子会社を清算したら、配当と株式譲渡の処理はどうなる?(完全支配関係がない法人株主の場合)【スタッフとの会話】

会社の解散・清算に伴うみなし配当と株式譲渡損益|完全支配関係がない法人株主の税務処理

登場人物:松野先生(税理士)と、スタッフの田中さん


田中:先生、お客様の関連会社が解散・清算することになりました。残余財産の分配を受ける側の経理処理で、入金額をどう仕訳すればよいか迷っています。

松野先生:株主が法人で、完全支配関係がない場合だね。この場合、1つの分配に「配当」と「株式の譲渡」の2つの処理が同時に生じるんだ。

田中:1回の入金なのに、2つですか?

松野先生:そう。受け取った金額を次の2つに割って考える。

  • 利益積立金額に対応する金額:発行会社の過去の利益の払戻し。株主側では「みなし配当」(受取配当)になる。
  • 資本金等の額に対応する金額:出資の払戻し。株主側では株式の「譲渡対価」になる。

譲渡対価から株式の帳簿価額(譲渡原価)を引いた差額が、譲渡益または譲渡損だよ。

なお、今日は解散・清算の場合に絞って話す。自己株式の取得、合併、分割型分割などは譲渡原価の計算が違うから、数値例をそのまま当てはめないでね。


目次

計算の順番

田中:具体的にはどういう順番で計算しますか?

松野先生:次の4ステップだよ。

  1. みなし配当の額=交付を受けた金銭等の額-発行会社の資本金等の額のうち、分配を受ける株式に対応する部分(法人税法24条1項4号、法人税法施行令23条)
  2. 譲渡対価の額=交付を受けた金銭等の額-みなし配当の額(法人税法61条の2第1項)
  3. 譲渡原価の額=その株式の帳簿価額(法人税法施行令119条の2)
  4. 譲渡損益=譲渡対価の額-譲渡原価の額

田中:「資本金等の額に対応する部分」は、株主側で計算するんですか?

松野先生:いや、それは発行会社が算出して通知する数字を使う。株主側で独自に計算するのは現実的じゃない。

田中:清算の場合、株式の帳簿価額は全額が譲渡原価になるんですね。

松野先生:そう。清算による残余財産の分配は、株主にとって株式が消滅する取引だからね。ただし今回話すのは、残余財産が確定して、分配を一度に受ける場合だけ。確定前に分配を受ける場合や、残余財産がなく分配がゼロの場合は処理が違うから、別の機会に説明しよう。


数値例で確認しよう

松野先生:数字で見てみよう。残余財産1,500万円の分配を受けて、そのうち資本金等の額に対応する部分が800万円だったとする。株主は完全支配関係のない法人だ(単位:万円)。

項目譲渡益のケース譲渡損のケース
交付を受けた金銭(分配額)1,5001,500
みなし配当(利益積立金額に対応する金額)700700
譲渡対価(資本金等の額に対応する金額)800800
譲渡原価(株式の帳簿価額)5001,200
譲渡損益譲渡益 300譲渡損 400

田中:分配額もみなし配当も譲渡対価も同じで、違うのは帳簿価額だけですね。

松野先生:そのとおり。帳簿価額が譲渡対価の800を下回れば譲渡益、上回れば譲渡損になる。仕訳はこうなる(源泉所得税の処理は省略)。

譲渡益のケース

借方金額貸方金額
現預金1,500投資有価証券500
受取配当700
譲渡益300

譲渡損のケース

借方金額貸方金額
現預金1,500投資有価証券1,200
譲渡損400受取配当700

田中:譲渡損のケースだと、配当は課税が軽くなるのに、譲渡損は損金になるんですね。

松野先生:気づいたね。帳簿価額が高い株式ほど、この「配当は課税が軽く、譲渡損は損金」という組み合わせが生じやすい。だから確認が欠かせないんだ。

ただし、この数値例は、株式の帳簿価額について特別な調整が要らない場合を前提にしている。株式の取得の経緯や、清算前に受けた配当によっては、子会社株式簿価減額特例などの検討が必要になることがある。清算前に通常の配当を受けている場合は、特に注意してね。

田中:計上時期はどうなりますか?

松野先生:みなし配当は、残余財産の分配の開始の日に計上する(法人税基本通達2-1-27)。実際に入金された日ではないところがポイントだよ。

田中:残余財産の確定日や入金日とずれることもありますよね。

松野先生:ある。だから、入金日で何となく処理せずに、分配がいつ始まったのかを清算結了の資料や支払通知書で確認してほしい。株式の譲渡損益の計上時期は、みなし配当とは別に、法人税法61条の2第1項などで判定する。日付が分かれる場合は、特に慎重にね。


みなし配当は「全額非課税」とは限らない

田中:みなし配当は益金不算入ですよね。700万円は全部課税されないんですか?

松野先生:そこが落とし穴。完全支配関係がない場合、みなし配当は通常の配当と同じく、受取配当等の益金不算入(法人税法23条)の対象になる。ただし、全額が不算入になるとは限らない。割合は発行会社株式の保有割合で決まるんだ(令和4年4月1日以後に開始する事業年度)。

株式等の区分保有割合の目安益金不算入の割合負債利子の控除
完全子法人株式等100%(完全支配関係)配当等の額の全額なし
関連法人株式等3分の1超配当等の額の全額あり(控除後の額)
その他株式等5%超から3分の1以下配当等の額の50%なし
非支配目的株式等5%以下配当等の額の20%なし

※「完全子法人株式等」は比較のために載せたもので、完全支配関係のない今回の数値例には適用しない。関連法人株式等には、原則として一定期間の継続保有要件がある。残余財産の分配によるみなし配当も、法人税法施行令22条に基づいて判定する。

田中:では、保有割合が10%なら「その他株式等」で、700万円の50%の350万円が益金不算入ということですか?

松野先生:そう。残りの350万円は課税対象になる。申告書の処理はこうなる。

  • みなし配当:別表八(一)で益金不算入額を計算し、別表四で減算(社外流出)
  • 譲渡損益:会計上の損益と税務上の金額が一致していれば、申告調整は不要。別表五(一)の資本金等の額・利益積立金額も、株主側では動かさない
  • 源泉所得税:源泉徴収された所得税は、所得税額控除(別表六(一))の対象

源泉所得税はいくらか

田中:源泉所得税はどうなりますか?

松野先生:残余財産の分配でみなし配当が生じた場合は、原則として源泉所得税の対象になる。ただし令和4年度税制改正で、令和5年10月1日以後に支払を受けるべき配当等のうち、完全子法人株式等に係る配当等と、発行済株式等の3分の1超を直接保有する場合の配当等は、源泉徴収が不要になった(所得税法177条、212条3項)。解散・清算に伴うみなし配当にも適用される。

田中:完全支配関係がなくても、3分の1超なら不要なんですね。

松野先生:そう。令和5年9月30日以前の支払は、持株割合にかかわらず20.42%だった。非上場会社が内国法人の株主に分配する場合は次のとおり。

法人株主の持株割合みなし配当の源泉徴収
100%不要
3分の1超100%未満不要
3分の1以下20.42%

※持株割合のほかに、所定の要件を満たしているかを確認する。

田中:持株割合10%の数値例だと、どうなりますか?

松野先生:みなし配当700万円×20.42%で、源泉所得税は142万9,400円。分配額1,500万円から引かれて、実際の入金額は1,357万600円になる。譲渡益のケースの仕訳はこうだ(単位:万円、小数点以下2位まで)。

借方金額貸方金額
現預金1,357.06投資有価証券500
仮払税金(源泉所得税)142.94受取配当700
譲渡益300

源泉徴収された所得税は、株主側で所得税額控除(別表六(一))の対象だ。解散会社側では、分配時に源泉所得税の預りと納付の処理が必要になる。


完全支配関係がある場合との違い

田中:完全支配関係がある場合は、どう違うんでしょうか?

松野先生:完全支配関係がある内国法人間では、法人税法61条の2第17項による特別な取扱いがあって、株式の譲渡損益を計上しない。みなし配当も全額が益金不算入になる。詳しい税務処理は、別の記事で説明するよ。

田中:完全支配関係があれば譲渡損益は出ず、なければ損益に反映される、ということですね。

松野先生:そう。ここを取り違えると税額が大きく変わるから、最初に完全支配関係の有無を確認してね。


実務上の注意点

松野先生:実務では、まず支払通知書を必ず入手すること。みなし配当の額と資本金等の額に対応する金額は、発行会社が計算して「配当等とみなす金額に関する支払通知書」で株主に知らせる。入金額だけで仕訳を切らずに、この通知書の金額で「受取配当」と「譲渡対価」を分けるんだ。

田中:発行会社側は、通知書をどうやって作るんですか?

松野先生:参考までに手順を説明しよう。発行会社が使うのは、国税庁の「配当等とみなす金額に関する支払調書(支払通知書)」の様式だ。税務署に出す支払調書と、株主に渡す支払通知書は同じ様式なんだ。

  1. みなし配当の額を株主ごとに計算する。 交付した金銭等の額から、残余財産の分配に対応する資本金等の額を控除する。
  2. 様式に記載する。 株主の住所・氏名または名称、交付した金銭の額と金銭以外の資産の価額、交付の事由、基準日、交付確定日、1株当たりのみなし配当の額、源泉徴収税額などを書く。細部(法人番号の要否や1株当たりの額の端数処理など)は様式ごとの記載要領に従う。
  3. 株主に通知書を交付し、税務署に支払調書と合計表を提出する。 提出期限は、対価の支払が確定した日から1か月以内だ(所得税法225条1項2号)。通常の年間の法定調書と違って期限が早いから注意してね。なお、株主への支払の対価の額が15,000円以下の場合は、税務署への提出は不要とされている(所得税法施行規則83条2項3号)。
  4. 源泉所得税を納付する。 源泉徴収が必要な場合は、所定の税率で計算して納付する。上で見た不要となる場合を除き、法人株主でも必要だ。

記載する数字は、交付の事由(自己株式の取得、合併、解散など)で計算方法が変わる。詳しくは国税庁の記載要領を確認してね。

田中:ほかに、よくある間違いはありますか?

松野先生:次の4つが多いね。

  • 入金額全体を「株式の譲渡」として処理し、受取配当を計上していない
  • 入金額全体を「受取配当」として処理し、株式の帳簿価額を減額していない
  • 保有割合を確認せず、みなし配当の全額を益金不算入にしている
  • 源泉徴収された所得税額を、所得税額控除の対象にしていない

まとめ

田中:今日の内容を整理させてください。

  1. 分配額は、みなし配当(利益積立金額対応)と譲渡対価(資本金等の額対応)に分ける。
  2. 譲渡対価と帳簿価額の差が譲渡益または譲渡損になる。完全支配関係がなければ損益に反映される。
  3. みなし配当は受取配当等の益金不算入の対象。ただし割合は保有割合により、全額・50%・20%と異なる。
  4. 発行会社の支払通知書の金額で、仕訳と申告調整を行う。

松野先生:よくまとまったね。解散・清算の場面は、株主側の税負担が数百万円単位で変わることもある。実行の前に、みなし配当の額や保有割合の判定を確認しておくことをお勧めするよ。


税理士法人松野茂税理士事務所(尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F、阪神尼崎駅徒歩1分、電話06-6419-5140)までご相談ください。

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