【資本取引シリーズ5】無償増資の落とし穴 ― 法人税は「何もなし」でも均等割は増える

【資本取引シリーズ5】無償増資の落とし穴 ― 法人税は「何もなし」でも均等割は増える

Oct 31, 2026 · @松野 茂

目次

はじめに:「払い込むお金がないから、利益剰余金を資本金に組み入れよう」

無償増資は、法人税では「何もなかったもの」として扱われますが、法人住民税の均等割では負担が増えることがあります。

建設業の社長さんから、次のようなご相談をいただくことがあります。

  • 特定建設業の許可を取りたい。財産的基礎の要件として、資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上が必要と言われた
  • 今の資本金は1,000万円。増資したいが、新たに払い込む現金は用意できない
  • 内部留保(利益剰余金)は十分あるので、それを資本金に組み入れればよいのでは

この方法が「無償増資」です。手続きは簡単で、税務上も何も起きません。ところが、法人住民税の均等割は毎年増える可能性があります。許可を取った後に毎年かかる固定費なので、事前に知っておくことが大切です。

今回は、資本取引シリーズの第5回として、無償増資の会計・法人税・地方税の取扱いを、数値例で確認します。

無償増資とは何か、会計ではどう処理するか

増資とは、会社の資本金を増やすことです。株式を発行して金銭や財産の払込みを受ける有償増資が一般的ですが、払込みを受けずに、剰余金を資本金に組み入れる方法もあります。これが無償増資です。会社法450条により、株主総会の決議で行います。

会計上は、剰余金の減少と資本金の増加を認識します。減らす剰余金は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)でも、その他資本剰余金でも構いません。

事例1の前提は次のとおりです(単位:万円)。

項目増資前増資後
資産6,0006,000
負債1,5001,500
資本金1,0002,000
利益剰余金3,5002,500

会計上の仕訳は次のとおりです。

繰越利益剰余金 1,000 / 資本金 1,000

純資産の合計は4,500万円のまま変わらず、資本金が2,000万円になるので、特定建設業の資本金要件(2,000万円以上)を満たせます。ただし、特定建設業の許可には、自己資本4,000万円以上のほか、欠損の額が資本金の20%以下であること、流動比率が75%以上であることも求められます。自己資本4,000万円以上と流動比率75%以上は、無償増資によって改善するものではないため、直前決算の財務諸表などで別途確認する必要があります。

法人税:何もなかったものとして扱う(ただし別表五(一)の調整は必要)

法人税法上、資本金等の額が増えるのは、株主から出資を受けたときです。無償増資は、純資産の部の中で利益剰余金を資本金に振り替えただけで、株主からの払込みがありません。そのため、資本金等の額も利益積立金額も変動せず、税務上の仕訳はありません。

税務上の仕訳:なし

ただし、会計上は利益剰余金が1,000万円減り、資本金が1,000万円増えています。会計と税務の区分がずれるので、申告書の別表五(一)で「振替調整」が必要です。具体的には、Ⅰ「利益積立金額の計算に関する明細書」の資本金等の額欄に1,000万円を加算し、Ⅱ「資本金等の額の計算に関する明細書」の利益積立金額欄に△1,000万円を記載します。この調整によって、税務上の資本金等の額も利益積立金額も変動しないことを表します。

別表五(一) Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書(単位:万円)

区分期首現在減増差引翌期首現在
資本金等の額1,0001,000
繰越損益金3,500△1,0002,500
差引合計額3,5003,500

別表五(一) Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書(単位:万円)

区分期首現在減増差引翌期首現在
資本金又は出資金1,0001,0002,000
利益積立金額△1,000△1,000
差引合計額1,0001,000

地方税:均等割の基準額には「加算」される(落とし穴)

法人住民税の均等割は、資本金等の額と従業者数で税額が決まります。通常は、法人税法上の資本金等の額がそのまま基準になります。有償増資なら資本金等の額が増えるので、均等割の基準額も連動して増えます。

問題は無償増資です。法人税法上の資本金等の額は変わりませんが、平成27年度税制改正により、平成22年4月1日以後に行われた利益剰余金等の資本金への組入れについては、均等割の税率区分を判定する際、一定の組入額を資本金等の額に加算することになりました(地方税法23条1項4号の5)。事例1は繰越利益剰余金からの組入れなので、1,000万円全額が加算対象です。なお、資本金・資本準備金の減少で生じた剰余金を資本金に組み入れた場合などは、加算の対象から除かれます。

事例1で確認します(単位:万円)。

項目無償増資前無償増資後
法人税法上の資本金等の額1,0001,000
加算する無償増資の額01,000
均等割の税率区分の基準となる額1,0002,000

この会社の資本金等の額は増資前の資本金と同じ1,000万円でしたので、基準額は2,000万円になります。法人税では何も起きていないのに、均等割の税率区分が上がり、負担が増える可能性があります。

均等割の税率は、資本金等の額が1,000万円以下か、1,000万円超1億円以下かで区分が変わります。区分が変わると税額が大きく変わるので、増資の前に自治体の税率表で確認してください。税率は自治体によって異なる場合があります。

なお、均等割の税率区分に使う額には、最低額のルールもあります(平成27年度改正、地方税法52条4項)。無償増資等の調整後の資本金等の額が、資本金と資本準備金の合計額を下回る場合は、その合計額が基準になります。無償増資の加算だけでなく、この合計額との比較も必要です。事例1では、どちらも2,000万円なので結論は変わりません。

均等割はどれだけ増えるか(目安)

道府県民税の標準税率では、資本金等の額が1,000万円以下の場合は年2万円、1,000万円超1億円以下の場合は年5万円です。事例1では、道府県民税だけで年3万円、10年で30万円の負担増になります。

項目増資前増資後年間の増加額
道府県民税均等割(標準税率)2万円5万円3万円

市町村民税の均等割も、従業者数に応じて増える場合があります。また、超過課税を実施している府県では金額が異なります。実際の税額は、事務所所在地の都道府県・市町村の税率表で確認してください。

これは減資の場合と対称的です。 資本金を減らして欠損てん補に充てた場合は、均等割の基準額から減算できます。無償増資では加算されるのに対し、無償減資(欠損てん補)では減算されます。ただし、減算できるのは、その他資本剰余金として計上してから1年以内に欠損てん補に充てた額に限られます。

実務のポイントとまとめ

無償増資を検討するときは、次の点を確認します。

  • 増資の目的(許可要件、対外的な信用など)が、毎年の均等割の増加に見合うかを確認する
  • 均等割は、増資前後の基準額で税率区分がどう変わるかを、事前に試算する
  • 会計上は利益剰余金が減るので、将来の配当可能額に影響する
  • 法人税の別表五(一)で、利益積立金額と資本金等の額の振替調整を忘れない
  • 均等割の基準額は、法人税の資本金等の額とずれるため、毎期チェックする

まとめ

  1. 無償増資は、利益剰余金を資本金に組み入れるだけで、現金の払込みは不要
  2. 法人税では「何もなかったもの」として扱い、資本金等の額も利益積立金額も変わらない
  3. ただし別表五(一)では、プラスマイナス同額の振替調整が必要
  4. 均等割では、平成22年4月1日以後の無償増資の額が基準額に加算され、負担が増える可能性がある

許可要件のための増資は、手続きだけを見ると簡単ですが、その後の税負担まで見通して判断することが大切です。増資や減資、自己株式の取得をお考えの方は、実行前に当事務所へご相談ください。


税理士法人松野茂税理士事務所(阪神尼崎駅徒歩1分) 

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