相続・贈与直前の資産組替えは否認される?株特・土地特の通達189なお書きと総則6項の違い

相続・贈与直前の資産組替えは否認される?株特・土地特の通達189なお書きと総則6項の違い
目次

―通達189のなお書と「合理的な理由」、令和7年9月5日の裁決から―

1. 非上場株式の評価方法の基本

非上場株式(取引相場のない株式)は市場価格がないため、財産評価基本通達にしたがって評価します。まず会社の規模(従業員数・総資産・売上高)で大会社・中会社・小会社に区分し、区分ごとに評価方法が決まります。

(1) 類似業種比準方式 上場している類似業種の株価に、評価会社の「配当・利益・純資産」の3要素を比準して評価する方法です。収益力が反映され、一般に純資産価額方式より低くなりやすい傾向があります。

(2) 純資産価額方式 会社の資産・負債を相続税評価額で評価し、その差額を発行済株式数で割る方法です。含み益(評価差額)については、一定の要件の下で37%を法人税等相当額として控除します。土地や株式に含み益が多い会社ほど高くなります。

(3) 規模別の原則的評価方法

会社規模原則的評価方法
大会社類似業種比準価額(純資産価額も選択可)
中会社類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)(Lは0.90・0.75・0.60)
小会社純資産価額(類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50の併用も選択可)

規模が大きいほど類似業種比準方式の割合が高く、評価が低くなる傾向があります。

2. 特定の評価会社とは

資産の保有状況や営業の状態に偏りがある会社は、上記の原則的評価をそのまま使えません。これが「特定の評価会社」です(財産評価基本通達189)。

  • 株式等保有特定会社(株特):総資産に占める株式等の割合が一定以上(50%以上)の会社
  • 土地保有特定会社(土地特):総資産に占める土地等の割合が、会社規模ごとの基準(大会社70%、中会社90%など)以上の会社。小会社であっても、総資産価額(帳簿価額)が一定以上であれば、その規模に応じた基準(70%または90%)で判定します。一方、総資産価額が一定未満の小規模な会社は、土地保有特定会社の対象外です。 小会社の業種 90%基準の対象となる総資産価額 70%基準の対象となる総資産価額 卸売業 7,000万円以上 20億円以上 小売・サービス業 4,000万円以上 15億円以上 その他 5,000万円以上 15億円以上
  • このほか、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社、開業前・休業中の会社、清算中の会社も特定の評価会社です。

特定の評価会社の評価方法

区分評価方法
株式等保有特定会社原則:純資産価額方式。選択:S1+S2方式
土地保有特定会社純資産価額方式
比準要素数1の会社類似業種比準価額×0.25+純資産価額×0.75(純資産価額も選択可)

S1+S2方式とは、会社の資産を「株式等」と「それ以外」に分けて評価する方法です。

  • S1:株式等以外の資産と事業実態に着目し、通常の原則的評価(類似業種比準方式等)で評価した価額
  • S2:保有する株式等の部分を純資産価額方式で評価した価額
  • 両者を合算して1株当たりの価額を求めます。

特定の評価会社に該当すると、通常の類似業種比準方式をそのまま適用できず、評価が高くなる場合があります。

3. 「相続直前に資産構成を変えれば外れる」は通用しない

評価が上がるため、相続や贈与の直前に次のような対策を思いつく方がいます。

  • 借入れをして不動産を購入し、株式の保有割合を下げる
  • 土地を売却して現預金に換える
  • 株式を売却、または現物出資や増資で他の資産を増やす

しかし通達189は、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、その変動が株特・土地特と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定すると定めています。直前の資産構成の組み替えは、形式上は非該当になっても、評価上は無視されることがあります。

4. 実際の裁決事例:贈与の2日前に借入れで不動産を取得したケース

この規定が実際に適用された事例として、令和7年9月5日の東京国税不服審判所の裁決があります。

事案の概要

  • 上場会社の株式を保有する資産管理会社の代表取締役である祖父が、その資産管理会社の株式30株を孫に贈与しました。
  • 贈与の2日前に、その会社が上場会社から不動産を15億8,000万円で購入しました。
  • 購入資金は、金融機関からの借入れ13億円と、孫の父からの借入れ2億8,000万円の合計15億8,000万円で、購入代金の全額を借入れで賄っていました。
  • 会社は9億円超の現金預金を持っていましたが、現預金を維持したままでした。
  • この不動産取得と借入れにより、贈与日の株式等の保有割合は50%未満となりました。取得と借入れがなかったとすれば、50%以上になる状況でした。

審判所の判断 審判所は、次の点を重視しました。

  • 借入れと不動産取得が、株式の贈与に近接して行われた一連の行為であること
  • その一連の行為は、株式等保有特定会社と判定されることを避けるための、総資産価額の操作にあたると認められること
  • 賃貸事業の拡大が直接の動機ではなく、判定を避けることが目的だったと認められ、資産構成を変えた合理的な理由も見当たらないこと

その結果、不動産取得による資産構成の変動はなかったものとして、この会社は株式等保有特定会社に該当すると判断されました。なお、この裁決全体の結果は一部取消しですが、株式等保有特定会社の判定については、納税者の主張は認められませんでした。

この裁決のポイントは、「判定割合を下げる」こと自体を目的とした取引は、資金の調達方法や時期から、評価引下げの意図が読み取られるということです。

5. 総則6項との違い:争点は「資産構成を変えた理由」

評価引下げ対策の否認というと、評価通達によらない評価(総則6項)を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、通達189のなお書は、総則6項とは問題になる点が異なります。

比較項目総則6項通達189のなお書
規定の性格通達評価によらない例外的な評価特定の評価会社の判定に関する個別規定
対象財産評価全般株式等保有特定会社・土地保有特定会社
中心的な争点通達評価を画一的に適用すると、実質的な租税負担の公平に反するか合理的な理由のない資産構成の変動が、株特・土地特の判定を免れるためのものか
租税回避目的重要な判断要素となり得るが、独立の必須要件ではない判定を免れる目的が、規定上の要件
評価への影響通達によらない評価額を採用する資産構成の変動をなかったものとして、会社の区分を判定する
課税庁が示すべき主な点通達評価から離れる合理的な理由と、採用する評価額の適正性資産構成を変更した経緯、合理的な理由の欠如、判定を免れる目的

総則6項で問われること 令和4年4月19日の最高裁判決(納税者敗訴)は、通達評価額と鑑定評価額が大きく乖離しているという事実だけを理由にしたのではなく、通達に従って評価すると他の納税者との関係で租税負担の公平に反する事情があるかどうかを問題にしたと整理されています。単に節税目的で財産を取得したというだけで、当然に総則6項が適用されるわけではありません。

通達189のなお書で問われること 通達189のなお書は、通達自体に資産構成の変動を「なかったもの」として判定すると明記されています。そのため、評価額と時価の乖離や、他の納税者との不公平を別途示すことなく、次のような資産構成を変えた理由そのものが争点になります。

  • なぜその資産を取得したのか
  • なぜ贈与や相続の直前だったのか
  • なぜ多額の現預金があるのに借入れをしたのか
  • 株式等の保有割合を50%未満に下げる目的ではなかったのか

前述の裁決も、こうした事情からこのなお書により判断されています。この意味では、株特・土地特の判定を免れる取引については、総則6項よりも通達189のなお書の方が、課税庁にとって適用しやすい規定だと考えられます。ただし、通達189のなお書は法律上の独立した否認規定ではなく、あくまで評価通達上の取扱いです。「適用しやすい」とは、個別の規定によって判断の対象が明確になっているという意味です。

もちろん、課税庁が自由に否認できるわけではありません。合理的な理由がないこと、そして判定を免れる目的があることが認められる必要があります。事業上必要な資産取得であれば、結果として保有割合が50%未満になっても、それだけでなお書が適用されるわけではありません。だからこそ、取引の時期、資金の調達方法、事業上の必要性を示す記録が重要になります。

両方が問題になる場合もあります 通達189のなお書により株式等保有特定会社と判定された場合でも、その株式の評価について、別に総則6項の適用が問題になる余地はあります。「なお書で区分を判定する」ことと「総則6項で評価額を見直す」ことは、段階の異なる問題です。

6. 求められるのは「経済的合理性」

問われるのは、資産の入れ替えに事業上の必要性や経済的合理性があるかどうかです。次のような事情があると、否認されるリスクは高まります。

  • 取引が相続開始や贈与の直前に集中している
  • 事業計画や社内の意思決定の記録がない
  • 取得した資産が事業の用に供されていない
  • 手元資金があるのに、あえて全額を借入れで賄っている
  • 評価引下げ以外に説明がつかない不自然な取引である
  • 取引の直後に元へ戻している、または解消している

7. 実務上のポイント

  1. 対策は十分な期間を確保して始める:評価引下げ以外の目的を説明できる時間的余裕が必要です。通達に年数の基準があるわけではありませんが、直前の取引ほど疑われやすくなります。
  2. 事業上の理由を記録に残す:取締役会議事録、事業計画書、見積書、稟議書など、当時の判断の根拠を残します。
  3. 一時的な操作を避ける:資産を取得してすぐ処分するような動きは、否認の典型です。
  4. ほかの規定も確認する:会社が課税時期前3年以内に取得した土地等・建物等は、純資産価額方式の計算上、課税時期の通常の取引価額で評価されます(個人が直接所有する不動産の評価とは別の取扱いです)。また、通達による評価が著しく不適当と認められる場合には、評価通達によらない評価(総則6項)の適用が問題になることもあります。

8. まとめ

株特・土地特の判定は、課税時期の数字だけで決まるとは限りません。相続や贈与の前に合理的な理由なく資産構成を変動させ、その変動が株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定を免れるためのものと認められる場合には、通達189のなお書により、変動がなかったものとして判定されます。総則6項を持ち出すまでもなく、資産構成を変えた理由そのものが問われ、実際に否認された裁決もあります。評価方法の違いを理解したうえで、十分な期間を確保し、事業上の必要性に基づいて計画的に進めることが大切です。

当事務所では、非上場株式の評価、事業承継、組織再編、M&Aを含む相続対策をご相談いただけます。お気軽にお問い合わせください。

参考資料

  • 財産評価基本通達189(特定の評価会社の株式)|国税庁
  • 令和7年9月5日裁決・裁決要旨|税務法規集
  • 株式贈与直前の不動産取得に合理性なく株特外しに該当|新日本法規
  • 財産評価基本通達6項に係る最高裁判決の概要|あいわ税理士法人
  • 贈与2日前に15億円の不動産購入 行き過ぎた株特外しに「待った!」|日税ジャーナルオンライン

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