【令和8年度税制改正】所得税はどう変わる?基礎控除・年収の壁・住宅ローン控除をわかりやすく解説

【令和8年度税制改正】所得税はどう変わる?基礎控除・年収の壁・住宅ローン控除をわかりやすく解説

令和8年度の税制改正では、物価高への対応として基礎控除や給与所得控除の引き上げが行われるほか、いわゆる「年収の壁」の見直し、住宅ローン控除の延長、NISAのつみたて投資枠の拡充、そして極めて高い所得層への課税強化や防衛特別所得税の創設など、幅広い改正が予定されています。

個人のお客様だけでなく、個人事業主・法人経営者の皆様にも影響がある内容が多く含まれていますので、今回は所得税に関する主な改正項目を整理してご紹介します。実際の申告や届出にあたっては個別の事情により取扱いが異なりますので、ご留意ください。

目次

1. 改正の全体像

令和8年度税制改正のうち所得税に関するものは、大きく次の5つの柱に整理できます。

  1. 物価高への対応(いわゆる「年収の壁」の見直し)
  2. 「強い経済」の実現に向けた対応(住宅ローン控除、NISA)
  3. 税負担の公平の確保に向けた是正(極めて高い所得への課税強化)
  4. その他の税制上の諸課題(ひとり親控除など)
  5. 諸施策の財源確保(防衛特別所得税の創設など)

このほか、青色申告特別控除の見直しや暗号資産の分離課税化など、事業を営む方に関わる改正も行われています。以下、順番に見ていきます。

2. 物価高への対応(いわゆる「年収の壁」の見直し)

基礎控除・給与所得控除が物価上昇に連動する仕組みに

これまで基礎控除や給与所得控除の金額は定額で固定されていましたが、令和7年度改正の附則に基づき、消費者物価指数(CPI)の上昇に連動して2年ごとに見直す仕組みが新たに設けられました。今回の令和8年度改正では、令和6年・7年の物価上昇率(合計6.0%)を踏まえ、基礎控除の本則額が58万円から62万円へ引き上げられます。

あわせて、給与所得控除の最低保障額も65万円から69万円に引き上げられます。

令和8・9年分に限った上乗せ措置も

物価高で厳しい状況にある中低所得者層への配慮から、令和8年分・令和9年分に限り、所得水準に応じて基礎控除にさらに上乗せする特例措置が実施されます。上乗せ額は所得水準によって異なり、給与収入で見るとおおむね年収が低いほど手厚い設計です。あわせて給与所得控除の最低保障額にも令和8・9年分に限り5万円の特例加算があり、69万円が74万円になります。

この結果、給与所得者の約8割にあたる幅広い層で基礎控除等の上乗せが行われ、給与収入で見て所得税の負担が生じ始める水準(いわゆる課税最低限)が178万円以上となります。年収階層別の減税額は、たとえば年収300万円で年2.8万円程度、年収600万円で年5.6万円程度(令和7年度改正分を含む)となっており、中低所得層ほど負担軽減の効果が相対的に大きくなる設計です。

扶養親族等の所得要件も連動して引き上げ

基礎控除額の引き上げに伴い、配偶者控除・扶養控除・配偶者特別控除・勤労学生控除などの所得要件も見直されます。たとえば扶養親族や同一生計配偶者の所得要件は「58万円以下」から「62万円以下」に、勤労学生控除の所得要件は「85万円以下」から「89万円以下」に、それぞれ引き上げられます(令和8年12月1日施行、令和8年分以後の所得税に適用)。

「年収の壁」はどう変わったか(令和7年度改正との関係)

いわゆる「年収の壁」の見直しは主に令和7年度改正で手当てされており、令和8年度改正はその延長線上にあります。整理すると次のとおりです。

  • 103万円の壁(税・国税):課税最低限を引き上げたことで「103万円の壁」は実質的に解消され、本人の手取りが減少する境目はなくなりました。
  • 150万円の壁(税・配偶者特別控除):扶養する側に配偶者特別控除が満額適用される配偶者側の年収基準が、令和8年分の年末調整から169万円に引き上げられます。これにより、世帯の手取りが急に減少する事態を避けやすくなります。
  • 特定親族特別控除の創設:大学生年代(19〜22歳)の子については、子の給与収入が一定額を超えても、親の手取りが一気に減らない仕組み(特定親族特別控除)が令和7年分から新設されています。
  • 106万円の壁(社会保険):厚生年金・健康保険の加入要件のうち、月8.8万円(年106万円)以上という賃金要件が段階的に撤廃されます(令和8年10月施行予定)。企業規模要件も2027年10月以降、段階的に撤廃されます。
  • 130万円の壁(社会保険):国民年金・国民健康保険への切替基準そのものは残りますが、人手不足による一時的な収入増加については、事業主の証明があれば連続2年までは引き続き扶養にとどまれるなど、認定の弾力化が図られています。

パート・アルバイトで働く配偶者やご家族がいらっしゃるご家庭、また従業員の働き方に関わる事業主の皆様にとって、実務上の影響が大きい部分です。年末調整や給与計算の設定変更が必要になりますので、早めのご確認をおすすめします。

3.「強い経済」の実現に向けた対応

住宅ローン控除の5年延長・中古住宅支援の拡充

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用期限が、令和12年入居分まで5年間延長されます。基本的な枠組みを整理すると次のとおりです。

項目内容
適用期限令和12年入居分まで
控除率0.7%
控除期間新築住宅・買取再販住宅は13年、既存住宅は10年
床面積要件原則50㎡以上、合計所得金額1,000万円以下の場合は40㎡以上も可

既存住宅(中古住宅)についても、認定長期優良住宅・低炭素住宅で3,500万円、ZEH水準省エネ住宅で2,000万円、省エネ基準適合住宅で2,000万円と、新築住宅と同様の区分で借入限度額が設定され、支援が拡充されています。子育て世帯等についてはさらに上乗せ措置が適用されます。なお、令和10年以降の入居分からは、土砂災害等の災害レッドゾーンにおける新築(建替えを除く)が適用対象外となる点にも注意が必要です。

NISAのつみたて投資枠、0〜17歳まで拡充

次世代の資産形成を後押しする観点から、NISAのつみたて投資枠の対象年齢が0〜17歳まで拡充されます(令和9年〜)。年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円とされ、18歳以後は、成人向けNISAの非課税保有限度額1,800万円の枠組みに移行します。12歳以降であれば、子の同意を得たうえで親権者等が払い出すことも可能です。お子様・お孫様の将来の学費や独立資金づくりの選択肢として、注目しておきたい改正です。

4. 税負担の公平の確保に向けた是正(いわゆる「1億円の壁」)

株式譲渡益などが多い富裕層では、所得税の負担率が所得の増加とともにかえって低下する「1億円の壁」と呼ばれる現象が指摘されてきました。これに対応するため、極めて高い水準の所得についての追加的な負担のしくみが強化されます。

具体的には、通常の所得税額と「(合計所得金額-特別控除額)×一定税率」で計算した金額を比較し、後者が上回る場合にその差額を申告納税する制度について、適用税率を22.5%から30%に引き上げ、特別控除額を3.3億円から1.65億円に引き下げます。この結果、実際に追加負担が生じる所得水準の目安は、従来の年間所得約30億円程度から約6億円程度にまで広がる見込みです(対象者数もおよそ200人程度から2,000人程度に拡大)。この見直しは令和9年分の所得から適用されます。該当しうる方は多くありませんが、株式譲渡益やストックオプション等で高額な所得が生じる見込みの経営者の方などは、事前のシミュレーションをおすすめします。

5. その他の税制上の諸課題

ひとり親控除の控除額引き上げ

ひとり親控除の控除額が、国税35万円→38万円、地方税30万円→33万円に引き上げられます。適用は令和9年分の所得税、令和10年度分の個人住民税からとなります。

高校生年代の扶養控除は令和8年度改正では現行制度を維持

高校生年代(16〜18歳)の扶養控除については、児童手当の高校生年代までの支給拡大などとの関係を踏まえた見直しの議論が続いていますが、令和8年度改正では、令和9年分の所得税・令和10年度分の個人住民税について現行制度(一般部分:国税38万円、地方税33万円)を維持することとされました。今後の税制改正の動向にも注目が必要です。

6. 諸施策の財源確保 ―防衛特別所得税の創設

防衛力強化の財源として、所得税額に対して税率1%の新たな付加税である「防衛特別所得税」が創設され、令和9年1月から課税が開始されます。あわせて、現行の復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられる一方、復興財源の総額を確保するため、課税期間が10年間延長され、令和29年まで課税が続くこととなります。結果として、当面の付加税の合計税率(防衛特別所得税1%+復興特別所得税1.1%=2.1%)は現行水準からすぐには変わりませんが、恒久的な負担の枠組みとして防衛特別所得税が組み込まれる点は押さえておきたいポイントです。

7. 個人事業主・法人経営者の方に関わるその他の改正

青色申告特別控除の見直し(令和9年分以後)

会計ソフトの普及や電子申告の広がりを踏まえ、青色申告特別控除の要件が次のように見直されます。

  • 訂正削除履歴の記録や請求書データ等との自動連携など、一定の要件を満たす優良な電子帳簿を保存している場合の控除額の上限を、65万円から75万円に引き上げ
  • 複式簿記による65万円控除(上記の優良電子帳簿要件を除く)の適用には、電子申告が要件に
  • 簡易簿記による10万円控除の適用は、事業所得・不動産所得に係る前々年収入が1,000万円以下の方、または事業的規模に満たない不動産所得者等に限定

弥生会計をはじめとする会計ソフトをご利用のお客様は、優良な電子帳簿の要件を満たすことで、より高い控除を受けられる可能性があります。当事務所では弥生会計を中心に、電子申告や電子帳簿保存への対応を進めています。今後は75万円控除の適用要件についても確認が必要になります。

暗号資産の分離課税化

金融商品取引法等の改正を前提に、暗号資産取引業者を通じた一定の暗号資産取引から生じる所得について、現行の総合課税(雑所得・最大45%)から、所得税について申告分離課税(15%)とする仕組みに変更されます。暗号資産を投資対象とするETF(上場投資信託)についても、同様に分離課税の対象とすることが検討されています。施行は金融商品取引法の改正法が施行された年の翌年1月1日以後の取引からとされており、具体的な適用開始時期は今後の法改正の動向によります。暗号資産取引を行っている方は、課税方式の変更により納税額に大きな違いが生じる可能性がありますので、施行時期とあわせて注意が必要です。

インボイス制度の負担軽減措置の延長・見直し

現行の2割特例終了後について、個人事業者を対象に、消費税の納税額を売上税額の3割とする負担軽減措置が令和9年・10年分について設けられます。

また、免税事業者からの仕入れに係る8割控除(経過措置)についても、最終的な適用期限を2年延長したうえで、控除率の引き下げペース・幅が緩和される一方、制度の濫用防止の観点から、免税事業者ごとの年間適用上限額が10億円から1億円に引き下げられます。

そのほかの改正

  • 給与収入と公的年金等の収入の両方がある方について、給与所得控除額と公的年金等控除額の合計額に280万円の上限が設けられ、超える部分は公的年金等控除額から控除することとされます(令和9年分以後)。
  • 中小企業者の少額減価償却資産の取得価額要件が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限も3年延長されます(令和8年4月1日以後取得等分から)。
  • 試験研究費に係る税額控除制度について、税額控除率の見直しと上限の上乗せ特例の適用期限が3年延長されます。
  • 特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)について、適用期限の延長と対象医薬品範囲の見直しが行われます。

まとめ

令和8年度の所得税改正は、物価上昇に対応した基礎控除等の引き上げと「年収の壁」対策が中心となっており、多くの給与所得者にとって減税方向の改正です。一方で、極めて高い所得層への課税強化や防衛特別所得税の創設など、負担が増える改正も含まれています。また、個人事業主の方には青色申告特別控除の要件見直しなど、日々の記帳や申告のやり方そのものに関わる改正もあります。

改正内容は多岐にわたり、適用時期も令和8年分・9年分・令和9年10月施行など項目ごとに異なります。ご自身やご家族、事業への影響を正しく把握するためにも、それぞれの改正の適用時期と内容を確認しておくことが大切です。


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