KSK2とAIで税務調査は変わる?法33条の2の書面添付と調査選定の関係

KSK2とAIで税務調査は変わる?法33条の2の書面添付と調査選定の関係

国税庁では、AI(人工知能)を利用した税務調査の選定が進んでいます。

さらに、令和8年9月24日には、次世代の国税総合管理システム「KSK2」が導入されました。

税務行政のデジタル化が進むなか、私は、税理士法第33条の2に基づく書面添付制度の重要性が、今後さらに高まるのではないかと考えています。

当事務所では、書面添付制度を積極的に活用しています。

実際に、令和7年は意見聴取3件がすべて調査省略となり、実地調査は書面添付をしていない顧問先の1件だけでした。

さらに、令和8年10月23日時点では、税務調査の連絡は1件もありません。

もちろん、税務調査が少ない理由をすべて書面添付制度に求めることはできません。

しかし、AIによる調査選定が進むほど、申告内容の異常値を確認し、その理由を説明できることが重要になると考えています。

今回は、国税庁の公表資料と当事務所の実績をもとに、これからの税務調査と書面添付制度について考えてみます。

目次

1.KSK2の導入で税務行政はどう変わるのか

国税庁は、令和8年9月24日に次世代の国税総合管理システム「KSK2」を導入しました。

KSK2は、従来の税目別の事務処理を見直し、データを中心とした事務処理を進めるための新しいシステムです。

主な方向性として、次のようなものがあります。

  • 紙中心の事務処理から電子データ中心への移行
  • 税目を横断した情報の管理・活用
  • データの分析・参照を行いやすいシステムへの刷新
  • 税務行政全体の効率化

KSK2の導入自体が、AIによる税務調査の選定の開始を意味するわけではありません。

AIを利用した調査選定は、KSK2導入以前から行われています。

しかし、情報を横断的に利用できる環境が整うことによって、今後の税務調査の選定がさらに高度化していく可能性があります。

書面添付制度の事務運営指針も改正

注目したいのは、令和8年9月17日付で、国税庁が書面添付制度に関する事務運営指針を改正している点です。

この改正は、KSK2の導入に伴い、令和8年9月24日以降の事務処理について必要な整備を行うものです。

この改正によって書面添付をした申告書が調査対象から外れやすくなったと確認できるわけではありません。

ただし、KSK2への移行に合わせて書面添付制度の事務処理も整備されていることは、注目すべき動きだと思います。

2.AIによる税務調査の選定はすでに始まっている

国税庁が公表した令和6事務年度の法人税等の調査事績では、AIによる調査選定の具体例が紹介されています。

国税庁では、AIを活用した予測モデルによって調査必要度の高い法人を抽出しています。

さらに、AIが判定した不正パターンに加え、申告書や国税当局が保有する各種資料情報を分析し、最終的に調査官が調査実施の要否を判断しています。

外注費の増加から不正を把握した事例

国税庁の公表事例では、AIの判定結果と調査官による分析を組み合わせ、外注費が年々増加している法人を調査した結果、取引実態のない外注費を把握しています。

この事例からも、決算書の数値の変動や不正が疑われるパターンが、調査対象の絞り込みに利用されていることが分かります。

もっとも、AIだけで税務調査が決まるわけではありません。

最終的な調査の要否は、調査官が申告内容や各種資料情報を総合的に検討して判断します。

3.AI時代の税務調査では異常値の確認が重要になる

私は、これからの税務調査対策では、決算書の異常値を把握することが重要になると考えています。

例えば、次のような数値の変動です。

確認項目注意したい変動
売上総利益率前年から大幅に低下
外注費売上が横ばいなのに急増
棚卸資産売上や売上原価と整合しない増減
役員借入金毎年大幅に増加
現金残高事業規模に比べて不自然に多額
交際費・雑費前年から大幅に増加
消費税突然、多額の還付申告が発生

※これらは税理士として実務上確認したい項目であり、すべてが国税庁のAIの選定基準として公表されているわけではありません。

例えば、売上高が前年とほとんど変わらないのに、外注費が50%増加していたとします。

数字だけを見れば、確認が必要な変動です。

しかし、従業員の退職に伴って一部の業務を外注化したのであれば、合理的な理由があります。

重要なのは、異常値をなくすことではありません。

異常値が発生した原因を把握し、その理由を説明できることです。

税務調査を避ける目的で数字を調整するのではなく、正しい決算を行ったうえで、数値の変動を検証することが必要です。

4.法33条の2の書面添付は調査選定にも利用される

税理士法第33条の2に規定する書面添付制度は、税理士が申告書の作成に際して、どのような事項を計算・整理・相談又は審査したかなどを記載した書面を申告書に添付する制度です。

一般には、税務調査の前に税理士が意見を述べる機会が設けられる制度として知られています。

しかし、書面添付制度の役割はそれだけではありません。

国税庁は調査の要否判断にも活用すると明示

国税庁の「税理士制度のQ&A」問4-4では、添付書面について、調査通知前の意見聴取だけでなく、申告書の審理や調査の要否判断にも積極的に活用するとしています。

また、書面添付制度の事務運営指針でも、添付書面の記載内容を申告審理や準備調査に活用することが示されています。

つまり、書面添付制度は、税務調査の対象に選定された後だけでなく、調査を実施する必要があるかどうかを判断する段階でも活用される制度なのです。

この点は、AIによる税務調査の選定が進む時代に、改めて注目する価値があると考えています。

5.異常値の理由を書面添付で説明する

例えば、ある法人の売上総利益率が次のように変動したとします。

  • 前期の売上総利益率:35%
  • 当期の売上総利益率:20%

売上総利益率が15ポイントも低下しています。

売上の計上漏れや売上原価の過大計上などがないか、確認が必要になる数値です。

しかし、主要取引先との販売価格の改定や、仕入価格の上昇が原因であれば、利益率の低下には合理的な理由があります。

税理士が契約書や仕入請求書などを確認したうえで、法33条の2の添付書面にその内容を具体的に記載しておけば、税務署が申告内容を理解するための参考になります。

添付書面への記載例

当期の売上総利益率は前期35%から20%に低下している。主な要因は、主要取引先との販売価格改定及び原材料価格の上昇によるものである。契約書、仕入請求書及び売上原価の計算資料を確認し、売上・仕入の計上について検討した。

このような記載は、単に「帳簿書類を確認した」と記載するよりも、申告内容の理解に役立つと考えます。

書面添付に重要な確認事項を記載しておくことで、税務署が調査の必要性を判断する際の参考情報となります。

6.AIの普及で書面添付の価値は高まるのか

ここからは、私の見解です。

AIによる税務調査の選定が高度化すれば、過去の申告内容との比較や、決算書の異常値の分析が、従来以上に効率的に行われるようになると考えられます。

しかし、数字だけでは判断できない事情も少なくありません。

外注費の増加、売上総利益率の低下、棚卸資産の減少などには、それぞれ事業上の理由がある場合があります。

そこで、税理士が確認した事項を具体的に記載した添付書面が重要になります。

例えば、AIの分析によって調査必要度が高いと判定された法人であっても、添付書面に数値の変動理由が具体的に記載されていれば、調査官がその内容を確認し、調査の要否を判断する際の参考になる可能性があります。

ただし、国税庁は、AIの予測モデルが書面添付の有無や記載内容をどのように評価しているかについて、具体的な仕組みを公表していません。

したがって、書面添付をすればAIのリスク判定が下がると断定することはできません。

それでも、国税庁自身が書面添付を調査の要否判断に活用すると明示している以上、AIによる調査選定が進むほど、適切な書面添付が実地調査に至る可能性を下げる方向に働く余地はあると考えています。

7.当事務所の実績|令和7年は意見聴取3件すべて調査省略

当事務所では、法33条の2の書面添付制度を積極的に活用しています。

税理士として30年以上の経験がありますが、以前と比較すると税務調査の件数は大幅に減少しました。

令和7年の実績

項目実績
顧問先約250件
意見聴取3件
意見聴取後の調査省略3件
意見聴取後の調査省略率100%
実地調査1件
実地調査先の書面添付なし

令和7年に税務署から意見聴取の依頼があった3件は、すべて意見聴取の段階で疑問点が解消され、実地調査には移行しませんでした。

また、実地調査が行われた1件は、書面添付をしていない顧問先でした。

このような実績からも、書面添付制度と意見聴取が実地調査への移行を防ぐうえで、一定の役割を果たしていることを実感しています。

もっとも、当事務所の実績だけで書面添付による調査確率の低下を統計的に証明できるわけではありません。

令和8年も税務調査の連絡はゼロ(10月23日時点)

さらに、令和8年10月23日現在、当事務所の顧問先に対する税務調査の連絡は1件もありません。

令和7年は実地調査が1件のみであり、令和8年も現時点では税務調査の連絡がない状況です。

当事務所では、適正な申告を行うことを基本とし、決算書の数値の変化や重要な税務処理を確認するとともに、書面添付制度を積極的に活用しています。

税務調査が少ない原因を一つに特定することはできませんが、こうした日頃からの取り組みが、税務調査の必要性を低くする方向に働いている可能性はあると考えています。

詳しくは、次の記事で紹介しています。

【令和7年実績公開】書面添付で税務調査が年1件に激減|調査省略率100%の秘訣

8.書面添付には意見聴取による調査省略という効果もある

書面添付制度には、調査選定の段階で添付書面を活用してもらえることに加え、税務調査の事前通知に先立って税理士が意見を述べる機会が設けられるという重要な効果があります。

税務署が疑問に感じている事項について、税理士が説明し、必要に応じて資料を提示します。

その結果、疑問点が解消され、調査の必要性がないと判断されれば、実地調査に移行しない場合があります。

当事務所の令和7年の意見聴取3件も、すべてこの段階で終了しました。

ただし、書面添付制度は税務調査を免除する制度ではありません。

意見聴取を行っても疑問点が解消しなければ、税務調査が実施されることになります。

また、意見聴取が常に実施されるわけではなく、法令で定められた例外もあります。

重要なのは、適正な申告と十分な確認を行い、その内容を添付書面に具体的に記載することです。

9.今後の税理士業務で重要になること

私が今後の税理士業務で重要になると考えているのは、次の3点です。

① 決算書の異常値を確認する

過去3年から5年程度の決算内容を比較し、売上総利益率や主要経費の増減を確認することです。

② 異常値が生じた理由を確認する

大きな数値の変動があれば、契約書、請求書、取引内容などを確認し、その原因を把握します。

③ 法33条の2の添付書面に具体的に記載する

税理士が実際に確認した事項のうち、申告内容の理解に重要なものを具体的に記載します。

もちろん、税理士が確認していない事項を、確認済みであるかのように記載することはできません。

また、書面添付をすること自体が目的になってはいけません。

適正な申告書を作成したうえで、税理士としてどのような確認を行ったかを明らかにすることが、本来の制度の趣旨です。

まとめ|AI時代こそ法33条の2の書面添付が重要になる

国税庁では、すでにAIを利用した税務調査の選定が実施されており、令和8年9月にはKSK2も導入されました。

今後、税務行政のデジタル化が進むことで、申告内容の分析はさらに高度化していくと考えられます。

しかし、決算書に異常値があったからといって、申告内容に誤りがあるとは限りません。

数値の変化には、取引条件の変更や事業環境の変化など、合理的な理由がある場合もあります。

そうした事情を税理士が確認し、法33条の2の添付書面に具体的に記載することは、税務署が調査の要否を判断する際にも意味があります。

当事務所では、令和7年に意見聴取3件すべてが調査省略となり、令和8年10月23日時点では税務調査の連絡が1件もありません。

この実績だけで書面添付の効果を断定することはできませんが、適正な申告と書面添付制度の積極的な活用を、今後も継続していきたいと考えています。

AIによる税務調査の選定が進む時代だからこそ、税理士が申告内容を十分に検証し、その数字が正しい理由を説明できることが、これまで以上に重要になるのではないでしょうか。


参考資料

※令和8年10月23日時点の公表資料及び当事務所の実績に基づいています。AIによる調査選定と書面添付の関係について、国税庁が具体的に公表していない部分は筆者の見解です。

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