【対談形式】役員報酬が払えないときは減額してよい?定期同額給与と役員借入金の処理

【対談形式】役員報酬が払えないときは減額してよい?定期同額給与と役員借入金の処理
目次

役員報酬は支払えない下げて良いの?

登場人物

  • 社長:資金繰りに悩む中小企業の経営者
  • 先生:顧問税理士

社長:先生、正直に相談があるんです。今期、業績が厳しくて…。私の役員報酬、払えない月が出てきそうなんです。いっそ報酬を下げようかと思うんですが。

先生:社長、それは早まらないでください。「払えないから下げる」という判断は、税務上かなり危険なんです。

社長:え、そうなんですか?払えないんだから下げるのが普通じゃ…

先生:お気持ちはよくわかります。でも役員報酬には「定期同額給与」というルールがあって、毎月同じ金額を支給し続けないと、会社の経費(損金)として認められなくなってしまうんです。

社長:じゃあ、会社に現金がないときは、どうすればいいんですか?


現金を渡していなくても、源泉所得税の納付は必要

社長:会社に現金がなければ、役員報酬を未払いにしておけばいいんですか?

先生:単に「未払役員報酬」として長期間帳簿に残すのではなく、もっと正確な方法があります。毎月の役員報酬を計上し、役員本人の了解のもとで、源泉所得税や社会保険料等を控除した手取り相当額を役員借入金に振り替えるという処理です。

社長:現金を受け取らず、その分を会社に貸した形にするんですね。

先生:その通りです。現金の受け渡しはありませんが、この処理をした時点で、役員報酬の支払債務はいったん決済されます。そして代わりに、会社が社長から借りている「役員借入金」という新しい債務が発生する、という構造です。

社長:「本人の了解のもとで」というのは、何か手続きが必要ということですか?

先生:はい。帳簿上、会社側が一方的に役員借入金へ振り替えるのではなく、役員ご本人に「手取り額を会社へ貸し付ける」という意思があることを明確にしておくことが安全です。株主総会議事録や取締役会議事録とは別に、簡単な確認書を残しておくこともお勧めします。

社長:「現金を払っていないから、源泉税もまだ発生しない」ということではないんですね。

先生:はい、そこが一番の誤解しやすいポイントです。手取り額を役員借入金に振り替えた時点で、税務上は役員報酬を支払ったものとして扱われます。したがって、源泉所得税は期限までに通常どおり納付する必要がありますし、社会保険料や住民税なども同様に、いつも通り控除・納付の処理を行います。

社長:仕訳で見るとどうなりますか?

先生:イメージとしては、こうなります。なお、預り金となるのは社会保険料のうち本人負担分だけで、会社負担分は別途、法定福利費として処理します。

役員報酬 100万円/預り金(源泉所得税)   10万円
         預り金(社会保険料本人負担分)○万円
         預り金(住民税)      ○万円
         役員借入金        残額
仕訳は 役員報酬を現金で支払、その現金を借りて役員借入金となったことを意味します。

会社の現金は一切動いていませんが、この仕訳を通すことで「役員報酬は支払済み」という扱いになります。未払役員報酬という科目は、この処理では残りません。

社長:なるほど。「払えない」と「役員報酬を支払っていない」は、実は同じじゃないんですね。

先生:まさにその通りです。現金がなくても、この処理さえきちんと踏めば、役員報酬は「支払われた」ことになります。**源泉税・社会保険料の納付だけは、他の月と同じように必ず行ってください。**ここを疎かにしないことが、この方法の一番の肝です。


では、定期同額給与としての損金性は?

先生:この処理であれば、毎月の役員報酬額は変わりませんので、定期同額給与の判定上は、現金で支給した場合と基本的に同じ取扱いになります。

社長:資金繰りが厳しくても、報酬を下げずに済むわけですね。

先生:はい。ただし、ここは正確にお伝えしておきたいのですが、株主総会の決議だけで自動的に安心というわけではありません。株主総会等で役員報酬の金額を決定し、その決定に基づいて毎月の役員報酬を計上したうえで、源泉所得税等を控除した手取り額を役員借入金に振り替える必要があります。この一連の処理を毎月きちんと行うことが前提です。

社長:「本当の未払」のまま何年も残すのとは、違う話なんですね。

先生:はい、そこは明確に分けて考えてください。役員報酬を本当に未払いのまま長期間放置するケースは、実態の確定債務性そのものが疑われる、より危険な話です。今日お話ししているのは、あくまで**「計上→控除→役員借入金への振替」という、きちんと決済を伴う処理**です。

なお、定期同額給与の要件を満たしたとしても、報酬額そのものが会社の規模や利益水準に照らして不相当に高額な場合は、別の理由(過大役員報酬)で否認されることもあります。その点はまた別の機会にお話ししましょう。


役員借入金として残った後は?

社長:役員借入金として積み上がっていくと、何か注意点はありますか?

先生:銀行から見たときに、状況によっては自己資本に準じて評価されることもあります。ただし、科目を変えただけで評価が必ず改善するとは限りませんので、過度な期待は禁物です。もう一点、将来社長に万が一のことがあった場合、その貸付金は相続財産として扱われますので、その点は頭の片隅に置いておいてください。

社長:え、会社にお金を貸しているだけなのに、相続税がかかるんですか?

先生:はい、そこは実務でよく驚かれるポイントです。将来的には債務免除や資本への振替(DES)といった整理方法もありますので、時期が来たらまた一緒に検討しましょう。


それでも本当に報酬を下げたいときは

社長:じゃあ、報酬を下げること自体はできないんですか?

先生:いえ、下げること自体は自由にできます。禁止されているわけではありません。問題になるのは、「税務上、経費として認められる金額が減ってしまう」という点です。だからこそ、資金繰りが厳しいときには、安易に減額する前に、役員借入金への振替も一つの方法として検討することになります。役員借入金が多額になっていくことや、社長個人の側では給与所得としての課税自体は発生し続けることも踏まえると、常にこの方法が最善というわけではありませんが、少なくとも報酬の手取り額に相当する現金流出を抑えられます。

具体例:3月決算法人が、月額100万円を継続していたところ、通常改定の期限(事業年度開始後3か月)を過ぎた7月に、業績悪化改定事由などの正当な理由なく月額60万円へ減額した場合

期間実際の支給額税務上の損金算入額損金不算入額
4~6月(減額前)100万円/月60万円/月40万円/月
7~3月(減額後)60万円/月60万円/月0円

先生:減額後の60万円が、年間を通じて継続的に支給される金額と考えます。そのため、減額前の100万円のうち、60万円を超える40万円が「上乗せ部分」として損金不算入になります。減額前の期間(4〜6月)の40万円×3か月分、合計120万円が損金不算入になる計算です。

社長:下げるのは自由だけど、正当な理由がないと、かえって損をするということですね。

先生:その通りです。


では、認められる減額理由とは?

先生:損金不算入を避けて期中に減額するには、いわゆる「業績悪化改定事由」に該当する必要があります。たとえば、

  • 銀行との返済条件変更の協議において、役員報酬の減額を求められた
  • 経営改善計画に役員報酬の減額が盛り込まれた
  • 業績や財務状況の悪化により、株主・債権者・取引先などとの関係上、減額せざるを得なくなった

といった事情が典型例です。一時的な資金繰りの都合や、単に目標利益に届かなかったというだけでは、通常、業績悪化改定事由には該当しません。


じゃあ、いつなら安心して下げられる?

社長:今期はもう我慢するとして…どのタイミングなら、堂々と報酬を下げられるんですか?

先生:実は、業績悪化などの特別な理由がなくても、通常の報酬改定として認められる時期があります。役員報酬は、新しい事業年度が始まる前に臨時株主総会を開き、新事業年度の最初の支給分から減額することもできます。その場合でも、事業年度開始の日から3か月を経過する日までに開かれる定時株主総会で、役員報酬を再度改定することが可能です。改定後は、事業年度末まで改定後の金額を毎月同額で支給します。

ポイント 定期同額の要件

  • 事業年度開始の日から3月を経過する日までに改定すること
  • 改定後の最初の支給時期から事業年度末まで、改定後の金額を同額とすること
  • 期首前に臨時株主総会を開き、新事業年度の最初の支給分から減額しておくことも可能

社長:じゃあ、私は今期どうすればいいんでしょうか。

先生:結論としては、こうお伝えしたいです。今期中は役員報酬を安易に減額せず、毎月通常どおり計上してください。役員報酬の全額を現金で支給する余裕がない場合でも、源泉所得税や社会保険料等の納付資金は確保し、必ず期限までに納付してください。現金で支給しない手取り相当額は、役員本人の了解のもとで役員借入金に振り替える方法があります。そのうえで、臨時株主総会を開き新しい事業年度の初月から役員報酬を減額します。

社長:「現金がない=報酬を下げる」ではなく、「現金がなくても、役員借入金に振り替える方法もある」ということですね。

先生:まさにその通りです。決算のタイミングが近づいてきたら、改定額や株主総会議事録の文言案も一緒に準備しましょう。

社長:ありがとうございます、先生。心強いです。

未払計上が認められる場合

なお、災害や感染症の流行などによる突発的な資金不足で、近いうちに支払う見込みがある場合には、一時的に未払役員報酬として計上する方法もあります。一時的な未払であれば、源泉所得税は実際に支給する際に徴収・納付します。未払が長期化する場合には、役員本人との合意により給与を支給したものとして処理し、源泉所得税等を控除した手取り相当額を役員借入金へ振り替えます。


本記事は一般的な解説であり、個別の事案については顧問税理士にご相談ください。

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