はじめに
重加算税が課されなかったからといって、7年間の更正を受けないとは限りません。 「隠蔽・仮装」と「偽りその他不正の行為」は、別の要件で判断されます。
「隠蔽・仮装」と「偽りその他不正の行為」は、税務調査の場面でよく並んで語られますが、別の概念であり、結びつく効果も異なります。 大まかにいえば、前者は重加算税などの行政上のペナルティの要件、後者は更正できる期間の延長や脱税罪(刑事罰)の要件です。
実際の事案では両方が認定されることが多く、混同されがちです。この記事では、次の順に整理します。
- それぞれの意義(どんな行為が該当するのか)
- 隠蔽・仮装に結びつく行政制裁
- 偽りその他不正の行為に結びつく効果と刑事制裁
※条文番号・税率は執筆時点の理解に基づきます。個別の案件では、最新の法令・通達をご確認ください。
1 「隠蔽・仮装」とは
隠蔽・仮装とは、課税の基礎となる事実を隠したり、偽ったりすることです。 国税通則法68条は、納税者が課税標準等や税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠蔽・仮装し、その事実に基づいて申告(または無申告)したときに、重加算税を課すと定めています。
| 区分 | 意味 | 典型例 |
|---|---|---|
| 隠蔽 | あるものを「ない」ように見せる | 売上の除外、預金・財産の簿外化、帳簿書類の隠匿・廃棄 |
| 仮装 | ないものを「ある」ように、または別のものに見せかける | 架空仕入・架空外注費・架空人件費、他人名義の利用、虚偽の請求書・契約書の作成 |
単なる誤りとの違い
判例(最判平成7年4月28日など)は、単なる過少申告や記帳の不備だけでは足りず、過少申告の意図を外部からうかがい得る特別の行動があったうえで、その意図に基づいて申告したことを求めています。
- 該当しやすい例:二重帳簿の作成、請求書の改ざん、架空名義の預金口座の利用
- 直ちには該当しない例:単純な計上漏れ、税法の解釈を誤った処理、担当者のうっかりミス
実務では、故意の有無と、それを裏づける行動の有無が争点になります。
2 「偽りその他不正の行為」とは
偽りその他不正の行為とは、税を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能または著しく困難にするような、偽計その他の工作を伴う不正な行為をいいます。 国税通則法70条5項(更正・決定等の期間制限の特例)と、各税法の脱税罪(法人税法159条、所得税法238条など)の双方で使われる文言です。
単なる無申告・過少申告だけでは足りない
福岡高裁昭和51年6月30日判決は、単なる不申告行為はこれに含まれないとしたうえで、次のような行為が「偽計その他の工作を伴う不正な行為」にあたるとしています。
- 名義の仮装や二重帳簿の作成などをして、申告期限内に申告しない
- 税務署員の調査での質問に虚偽の陳述をする
- 真実の所得を秘匿し、所得金額をことさらに過少にした虚偽の確定申告書を提出する
つまり、不申告・過少申告そのものではなく、それに伴う積極的な工作の有無が分かれ目です。
税理士など代理人の行為も対象になり得る
最判平成17年1月17日は、申告を委任された者が偽りその他不正の行為を行い、納税者が税額を免れた場合にも、期間制限の延長規定が適用されるとしました。顧問先が知らなかった場合でも、争点になり得ることは頭に入れておきたい点です。
3 2つの概念の違い
多くの事案で重なりますが、要件も効果も同じではありません。 学説・実務でも、両者は多くの場合重なり合うものの、常に同じ結論になる理由はないと説明されています。
| 項目 | 隠蔽・仮装 | 偽りその他不正の行為 |
|---|---|---|
| 主な根拠 | 国税通則法68条ほか | 国税通則法70条5項、各税法の脱税罪 |
| 性格 | 行政上の制裁の要件 | 期間延長などの行政上の効果と、刑事罰の要件 |
| 代表的な効果 | 重加算税、青色申告の承認取消し、損金不算入 | 更正・賦課決定の期間7年、徴収権時効の進行停止、延滞税の特例の不適用、脱税罪 |
| 主観面 | 過少申告の意図が必要 | 脱税の意図(逋脱の故意)が必要 |
| 外形的な特徴 | 特別の行動を伴う隠蔽・仮装 | 賦課徴収を困難にする偽計その他の工作 |
ただし、重加算税の対象となる隠蔽・仮装行為は、「偽りその他不正の行為」にも該当することが多く、その場合は、重加算税の賦課決定にも7年の期間が適用されます。もっとも、これは認定される事実が大きく重なるためであり、要件が同じだからではありません。
一方、重加算税が課されなかったことだけを理由に、「偽りその他不正の行為」がなかったと判断することはできません。後述の米国大使館事件のように、重加算税を課さずに7年分の更正が行われた事例もあります。
4 隠蔽・仮装に結びつく行政制裁
隠蔽・仮装があると、重加算税だけでなく、青色申告の承認取消しや経費・役員給与の否認など、複数の不利益が重なります。
| 制裁 | 主な条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 重加算税 | 国税通則法68条 | 過少申告・不納付は35%、無申告は40%。通常の加算税に代えて課される |
| 青色申告の承認取消し | 所得税法150条、法人税法127条 | 帳簿書類に取引の隠蔽・仮装の記載がある場合など |
| 役員給与の損金不算入 | 法人税法34条3項 | 事実を隠蔽・仮装して経理して支給した役員給与が対象 |
| 簿外経費・不正行為費用の不算入 | 所得税法45条3項、法人税法55条1項・3項 | 隠蔽・仮装に基づく申告(または無申告)の場合、申告書に記載していない費用・損失(簿外経費)は、必要経費・損金に算入しない。ただし、保存する帳簿書類等によって取引の事実と金額が明らかな場合など、法定の要件を満たすものは対象から除かれる。隠蔽・仮装行為に要した費用や、その行為による損失も、損金に算入できない(法人税法55条1項) |
| 地方税の重加算金 | 地方税法72条の45(事業税)、321条の12(住民税)など | 国税と別に、地方税でも課される |
| 電子データに係る加重 | 電子帳簿保存法 | 電子取引の取引情報に係る電磁的記録に隠蔽・仮装があった場合、重加算税を10%加重。令和7年度改正により、国税庁長官が定める基準に適合するシステムの使用など、一定の要件に従って送受信・保存し、届出をした電子取引データは、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から対象外 |
重加算税の押さえどころ
- 同じ税目について、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合など、所定の要件を満たすと、さらに10%加重されます(通則法68条4項)。無申告が続いた場合の加重もあります。
- 重加算税・延滞税などの附帯税は、法人税の計算上、損金に算入できません。
- 重加算税は刑罰ではなく行政上の制裁のため、脱税罪の刑事罰と併せて科されても二重処罰にはならないとされています(最大判昭和33年4月30日)。
- 重加算税の賦課決定ができる期間は、原則として5年です。ただし、偽りその他不正の行為によって税額を免れた場合は7年になります(通則法70条)。
5 偽りその他不正の行為に結びつく効果と刑事制裁
偽りその他不正の行為があると、税務署が遡れる期間が7年に延び、延滞税の負担も重くなります。悪質な場合は脱税罪で刑事責任を問われます。
行政上の効果
| 効果 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 更正・決定等の期間制限 | 国税通則法70条5項 | 通常は5年(一部3年)のところ、7年まで更正・決定等をすることができる。起算日は、通則法70条5項に定める区分による |
| 徴収権の時効 | 国税通則法73条3項 | 徴収権の時効が、原則として法定納期限から2年間は進行しない(2年以内に申告書の提出や更正決定等があった場合の例外あり) |
| 延滞税の計算期間の特例 | 国税通則法61条 | 不正により国税を免れた納税者の更正や、更正を予知した修正申告では、延滞税の計算期間から一定期間を除く特例が適用されない |
国税庁の通達では、重加算税が課された場合や、通告処分・告発があった場合も、この特例は適用されないとされています。その結果、通常の申告漏れに比べて延滞税が大きく増えることがあります。具体的な計算期間は、修正申告の時期や処分の内容によって異なります。なお、延滞税の割合(本則は年7.3%と14.6%)は、特例基準割合により毎年変動します。
刑事制裁(脱税罪)
| 税目 | 条文 | 罰則 |
|---|---|---|
| 法人税 | 法人税法159条 | 10年以下の拘禁刑、1,000万円以下の罰金、またはその併科 |
| 所得税 | 所得税法238条 | 同上 |
| 相続税 | 相続税法68条 | 同上 |
| 消費税 | 消費税法64条 | 同上 |
※令和7年6月1日から、刑法の懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。税法の罰則も、これに合わせて表記が変わっています。
- 免れた税額が1,000万円を超える場合、罰金は免れた税額以下まで引き上げることができます(法人税法159条2項など)。
- 「偽りその他不正の行為」がなくても、税を免れる故意をもって申告期限内に申告せず、税を免れた場合は、不申告逋脱犯として処罰されます(単なる申告忘れとは区別されます)。この場合は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金で、法定刑は軽くなります。
- 従業員や代表者が違反行為をすると、法人にも罰金刑が科されます(両罰規定、法人税法164条)。
- 公訴時効は7年です。更正期間の7年とそろっています。
- 悪質な事案は、国税局の査察部門による調査(犯則調査)から告発・起訴へ進みます。
6 実務上の注意点
隠蔽・仮装を疑われる場面は、日常の経理の中にあります。 日頃から次の点を意識しておくことが、最大の予防策です。
- 売上の計上時期と帳簿の整合性:請求書・入金・帳簿が一致しているか。期ずれ処理の理由を説明できるか。
- 証憑の保存:領収書・請求書・契約書を、取引の実態と合わせて保存する。
- 名義預金・名義株(相続の場面):通帳や印鑑を誰が管理し、誰の資金か。実質的な帰属を整理しておく。
- 従業員・経理担当者の行為:担当者の不正も、納税者本人の行為と同視されて重加算税の対象になることがあります。内部チェックを置く。
- 調査での対応:虚偽の説明や資料の差替えは、それ自体が不利に働きます。事実を整理して正確に説明する。
税理士の関与について
故意に真実の事実に反して税務代理などを行った税理士は、税理士法45条により、業務停止や業務禁止の懲戒処分を受けることがあります。脱税の共犯として刑事責任を問われる可能性もあります。
重加算税の賦課について納得できない場合は、不服申立て(再調査の請求・審査請求)で争う道があります。隠蔽・仮装の認定が妥当かどうかは、事実関係の詳細な検討が必要ですので、早めの専門家への相談をお勧めします。
7 事例:米国大使館事件(「偽りその他不正の行為」が争われた事案)
米国大使館事件は、重加算税ではなく、「偽りその他不正の行為」(7年の期間延長)の成否が争点となった代表的な事件です。
事案の概要
在日米国大使館などの外国公館には、日本人職員に支払う給与について源泉徴収義務がありません。そのため、給与から税が天引きされず、職員は自分で確定申告をします。戦後間もない昭和30年頃、米国大使館と国税当局との折衝の中で、給与のうち約4割はフリンジベネフィットに対応する部分とする了解があったとされています。東京地裁は、日本人職員の間に、これが「給与の約6割を申告すれば足りる」という慣行として戦後長く受け継がれていたことを認めています。そのため、給与の一部だけを申告していた職員が多くいました。
米国大使館の日本人職員の過少申告をめぐっては、各地の裁判所で複数の訴訟が争われました。ここでは、東京地裁平成16年4月19日判決と、その控訴審判決を取り上げます。同じ4月19日の地裁判決は5件あり、控訴審も複数あります。
課税当局は、重加算税は課さず、「偽りその他不正の行為」にあたるとして、通常の5年を超える7年分を追徴課税しました(通則法70条5項)。
東京地裁 平成16年4月19日判決
地裁は、まず「偽りその他不正の行為」を、税額を免れる意図のもとに、賦課徴収を不能または著しく困難にするような偽計その他の工作を伴う不正な行為と定義しました。そのうえで、次の点を示しています。
- 単なる不申告は含まれない。
- 積極的な秘匿工作だけでなく、過少申告の態様によっては不正の行為になり得る。
- 誤った状況をあえて放置したり、その状態を利用して税を免れようとしたりする場合も、積極的な秘匿工作と同視し得る。
しかし本件の原告については、慣行に従って正しい申告だと信じて申告したと認められるとして、不正の行為にはあたらないと判断しました(原告5人のうち3人の請求が認容)。
東京高裁の判断(平成16年11月)
東京高裁の各判決では、給与の一部だけを申告すれば足りるという慣行の存在や、納税者がその取扱いを正しいと信じていたかどうかなどが検討されました。
そのうえで、納税者が給与の全額について申告義務があることを認識しながら、納付すべき税額を免れる意図で過少申告を行ったと認定し、「偽りその他不正の行為」に該当すると判断した事例があります。
これらの判決から、過去の慣行に従ったという説明だけでは、不正行為の認定を免れられない場合があることが分かります。
なお、この事件群では、米国大使館に日本人職員の給与の源泉徴収義務があるかどうかも争われ、裁判所はこれを否定しました。その理由として、国家が他国に対して一方的に課税権を行使することは原則としてできない、という国際法上の原則が示されています。源泉徴収されない給与だからこそ、申告の正確さが納税者本人に委ねられていた点が、この事件の背景にあります。
この事例から学べること
- 重加算税が課されなくても、「偽りその他不正の行為」が認められれば、7年分の追徴を受けることがあります。2つの概念は別物です。
- 判断の分かれ目は、慣行を信じたことに相当な理由があるか、確認の努力をしたかなど、納税者の認識と行動です。
- 「周りもそうしている」「以前からそうだった」という理由だけでは、不正の意図を否定できない場合があります。法的根拠が不明な取扱いは、専門家や税務署に確認することが大切です。
ただし、税務署への確認を怠ったことだけで、直ちに「偽りその他不正の行為」になるわけではありません。本件でも、慣行の根拠の乏しさや確認の機会の有無など、事情が総合的に判断されています。
まとめ
- 隠蔽・仮装は、重加算税(35%・40%)や青色取消し、損金不算入などの行政制裁につながる。
- 偽りその他不正の行為は、更正期間の7年への延長や延滞税の特例の不適用などの行政上の効果と、脱税罪(最高で10年以下の拘禁刑・1,000万円以下の罰金)につながる。
- 両者は重なることが多いが、要件・効果は別。判断は、特別の行動や偽計的な工作の有無で分かれる。
- 相続・事業承継・M&Aの場面では、財産の帰属や取引の実態を、早い段階で整理しておくことが重要です。
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