はじめに:保険料を払っているのは夫、でも契約者は妻
年末調整の時期になると、「契約者が妻の保険料を、夫の生命保険料控除にしてよいのか」というご質問をよくいただきます。保険会社から届く控除証明書には契約者の名前が印字されているため、迷われる方が多いのです。
この点について、国税庁は質疑応答事例で考え方を示しています。この事例で見落としてはいけないのは、回答の最後の「なお書き」です。保険料を誰が負担するかによって、将来受け取る保険金の課税関係が異なると注意を促しています。本稿では、控除の考え方とあわせてこの点を詳しく解説し、令和8年分の年末調整で変わった点も整理します。
結論:夫が保険料を支払ったことを明らかにすれば、夫の控除にできます
国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)は、従業員Aが妻Bを契約者とする生命保険の保険料を支払った場合、Aが支払ったことを明らかにすれば、Aの生命保険料控除の対象として差し支えないとしています。
控除を受けられるのは、契約者ではなく、保険料を実際に支払った人です。国税庁のタックスアンサーNo.1140にも、「妻が契約者の生命保険料」として同じ趣旨のQ&Aが載っています。
ただし、国税庁の回答は、なお書きで重要な注意を加えています。保険料を誰が負担するかによって、将来受け取る保険金の課税関係が異なり、贈与税または一時所得として課税が生じる場合があるというものです。控除の可否だけで判断せず、保険金を受け取るときの税金まで確認しておく必要があります。詳しくは次の項で解説します。
国税庁が注意を促す「将来の課税関係」:保険金を受け取るときの税金
控除を受ける人と保険料の負担者が同じであることは、将来の課税関係でも重要です。国税庁の回答は、なお書きで、誰が保険料を負担するかによって、将来受け取る保険金に贈与税または一時所得の課税が生じると注意を促しています。
| 保険金 | 受取人 | 保険料の負担者 | 課税関係 |
|---|---|---|---|
| 満期保険金 | 妻B | 夫A | 贈与税の対象になります |
| 死亡保険金(Bが亡くなったとき) | 夫A | 夫A | 一時所得として所得税の対象になります |
満期保険金を妻が受け取る場合、他の贈与と合わせて年110万円(基礎控除額)を超えると、贈与税の申告が必要です(国税庁タックスアンサーNo.4408)。
逆に、実際には妻が保険料を負担していた場合、夫が受け取る死亡保険金は相続税の対象になります。控除の申告と将来の課税が食い違わないよう、「誰が払っているか」を家族で確認しておくことが大切です。
国税庁の令和8年分 年末調整Q&A(問8)も、同じ事例を取り上げています。妻や子が契約者でも、給与の支払を受ける夫が保険料を支払っていれば、夫の控除の対象になるとしたうえで、保険料を負担していない人が保険金を受け取った場合は、贈与税や相続税の対象になると注意しています。なお、国税庁の例は、契約者である妻に所得がなく、夫が保険料を支払っている場合です。
参考:
① 夫が生命保険料控除を受ける場合 ― 将来の贈与税
夫が妻名義の生命保険料を負担している場合、夫が生命保険料控除を受けられます。
この場合、妻が将来満期保険金を受け取ると、満期保険金を受け取った時点で贈与税の対象になります。
つまり、保険料の支払時ではなく、将来の保険金受取時に贈与税の問題が生じます。(国税庁タックスアンサーNo.4417)。
② 妻が贈与された資金で生命保険料控除を受ける場合 ― 現在の贈与税
夫が妻に保険料相当額の現金を贈与し、妻がその資金を自分のものとして保険料を支払う場合は、妻が生命保険料控除を受けられます。
この場合は、妻が保険料相当額の贈与を受けた時点で贈与税の問題が生じます。
妻が実際の保険料負担者と認められ、将来、妻自身が満期保険金を受け取る場合は、原則として贈与税ではなく、所得税(一時所得)の対象になります。
注意点
ただし、夫が妻名義の口座に入金しているだけでは、必ずしも妻への贈与が成立するわけではありません。贈与の事実と、実際の保険料負担者を確認する必要があります。
なお、贈与税の暦年課税には、年間110万円の基礎控除があります。1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません(国税庁タックスアンサーNo.4402)。
理由:控除の要件に「契約者」は入っていません
生命保険料控除は、1年間に生命保険料などを支払った人が受けられる所得控除です(所得税法76条1項)。対象となる契約には、次の条件があります(同条5項・6項)。
- 保険金等の受取人の全員が、保険料を払い込む人、またはその配偶者その他の親族であること
- 個人年金保険の場合は、受取人が、払い込む人またはその配偶者であること
条文に「契約者であること」という要件はありません。夫婦の一方が契約者でも、払い込んだ人が控除を受けられる仕組みです。
なお、受取人の要件を満たしているかどうかは、保険料を支払った時点の状況で判断されます。たとえば離婚後も受取人が元の妻のままだった期間の保険料は、控除の対象になりません(タックスアンサーNo.1140 Q3)。
国税庁の事例にあてはめると
この事例では、受取人が夫A本人と妻Bの2人だけなので、受取人の要件を満たします。
| 項目 | 事例の内容 | 控除との関係 |
|---|---|---|
| 契約者 | 妻B | 要件に関係しません |
| 被保険者 | 妻B | 要件に関係しません |
| 保険料を支払った人 | 夫A(従業員) | 控除を受ける人 |
| 満期保険金の受取人 | 妻B | Aの配偶者なので要件を満たします |
| 死亡保険金の受取人 | 夫A | 払い込む人本人なので要件を満たします |
受取人に、親族以外の人が含まれている場合は、この要件を満たさず、控除の対象外となります。
年末調整での実務ポイント
会社の担当者も従業員の方も、次の4点を押さえておけば迷いません。
- 控除証明書は妻名義のままで構いません。保険会社から10月ごろ以降に順次届きます。保険料控除申告書に添付して提出します。
- 保険料控除申告書には、契約者として妻の氏名を記入し、保険金の受取人と続柄は、保険契約の内容を確認して記入します。
- 保険料を実際に支払ったのが夫であることを確認します。引落口座やクレジットカードの名義は目安になりますが、基準は実際の負担者です。判断に迷う場合は、ご相談ください。
- 同じ保険料を、夫と妻の両方で控除することはできません。共働きのご家庭では、どちらが負担しているかを整理してから申告します。
令和8年分・令和9年分の特例:23歳未満の扶養親族がいる場合
令和8年分と令和9年分に限り、23歳未満の扶養親族(配偶者を除く)がいる方は、新契約(平成24年1月1日以後に締結した契約)の一般生命保険料控除の上限が、4万円から6万円に引き上げられました(国税庁タックスアンサーNo.1140)。
23歳未満の扶養親族がいる場合の、新生命保険料の控除額は次のとおりです。この表は、新契約だけに加入している場合の計算表です。新契約と旧契約の両方に加入している場合は、計算方法が異なります。
| 年間の新生命保険料 | 控除額 |
|---|---|
| 30,000円以下 | 全額 |
| 30,000円超 60,000円以下 | 保険料 × 1/2 + 15,000円 |
| 60,000円超 120,000円以下 | 保険料 × 1/4 + 30,000円 |
| 120,000円超 | 一律60,000円 |
注意したい点は次のとおりです。
- 一般・介護医療・個人年金の3区分を合わせた上限は、従来どおり12万円です。すでに合計12万円に達している方は、控除額が増えません。
- 旧契約(平成23年12月31日以前に締結した契約)だけの場合は、従来どおり上限は5万円です。
- 妻名義の契約でも、夫が保険料を支払っていれば、夫の支払保険料としてこの計算に含まれます。
- 共働きのご夫婦に23歳未満の扶養親族がいる場合、扶養控除はどちらか一方しか受けられませんが、この特例は夫婦の双方が適用できます(国税庁 令和8年分 年末調整Q&A 問7の注)。ただし、それぞれが実際に負担した保険料について申告します。同じ保険料を二重に控除することはできません。
保険料控除申告書の様式も令和8年分の改正に対応しています。最新の様式をご使用ください。
年末調整のあとに作成する源泉徴収票では、この特例を適用した場合、「摘要」欄に「租税特別措置法第41条の15の5第1項適用」と記載します(国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」)。
まとめ
妻が契約者の生命保険でも、保険料を支払ったのが夫であれば、夫の生命保険料控除の対象になります。ポイントは次の3点です。
- 控除の要件は「保険料を支払ったこと」と「受取人の全員が、払い込む人またはその配偶者・親族であること」です。契約者が誰かは問われません。
- 実際に誰が保険料を負担しているかを確認し、夫婦の二重控除を避けます。
- 負担者と受取人が異なると、保険金を受け取るときに贈与税などの課税が生じます。
令和8年分と令和9年分は、23歳未満の扶養親族がいる場合に、一般生命保険料控除の上限が6万円に上がります。該当するご家庭は、申告書の記入漏れにご注意ください。
制度についての一般的なご質問は、最寄りの税務署へお問い合わせください。
※本記事は令和8年10月18日現在の情報にもとづく一般的な解説です。個別の事案では、結論が異なる場合があります。








