令和8年度税制改正では、事業承継税制の提出期限延長やマイホーム特例の延長といった実務に直結する改正に加え、暗号資産の課税方式の大幅な見直しなど、資産をお持ちの方や事業を営まれている方にとって見逃せない改正が数多く盛り込まれました。
本記事では、大阪国税局の資料をもとに、相続税・贈与税、所得税(譲渡所得等)に関する主な改正内容を、尼崎市の税理士法人松野茂税理士事務所が実務家の視点でわかりやすく解説します。相続対策や事業承継、不動産の譲渡・資産運用をご検討中の方は、ぜひ今後のスケジュールの参考になさってください。
Ⅰ.相続税・贈与税の改正
1.事業承継税制(法人版)― 特例承継計画の提出期限が延長
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度(法人版事業承継税制)について、特例承継計画の提出期限が1年6か月延長され、令和9年9月30日までとなりました。
この特例措置は、猶予対象株式数の上限がなく、相続税・贈与税ともに100%の納税猶予を受けられる非常に有利な制度です。ただし、特例承継計画の提出だけでなく、事業承継そのものの期限(令和9年12月31日まで)は変更されていません。後継者への株式の承継を検討されている経営者の方は、早めの準備が重要です。
2.事業承継税制(個人版)― 個人事業者も提出期限が延長
個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度(個人版事業承継税制)についても、個人事業承継計画の提出期限が2年6か月延長され、令和10年9月30日までとなりました。土地(400㎡まで)・建物(800㎡まで)・機械装置・車両運搬具といった事業用資産を対象に、相続税・贈与税ともに100%の納税猶予が受けられる制度です。個人で事業を営む方の事業承継にも活用できます。
3.医療法人の持分に係る納税猶予制度 ― 適用期限を3年延長
「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行を後押しする納税猶予制度の適用期限が3年延長され、令和11年12月31日までとなりました。持分なし医療法人への移行は年々進んでおり(令和6年度末で全体の約39%)、医療法人の事業承継・相続対策として引き続き有効な選択肢です。
4.農地等の納税猶予制度に係る利子税の特例 ― 5年延長
農地等について相続税・贈与税の納税猶予を受けている場合に、収用交換等により譲渡したときの利子税を全額免除する措置の適用期限が5年延長され、令和13年3月31日までとなりました。
5.教育資金一括贈与の非課税措置 ― 延長されず終了
直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税非課税措置(1,500万円まで非課税)については、信託等ができる期間が令和8年3月31日をもって延長されず終了します。同日までに拠出された資金については、引き続き非課税措置の適用が受けられますが、新規の利用を検討されている場合は期限にご注意ください。
Ⅱ.所得税(譲渡所得等)の改正
1.マイホームの買換え特例等が2年延長
以下のマイホーム(居住用財産)に関する特例について、適用期限が2年延長され、令和9年12月31日までとなりました。
- 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例
- 特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例
- 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
なお、令和8年1月1日以後の譲渡については、買換資産の範囲が一部見直されています。具体的には、令和10年1月1日以後に居住の用に供する一定の未使用家屋のうち、災害危険区域等内に建築されたものは、原則として買換資産の対象から除外されます。住み替えをご検討中の方は、この点も踏まえたスケジュール調整が必要です。
2.土地の譲渡に関する各種特例の延長・見直し
- 優良住宅地等のための譲渡の長期譲渡所得課税の特例:適用期限を3年延長(令和10年12月31日まで)。あわせて、マンションの建替え等に関する法律が「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に改正されたことに伴い、適用対象の見直しが行われています。
- 老朽化マンションの再生に係る特例措置の拡充:マンション再生事業への対象拡大や、マンション敷地売却事業からマンション等売却事業への拡充などが行われました(令和8年4月1日以後の譲渡から適用)。老朽化マンションの建替え・再生を検討している管理組合や区分所有者の方に関係する改正です。
- 低未利用土地等の長期譲渡所得100万円特別控除:適用期限を3年延長(令和10年12月31日まで)。
- 特定の事業用資産の買換えの場合等の譲渡所得の課税の特例(措法37・37の4):対象資産の範囲を一部見直した上で、原則として適用期限を3年延長(令和11年12月31日まで)。なお、実務でよく利用される、国内の長期所有土地建物等から国内の一定の土地建物等への買換え(措法37条1項表三)については、令和11年3月31日までとなりますのでご注意ください。
- 特定住宅被災市町村の区域内にある土地等の2,000万円特別控除:対象区域を避難解除区域等とした上で、適用期限を3年延長(令和11年3月31日まで)。
土地の売却をご検討の方は、譲渡のタイミングによって適用できる特例が変わる可能性がありますので、事前のご相談をおすすめします。
3.NISA制度の拡充 ― 「こどもNISA」が創設
非課税口座(NISA)について、口座開設可能年齢の下限が撤廃され、新たに未成年者特定累積投資勘定(こどもNISA)が創設されます(令和9年1月1日以後)。0歳から17歳までのお子様・お孫様名義で、年間60万円、非課税保有限度額600万円までの積立投資が可能になり、18歳以降は自動的に通常のつみたて投資枠へ移行します。なお、一定の要件のもと、12歳以降は口座からの払出しも可能とされています。教育資金の準備や資産承継の新たな選択肢として注目される改正です。
4.暗号資産(仮想通貨)の課税方式が大きく変わる
これまで総合課税とされてきた暗号資産取引による所得について、大きな見直しが行われます。
- 金融商品取引業者登録簿に登録されている「特定暗号資産」について、暗号資産取引業者への売委託による譲渡や、暗号資産取引業者に対する譲渡を行った場合には、その取引による所得が申告分離課税(税率20%=所得税15%+住民税5%)の対象となります。
- 特定暗号資産の取引により生じた損失は、3年間の繰越控除が可能になります。
- 一方、特定暗号資産に該当しないものや上記以外の譲渡は引き続き総合課税の対象となり、譲渡所得の特別控除や長期保有の2分の1軽減、他の所得との損益通算は適用されません。
適用時期は、関連法律の施行日の属する年分の翌年1月1日以後の所得税からとなります。暗号資産取引をされている方にとっては、税負担が大きく変わる可能性のある重要な改正です。
5.山林所得に係る森林計画特別控除 ― 2年延長
山林所得の計算上、収入金額の20%(2,000万円超の部分は10%)を控除できる森林計画特別控除の適用期限が2年延長され、令和10年12月31日までとなりました。
まとめ ― 早めの情報収集と専門家への相談を
今回の改正では、事業承継税制の計画提出期限延長により準備期間に余裕が生まれた一方、教育資金贈与の非課税措置のように期限を迎えて終了する制度もあります。また、暗号資産の課税方式の見直しのように、資産運用そのものに影響する改正も含まれています。
税理士法人松野茂税理士事務所 〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F(阪神尼崎駅徒歩1分)
※本記事は令和8年6月時点の大阪国税局資料に基づく一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務判断につきましては、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。








