なぜ事業承継税制の見直しでドイツが参考にされるのか?非上場株式評価との関係を解説

なぜ事業承継税制の見直しでドイツが参考にされるのか?非上場株式評価との関係を解説

目次

はじめに

令和9年度税制改正に向けて、国税庁では非上場株式の評価方法、中小企業庁では事業承継税制の見直しが同時に議論されています。

二つの会議資料を見ていると、外国制度の比較対象としてドイツの考え方が参考になります。

ドイツでは、会社の価値を収益力に基づいて評価する一方、実際に事業を引き継いで一定期間継続する後継者には、相続税・贈与税を大幅に軽減する仕組みが設けられています。

その基本的な考え方は、次のように整理できます。

会社の価値はできるだけ適正に評価する。そのうえで、事業を継続する後継者には政策的な税負担の軽減を行う。

これは、日本で同時に進んでいる「非上場株式評価の厳格化」と「新しい事業承継税制の再設計」を考えるうえで、非常に示唆的です。

本記事では、ドイツの制度の概要と、日本の税制改正との共通点を整理します。

1.ドイツでは企業評価と事業承継の優遇を分けている

非上場株式の相続・贈与を考える場合、二つの問題を分ける必要があります。

  1. その会社の株式はいくらなのか
  2. 事業承継を行う後継者の税負担をどこまで軽減するのか

日本では、これまで類似業種比準方式や会社規模区分などを利用して株価を引き下げる対策が広く行われてきました。そのため、企業価値の評価と事業承継のための政策的な軽減が、実務上は混ざりやすい状態にありました。

これに対してドイツは、企業価値を評価する仕組みと、事業承継を支援するための税負担軽減を、比較的明確に分けています。

まず企業の価値を評価し、その後に、事業継続や雇用維持などの条件を満たす場合に限って、事業用資産に対する軽減措置を適用します。

この二段構造が、現在の日本の制度改正を考えるうえで重要なポイントです。

2.ドイツの非上場企業評価は将来の収益力を重視する

ドイツの評価法には、非上場会社の株式や事業用資産を評価する方法として「簡易収益価値法」が定められています。

この方法では、将来にわたって継続的に得られると見込まれる年間利益を基礎として企業価値を計算します。過去に実際に得られた平均利益を、将来利益を判断するための基礎とする仕組みです。

具体的には、原則として直前3事業年度の利益を基礎に平均利益を求め、これに一定の資本還元係数を乗じます。現在の法律上の資本還元係数は13.75です。

ただし、決算書の利益をそのまま使用するわけではありません。

  • 特別償却や一時的な損失
  • 臨時的な資産売却益・売却損
  • 適正額を超える、または不足する経営者報酬
  • 事業活動に直接必要のない資産から生じる損益

などを調整し、将来も継続すると考えられる正常な利益に近づけます。また、本来の事業を損なわずに切り離せる非事業用資産などは、収益価値とは別に時価で加算されます。

なお、この簡易収益価値法によって明らかに不適切な結果になる場合まで、機械的に適用されるわけではありません。

ドイツの簡易収益価値法と、日本で検討されている残余利益方式は同じ計算式ではありません。しかし、単年度の利益や形式的な会社規模ではなく、正常化した利益と企業の継続的な収益力を重視する点では、共通する発想があります。

参考:ドイツ評価法 第199条第200条第201条第202条第203条

3.事業を継続する後継者には85%または100%の軽減

ドイツでは、一定の要件を満たす事業用資産について、原則として85%を課税対象から除外する軽減制度があります。

さらに、より厳しい条件を選択した場合には、100%の軽減を受けられる仕組みも設けられています。

もっとも、単に会社の株式を相続・贈与すれば、自動的に85%または100%が軽減されるわけではありません。

85%軽減の基本的な要件には、5年間の事業保有と、原則として5年間の給与総額が基準額の400%を下回らないことなどがあります。100%軽減を選択した場合には、保有期間が7年間、給与総額の基準が700%となり、条件が厳しくなります。従業員数が少ない企業については、給与総額要件の適用除外または緩和があります。

※ここでいう400%とは、5年間の累計給与総額が、承継前の年間平均給与総額の400%以上という意味です。年平均では、承継前の約80%以上を5年間維持する計算となります。

また、100%軽減を選択した場合は、7年間の累計給与総額が承継前の年間平均給与総額の700%以上、すなわち年平均で100%以上を7年間維持することが求められます。

また、事業に直接必要のない不動産、一定の少数株式、有価証券、過大な現預金などは「管理資産」として区分され、原則として事業承継の軽減対象から外されます。管理資産が一定以上を占める場合には、事業用資産全体が軽減対象にならない仕組みもあります。

つまり、ドイツの制度は「会社に入っている資産ならすべて優遇する」というものではありません。

実際の事業に使われている資産を、事業を継続する後継者が引き継ぐ場合に限って軽減する

という制度です。

参考:ドイツ相続税・贈与税法 第13a条第13b条

4.評価を低くする制度ではなく、適正評価後に軽減する制度

ドイツの制度で重要なのは、事業承継を支援するために会社そのものを最初から低く評価するのではない点です。

会社の価値は収益力などに基づいて評価します。その結果、株価が高くなったとしても、事業承継政策として保護する必要がある部分について、別の規定で85%または100%を軽減します。

評価制度と軽減制度を分けることで、次の二つを両立させようとしています。

  • 一般の相続財産との課税の公平性を保つ
  • 雇用や地域経済を支える会社の事業承継を妨げない

制度はかなり複雑であり、ドイツの税法がすべて日本より進んでいると単純に評価することはできません。ただし、企業価値の算定と政策的な税負担軽減を分けて考える制度設計は、日本より明確です。

5.日本の非上場株式評価も収益力重視へ向かっている

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」では、類似業種比準方式に代わる方法として、残余利益方式の導入が検討されています。

第6回会議資料では、法人税申告書を基礎とし、過去5年間の正常利益から将来利益を算定する方向が示されました。また、オペレーティングリース、過大な役員報酬、含み損資産、子会社株式、組織再編直後の会社などについても、評価額を調整する必要性が検討されています。

これは、会社規模の変更、組織再編、資産の入替え、一時的な利益圧縮などによって株価を引き下げる方法を難しくし、会社の実質的な収益力を評価額へ反映させようとするものです。

ドイツの簡易収益価値法をそのまま導入するわけではありませんが、形式よりも正常利益と継続的な収益力を重視する方向は共通しています。

参考:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回資料

6.評価を厳格化するだけでは事業承継が止まる

非上場株式は、上場株式のように市場で簡単に売却して納税資金を作ることができません。

利益を蓄積してきた優良企業ほど株価が高くなりますが、後継者が会社を引き継いだだけでは、個人の手元に現金が入るわけではありません。それでも多額の相続税・贈与税が発生すれば、会社から多額の配当を受ける、借入れをする、株式や会社を売却するといった対応が必要になります。

そのため、従来の株価対策を封じるだけでは、国が進める事業承継政策と矛盾します。

評価方法を経済的価値に近づけるのであれば、同時に、本当に事業を継続する後継者へ正面から税負担を軽減する制度が必要です。

ドイツの制度は、この問題に対して「評価」と「事業承継支援」を分けることで対応しています。

7.日本の新しい事業承継税制もドイツ型に近づくのか

中小企業庁では、現行の法人版事業承継税制について、特例措置を単純に延長するのではなく、制度自体を再設計する方向で検討が進められています。

検討されている主な方向には、次のようなものがあります。

  • 一定期間の事業継続後に猶予税額を免除する
  • 非上場株式について一定割合を直接評価減する
  • 雇用人数だけでなく、賃上げや設備投資なども評価する
  • 株式の集約を進め、後継者の経営支配を安定させる
  • 年次報告などの手続きを簡素化する

現時点で最終的な制度は決まっていません。また、日本がドイツと同じ85%・100%軽減を採用すると決まったわけでもありません。

しかし、制度設計の方向としては、次の組合せが有力になってきたと考えられます。

  1. 非上場株式は、実質的な収益力に基づいて適正に評価する
  2. 事業継続などの要件を満たした後継者には、別制度で評価減または税額免除を行う
  3. 事業に直接関係しない資産や、形式的な株価引下げは優遇しない

これは、ドイツの制度に近い二段構造です。

参考:中小企業庁「中小企業の親族内承継に関する検討会」

8.今後の事業承継実務への影響

今後、非上場株式評価と事業承継税制がこの方向で改正されれば、従来の実務も変わります。

株価引下げだけを目的とする対策は難しくなる

持株会社の設立、合併、会社分割、株式交換、不動産の取得、役員退職金などには、それぞれ本来の経営目的があります。

しかし、株価引下げだけを目的として形式的に実行しても、新しい評価方法では効果が反映されにくくなる可能性があります。組織再編直後の会社や資産管理会社について、純資産価額方式の対象とする議論にも注意が必要です。

事業承継後の経営計画が重要になる

新制度が事業継続、賃上げ、設備投資、生産性向上などを要件とする場合、承継時の税務手続だけでは終わりません。

承継後にどのような会社を作るのか、誰が経営し、どのように雇用や投資を維持するのかという経営計画まで含めた準備が必要になります。

事業用資産と事業外資産の区分が重要になる

ドイツの制度では、事業に必要のない資産は軽減対象から除外されます。日本でも、資産管理会社の判定や事業外資産の取扱いが厳しくなる可能性があります。

会社に多額の不動産、有価証券、現預金、貸付金などがある場合には、それが事業に必要な資産なのかを説明できるようにしておく必要があります。

9.日本では事業外資産まで納税猶予の対象になり得る

ドイツと日本の大きな違いは、事業承継の優遇対象を「資産単位」で判定するか、「会社単位」で判定するかという点です。

ドイツでは、会社の中にある資産を事業用資産と管理資産に分け、不動産、有価証券、過大な現預金など、事業に直接必要のない資産は原則として軽減対象から除外します。100%軽減を選択する場合には、管理資産が会社価値の20%以下であることも求められます。

これに対して、日本の現行の事業承継税制は、原則として会社単位で適用の可否を判定します。

日本にも、特定資産の帳簿価額が総資産の70%以上となる「資産保有型会社」や、特定資産からの収入が総収入金額の75%以上となる「資産運用型会社」を対象外とする仕組みがあります。

しかし、これらの基準に該当しない場合や、一定の事業実態要件を満たす場合には、会社内に余剰現金、有価証券、賃貸不動産などの事業外資産が含まれていても、それらを含んだ株式価値に対応する相続税・贈与税まで納税猶予の対象となり得ます。

そのため、現行制度では、事業承継前に個人所有の不動産や金融資産などを会社へ移し、事業用資産と一緒に事業承継税制へ乗せる余地があります。

ドイツ日本の現行制度
資産ごとに事業用かどうかを判定原則として会社単位で判定
事業外資産は軽減対象から除外基準内であれば事業外資産を含む株式も猶予対象になり得る
事業用資産に限って最大100%を免除特例措置では対象株式に係る税額を100%猶予
事業継続・給与総額・管理資産割合などを確認資産保有型会社・資産運用型会社などの要件を確認

今後の日本でも、会社全体を一括して優遇するのではなく、会社の中の事業用部分だけを評価減または免除の対象とし、事業外資産については通常どおり課税する仕組みへ移行する可能性があります。

国税庁が資産管理会社の範囲を見直そうとしていることと、中小企業庁が事業承継税制を再設計していることは、別々の議論ではありません。事業外資産を会社に取り込んで事業承継税制の対象とする現在の仕組みを見直すことが、今後の改正の重要な論点になると考えられます。

まとめ

非上場株式評価と事業承継税制の議論でドイツの制度が参考になるのは、単に税負担が軽いからではありません。

ドイツでは、会社の価値を収益力に基づいて評価し、そのうえで、事業を継続する後継者に対して政策的な軽減を行っています。

その考え方は、次の一文に集約できます。

株価は適正に評価する。しかし、本当に事業を引き継ぐ後継者には、正面から税負担を軽減する。

日本でも今後、組織再編や資産入替えなどによる株価引下げを抑制する一方、事業継続を条件とした評価減や税額免除を設ける方向へ進む可能性があります。

非上場株式評価の厳格化と、新しい事業承継税制は別々の改正ではありません。二つをセットで見ることで、国が目指す制度の全体像が見えてきます。

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※本記事は2026年9月18日時点で公表されている日本およびドイツの法令・会議資料に基づいています。日本の新しい非上場株式評価方法および事業承継税制は検討段階であり、今後の税制改正により内容が変更される可能性があります。

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