非上場株式(取引相場のない株式)の相続税・贈与税における評価は、財産評価基本通達(以下「財基通」)第178条以下の規定に基づいて行います。
財基通178は、取引相場のない株式の評価方式を決定するための入口規定です。「誰が株主か」という株主の態様に応じて評価方式を振り分ける、いわばゲートキーパーの役割を果たします。
財基通178の趣旨
非上場株式は市場価格が存在しないため、評価方法を一律に定めることができません。そこで財基通178は、株主の会社に対する支配力の程度に着目し、評価方式を二つに大別します。
- 会社を支配できる立場の株主(同族株主等) → 原則的評価方式
- 会社を支配できない立場の株主(同族株主以外) → 特例的評価方式(配当還元方式)
この考え方の根拠は、支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値は本質的に異なるという点にあります。支配株主は会社の純資産や収益力を直接享受できる立場にありますが、少数株主が現実的に享受できる経済的利益は配当のみであるという実態を反映しています。
財基通178の構造
財基通178は単独で完結する規定ではなく、財基通188(同族株主の判定基準)および財基通188-2(配当還元方式)と一体で機能します。
| 株主の区分 | 適用評価方式 | 関連規定 |
|---|---|---|
| 同族株主等(原則的評価方式対象者) | 原則的評価方式 (類似業種比準・純資産価額・折衷) | 財基通179以下 |
| 同族株主以外の株主等 | 特例的評価方式 (配当還元方式) | 財基通188-2 |
「同族株主」の判定(財基通188との関係)
財基通178の「同族株主」の判定は財基通188が担います。判定の基準時は課税時期(相続開始日または贈与日)現在の株主構成です。
①同族株主のいる会社の場合
課税時期において、株主の1人およびその同族関係者の議決権割合の合計が30%以上のグループが存在する会社を「同族株主のいる会社」といいます。
なお、50%超の議決権を保有するグループが存在する場合は、そのグループのみが同族株主となり、30%以上50%以下のグループは同族株主には該当しません。
同族株主のいる会社において、同族株主以外の株主には配当還元方式が適用されます。
ただし、同族株主に該当する場合であっても、中心的な同族株主がいる会社において、以下の要件をいずれも満たす株主は例外的に配当還元方式が適用されます。
- その会社の役員でないこと
- 課税時期後において、その株主が有する議決権の数がその会社の議決権総数の5%に満たないこと
②同族株主のいない会社の場合
課税時期において、いずれのグループの議決権割合も30%未満の会社を「同族株主のいない会社」といいます。
この場合、議決権割合の合計が15%以上のグループに属する株主が原則的評価方式の対象となります。15%未満のグループに属する株主は配当還元方式が適用されます。
ただし、15%以上のグループに属する株主であっても、そのグループに中心的な株主がいる場合において、以下の要件をいずれも満たす株主は配当還元方式が適用されます。
- その会社の役員でないこと
- 課税時期後において、その株主が有する議決権の数がその会社の議決権総数の5%に満たないこと
「中心的な同族株主」の定義
「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人およびその配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族の議決権割合の合計が25%以上である株主をいいます。
「中心的な株主」(同族株主のいない会社の場合)とは、課税時期において株主の1人およびその同族関係者の議決権割合の合計が15%以上であるグループのうち、単独で議決権割合が10%以上である株主をいいます。
判定上の重要な注意点
判定の起点はすべての株主
財基通188による同族株主の判定においては、すべての株主が判定の出発点となります。筆頭株主のみを起点とする理解は誤りです。各株主がいずれのグループに属するか、そのグループの議決権割合はいくらかを、すべての株主について確認する必要があります。
同族関係者の範囲
同族関係者とは、株主の親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)のほか、株主が議決権の50%超を保有する法人、株主と生計を一にする親族が議決権の50%超を保有する法人なども含まれます。会社の株主名簿だけでなく、各株主の同族関係者を漏れなく把握することが重要です。
取得後の議決権割合で判定
5%未満かどうかの判定は、課税時期において株式を取得した後の議決権割合で行います。相続・贈与により株式を取得することで議決権割合が変動する点に注意が必要です。
財基通178の全体における位置づけ
財基通178は、取引相場のない株式の評価規定全体の出発点です。ここでの振り分けによって、その後の評価計算のルートが確定します。
- 原則的評価方式の対象者と判定された場合 → 財基通179(会社規模に応じた評価方式の決定)へ
- 配当還元方式の対象者と判定された場合 → 財基通188-2(配当還元価額の計算)へ
また、原則的評価方式の対象者であっても、評価会社が特定評価会社(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・比準要素数1の会社等)に該当する場合は、財基通189以下の特別規定が適用されます。
まとめ
財基通178は「株主の態様による評価方式の振り分け規定」であり、非上場株式の評価における最初の重要な判断ポイントです。
同族株主か否かの判定は、会社の議決権構造・各株主の同族関係者の把握・役員の有無・5%基準など、複数の要件を総合的に確認する必要があります。この判定を誤ると、その後の評価計算全体に影響が及ぶため、慎重な対応が求められます。
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