相続税の基礎控除や税額の計算では、「相続人」が誰かが出発点になります。ふだんは配偶者と子、あるいは養子を思い浮かべれば足りますが、国税庁の質疑応答事例には、戦後の民法改正で廃止された旧家督制度の名残ともいえる「家附の継子(いえつきのけいし)」という相続人が登場します。
実務で出会うことはほとんどありません。それでも、「相続人にはなるが、相続税の2割加算の対象になる」という結論は、養子と並べてみるとたいへん分かりやすく、相続税法の「相続人」と「親族関係」の関係を整理する良い題材です。本稿では、国税庁の質疑応答事例(家附の継子と相続税法第15条第2項の相続人)を素材に、養子との違いを解説します。
旧家督制度と「家附の継子」
戦前の旧民法では、「家」を代表する戸主の地位と財産を、原則として一人の家督相続人が丸ごと引き継ぐ「家督相続」という仕組みがありました。この制度は、日本国憲法の施行(昭和22年5月3日)に合わせた応急措置法で改められ、昭和23年1月1日施行の改正民法で、現在の均分相続の仕組みになっています。
制度が切り替わるときには、旧制度の下で生じた身分関係をどう扱うかという経過措置が必要になります。民法附則第26条第1項の「家附の継子の特則」は、その一つです。
国税庁の質疑応答事例の注書きでは、家附の継子を次のように説明しています。

- 女戸主Bが入夫(夫として迎えた男性)Cと婚姻し、子Dをもうけた
- 入夫Cの死亡または離婚によって婚姻が解消した
- Bが再度入夫Aと婚姻し、Aが戸主となった
- このときの前入夫Cの子Dが「家附の継子」
BとAの間に生まれた子をEとすると、Eは嫡出である子、DはAから見た継子(けいし)という関係になります。Dは「その家に生まれた子」であることから、「家附」の継子と呼ばれます。民法附則第26条第1項は、そのDについて、新法施行後に開始する相続に関しては、嫡出である子と同一の権利義務を有すると定めています。
ただし、この特則が使えるのは、民法附則第26条の次の条件を満たす場合に限られます。
- 応急措置法の施行の際(昭和22年5月3日)の戸主が、婚姻または養子縁組によって他家から入った者であること(図でいえば、入夫のA)。被相続人となるのは、この戸主であった方です。
- 相続の開始が、新法の施行後(昭和23年1月1日以後)であること。
- その戸主であった方が、昭和22年5月3日以後に、婚姻の取消し・離婚・縁組の取消し・離縁によって氏を改めていないこと(同条第3項)。
なお、DとAの間に血のつながりはなく、養子縁組もしていません。民法上、DはAの配偶者Bの子ですから、Aの「一親等の姻族」にあたります。この点が、後で述べる2割加算の判断の分かれ目になります。
国税庁の回答:相続人に含まれるが、2割加算の対象
質疑応答事例の照会は、「家附の継子は嫡出である子と同一の権利義務を有するとされているが、相続税法第15条第2項の『相続人』に含まれるか。また、相続税法第18条の規定の適用はどうなるのか」というものです。国税庁の回答は次の2点です。
- 家附の継子は、相続税法第15条第2項に規定する「相続人」に含まれる。
- 家附の継子は、相続に関してのみ嫡出である子と同一の権利義務を有する相続人となるのであり、法的親族関係はあくまで被相続人の姻族であることに変わりないから、相続税法第18条の規定の適用がある。
1の意味(相続税法第15条第2項) 相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。この「相続人の数」を定めているのが第15条第2項です。生命保険金や退職手当金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)も、同じ相続人の数で決まります。家附の継子はこの数に入る、というのが1の結論です。
2の意味(相続税法第18条) 第18条は、相続や遺贈で財産を取得した人が、被相続人の「一親等の血族」(代襲相続人となった直系卑属を含みます)と配偶者以外であるときは、その人の相続税額に2割を加算する規定です。家附の継子は、相続の場面では嫡出子と同じ扱いを受けますが、親族関係としては被相続人の姻族のままです。つまり「一親等の血族」ではないため、2割加算の対象になる、というのが2の結論です。
要するに、「相続分や相続人の数では子と同じ、税額の計算では子と同じではない」ということです。
養子と家附の継子の比較
同じ「子と同じ相続人」でも、養子と家附の継子では親族関係が違い、そこから税額の扱いに差が出ます。
| 項目 | 養子 | 家附の継子 |
|---|---|---|
| 根拠 | 養子縁組(民法) | 民法附則第26条第1項(経過措置) |
| 被相続人との親族関係 | 縁組により一親等の法定血族 | 一親等の姻族のまま(相続に関してのみ嫡出子と同一) |
| 相続人になるか | なる(子として) | なる(嫡出子と同一の権利義務) |
| 法定相続人の数への算入(相続税法15条2項) | 一般の養子は算入されるが、実子がいれば1人、実子がいなければ2人まで(配偶者の実子を養子にした場合などは実子とみなされ、制限なし) | 算入される(国税庁回答)。養子ではないため養子の数の制限は受けないと考えられる |
| 2割加算(相続税法18条) | 原則なし。ただし孫養子などの直系卑属は対象 | あり |
| 現在新たに生じるか | 縁組をすれば生じる | 生じない(旧制度の経過措置) |
| 実務での遭遇頻度 | 相続対策で日常的に登場 | ほとんどない |
養子は、縁組によって養親の一親等の血族(法定血族)になります。そのため、原則として2割加算の対象外です。一方、家附の継子は、民法附則が相続に関してだけ嫡出子と同じにしたにすぎず、親族関係は姻族のままです。この差が、2割加算の有無に表れています。
配偶者の連れ子を養子にした場合との比較
家附の継子に一番近い現代の姿は、「配偶者の連れ子」です。どちらも、被相続人の配偶者の子で、被相続人の血族ではありません。違いは、連れ子は養子縁組をして初めて相続人になるのに対し、家附の継子は縁組なしで相続人になる点です。
| 項目 | 家附の継子 | 配偶者の連れ子を養子にした場合 |
|---|---|---|
| 養子縁組 | 不要 | 必要 |
| 法定相続権 | あり | あり |
| 法定相続分 | 嫡出子と同じ | 実子と同じ |
| 相続税の2割加算 | あり | なし |
| 相続税法上の身分 | 一親等の血族ではない(姻族) | 一親等の法定血族 |
| 法定相続人の数 | 算入される(養子の数の制限の対象とはならないと考えられる) | 算入される。相続税法15条3項により実子とみなされ、養子の数の制限を受けない |
連れ子を養子にすると、相続分は実子と同じになり、2割加算もなく、法定相続人の数の制限も受けません。縁組をしていない連れ子は相続人になりませんから、同じ「配偶者の子」でも、縁組の有無で結果が大きく変わります。家附の継子は、縁組をしなくても相続人になりますが、2割加算だけは外れません。
実務での注意点
2割加算で税額が変わる たとえば、家附の継子の按分後の算出税額(税額控除前)が500万円だったとします。2割加算の対象になるため、100万円が加算され、600万円になります。同じ相続分の養子であれば、この加算は原則ありません。申告書の作成時に「子だから加算なし」と思い込むと、申告漏れにつながります。
相続人の数は別に数える 基礎控除や生命保険金の非課税限度額で使う相続人の数には、家附の継子も含まれます。養子の人数制限(実子がいれば1人、いなければ2人)は「養子」に関する規定ですので、家附の継子はその枠とは別に数える、というのが条文の素直な読み方です。具体的なケースでは、事実関係を確認したうえで判断します。
古い戸籍を遡って確認する 家附の継子かどうかは、昭和23年の改製前の古い戸籍(改製原戸籍・除籍)まで遡って身分関係を確認しなければ分かりません。相続人の調査で古い戸籍を読み込む際に、被相続人と相続人の間柄が「実子」ではなく継親子の関係になっていないかを意識しておくと、見落としを防げます。
特則が使えない場合もある 被相続人にあたる旧戸主が、昭和22年5月3日以後に離婚・離縁、または婚姻や縁組の取消しによって氏を改めている場合は、民法附則第26条第3項により、特則は適用されません。古い戸籍を遡るときは、その後の身分の変動まで確認します。
今後はさらに遭遇しにくい 家附の継子は旧制度の下でしか生じない身分で、被相続人も昭和22年5月3日当時に戸主だった方に限られます。新たに生まれることはなく、被相続人は現在、相当なご高齢のはずです。この話題に出会う機会は、今後ますます少なくなるでしょう。それでも、「親族関係と相続人としての地位は別の問題である」という考え方は、連れ子や養子が絡む相続の整理にそのまま役立ちます。
まとめ
- 家附の継子は、相続税法第15条第2項の「相続人」に含まれ、基礎控除などの相続人の数に入る。
- 家附の継子は被相続人の姻族のままなので、相続税法第18条の2割加算の対象になる。
- 養子は縁組により一親等の血族になるため、原則として2割加算の対象外である。
- 家附の継子は旧制度の経過措置で、現在新たに生じることはなく、実務でもほとんど出会わない。
相続の現場では、古い戸籍から思いがけない身分関係が見つかることがあります。養子縁組を使った相続対策、連れ子や再婚家庭の相続、相続人の範囲の確認など、相続税に関するご相談は、税理士法人松野茂税理士事務所(阪神尼崎駅徒歩1分)までどうぞ。当事務所の相続税申告サポートをご覧ください。
参考
本稿は、令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく国税庁の質疑応答事例をもとにした一般的な解説です。具体的な事案では、事実関係により異なる課税関係となることがありますので、実際の申告にあたっては専門家にご相談ください。








