はじめに:第6回で何が示されたか
令和8年9月16日の第6回有識者会議で、国税庁は残余利益方式の具体的な設計案と、純資産価額方式で評価する「特定の評価会社」の整理案を示しました。この有識者会議は、会計検査院が令和6年11月に評価方式間のかい離を指摘したことを受け、令和8年4月20日に始まったものです。
第6回の要点は次の4点です。
- 残余利益の加算期間は「5年程度」、計算の基礎は法人税申告書とする案が示されました。
- 役員退職金・オペレーティングリース・子会社株式などの「利益操作」対策が、具体的に提案されました。
- 国税庁の試算では、大会社は現行より評価額が上がり、小会社は下がる会社が多くなりました。
- 日本商工会議所の委員は抜本的な見直しそのものに反対し、中小企業庁等のオブザーバーも慎重な検討を求める意見書を出しました。
なお、ここで紹介する内容はすべて審議途中の案で、確定したものではありません。国税庁のホームページ上では、第6回の議事要旨は「作成中」、第7回の日程も掲載されていません(令和8年10月18日時点)。本記事は、9月16日に公表された3つの資料(国税庁の配付資料、委員提出意見書、オブザーバー等提出意見書)に基づいています。
残余利益方式の基本形(加算期間5年)
評価額は、直前期末の簿価純資産に、今後5年分の「残余利益」の現在価値を加え、しんしゃく率を掛けて求める案です。算式を文字で書くと次のとおりです。
- 評価額 =(直前期末の純資産 + 第1期〜第5期の残余利益の現在価値の合計)× しんしゃく率
- 残余利益 = 年利益金額 - 期首の純資産 × 還元率
- 第t期の現在価値 = 第t期の残余利益 ÷(1+還元率)のt乗
- 当期末の純資産 = 当期首の純資産 + 年利益金額 - 年配当金額(第2期以降の期首の純資産には、前期末の純資産を使います)
年利益金額と年配当金額は、課税時期前5年の年平均を使う案です。6年目以降の残余利益(TV)は、算定が難しく、年数とともにゼロに近づくと考えられるため、加算しないこととされています。過小評価の可能性はあるが安全性を考慮する、という説明です。還元率としんしゃく率は、第7回以降に議論される予定です。
国税庁の計算例①
前提は、年利益1,000万円、年配当200万円、直前期末の純資産1億円、還元率8%(仮定)、しんしゃく率0.8(仮定)です。
| 期 | 期首の純資産(円) | 株主資本コスト 8%(円) | 残余利益(円) |
|---|---|---|---|
| 第1期 | 100,000,000 | 8,000,000 | 2,000,000 |
| 第2期 | 108,000,000 | 8,640,000 | 1,360,000 |
| 第3期 | 116,000,000 | 9,280,000 | 720,000 |
| 第4期 | 124,000,000 | 9,920,000 | 80,000 |
| 第5期 | 132,000,000 | 10,560,000 | ▲560,000 |
この場合の評価額は約8,261万円で、簿価純資産(1億円)の約8割になります。
国税庁の計算例②
年利益500万円、年配当100万円(他は同条件)の会社では、残余利益が5期とも赤字になり、評価額は約6,853万円まで下がります。収益力が株主の期待(還元率)に届かない会社は、簿価純資産より低く評価される設計です。
利益も配当もない会社でも、簿価純資産より下がる
国税庁は、利益と配当がない会社の評価額を、簿価純資産を100として示しています。還元率が2%なら91、5%なら78、10%なら62です。株式を通じて事業用資産を持つコストが反映されるため、収益力を除いた評価額は、簿価純資産以下になります。国税庁はこれを、事業用資産に対する事実上の評価減効果としています。
第6回で示された8つの論点と国税庁案
国税庁は、残余利益方式を使うために決めておくべき事項を8つに整理しました。会社の利益や純資産を「そのまま」使うのではなく、将来も続くと見込める「正常利益」に直すための修正が中心です。
| 論点 | 国税庁案(審議途中) |
|---|---|
| ① 使う帳簿 | 法人税申告書(別表四・別表五(一))を基礎にする。会計基準や処理の選択による差を避け、課税の公平を保つ狙いです。決算期変更で12か月未満の期は12か月分に換算します。 |
| ② 加算期間 | 5年程度。上場企業の中期経営計画が3〜5年であることなどを根拠に、課税時期前5年の正常利益から算出します。 |
| ③ 含み損の減損 | 簿価が相続税評価額を上回る部分に限り、反映する案です。ただし、公正妥当な会計基準に照らして減損が生じていることを、決算公告等で明らかにしていることが要件です。 |
| ④ オペレーティングリース | 課税時期に存在するリースが「なかったもの」として、損益も純資産も引き直します。ほかにも利益調整に使える商品があれば同様の対応が必要とされ、該当商品は意見を募っています。 |
| ⑤ 役員報酬・退職金 | 代表者の親族である役員の報酬は、一定割合を利益に加算します。一時的な役員退職金等は損金から除外して正常利益を計算しますが、純資産は修正しません。 |
| ⑥ 子会社株式 | 完全支配関係にある子会社株式に限り、簿価ではなく適正な価額に修正して親会社の評価に反映します。連結や持分法の範囲までは広げない案です。 |
| ⑦ 従業員持株会 | 一定の要件を満たせば、持株会株式は固定価格で評価します。それ以外の株式は、会社全体の価値から固定価格の総額を引いた額を、持株会分を除く株式数で割って評価します。 |
| ⑧ 純資産価額の選択適用(頭打ち) | 結論は出ていません。純資産価額方式の位置付けを整理したうえで、次回以降に検討するとされました。 |
国税庁自身が「慎重な検討が必要」としている点もあります。
- 役員報酬(⑤):法人税法の損金不算入規定で既に調整済みであることとの整合、適正な報酬額を一律に決められるのか、という点です。
- 含み損(③):含み益は考慮しないのに、含み損(減損)だけを考慮することの妥当性です。
- 子会社株式(⑥):法人税等の負担込みで極端に評価額が下がる事例があれば、対象範囲を見直すとされています。
- 純資産価額の選択(⑧):原則的評価方式ではなくなる純資産価額方式の選択を、なぜ認められるのかの説明が必要としています。
退職金・リースの扱いに差がある理由
役員退職金とオペレーティングリースは、どちらも「一時的な損益」として正常利益から除きます。ただし、リースは期間終了後の売却で純資産が回復する見込みがあるため、純資産も修正します。退職金は会社に戻らず、個人の相続財産にもなるため、純資産は修正しない、という整理です。
「特定の評価会社」は4類型に整理され、純資産価額方式で評価する案
残余利益方式は、会社が事業を続けることと、過去の実績から将来を予測できることが前提です。そこで国税庁は、この前提に合わない会社を「特定の評価会社」とし、残余利益方式によらず純資産価額方式で評価する案を示しました。
| 類型 | 会社の例 | 純資産価額で評価する理由 |
|---|---|---|
| ① 株式の価値の大半を保有資産が占める会社 | 資産管理会社(資産保有特定会社) | 資産の増殖能力を考慮せず、個人で資産を持つ場合との均衡を図るため |
| ② 残余利益方式での評価が技術上困難な会社 | 組織再編直後の会社、開業後5年未満の会社、開業前の会社 | 将来予測に必要な実績値が確認できないため |
| ③ 継続企業の前提に疑義がある会社 | 休業中の会社 | 事業を再開するかが不確実なため |
| ④ 継続企業の前提を欠いている会社 | 清算中の会社 | 清算分配見込額で評価するのが実態にかなうため |
組織再編直後の会社については、一定の合理的な予測が可能な場合は、残余利益方式で評価するとされています。
資産管理会社の判定は「簿価ベース」に
現行の土地保有特定会社・株式等保有特定会社は、土地や株式の保有割合を別々に、時価(相続税評価額)へ洗い替えて判定します。見直し案では、次のように変わります。
- 土地・株式を別々に見るのをやめ、投資目的等の「特定資産」の合計が総資産に占める割合で判定する。
- 時価への洗い替えをやめ、帳簿価額のまま判定する(事務負担の軽減)。
- 特定資産は、有価証券等、自ら使用していない不動産(遊休不動産・賃貸不動産)、ゴルフ会員権等、現預金等、絵画・貴金属等とする。
- 基準は、事業承継税制の「資産保有型会社」(特定資産の帳簿価額の合計が総資産の70%以上)か「資産運用型会社」(特定資産の運用収入が総収入の75%以上)のいずれかに該当する場合とする。
検討事項として、事業活動に必要な現預金(運転資金)は対象外にすること、貸付用の船舶・航空機などリース取引で保有する資産も対象にすること、が挙げられています。一方で、不動産賃貸業のように資産が賃貸資産に偏る業種を、単なる資産管理会社とどう区別するかは、基準が未整理です。
純資産価額方式も使い分ける案
国税庁は、特定の評価会社の区分ごとに、実態に最も合う純資産価額方式を使い分けることも示しました。資産管理会社は「個人で財産を持つ場合との均衡型」、組織再編直後・開業後5年未満・開業前の会社は「会社財産への持分型」、休業中・清算中の会社は「清算価値に準ずる型」です。退職給付引当金や含み益に対する法人税額等相当額を控除するかどうかが、型ごとに変わります。
国税庁の試算:大会社は上がり、小会社は下がる会社が多い
国税庁は、実際の申告データで残余利益方式の評価額を試算しました。結果は、大会社の評価額が現行より上がり、小会社は下がる会社が多い、という傾向です。
試算の前提は次のとおりです。
- 対象は、令和2年分から5年分の相続税・贈与税の申告から無作為に抽出した1,378社(大会社128社、中会社820社、小会社430社)です。類似業種比準価額と純資産価額の両方を算出している会社に限っています。
- 加算期間は5年、還元率は8%と仮定し、しんしゃく率は1.0〜0.7の4通りを試しています。完全子会社株式の修正などの個別調整は考慮していません。
- 数値は、純資産価額を100とした場合の評価額の中央値です。増減は、現行の申告評価額の中央値と比べたものです。
以下は、しんしゃく率0.8と0.7の結果です(1.0と0.9の結果は国税庁資料に掲載されています)。
| 区分 | 現行(対純資産価額) | しんしゃく率0.8 | しんしゃく率0.7 | 現行以下になる会社の割合(0.8/0.7) |
|---|---|---|---|---|
| 全体(1,378社) | 58.2 | 57.3(+2.3%) | 50.1(▲10.4%) | 48.6%/57.3% |
| 大会社(128社) | 38.2 | 63.8(+71.7%) | 55.8(+50.3%) | 24.2%/28.1% |
| 中会社(820社) | 53.4 | 59.2(+12.1%) | 51.7(▲1.9%) | 42.2%/50.9% |
| 小会社(430社) | 63.8 | 50.5(▲21.8%) | 44.2(▲31.6%) | 67.9%/78.4% |
読み取れるポイントは3つです。
- 現行は「規模が大きいほど対純資産価額が低い」逆転現象があります(大会社38.2、中会社53.4、小会社63.8)。残余利益方式では、規模による差が縮まります。
- 大会社は、しんしゃく率0.8で63.8となり、現行の小会社の水準(63.8)とほぼ同じになります。0.7では55.8で、現行の中会社の水準(53.4)に近づきます。
- 小会社は、しんしゃく率0.8で約7割、0.7で約8割の会社の評価額が下がります。大会社でも、約2〜3割の会社は下がります。
国税庁は、今回の見直しを、規模の異なる会社の株式を取得した人の間の不公平を是正する、より合理的な評価方法への見直しと説明しています。ただし、この試算は規模別の中央値であり、個々の会社の影響は、資産や収益の状況によって大きく変わります。この点は、後で紹介する意見書でも問題にされています。
委員提出意見書:日本商工会議所は抜本的な見直しに反対
日本商工会議所の阿部委員と玉越委員は共同で意見書を出し、残余利益方式による評価体系の抜本的な変更そのものに反対する立場を、あらためて明確にしました。国税庁案の個別論点への意見は、あくまで「仮に議論するとしても」という位置付けです。主な主張は次のとおりです。
- 増税になる:国税庁の試算でも、しんしゃく率0.7という最も有利な設定で、大会社の約7割、全体の4割超が現行より上がるとしています。
- 租税法律主義:通達の変更で納税者の負担が増えるのは、租税法律主義に反するとしています。残余利益方式が「時価」といえる法的・理論的根拠と、過去の評価との整合を示すべきだと求めています。
- 企業会計をベースに:法人税法上の損金算入制限のため、税務会計は「負債は過少、資産は過大」になるとしています。退職給付引当金・賞与引当金の計上、陳腐化在庫の評価減、遊休設備の除却を行っている会社では、法人税ベースで計算すると評価額が約2倍になる例があるとしています。
- 法人税申告書も統一的ではない:減価償却、特別償却と税額控除の選択、圧縮記帳、準備金など、選択の幅が広いため、同じ実態の会社が同じ評価額になるわけではないとしています。税制改正で相続税評価が自動的に動く点も問題視しています。
- 成長投資の抑制:簿価純資産に課税する構造は、自己資本比率を高めるほど税負担が増えるため、成長投資を抑え、地域経済にも影響するとしています。
- しんしゃく率・還元率:中小企業株式は流動性が乏しく、事業継続リスクも大きいため、相当の評価減が不可欠としています。
租税回避対策については、次のように反対しています。
- 役員報酬・役員退職金は、正当な報酬として法人税でも過大でない範囲で損金算入が認められており、これ以上制約すべきではない。
- 子会社を含むグループ全体の残余利益方式評価は、多角化やM&Aによる承継を阻害する。悪質な租税回避は個別に対応すべきである。
- 組織再編直後の会社を純資産価額で評価する案は、相続の発生時期で税負担が変わるため、相続税評価として適格でない。
- 不動産賃貸業は事業実態のある一般の事業会社であり、原則的評価方式で評価すべきである。
日本商工会議所の試算
意見書の参考資料では、実在企業2社の例が示されています。いずれも株式以外の資産がなく、全株式を子1人が相続する前提の概算です。
| 会社 | 現行の株価 | 残余利益方式の株価 | 倍率 | 相続税額(現行 → 見直し後) | 負担増 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1社目 | 1億2,000万円 | 2億6,500万円 | 2.2倍 | 約2,000万円 → 約7,600万円 | 約5,600万円 |
| 2社目 | 3億6,000万円 | 9億5,000万円 | 2.6倍 | 約1億2,000万円 → 約4億3,000万円 | 約3億1,000万円 |
前提は、加算5年、還元率8%、しんしゃく率0.7です。仮想企業2万社を作った別の試算では、評価額が上がる会社が全体の4割超(ROEがプラスの会社が36.4%、マイナスの会社が5.1%)となり、時間の経過とともに上昇幅が広がる傾向が示されています。これらは日本商工会議所の試算であり、国税庁の試算とは前提が異なります。
オブザーバー意見書:中小企業庁等が「丁寧な議論」を要望
第6回では、オブザーバーである経済産業省・中小企業庁等(経済産業政策局、イノベーション・環境局を含む)が、意見書を提出しました。国税庁のページでオブザーバー等の意見書が掲載されたのは、第6回が初めてです。日本商工会議所が「反対」の立場なのに対し、中小企業庁等は反対とは言わず、影響の検証と丁寧な議論を求める書き方になっています。
意見書の主な内容は次のとおりです。
1. 会計検査院の指摘と、今回の見直しの範囲
- 会計検査院が指摘したのは、規模区分間の公平性の問題です。規模区分に応じて異なる評価方式を定めることや、類似業種比準方式そのものが不適切だとまでは指摘していない、と整理しています。
- 国税庁が過去10年で14件確認した租税回避スキームへの対処も、まず現行方式の枠内で取れる対応策から検討する余地がある、としています。
2. 影響の検証を求める
- 業種・経営状況に応じた、個別ケース別・類型別・マクロでの試算を示し、丁寧に検証・議論すべきとしています。国税庁の第6回の分析は規模別の中央値だけで、影響の把握には全く不十分だという指摘です。対象は、中堅・中小企業約175万社(法人数)です。
- 評価額が急に上がると、現行方式で計画的に準備してきた企業の予見可能性が損なわれ、納税資金のために事業用資産や株式の売却、さらには廃業に追い込まれるおそれがあるとしています。
- 子会社株式の評価方法(論点⑥)の見直し案は、現行に比べ評価額が著しく増える懸念があるとしています。
3. 政策の方向性との整合
- 骨太の方針2026(令和8年7月21日閣議決定)が掲げる「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環に、逆行しかねないとしています。
- 資産規模の大きい会社、収益性の高い会社、子会社を持つ会社の負担が大きく増え、成長投資を抑える懸念があるとしています。収益の拡大が、承継時の負担増に直結するためです。
- 「評価と負担は別で、負担は税制で対応すればよい」という考え方に対しては、事業承継税制は中堅企業が対象外で、中小企業も管理コスト等で使える人が限られる、と指摘しています。
- スタートアップがストックオプション等で人材を確保している場合の影響にも、留意を求めています。
この意見書は、令和9年度税制改正要望で経済産業省・中小企業庁が出した「見直しによる影響や事業者の懸念を踏まえ、適切な措置となるよう検討する」との要望とも、軌を一にするものです。行政機関どうしで慎重論が出たことで、見直しの進め方・内容・時期にどのような影響が出るかが、今後の注目点です。
建設業界の動き:全国建設業協会が見直しの「凍結」を要望
全国建設業協会(全建、今井雅則会長)は、残余利益方式への変更の凍結を求めています。第6回会議の意見書とは別に、令和9年度(2027年度)税制改正要望として、国土交通省に出されたものです。
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 令和8年8月上旬 | 全建が、国土交通省幹部に要望書を提出しました。 |
| 9月18日 | 全建の理事会で、2027年度税制改正要望を一部改定し、評価方式の見直しの凍結を追加しました。提出済みの要望を後から変更するのは、極めて異例と報じられています。 |
| 10月9日 | 国土交通省の須藤明夫・不動産・建設経済局長に、「取引相場のない株式の評価方法の見直しの凍結」を求める要望書を提出しました。 |
報道された要望の趣旨は、次のとおりです。
- 現在検討されている残余利益方式への変更を凍結し、最良の方式に見直されるまで現行方式を維持すること。
- 地域建設業の資産には、災害対応に不可欠な資機材や、それを常時保持するための不動産が含まれます。地域経済や雇用を維持する安定的な収益も必須です。新方式が採用されると、多くの中小建設業で事業承継が崩壊し、「地域の守り手」が存続できなくなると懸念しています。
- 日本商工会議所の試算(評価額が現行の2倍から5倍近く、相続税負担が数千万円から数億円増える事例)を引用しています。
- 事業承継を前提とする相続税・贈与税の非課税措置の要望は、「猶予」を削除し、「免除」だけを求める内容に改めました。
報道によると、国税庁の試算では、極めて小規模な零細企業は相続税額が下がる場合がある一方、全建会員クラスの地域の中核の中小建設会社は、おしなべて税負担が増えるとされています。ただし、「2〜5倍」は日本商工会議所の試算であり、すべての建設会社が一律にその倍率になるわけではありません。
なお、これは国土交通省への税制改正要望であり、凍結が決まったわけではありません。各省庁の税制改正要望は既にまとまっており、年末に決まる与党税制改正大綱に反映されるかどうかが、今後の焦点になると報じられています。
出典:建設通信新聞(2026年9月30日)、日刊建設工業新聞(2026年10月13日)
顧問先への備え:いま確認できること
結論が出ていない現段階でも、顧問先の財務データから、案が採用された場合の影響の方向性は確認できます。次の項目を整理しておくと、方針が固まった時にすぐ試算できます。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 過去5期の利益・配当・純資産 | 法人税申告書(別表四・別表五(一))で、5期分を一覧にする。残余利益方式の入力データになります。 |
| 役員報酬・役員退職金 | 代表者の親族役員への報酬額、直前期に多額の退職金を支給していないか。支給予定があるか。 |
| オペレーティングリース | 契約の有無、残存期間、純資産への影響。利益の調整に使える他の商品がないか。 |
| 子会社株式 | 完全支配関係の子会社の有無、子会社の含み益・含み損。親会社の評価額への反映が想定されます。 |
| 含み損のある資産 | 簿価が相続税評価額を上回る資産の有無。減損の反映には、決算公告等の要件があります。 |
| 従業員持株会 | 持株会の有無、規約、固定価格の定め、退会時の買取ルール。 |
| 特定の評価会社に当たるか | 特定資産の簿価が総資産の70%以上か、運用収入が総収入の75%以上か。開業5年未満、組織再編直後でないか。 |
試算では、しんしゃく率と還元率が未定なので、1点だけの数字にしないことが大切です。しんしゃく率は0.7〜1.0、還元率は複数のパターンで幅をもって見ておくと、説明がぶれません。
顧問先への伝え方
- 国税庁の案はまだ審議途中で、算式の係数や適用時期は確定していません。第6回の資料にも、適用時期は示されていません。
- 国税庁の試算では、現行方式と比べて、大会社や収益性の高い会社で評価額が上がるケースが多くなっています。一方で、小会社や収益力の低い会社は、下がる場合があります。ただし、個々の会社の資産・収益の状況によって結果は異なります。
- 日本商工会議所や中小企業庁等から慎重論が出ており、最終案が変わる可能性があります。
- 生前贈与や組織再編などを、評価制度の見直しだけを理由に急いで決めることは避け、現行制度での評価額と見直し案での試算を並べて、判断材料にしてください。
まとめと今後の注目点
第6回で、残余利益方式は「5年加算」「法人税申告書ベース」という具体像を持ち始めました。一方で、評価の水準を決める還元率としんしゃく率は未定で、日本商工会議所と中小企業庁等から慎重な意見も出ています。現時点では、方向性を把握しつつ、確定した制度として扱わないことが大切です。
今後の注目点は次の3点です。
- 第6回の議事要旨と、第7回の日程:10月18日時点では、要旨は「作成中」、第7回の日程は未掲載です。
- 第7回以降の論点:還元率の算出方法(一律にするか、上場と非上場の差をどう見るか)、純資産価額方式(計算の簡便化、3年以内に取得した不動産、退職給付引当金等、法人税額等相当額の控除、50%以下グループの評価減)、配当還元方式(存置の可否、適用される株主の範囲、算式の簡便化)が想定されています。
- 令和9年度税制改正の議論との関係:中小企業庁等は、令和9年度税制改正要望でも、慎重な検討を求めています。
当事務所では、非上場株式の評価、相続対策、事業承継、組織再編・M&Aのご相談をお受けしています。自社株の評価額への影響をお知りになりたい方は、ご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所 〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F(阪神尼崎駅 徒歩1分)








