自己株式の取得・処分・消却は、会計と税務で扱いが異なります。会計は、自己株式を、株主資本から控除する項目として処理します。税務は、資本金等の額と利益積立金額の増減として処理します。その差は、法人税申告書の別表五(一)で調整します。
この記事では、取得・処分・消却の3つの場面について、会計の仕訳、税務の仕訳、別表五(一)の記載を、同じ設例で並べて整理します。数字はすべて仮定で、単位は万円とします。
自己株式の取得に伴うみなし配当や源泉徴収は、別の記事(「自己株式の取得で『みなし配当』が生じる?」)で解説しています。
3つの場面で、会計と税務の処理はこう違います
| 場面 | 会計処理 | 税務処理 |
|---|---|---|
| 取得 | 取得原価を、株主資本から控除する(自己株式として借方に計上) | 資本の払戻しとして、資本金等の額と利益積立金額(みなし配当)を減らす |
| 処分 | 処分差益はその他資本剰余金に計上し、処分差損はその他資本剰余金から減らす | 処分の対価の額だけ、資本金等の額を増やす(新株発行と同じ扱い) |
| 消却 | 消却した自己株式の帳簿価額を、その他資本剰余金から減らす | 何もなかったものとして扱う。資本金等の額も利益積立金額も変わらない |
会計では、自己株式を株主資本の末尾にまとめて控除する形で表示します。資本金や資本剰余金などの、どの項目に対応するかは考えません。税務では、自己株式には帳簿価額がなく、資本金等の額と利益積立金額の増減だけを認識します。
処分は、会社法でも新株発行と同じ規定で定められています。経済的な実質が同じためで、税務の処理も、払込金額と同額だけ資本金等の額が増える点で同じです。
取得:会計は500万円を控除、税務は380万円と120万円に分けます
設例:自己株式を500万円で取得しました。税務上の取得資本金額(資本金等の額の減少額)を計算したところ、380万円でした。
| 会計 | 税務 | |
|---|---|---|
| 仕訳 | 自己株式 500 / 現預金 500 | 資本金等の額 380、利益積立金額 120 / 現預金 500 |
| 別表四 | 調整なし | 当期利益又は当期欠損の額の行の社外流出(配当)の欄に、120を記載する |
| 別表五(一) | 調整なし | 資本金等の額の計算に関する明細書の「自己株式」の欄に、△500を記載して打ち消す。利益積立金額と資本金等の額の間で、120を振り替える |
(源泉徴収税額に係る預り金は、省略しています。)
会計上の自己株式500万円は、税務上は帳簿価額がゼロです。そのため、別表五(一)で△500を記載して、打ち消します。一方、税務上は、資本金等の額が380、利益積立金額が120減ります。そこで、利益積立金額の計算に関する明細書に△120、資本金等の額の計算に関する明細書に+120を記載し、両者の間で振り替えます。これで、利益積立金額は120、資本金等の額は380だけ減る形になります。
会計では、みなし配当という考え方がありません。そのため、利益剰余金は変わらないのに、税務上は利益積立金額が120減ります。
取得にかかる購入手数料などの付随費用は、会計では営業外費用にします。税務では、資本の払戻しとして整理されるため、損金に算入できます。
処分:税務では、対価の全額だけ資本金等の額が増えます
設例:帳簿価額500の自己株式を、700で処分した場合(処分差益)と、400で処分した場合(処分差損)を比べます。取得時に、みなし配当120が生じており、別表五(一)に、その調整(利益積立金額の計算に関する明細書に△120、資本金等の額の計算に関する明細書に+120)が残っているものとします。
| 項目 | 処分差益(700で処分) | 処分差損(400で処分) |
|---|---|---|
| 会計の仕訳 | 現預金 700 / 自己株式 500、その他資本剰余金 200 | 現預金 400、その他資本剰余金 100 / 自己株式 500 |
| 税務の仕訳 | 現預金 700 / 資本金等の額 700 | 現預金 400 / 資本金等の額 400 |
| 別表五(一)の「その他資本剰余金」の行(増の欄) | +200 | △100 |
| 別表五(一)の「自己株式」の行(増の欄) | +500(残高はゼロになる) | +500(残高はゼロになる) |
| 資本金等の額の増加の合計 | 700 | 400 |
処分の対価の額だけ、資本金等の額が増えるため、会計のその他資本剰余金の増減と、自己株式の帳簿価額の戻しを合計すると、税務上の増加額と一致します。差益の場合は200+500で700、差損の場合は△100+500で400です。
資本金等の額が増えると、法人住民税の均等割の負担が増える可能性があります。外形標準課税の対象の会社では、資本割にも影響します。
消却:会計は仕訳を切りますが、税務は何も起きません
設例:保有している自己株式(帳簿価額500)を、すべて消却しました。取得時のみなし配当120の調整は、残っているものとします。
| 会計 | 税務 | |
|---|---|---|
| 仕訳 | その他資本剰余金 500 / 自己株式 500 | 仕訳なし |
| 別表五(一) | 調整なし | 資本金等の額の計算に関する明細書の「その他資本剰余金」の行に△500、「自己株式」の行に+500を記載する。資本金等の額の合計は変わらない |
税務上は、自己株式の消却を、何もなかったものとして扱います。利益積立金額も資本金等の額も変動せず、所得にも影響しません。会計でその他資本剰余金が減った分と、自己株式の帳簿価額がゼロになった分が、別表五(一)で打ち消し合う形になります。
消却の手続の概要
- 消却する自己株式の数を、取締役会(取締役会設置会社の場合)で決議します。株主総会の決議は不要です。
- 株主名簿から抹消します。株券発行会社は、株券を廃棄します。会計の効力発生日は、この手続が完了したときです。
- 発行済株式総数の減少に係る変更登記を、効力発生日から2週間以内に行います。
つまずきやすい点:解消しない差異とその他資本剰余金
- 取得時のみなし配当の調整は、残り続けます。 別表五(一)の+120と△120は、処分や消却をしても解消しない差異として残ります。会計には、みなし配当という概念がないためです。
- その他資本剰余金がない場合は、会計で調整します。 処分差損や消却で、その他資本剰余金がマイナスになるときは、会計では、期末にその他資本剰余金をゼロにして、マイナス分をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減らします。税務上の資本金等の額や利益積立金額は変動しません。そのため、この期末の振替処理については、原則として追加の申告調整は必要ないと考えられます。ただし、自己株式の処分・消却に伴う別表五(一)の調整は、別に必要です。
- 処分の対価は、新株発行と同じ扱いです。 払込金額と同額の資本金等の額が増える点は、新株発行と同じです。均等割への影響も、同じように考えます。
- 付随費用の扱いが異なります。 会計では営業外費用、税務(取得の場合)では損金です。
- 無償で取得したとき。 会計では仕訳を切らず、自己株式の数が増えるだけです。時価のある株式を無償で取得すると、株主間の利益移転により課税関係が生じるため、発行会社が債務超過である場合に使われることが多いと考えられます。
会計と税務の処理が食い違うところは、別表五(一)の記載を間違えやすい箇所です。取得、処分、消却のたびに、会計と税務の仕訳を並べて確認する習慣をつけておくと、後で整理しやすくなります。
まとめ:取得・処分・消却のたびに、会計と税務の仕訳を並べて確認しましょう
自己株式の処理で押さえておきたい点は、次の4つです。
- 取得:会計は取得原価を控除する。税務は、資本金等の額とみなし配当(利益積立金額)に分けて減らす
- 処分:会計は差額をその他資本剰余金で処理する。税務は、対価の全額だけ資本金等の額を増やす
- 消却:会計は、その他資本剰余金を減らす。税務は、何も起きない
- 取得時のみなし配当の調整は、処分や消却の後も残る
税理士法人松野茂税理士事務所では、自己株式の取得・処分・消却に伴う会計処理と税務申告、事業承継・株主整理のご相談をお受けしています。阪神尼崎駅から徒歩1分の事務所です。お気軽にお問い合わせください。
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※この記事は一般的な内容を解説したものです。数字は説明のための仮のものです。実際の取扱いは、会社の個別の事情によって異なる場合があります。具体的な手続や申告については、必ず専門家にご相談ください。








