結論から
ポイントサイトを運営する会社が、ユーザーに付与したポイントの価値相当額を「ユーザーから役務の提供を受けた対価=課税仕入れ」として消費税の仕入税額控除を求めた事案で、国税不服審判所は納税者の主張を認めず、審査請求を棄却しました(令和7年9月26日裁決・東裁(諸)令7第30号)。
審判所の判断のポイントは、「ポイントの付与」と「ユーザーの個別具体的な行為」との間に、役務の提供によって支払が生じたという対応関係が認められない、という点です。
なお、この裁決は国税不服審判所のサイトで公表されたものではなく、情報公開請求で入手された裁決書です。週刊税務通信2026年10月26日号(No.3921)の連載「最新未公表裁決」でも取り上げられ、実務家の間で注目されています。
事案の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁決日 | 令和7年9月26日 |
| 裁決番号 | 東裁(諸)令7第30号 |
| 裁決庁 | 東京国税不服審判所 |
| 税目 | 消費税及び地方消費税 |
| 課税期間 | 平成29年7月1日~平成30年6月30日 |
| 裁決結果 | 棄却 |
納税者(請求人)は、インターネット広告事業を営む会社で、ポイントサイトを運営しています。ユーザーが次のような行為をして所定の条件を満たすと、現金や電子マネー等に交換できるポイントを付与していました。
- 広告を経由して広告主のサービスを利用した(アフィリエイト)
- 広告主の商品のモニターとして、アンケートに回答した
- サイト上の無料ゲームに参加した
- サイト上のアンケートに回答した
- 名刺作成のためのデータ入力などの軽作業をした
- 「お友達紹介」でサイトを第三者に紹介した
当初の確定申告では、ポイント相当額を課税仕入れに含めていませんでしたが、令和5年8月に「ポイントの価値相当額は課税仕入れに係る支払対価の額に当たる」として更正の請求を行いました。税務署が「更正をすべき理由がない」旨の通知処分をしたため、再調査の請求、審査請求と進んだ事案です。
争点
会社がユーザーに付与したポイントの価値相当額は、消費税法上の**「課税仕入れに係る支払対価の額」に該当するか**。
当事者の主張
納税者(会社)の主張
ユーザーが行為をすると広告主から成果報酬が会社に支払われ、ポイントの付与もその成果報酬を原資として同じタイミングで行われている。したがって、会社はユーザーから「アクション(行為)という役務の提供」を受け、その対価としてポイントを付与している。友達紹介も、新規ユーザーの紹介という役務の提供を受けたものである。
税務署(原処分庁)の主張
利用規約上、ポイントは対価を受け取ることなく無償で付与されるものであり、一定の場合には会社の権限で取り消すこともできる。ポイントはユーザーから受けた役務の提供に対する対価とはいえない。
審判所の判断
1 判断の物差し:「個別具体的な対応関係」
審判所は、消費税の仕組み(転嫁を前提とする多段階の付加価値税)を踏まえて、次のように整理しました。
- 課税仕入れとなるのは、支払が転嫁が可能な程度に個別具体的な役務の提供と結びついている場合である。
- つまり、個別具体的な役務の提供によって支払が生じたという対応関係が認められることが必要である。
2 ユーザーの行為(アクション)について
審判所は、次の点を指摘しています。
- ユーザーは、会社が提供するサービスの利用者であり、行為をするかどうかは専らユーザーの自由な意思に委ねられている。
- ユーザーの行為の成果は、主として広告主(軽作業については更に代理店法人)に帰属し、会社自身はその内容そのものから成果を享受するわけではない。たとえば、アンケートの回答データは広告主に帰属し、軽作業の検収も広告主や代理店法人が行う。
- 会社は、ユーザーに対する役務の対価としてポイントを付与しているのではなく、自らの広告料収入を増やすために、ユーザーが広告主の求める行為をするよう誘引する目的でポイントを付与していると認められる。
3 友達紹介について
- 紹介するかどうかはユーザーの自由であり、ユーザーが自発的に報告しなければ会社は紹介の事実を把握できない。
- 紹介記事を月に何回掲載しても、ポイントは月1回しか付与されないなど、個別の行為とポイント付与額が必ずしも対応していない。
- 紹介された第三者の登録やポイント獲得の結果に応じてもポイントが付与され、サイト上でも「プレゼント」と記載されている。
- 会社にとっては、ユーザーを増やすための広告手段にすぎない。
4 「成果報酬が原資だから対価だ」という主張について
審判所は、広告主から成果報酬が支払われ、それを原資に同時にポイントを付与しているという事情があっても、個別具体的な対応関係があるかどうかの判断は左右されないとして、納税者の主張を退けました。
5 税理士の視点:実際に作業をしていても課税仕入れとは限らない
本件では、ユーザーが広告を見たりゲームに参加したりするだけでなく、データ入力や記事作成といった実際の作業も行っていました。それでも、課税仕入れは認められませんでした。
理由は、ユーザーが「サービスの利用者」という立場にあり、作業の成果は広告主側に帰属し、ポイントは運営会社への役務提供の対価ではなく、サイト利用を促す目的で付与されたものと判断されたためです。
作業の実態があることと、ポイントや報酬の支払側に課税仕入れが成立することは、必ずしも同じではありません。 販売促進費と外注費の区分を考えるうえでも参考になる裁決です。
実務への影響:自社ポイントを発行する事業者の確認事項
ECサイトやウェブサービスで、ポイント、紹介特典、レビュー特典、アンケート謝礼などを導入している事業者は、会計上の費用処理と消費税の課税仕入れの判定を分けて考える必要があります。
この裁決から読み取れる、確認のポイントは次のとおりです。
- 誰が成果を享受するのか:ユーザーの行為の成果が、自社ではなく広告主など第三者に帰属していないか。
- 規約上の位置づけ:ユーザーは「サービスの利用者」か、それとも自社から業務を請け負う「受託者」か。
- 個別の行為と付与額の対応関係:特定の行為に対して、特定のポイントが直接結びついているか。
- 一方的な取消し・失効:運営者が規約に基づき、ポイントを一方的に取り消せる設計になっていないか(本件の規約には、1年間ポイントの取得や交換をしなかった場合の取消しの定めがありました)。
- 表示の仕方:「プレゼント」「販売促進」といった表示になっていないか。
- 交換条件:現金、電子マネー、他社ポイントなどへの交換が可能か。
なお、ポイント相当額を費用や引当金として処理しているというだけで、課税仕入れになるわけではありません。会計処理と消費税の判定は、別の問題として整理する必要があります。
また、ポイントの名称や利用規約の文言だけで課税仕入れに当たるかどうかが決まるわけではありません。実際の取引内容、役務提供の相手方、ポイント付与との対応関係を総合的に判断する必要があります。
注意しておきたい点
- この裁決は、個別の事案(ポイントサイトの運営、当時の利用規約や仕組み)についての判断です。すべてのポイント制度に一律に当てはまるものではありません。
- 審判所は、課税仕入れに該当するには個別具体的な対応関係が必要であるという考え方を示しています。裏を返せば、自社が役務の提供を受けたといえるだけの個別具体的な対応関係が契約や運用の上で明確な取引まで、一律に否定したものではないと読めます。個別の取引ごとに、規約と実態を確認することが大切です。
- 公表裁決ではなく、情報公開請求で開示された裁決書に基づく解説です。今後の実務の動向にも注意が必要です。
なお、本件はインボイス制度の導入前の課税期間を対象とした裁決です。現在の取引では、役務提供の対価として課税仕入れに当たる場合でも、仕入税額控除について適格請求書等の保存要件や経過措置を別に検討する必要があります。
根拠条文・一次資料
- 消費税法第2条第1項第8号(資産の譲渡等)、第12号(課税仕入れ)
- 消費税法第30条(仕入れに係る消費税額の控除)
- 令和7年9月26日裁決・東裁(諸)令7第30号(国税不服審判所)
- 裁決書全文(情報公開請求により入手されたPDF)
ポイント制度の消費税、お気軽にご相談ください
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