多数の通行の用に供されていれば、本来その部分は評価しません。しかし、地下を建物の一部として利用している場合は、地下の利用価値が残っています。

この場合は、後退部分の地下に区分地上権を設定しているのと同様に考え、地下部分の土地利用制限率を基にした割合で評価します。専門書では、自用地価額の20%相当額で評価する方法が示されています。

船場建築線の後退部分の評価を整理すると、次のとおりです。

後退部分の状況評価考え方
後退未了自用地価額の30%相当額セットバックの評価(通達24-6)を準用
後退済み・不特定多数が通行評価しない私道の評価(通達24)を準用
後退済み・不特定多数が通行、地下利用あり自用地価額の20%相当額地下に区分地上権を設定している場合と同様に評価
後退済み・構築物等を設置し、公共利用なし自用地価額の30%相当額私道の評価(通達24)を準用

船場のビルは地下階を設けている例が多いため、後退済みの土地でも、建物図面で地下部分が建築線を越えて道路側に出ていないかを確認する必要があります。

後退部分の地下は建築できる

大阪市のQ&Aによれば、後退部分の所有権を有する場合、その地下部分には建築が可能で、地下部分の床面積は延べ面積に算入されます。これは船場建築線について大阪市が明示している特徴の一つです。

地上は道路、地下は利用可能という土地ですので、通達24-6を準用する際は、この点も承知しておく必要があります。地下に区分地上権を設定している場合と同様に評価 

前面道路幅員による容積率制限では建築線の幅員を使う

後退部分は敷地面積から除外されます。一方、前面道路幅員による容積率制限や道路斜線制限では、現況道路の幅員ではなく、建築線を道路境界として計算します。船場では、建築線間の10mまたは12mが道路幅員として扱われます。

建築線の調べ方

  • 大阪市の道路種別は「マップナビおおさか」と、市役所の道路参考図で確認します。「法附則5項」と「建築線」は別の種別です。
  • 船場地区は、大阪市の「船場建築線の指定状況図(参考図)」で後退距離を確認します。一般的な5m・6mと異なる箇所があります。
  • 耕地整理事業による建築線(苅田・長居、矢田・公園南矢田、加美、巽)は、後退距離が場所によって異なります。大阪市は電話・FAX・メールでは回答しないため、窓口での確認が必要です。
  • 建築線は所有権と関係なく指定されているため、登記簿や公図だけでは判明しません。
  • 後退面積は、現況の道路境界から建築線までの距離をもとに算定し、根拠となる図面を残します。

まとめ

  • 旧市街地建築物法の建築線を引き継いだ道路は、大阪市内に多く残っています。
  • 大阪市では、認定幅員4m未満の「法附則5項」(中心から2m)と、船場などの「建築線」(個別指定)に区分されています。
  • 現況幅員4m未満の場合は、2項道路として取り扱われ、通達24-6で評価できるとする専門誌の事例があります。
  • 船場建築線は通達24-6の直接の適用対象ではありませんが、減価の実質が共通するため、準用して後退部分の70%を控除します。専門書にも同様の整理があり、私も実務上この方法で評価しています。
  • すでに後退済みで、不特定多数の通行の用に供している部分は評価しません。
  • 後退済みでも地下を利用している場合は、区分地上権を設定している場合と同様に考え、自用地価額の20%相当額で評価します。これが普通のセットバックとの違いです。

大阪では古くから実務上知られてきた取扱いですが、全国向けの土地評価書籍ではほとんど見かけません。今回、手元の専門書を確認したところ、東北篤氏『プロが教える土地評価の要諦』(清文社)に具体的な評価方法が記載されていました。

参考資料

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