はじめに
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金を全額損金にできるため、多くの中小企業が加入しています。掛金の積立限度額は800万円で、長く続けている会社では、掛金総額が数百万円になることも少なくありません。
ところが、相続・贈与・事業承継で自社株を評価するとき、この共済は見落とされがちです。掛金を費用処理している会社では、貸借対照表に共済が載らず、資産として把握されていないためです。
また、掛金を会計上は資産計上し、法人税の申告で減算している会社では、B/Sの金額と第5表の帳簿価額が一致しません。この記事では、この「会計上の資産計上額」と「税務上の帳簿価額」の違いを中心に、純資産価額方式による第5表の書き方と計算のしかたを解説します。
結論:ポイントは2つ
- 相続税評価額は、課税時期の解約手当金相当額
- 帳簿価額は、B/Sの金額ではなく、税務上の帳簿価額(全額損金算入済みなら0円)
会計上は資産計上していても、税務上は掛金を損金にしているため、帳簿価額は0円です。評価額と帳簿価額の差が評価差額となり、そこから法人税額等相当額を控除して評価に反映されます。
事例
評価会社は、経営セーフティ共済に40か月以上加入しています。掛金累計額2,400千円を会計上「保険積立金」として資産計上し、法人税申告では別表四で全額減算(留保)しています。別表五(一)の保険積立金に対応する調整残高は▲2,400千円です。共済金の貸付け等による控除はないものとします。第5表は直前期末基準方式で作成し、直前期末から課税時期まで、掛金の追加納付その他の著しい増減はないものとします。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 直前期末B/S | 保険積立金 2,400千円(資産の部) |
| 別表四 | 経営セーフティ共済掛金 ▲2,400千円(減算・留保) |
| 別表五(一) | 保険積立金 ▲2,400千円(期末残高) |
会計上の資産額と税務上の帳簿価額は違う
第5表の「帳簿価額」欄には、税務計算上の帳簿価額を記載します。会計上の資産計上額ではありません。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| B/Sの保険積立金(会計上) | 2,400千円 |
| 別表五(一)の減算留保残高 | ▲2,400千円 |
| 税務上の帳簿価額(第5表の帳簿価額) | 0円 |
| 第5表の相続税評価額(40か月以上の場合) | 2,400千円 |
税務上の帳簿価額 = 会計上の保険積立金 2,400千円 + 別表五(一)の保険積立金 ▲2,400千円 = 0円
B/Sに2,400千円あるからといって、第5表の帳簿価額欄に2,400千円を転記してはいけません。
相続税評価額は解約手当金相当額
第5表の「相続税評価額」欄には、課税時期に任意解約した場合の解約手当金相当額を記載します。掛金の累計額ではありません。任意解約の支給率は、掛金納付月数に応じて次のとおりです。
| 掛金納付月数 | 支給率 |
|---|---|
| 1〜11か月 | 0% |
| 12〜23か月 | 80% |
| 24〜29か月 | 85% |
| 30〜35か月 | 90% |
| 36〜39か月 | 95% |
| 40か月以上 | 100% |
納付月数は、直前期末ではなく課税時期で判定します。共済金の貸付けを受けている場合などは、掛金総額から調整が入るため、また、前納掛金のうち、まだ充当月が到来していない部分は、解約手当金の計算対象になりません。正確な金額は共済(中小機構)に解約手当金の試算を確認してください。
第5表の記載
事例(40か月以上加入、解約手当金相当額が2,400千円)の場合です。
| 科目 | 相続税評価額 | 帳簿価額 |
|---|---|---|
| 保険積立金(経営セーフティ共済) | 2,400千円(解約手当金相当額) | 0円 |
計算例(共済部分)
法人税額等相当額の割合は38%とします。
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 第5表の相続税評価額 | 2,400千円 |
| 第5表の帳簿価額 | 0円 |
| 評価差額 | 2,400千円 |
| 法人税額等相当額(2,400千円 × 38%) | ▲912千円 |
| 共済部分の評価差額控除後の価額 | 1,488千円 |
解約手当金相当額2,400千円を相続税評価額に計上し、税務上の帳簿価額を0円とすると、評価差額は2,400千円になります。この評価差額に対する法人税額等相当額912千円を控除した1,488千円が、共済部分の純資産価額への寄与額です。
なお、B/Sにはすでに2,400千円が資産計上されています。1,488千円を既存のB/Sにさらに上乗せするという意味ではありません。会計上の2,400千円と比べると、法人税額等相当額の控除により、評価は912千円少なくなります。
また、法人税額等相当額は、会社全体の評価差額に基づいて計算します。個々の資産ごとに必ず38%を控除できるわけではなく、他の資産に含み損がある場合などは、上記のとおりにならないことがあります。
実務で注意する点
- 共済の見落とし:費用処理している会社はB/Sに出ません。掛金の支払履歴や共済の資料を確認します。
- 帳簿価額の転記ミス:B/Sの金額をそのまま転記せず、別表四・別表五(一)で税務上の金額を確認します。
- 再加入の場合:令和6年10月1日以後に共済を解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までの掛金は損金算入できません。再加入した会社では、掛金の全額が税務上の帳簿価額0円になるとは限りません。
- 直前期末基準方式の場合:相続税評価額欄は、単純に直前期末時点の解約手当金を書くわけではありません。直前期末の資産・負債を基礎としつつ、課税時期の評価を考慮します。直前期末から課税時期までに掛金の追加納付や解約があれば、前提を再確認します。
- 二重控除の回避:解約手当金相当額を資産に計上し、評価差額に対する法人税額等相当額で調整します。将来の解約時の税額を、さらに負債計上することは避けます。
- 第4表との区別:類似業種比準方式の純資産要素は、資本金等の額と利益積立金額が基礎です。第5表の解約手当金相当額を第4表に加算するわけではありません。
実務チェックリスト
- 共済契約の有無を確認した(掛金の支払履歴・共済の資料)
- 課税時期の納付月数と解約手当金相当額を確認した(貸付けの有無も確認)
- 別表四・別表五(一)で税務上の処理を確認した(再加入の場合の損金不算入分も確認)
- 帳簿価額欄は税務上の金額(全額損金算入済みなら0円)にした
- 相続税評価額欄は解約手当金相当額にした
- 法人税額等相当額の割合(現行は38%)を確認した
まとめ
- 全額損金算入済みでも、自社株評価では解約手当金相当額が資産になります。
- 第5表は帳簿価額0円(税務上の金額)、相続税評価額は解約手当金相当額です。B/Sの資産計上額とは一致しません。
- 評価差額から法人税額等相当額(38%)を控除した額が、評価に反映されます。
※法人税額等相当額の割合38%は、令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した株式等の評価に適用されます。それ以前の取得については、適用時期に応じた割合を使用します。
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