非上場株式(取引相場のない株式)を個人から個人へ譲渡する場合、譲渡人(売主)と譲受人(買主)それぞれに異なる税目・異なる根拠規定による課税が生じます。
特に低額譲渡(時価より著しく低い価額での譲渡)の場面では、課税関係が複雑になります。本記事では、個人間での非上場株式譲渡における課税関係の全体像を体系的に解説します。
個人間譲渡における課税の全体構造
個人から個人への非上場株式の譲渡では、次の2つの課税関係が生じます。
| 当事者 | 課税の種類 | 課税の基礎 | 根拠規定 |
|---|---|---|---|
| 譲渡人(売主) | 所得税(譲渡所得) | 原則として実際の譲渡対価。ただし、著しい低額譲渡による譲渡損失は制限される場合がある | 所得税法第33条・第59条第2項 |
| 譲受人(買主) | 贈与税(みなし贈与) | 時価と対価の差額 | 相続税法第7条 |
この2つの課税関係は、それぞれ異なる税法の規定に基づいて判定されます。
譲渡人は原則として実際の譲渡対価により譲渡所得を計算しますが、時価の2分の1未満の価額で譲渡し、譲渡損失が生じる場合には、その損失が制限されることがあります。
一方、譲受人は、著しく低い価額で株式を取得した場合、時価と実際の対価との差額について贈与税が課されることがあります。
譲渡人(売主)の課税関係 ― 所得税
非上場株式の譲渡所得は申告分離課税
非上場株式の譲渡による所得は、申告分離課税の対象です。給与所得・事業所得等との総合課税ではなく、他の所得と分離して税額を計算します。
譲渡所得 = 譲渡収入金額 ―(取得費 + 譲渡費用)
税率:所得税15.315% + 住民税5% = 合計20.315%
個人間の低額譲渡では、時価課税はされないが、譲渡損失が制限されることがある
個人から個人へ資産を低額で譲渡した場合、原則として、譲渡人は実際に受け取った対価を収入金額として譲渡所得を計算します。
所得税法第59条第1項による時価課税は、法人に対する贈与・著しい低額譲渡などを対象とする規定であり、通常の個人間の低額譲渡について、譲渡人が時価で譲渡したものとして課税されることはありません。
ただし、個人間の低額譲渡であっても、所得税法第59条第2項に注意が必要です。
譲渡価額が時価の2分の1未満であり、かつ、実際の譲渡価額が取得費及び譲渡費用の合計額を下回る場合、その不足額は譲渡所得の計算上なかったものとされます。
つまり、次のように取り扱われます。
・譲渡益が生じる場合
実際の譲渡価額により譲渡益を計算する
・譲渡価額が時価の2分の1未満であり、かつ、その対価が取得費及び譲渡費用の合計額を下回る場合には、その不足額は譲渡所得の計算上なかったものとされる
したがって、「個人間の低額譲渡には所得税法第59条が一切適用されない」という説明は正確ではありません。
個人間の取引では、所得税法第59条第1項による時価課税はありませんが、同条第2項による譲渡損失の制限が適用される場合があります。
取得費の計算
取得費は、その株式の取得に要した金額(購入代金・購入手数料等)の合計です。取得価額が不明な場合は、譲渡収入金額の5%を概算取得費として用いることができます。
なお、相続・遺贈により取得した株式を譲渡する場合、被相続人の取得費を引き継ぎます(所得税法第60条)。相続税の申告が必要な場合は、一定の条件のもと相続税額の一部を取得費に加算できる特例(措置法第39条)があります。
譲渡損失の取扱い
非上場株式の譲渡損失は、上場株式の譲渡益や配当との損益通算はできません。非上場株式の譲渡所得・譲渡損失は上場株式と別の分離課税区分となるため、損益通算の範囲に注意が必要です。また、個人間の著しい低額譲渡については、所得税法第59条第2項により、譲渡損失がなかったものとされる場合があります。
譲受人(買主)の課税関係 ― 贈与税(相続税法第7条)
相続税法第7条 みなし贈与の趣旨
相続税法第7条は、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合に、その差額を贈与とみなして贈与税を課税する規定です。
「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。」
本条の核心は、利益を得た者(譲受人)に着目して課税するという点にあります。安く取得することで経済的利益を受けたのは譲受人であるため、その利益部分に贈与税を課税します。
みなし贈与額の計算
みなし贈与額 = 適正な時価 ― 実際の取得価額(対価)
この「適正な時価」の算定が、非上場株式の低額譲渡において最も重要な論点です。
「著しく低い価額」の判断基準
相続税法第7条は「著しく低い価額」という要件を定めていますが、法令上、一律の数値基準は設けられていません。
「著しく低い価額」に該当するかどうかは、適正な時価と実際の譲渡価額との差額、その割合、取引の経緯、当事者間の関係など、個々の具体的事情に基づいて判断されます。
したがって、財産評価基本通達による評価額を少しでも下回れば、直ちにみなし贈与課税が生じるというものではありません。ただし、親族間・同族関係者間の取引で評価額を大きく下回る場合には、相続税法第7条の適用リスクが高くなるため、慎重な検討が必要です。
非上場株式の「適正な時価」 ― 株主区分による違い
非上場株式には市場価格が存在しないため、「時価」は財産評価基本通達(以下「財基通」)に基づいて算定します。そして、適正な時価は譲受人がどのような株主に該当するかによって異なります。
財基通178は、取引相場のない株式の評価方式を「株主の態様」によって振り分けています。同族株主に該当するか否かで、評価方式(=適正な時価の算定方法)が根本的に異なります。
① 譲受人が同族株主に該当する場合 → 原則的評価方式
財基通188の判定によって譲受人が同族株主に該当する場合、適正な時価は原則的評価方式(財基通179)により算定した価額です。
原則的評価方式は、会社の規模に応じて次のとおりです。
| 会社規模 | 評価方式 | 選択肢 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 純資産価額方式も可 |
| 中会社(大・中・小) | 折衷方式(L値によるウェイト付け) | 小会社方式も可 |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 折衷方式(L=0.50)も可 |
なお、同族株主に該当する場合であっても、中心的な同族株主がいる会社において、役員でなく・かつ課税時期後の議決権割合が5%未満の株主は、例外的に配当還元方式が適用されます(財基通188の例外)。
② 譲受人が同族株主以外に該当する場合 → 配当還元方式
財基通188の判定によって譲受人が同族株主以外に該当する場合、適正な時価は配当還元方式(財基通188-2)により算定した価額です。
配当還元価額 =(年配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
年配当金額は直前期末以前2年間の平均額(非経常的配当を除く)とし、2円50銭未満または無配の場合は2円50銭とします。配当還元価額は原則的評価額に比べて大幅に低くなることが多いため、同族株主以外の者への低額譲渡では、この配当還元価額が「適正な時価」の基準となります。
適正な時価の判定フロー
- 譲受人の株主区分を判定する(財基通178・188)
課税時期(譲渡日)現在の株主構成を確認し、譲受人が同族株主に該当するか否かを判定する。 - 適正な時価を算定する
同族株主 → 原則的評価方式(財基通179)による価額
同族株主以外 → 配当還元方式(財基通188-2)による価額 - みなし贈与の有無を判定する
実際の譲渡価額が適正な時価を著しく下回る場合
→ 個々の事情を踏まえて、差額についてみなし贈与課税の有無を判定
実際の譲渡価額が適正な時価以上の場合
→ 原則として、相続税法第7条によるみなし贈与課税なし
実務上の重要論点
論点① 同族株主が配当還元価額で譲渡する場合のリスク
実務上、最も注意が必要な場面の一つです。
オーナー(同族株主)が、役員・従業員等の同族株主以外の者に対して、配当還元価額で株式を譲渡するケースがあります。この場合、譲受人にとっての適正な時価は配当還元価額となるため、配当還元価額以上で譲渡している限りはみなし贈与課税が生じません。
しかし、譲受人が本来同族株主に該当するにもかかわらず、誤って配当還元価額で譲渡した場合には、原則的評価額との差額についてみなし贈与課税がなされるリスクがあります。株式の譲渡前に、譲渡後の株主構成を踏まえた株主区分の正確な判定が不可欠です。
論点② 株式取得後の株主区分の変動
株主区分の判定は課税時期(譲渡日)現在の議決権割合で行います。株式を取得することで議決権割合が変動し、取得前と取得後で株主区分が異なることがあります。
たとえば、取得前は同族株主以外であった者が、株式を取得した結果として同族グループの議決権割合が30%以上となり、同族株主に区分される場合があります。この場合の適正な時価は原則的評価額となり、配当還元価額との差額についてみなし贈与課税が生じます。判定には「取得後の議決権割合」を用いることに注意が必要です。
論点③ 特定評価会社への該当
評価会社が株式等保有特定会社・土地保有特定会社・比準要素数1の会社等の特定評価会社(財基通189)に該当する場合、適正な時価の算定方法が通常の原則的評価方式とは異なります。
特に株式等保有特定会社(総資産に占める株式等の価額が50%以上)は、持株会社・ホールディングスでよく問題となります。この場合の評価方式はS1+S2方式または純資産価額方式となります(財基通189-3)。
論点④ みなし贈与課税後の取得費
相続税法第7条により、時価と実際の譲渡価額との差額についてみなし贈与課税を受けたとしても、その差額が株式の取得費に加算されるわけではありません。
贈与税の課税対象となった価額と、その後の譲渡所得を計算する際の取得費は、別の規定に基づいて判定します。
取得費の取扱いは、個人間の低額譲渡に所得税法第59条第2項が適用されるかどうかによって異なります。
1.所得税法第59条第2項が適用されない場合
実際の譲渡価額が時価の2分の1以上である場合や、時価の2分の1未満であっても譲渡人に譲渡損失が生じない場合には、原則として、譲受人が実際に支払った購入代金が取得費となります。
みなし贈与課税を受けた時価との差額を取得費に加算することはできません。
例えば、時価100万円の株式を50万円で取得し、差額についてみなし贈与課税を受けたとしても、購入代金に係る取得費は原則として50万円です。
相続税法第7条における「著しく低い価額」の判定と、所得税法第59条における時価の2分の1未満という判定基準は異なるため、贈与税が課税されたことだけを理由として所得税法上の取得費が時価になることはありません。
2.所得税法第59条第2項が適用される場合
譲渡価額が時価の2分の1未満であり、かつ、譲渡人に譲渡損失が生じる低額譲渡については、所得税法第59条第2項により、譲渡人の譲渡損失はなかったものとされます。
この場合、所得税法第60条第1項第2号により、譲受人は譲渡人の取得費及び取得時期を引き継ぎます。
例えば、次のような場合です。
・株式の時価 100万円
・譲渡人の取得費 80万円
・実際の譲渡価額 40万円
譲渡価額40万円は時価100万円の2分の1未満であり、譲渡人には40万円の譲渡損失が生じます。
この譲渡損失は所得税法第59条第2項によりなかったものとされ、譲受人がその後株式を譲渡するときは、所得税法第60条第1項第2号により、譲渡人の取得費80万円を引き継ぐことになります。
この場合も、みなし贈与額60万円を実際の購入代金40万円に加算して100万円を取得費とするわけではありません。
したがって、みなし贈与課税を受けた後の取得費については、単純に「時価が取得費になる」とするのではなく、所得税法第59条第2項及び第60条第1項第2号の適用関係を確認する必要があります。
論点⑤ 同族関係者間の取引への課税庁の注目
親族間・同族関係者間の非上場株式譲渡では、恣意的な価格設定がされやすいとして課税庁が特に注目します。適正な評価額の根拠書類(評価計算書・株主名簿・決算書類等)を整備し、価格設定の合理性を説明できるよう準備しておくことが重要です。
譲渡価額を設定する際の実務上の目安
| 場面 | 実務上の目安 | 留意点 |
|---|---|---|
| 同族株主への譲渡 | 原則的評価方式による価額以上 | 特定評価会社の判定を先に行う |
| 同族株主以外への譲渡 | 配当還元価額以上 | 取得後の株主区分を再確認する |
| 第三者間での取引 | 客観的な評価書を取得 | DCF・収益還元法等も検討 |
法人が当事者となる場合との比較
個人間の取引と異なり、法人が当事者となる場合は別の課税規定が適用されます。整理しておくと次のとおりです。
| 取引の形態 | 譲渡人側の課税 | 譲受人側の課税 |
|---|---|---|
| 個人 → 個人(低額) | 所得税:原則として実際の対価で計算。ただし、時価の2分の1未満の低額譲渡により譲渡損失が生じる場合は、その損失が制限される | 贈与税:著しく低い価額に該当する場合、時価と対価との差額についてみなし贈与課税(相続税法第7条) |
| 個人 → 法人(低額) | 所得税:時価で課税(みなし譲渡・所得税法第59条) | 法人税:受贈益として益金算入(法人税法第22条) |
| 法人 → 個人(低額) | 法人税:時価で課税(寄附金・法人税法第37条) | 所得税:差額を給与・一時所得等として課税 |
| 法人 → 法人(低額) | 法人税:時価で課税(寄附金) | 法人税:受贈益として益金算入 |
個人間の取引では譲渡人に時価課税がない点が、他の取引形態との大きな違いです。
まとめ
個人から個人への非上場株式の低額譲渡における課税関係を整理すると次のとおりです。
- 譲渡人(売主):原則として実際の譲渡対価により譲渡所得を計算します。個人間の低額譲渡には所得税法第59条第1項による時価課税はありません。ただし、時価の2分の1未満の価額で譲渡し、譲渡損失が生じる場合には、同条第2項により、その損失が制限されることがあります。
- 譲受人(買主):著しく低い価額で株式を取得した場合には、相続税法第7条により、時価と対価との差額についてみなし贈与課税を受けることがあります。
- 適正な時価:財産評価基本通達による評価額が基準。譲受人が同族株主なら原則的評価方式、同族株主以外なら配当還元方式による価額が適正な時価となる。
個人間の取引では、譲渡人に所得税法第59条第1項による時価課税がない点が、法人が当事者となる取引との大きな違いです。ただし、時価の2分の1未満の価額で譲渡し、譲渡損失が生じる場合には、所得税法第59条第2項により、その損失が制限されることがあります。








