債務免除通知は内容証明だけで足りる? 貸倒損失にするための「到達」の備えと公示送達

債務免除通知は内容証明だけで足りる? 貸倒損失にするための「到達」の備えと公示送達

「取引先に貸付金や売掛金の回収をあきらめて、債務免除の通知を出したい。内容証明郵便で送れば、貸倒損失として認められるのか」。このご相談は、決算前によくいただきます。

結論からいうと、内容証明郵便は有力な方法ですが、それだけで十分とは限りません。 債務免除は、意思表示が相手に「到達」して初めて効力が生じます。不在や行方不明などで書面が届かず、到達を示せなければ、免除が成立せず、貸倒損失が否認されるおそれがあります。相手が正当な理由なく受取りを拒んだ場合は、到達したとみなされる余地もあります(民法97条2項)。

本記事では、債務免除による貸倒損失の要件と、到達を確実にするための実務を整理します。通達の原文は、国税庁の法人税基本通達 第9章第6節「貸倒損失」(9-6-1〜9-6-3)で確認できます。貸倒損失の全体像は、こちらの記事で解説しています。

[内部リンク:貸倒損失はいつ損金にできる?法律上・事実上・形式上の3類型]


目次

債務免除による貸倒損失の要件(法基通9-6-1(4))

法人税基本通達9-6-1(4)は、次の要件を満たす債務免除について、書面により明らかにされた日の属する事業年度に貸倒損失として損金算入できると定めています。

  1. 債務者の債務超過の状態が相当期間継続していること
  2. その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること
  3. その債務者に対し、書面により債務免除額が明らかにされたこと

これは、法律上の貸倒れ(9-6-1)の一つです。債権が法的に消滅するため、損金経理は要件になりません。 債務免除は債権者の一方的な意思表示で成立し(民法519条)、債権が消滅することになります。ただし、書面を発送しただけで効力が生じるわけではなく、民法97条により、原則として相手方に通知が到達した時に効力が生じます。決算期末の債務免除では、通知の発送日だけでなく、到達した日(または到達したとみなされる日)を確認する必要があります。

担保がある債権でも使える場面があります。担保物の処分によって回収できる金額が少額にとどまり、処分に多額の費用がかかることが見込まれ、債務超過が相当期間継続している場合には、書面で債務免除をすれば、その事業年度の貸倒損失になるとされています(国税庁の質疑応答事例担保物がある場合の貸倒れの注)。9-6-2(事実上の貸倒れ)は、担保物を処分した後でなければ使えないため、この場面では選択肢になります。

債務免除通知書に書くこと

  • 免除する債権の特定(発生原因、取引年月日、金額)
  • 債権を免除する旨と、免除する金額
  • 通知の日付、債権者の名称・代表者名・押印

通知は「到達」して初めて効力が生じる(民法97条)

民法97条1項は、意思表示はその通知が相手方に到達した時から効力を生ずると定めています(民法(e-Gov法令検索))。債務免除の意思表示も同じです。通知が相手に届いた時に債務免除の効果が生じ、債権が消滅すると解されます。

そのため、債務免除による貸倒損失では、次の点が実務上のポイントになります。

  • 発送しただけでは足りない:債務者に到達しなければ(または到達したとみなされなければ)、免除は成立しません。
  • 到達した日が重要になる:決算日の直前に発送すると、到達が翌事業年度にずれ込むおそれがあります。余裕をもって手配します。
  • 証拠を残す:税務調査に備えて、債務免除をした証拠を残す必要があります。一般には内容証明郵便が使われます。

国税庁の質疑応答事例(第三者に対して債務免除を行った場合の貸倒れ)でも、債務免除は書面で明らかにされていれば足り、公正証書などは必ずしも要しないとされています。ただし、書面の交付の事実を明らかにするために、債務者から受領書を受け取るか、内容証明郵便等により交付することが望ましいとされています。

内容証明郵便には、次の弱点があります。

  • 相手が受け取りを拒否する
  • 不在で受け取られず、保管期間が過ぎて返送される
  • 相手が行方不明で、宛先に届かない

こうした場合は、「到達」があったといえるかが問題になります。

ただし、民法97条2項(令和2年4月1日施行の改正で明文化)は、相手方が正当な理由なく通知の到達を妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす、と定めています。そのため、受取拒否があったからといって、必ず債務免除の効力が生じないわけではありません。受取拒否の事情や、通知の送付先が正しいかなどを確認する必要があります。受取拒否と行方不明は、同じ扱いにはなりません。

受取拒否への備え:内容証明+特定記録郵便と最判昭和43年12月17日

受取拒否や不在があったときに参考になるのが、最高裁判決(最判昭和43年12月17日)です。意思表示や通知を記載した書面が、相手方の支配圏内に置かれれば足り、相手方が直接受け取ったり、内容を知ったりすることまでは必要ない、という考え方が示されています。

この考え方を踏まえると、次のような備えが有効です。

  1. 内容証明郵便を送る(文書の内容と差出しの事実の証拠になる)
  2. 同じ内容の文書を、特定記録郵便でも送る(相手が不在でも、郵便物はポストに投函され、投函の記録が残る)
  3. 内容証明の文末に、「念のため、同内容の文書を特定記録郵便でも発送しました」と記載する
  4. 封筒に日付を記載し、発送した文書のコピーを保存する
  5. 可能であれば、配達証明を付けて、到達した日を証明できるようにする
  6. 相手が受け取れる場合は、受領書をもらう

特定記録郵便が、ポストへの投函により相手の支配圏内に置かれたと評価されることで、受取拒否や不在があっても、到達を主張しやすくなります。ただし、郵便受箱への配達の記録があるだけで、あらゆる場合に到達が確定するわけではありません。到達が認められるかどうかは、個別の事情によって判断されます。

なお、内容証明郵便は通知内容の証拠、配達証明や特定記録郵便の配達履歴は配達状況の証拠として、それぞれ役割が異なります。通知書の控え、郵便の受領証、配達履歴を、一緒に保存しておきます。

債務者が行方不明なら「公示による意思表示」(民法98条)

債務者が行方不明で、内容証明郵便が返送されてしまう場合があります。この場合、書面が相手の支配圏内に置かれたとはいえず、通達の「書面により明らかにされた」という要件を満たさないのではないか、という疑問が生じます。

そこで検討できるのが、公示による意思表示(民法98条)です。いわゆる公示送達の仕組みです。

  • 要件:表意者が、相手方を知ることができない、または相手方の所在を知ることができないとき
  • 方法:裁判所の掲示場に掲示し、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載する(裁判所が相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市区町村の掲示場への掲示を命じることもできる)
  • 効力発生:最後に官報に掲載した日(または掲示を始めた日)から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされる
  • 申立先:相手方の最後の住所地を管轄する簡易裁判所
  • 費用:裁判所に、公示に関する費用を予納する

実務では、次の点に注意します。

  • 申立てのときに、相手方の所在を調べた結果の報告書を裁判所に提出する必要があります。
  • 相手方の所在を知らないことに過失があった場合は、到達の効力が生じません。調査が不十分だと、後で無効とされるおそれがあります。
  • あくまで、本当に相手が見つからない場合の手段です。安易に使える制度ではありません。相手方の所在が判明しているのに、受領を拒否しているだけの場合には、公示による意思表示は利用できません。所在不明の場合と、単なる受取拒否の場合は区別する必要があります(受取拒否は、前述の民法97条2項の問題になります)。
  • 手続が終わったら、裁判所が発行する証明書を保存しておきます。

「相当期間」と「債務超過」はどう判断するか

債務免除による貸倒損失では、「債務超過の状態が相当期間継続している」ことが要件です。

「相当期間」

通達には、年数の定めがありません。3年から5年程度と解説する書籍もありますが、形式的に年数で判断するものではないと考えるのが自然です。国税庁の質疑応答事例でも、債権者が債務者の経営状態を見て、回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間であり、個別の事情に応じて異なるとされています。あらゆる回収努力をしたうえで、回収を断念せざるを得ないと判断するまでの期間です。

「債務超過」

債務者の支払能力に着目する制度なので、帳簿上の数字だけでなく、時価ベースで判断します。清算した場合の貸借対照表を作ったときに、債務超過になるかどうかで考える、と解される見解があります。資産の実際の換価価値や、弁済能力も確認する必要があります。

立証のために残す資料

  • 債務者の決算書(相当期間を見られるよう、複数期分)と、事情の説明資料
  • 担保不足を示す不動産の登記事項証明書
  • 債務者の現状を示す資料、信用調査会社の報告書
  • 督促や回収努力の経過の記録

第三者への債務免除と、寄附金認定のリスク

資本関係や同族関係のない第三者に債務免除をする場合も、同じ通達(9-6-1(4))で貸倒損失になります。国税庁の質疑応答事例では、貸付金5,000万円を、債務超過が3年ほど続く取引先に書面で免除するケースで、貸倒損失として損金算入されるとされています。

ただし、注意点があります。

  • 債務者が第三者であることだけで、無条件に貸倒損失になるわけではありません。
  • 実際には、回収可能性を十分に検討したうえで、やむを得ず免除するのが一般的です。
  • 弁済を受けられるのに債務免除をし、債務者に実質的な利益供与をしたと認められる場合は、免除額は貸倒損失に当たりません。この場合は、寄附金として扱われるおそれがあります。

私的整理で、合理的な基準によらない単なる債権放棄も、同じ問題が生じます。債務免除をする前に、免除の理由と、回収が見込めないことを説明できる資料を整えておきます。

なお、債務免除を受けた側(債務者)には、債務免除益が生じる場合があります。取引先との関係では、この点も念頭に置いて進めます。親会社や関係会社への債務免除は、第三者間とは別の論点があるため、個別に検討が必要です。


まとめ

債務免除による貸倒損失は、次の点を押さえます。

  1. 要件は、債務超過の相当期間継続、弁済不能、書面による免除の3つ
  2. 免除の効力は、通知が到達した時(正当な理由なく到達を妨げられたときは、通常到達すべきだった時)に生じる
  3. 内容証明郵便だけでなく、特定記録郵便や配達証明、受領書を併用して、到達の証拠を厚くする
  4. 行方不明の場合は、公示による意思表示(民法98条)を検討する
  5. 第三者への免除でも、弁済を受けられるのに免除すれば寄附金になるおそれがある

債務免除は、相手方に到達して効力が生じると、原則として一方的に撤回することはできません。通知の出し方で貸倒損失の可否が変わることもあります。実行する前に、証拠の整理も含めて、専門家にご相談ください。

当事務所では、貸倒損失の判定、債務免除の進め方、決算対策のご相談をお受けしています。 税理士法人松野茂税理士事務所(阪神尼崎駅 徒歩1分) TEL:06-6419-5140 / メール:[email protected]


参考

※質疑応答事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答です。個別の取引に当てはめる場合は、課税関係が異なることがあります。

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