役員報酬は、原則として事業年度の途中で自由に変更することはできません。
しかし、社長が病気で入院し、それまで担当していた職務を十分に行えなくなった場合はどうでしょうか。
入院中は役員報酬を減額し、退院して仕事に復帰したら元の金額に戻したいと考えることもあります。
結論からいうと、病気による職務内容の重大な変更を理由とする減額と、職務復帰に伴う復額は、いずれも税務上認められる場合があります。
国税庁「役員給与に関するQ&A」のQ5では、この取扱いが具体的な事例で説明されています。国税庁
1.国税庁Q5の事例
国税庁が示しているのは、3月決算の会社の代表取締役が病気で2か月間入院した事例です。
入院によって、それまで担当していた職務の一部を遂行できなくなったため、取締役会の決議により役員報酬を減額しました。
その後、退院して従前と同様の職務を行えるようになったことから、再び取締役会で決議し、元の報酬額に戻しています。
役員報酬の変更例(国税庁Q5)
8月まで
60万円
通常勤務
9〜10月
20万円
病気による入院
11月以降
60万円
職務復帰
入院前
減額改定
復額改定
この場合、国税庁は、減額と復額のいずれについても「臨時改定事由」に該当すると説明しています。
したがって、それぞれの改定前後の役員報酬は、定期同額給与として取り扱われます。
2.入院による減額は「臨時改定事由」に該当する
法人税法では、役員報酬の変更が認められる理由の一つとして「臨時改定事由」が設けられています。
臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情によって役員給与を改定する場合をいいます。
例えば、社長が病気によって長期入院し、営業活動や取引先との交渉、現場管理など、それまで担当していた重要な職務を行えなくなることがあります。
このような事情があれば、社長という役職自体に変更がなくても、実際の職務内容に重大な変更が生じたと考えられます。
国税庁Q5でも、代表取締役の地位が変わっていなくても、職務の一部を遂行できなくなったことを理由とする減額は臨時改定事由に該当するとしています。
3.病気で入院しただけで、必ず減額が認められるわけではない
ここで注意したいのは、病気や入院という事実と、役員としての職務内容が変わったという事実は別であることです。
例えば、入院中であっても、電話やパソコンを使って従来とほぼ同じ経営判断を行い、業務内容に実質的な変更がない場合があります。
このような場合は、入院したという理由だけで臨時改定事由に該当するとは限りません。
反対に、入院によって予定されていた職務の全部または重要な一部を行えず、他の役員や従業員がその業務を引き継いだ場合は、職務内容の変化を説明しやすくなります。
判断に当たっては、入院期間、従前の職務内容、入院中に行えなくなった業務、報酬の減額理由などを確認する必要があります。
4.退院後に元の報酬へ戻すことも認められる
今回の事例で特に重要なのは、減額だけでなく、退院後の増額も認められていることです。
通常、役員報酬を事業年度の途中で増額すると、定期同額給与の要件を満たさない部分が損金不算入となることがあります。
しかし、国税庁Q5は、社長が退院し、従前と同様の職務を行えるようになったことに伴い、入院前の報酬額へ戻す改定についても臨時改定事由として認めています。
つまり、入院時の職務縮小に伴う減額と、職務復帰に伴う復額を、それぞれ合理的な理由のある改定として取り扱っているわけです。
ただし、退院したというだけで無条件に復額できるわけではありません。従前と同様の職務を再開できる状態になったかどうかが重要です。
また、国税庁Q5が明示しているのは、入院前の報酬と同額に戻す事例です。それを超える増額については、別途その合理性を検討する必要があります。
5.減額時と復額時の両方で議事録を残す
税務調査で重要になるのは、役員報酬を変更した理由を客観的に説明できるかどうかです。
減額時には、病気によってどの職務を行えなくなったのか、なぜその報酬額に変更する必要があったのかを整理します。
復額時にも、従前の職務へ復帰した事実と、報酬を元に戻した理由を記録しておくことが大切です。
| 時点 | 保存・記録しておきたい事項 |
|---|---|
| 減額時 | 入院期間、職務遂行が困難となった事情、代行者、取締役会等の議事録 |
| 復額時 | 復職日、再開した職務、復額を決定した議事録 |
| 共通 | 改定の決議日、変更後の支給額、適用する給与の支給時期 |
例えば、減額時の議事録には、単に「病気のため報酬を減額する」と記載するだけではなく、どのような職務ができなくなったのかを具体的に記載しておくとよいでしょう。
なお、取締役会を設置していない会社などでは、会社法や定款に従い、適切な決定手続を行う必要があります。
6.通常の役員報酬改定との違い
一般に、定期同額給与の通常改定は、事業年度開始の日から3か月以内に行うことが原則です。
しかし、今回のような臨時改定事由による改定は、その通常改定の時期とは別に認められるものです。
| 改定理由 | 税務上の考え方 |
|---|---|
| 病気で重要な職務ができなくなり減額 | 臨時改定事由に該当し得る |
| 退院して従前の職務に復帰し、元の額に戻す | 臨時改定事由に該当し得る |
| 入院したが職務内容に実質的な変化がない | 入院のみでは判断できない |
| 会社の利益を調整するために一時的に減額・増額 | 原則として臨時改定事由には該当しない |
臨時改定事由の制度は、予測できなかった偶発的な事情などによって役員報酬の改定が必要となった場合にまで、通常の定期同額給与の要件を機械的に適用しないためのものです。
したがって、病気を理由とする形式だけの報酬変更ではなく、実際の職務内容と報酬の変更が対応していることが重要になります。
7.まとめ
社長が病気で入院した場合でも、役員報酬を必ず従前の金額のまま支給しなければならないわけではありません。
入院により予定されていた職務を行えなくなった場合には、臨時改定事由により役員報酬を減額できることがあります。
さらに、退院後に従前と同様の職務へ復帰した場合には、元の役員報酬へ戻すことも認められます。
重要なのは、病気そのものではなく、職務内容の変更に伴って役員報酬を改定する合理的な理由があることです。
減額時だけでなく、復額時にも決議を行い、その経緯を議事録などに残しておきましょう。
参考資料
- 国税庁「役員給与に関するQ&A」Q5(PDF) — 「臨時改定事由の範囲-病気のため職務が執行できない場合」
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」
根拠法令:法人税法第34条第1項第1号、法人税法施行令第69条第1項第1号。








