速報【新ルール案】非上場株式の相続税評価が大幅見直しへ|2028年から純資産・利益で算定

【2026年速報】非上場株式の相続税評価が約60年ぶりに大改正へ|2028年新ルール案を解説

考え方としては、M&A実務における修正純資産価額に収益力(営業権)を加味する評価方法にも近い構造といえます。現行制度では、会社規模や資産構成、組織再編によって評価方法や評価額が大きく変わる場面があり、これを利用した株価対策も広く行われてきました。今回の見直しは、こうした評価方法の差を縮小し、会社そのものの純資産と収益力を中心に評価する方向への転換とも見ることができます。

目次

非上場株式の相続税評価、何が変わるのか

2026年8月19日、国税庁が取引相場のない株式(非上場株式)の相続税評価について、簿価純資産と利益から算定する方式に一本化する新ルール案をまとめたと報じられました。8月20日開催の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で案が示される見通しです。

報道によれば、2027年度税制改正大綱に反映し、2028年1月以降の相続からの適用を目指すとされています。財産評価基本通達が定める非上場株式の評価方法は昭和39年(1964年)以来のものであり、実現すれば約60年ぶりの抜本改正となります。

本稿では、現時点で判明している範囲で「実務として何が変わるのか」を税理士の視点から整理します。なお、本記事は2026年8月19日時点の報道内容に基づくものであり、確定した制度ではありません。

1. 現行ルールのおさらい

現行の財産評価基本通達では、まず株主区分(同族株主等か否か)で原則的評価方式と配当還元方式に分かれ、原則的評価方式は会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて次のように使い分けます。

会社規模評価方式
大会社類似業種比準価額(純資産価額との選択可)
中会社類似業種比準価額と純資産価額の併用(Lの割合0.9/0.75/0.6)
小会社純資産価額(併用方式Lの割合0.5の選択可)

これに加え、株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社などの「特定の評価会社」については、原則的評価会社とは異なる評価方法が定められており、純資産価額方式を中心に評価します。会社規模は従業員数・総資産価額・取引金額の3要素で判定します。

2. 新ルール案の骨格 ― 残余利益方式

報じられている計算式のイメージは次のとおりです。

評価額 =(簿価純資産 + 残余利益 × 5年分)× 一定の係数

ポイントは次の4点です。

  • 基礎は「簿価純資産」:直前期末の簿価純資産を基礎とすることが報じられています。ただし、土地や有価証券等の含み益について最終的にどのような調整を行うかは、現時点では明らかになっていません。
  • 将来5年間の収益力を上乗せ:過去5年間の平均利益額などから将来5年分の収益力を算定し、加算します。
  • マイナスも取り込む:利益がマイナスとなる年度も計算に含めるとされています。そのため、赤字・低収益企業では評価額が低くなる可能性があります。
  • 計算資料は決算書と法人税申告書:納税者側は過年度の決算書・申告書をもとに計算する形が想定されています。

報道ではこの方式を「残余利益方式」としていますが、残余利益の具体的な定義、残余利益を計算する際に控除する基準収益の考え方とその率の設定方法、利益の範囲といった計算方法の詳細は、今後公表される資料を確認する必要があります。一般的な企業価値評価論における残余利益モデルと同一の計算構造であるかどうかも、現時点では判断できません。

3. 変更点の一覧

項目現行ルール新ルール案
類似業種比準方式大会社・中会社の中核原則的評価方式としては廃止される方向
会社規模区分大・中・小で方式が変わる会社規模区分による評価方式の使い分けは廃止される方向
評価の基礎類似業種株価/相続税評価額ベースの純資産簿価純資産 + 将来5年分の残余利益
資産管理会社等純資産価額方式(特定の評価会社)引き続き資産から負債を控除する方式で算出
適用時期2028年1月以降の相続からの適用を目指す

4. 税負担はどう動くか

日本経済新聞が中堅税理士法人の協力を得て行った試算では、会社の簿価純資産や収益力によって影響は大きく異なり、高収益企業では評価額が大幅に上昇する一方、中小・零細企業では低下するケースもあることが示されています。

  • 売上高56億円・従業員90人規模の製造販売業:評価額が約17.1億円から約21.6億円へ上昇し、相続税額は8.4億円から10.9億円に
  • 売上高17億円・簿価純資産5億円の工事業:評価額が9,600万円から3億円へ(約3倍)、相続税額は1,100万円から9,300万円へ(約8.5倍)
  • 売上高1億円・従業員10人未満の塗装業:評価額が1割ほど下がり、相続税額は460万円から330万円へ減少

工事業の例が象徴的です。現行ルールでは類似業種比準方式の影響により評価額が比較的低く算定されていましたが、新ルール案では簿価純資産や収益力がより直接的に反映されるため、評価額が大きく上昇する結果となっています。

5. 実務への影響 ― 従来の株価対策は再検討が必要

(1) 類似業種比準方式を前提とした対策は効果を再検討する

現行の類似業種比準方式を前提として行われてきた、配当・利益・会社規模などを意識した株価対策については、その効果を改めて検討する必要があります。

もっとも、新方式でも過去5年間の利益が評価要素となるため、役員退職金などによる利益変動が全く影響しなくなるとは限りません。配当の取扱いについても、新制度における利益の定義が確定していない以上、現時点で結論は出せません。具体的な算定方法が公表されるまでは判断を留保すべき領域です。

(2) 会社規模対策と資産構成対策は分けて考える

従業員数や取引金額を意識して会社規模を引き上げ、類似業種比準方式の適用割合を高める対策は、区分自体が廃止されればその前提を失う可能性があります。

一方で、資産管理会社等については資産から負債を控除する方式を残す案とされているため、株式等保有特定会社・土地保有特定会社に相当する判定が何らかの形で存続する可能性があります。そうであれば、株式・土地等の保有割合に関する判定がどのように再設計されるかは引き続き重要な論点であり、資産構成をめぐる検討の意義は失われません。

(3) 含み益のある会社は逆に有利になる可能性(仮説)

仮に簿価純資産について時価修正を行わない制度となれば、時価評価により含み益を取り込む現行の純資産価額方式と比べ、簿価と時価の乖離が大きい不動産保有会社などでは評価額が下がる場面もあり得ます。もっとも、そうした会社ほど資産管理会社等として別扱いになる可能性があり、線引き次第で結論は正反対になります。現時点ではあくまで仮説として指摘しておきます。

(4) 所基通59-6・法基通9-1-14への波及

実務上、最も注意すべき論点です。所得税基本通達59-6および法人税基本通達9-1-14は、財産評価基本通達178から189-7までの例により算定する構造をとっています。したがって財産評価基本通達の評価体系が大幅に変更されれば、これらの通達についても、引用条項や読替規定を含めて見直しが必要になる可能性が高いと考えられます。

影響が及びうるのは、同族関係者間の株式譲渡、低額譲渡、自己株式の取得など、税務上の時価判定にあたって財産評価基本通達を参照する取引です。M&Aの取引価格そのものが財産評価基本通達で決まるわけではありませんが、税務上の時価との乖離が問題となる局面では無関係ではいられません。

とりわけ59-6が定める、中心的な同族株主に該当する場合には小会社に該当するものとしてその例による、土地等・上場有価証券は事業年度終了の時(譲渡の時)における価額による、といった読替えが、会社規模区分の消滅した新方式の下でどのように再構成されるのかは、会議資料が公表され次第、最優先で確認すべき事項です。条文の詳細は国税庁「法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係」をご参照ください。

6. 現時点で不明な事項

報道段階では明らかになっていない、実務上重要な論点を挙げておきます。

  • 「一定の係数」の中身:どのような考え方に基づいて設定される係数なのか
  • 残余利益を算定する際の基準収益率その他の具体的な計算方法
  • 配当還元方式の存廃:少数株主の評価がどうなるか(会計検査院は還元率10%と金利水準の乖離を指摘していました)
  • 資産管理会社の判定基準
  • 過去5年に組織再編・設立があった会社、開業後5年未満の会社の取扱い
  • 経過措置および事業承継税制との調整

7. 事業承継税制との一体設計

中小企業庁の有識者会議では2026年8月、法人版事業承継税制について、猶予された資金を賃上げや設備投資に振り向けることを促し、猶予税額を免除とする措置を検討してはどうかとする報告書案が示されています。評価額が上がる企業ほど、猶予から免除への道筋がどう設計されるかで結論が変わります。評価ルールと事業承継税制はセットで見る必要があります。

8. 顧問先に何を伝えるか

方向性が真逆になる点が、今回の改正案の難しいところです。

顧問先の類型方向性
高収益・簿価純資産が厚い優良企業評価額が上昇する可能性がある。現行評価額と新方式による概算額を比較したうえで、今後公表される適用時期・経過措置・事業承継税制の内容を確認する
低収益・赤字が続く企業新ルールの方が有利になる可能性。急いで動かない判断もあり得る
含み益の大きい不動産保有会社資産管理会社の判定次第。判定基準の公表を待つ
同族間売買・自己株式取得等を予定所基通59-6・法基通9-1-14などの見直し内容を確認し、税務上の時価算定の前提を再確認する

いずれの類型でも、まず直前期末の簿価純資産と過去5年間の平均利益を用いた試算を行い、現行評価額との差額の方向感を把握しておくことが出発点になります。ただし、係数や残余利益の定義が未確定である以上、報道されている計算式イメージに基づく概算にとどまる点にご留意ください。

まとめ

今回の案は、財産評価基本通達における非上場株式評価の考え方を、「類似する上場株式との比準」から「その会社自身の純資産と収益力」へと根本的に転換するものです。過度な節税スキームへの対応と円滑な事業承継の両立を狙ったものと説明されていますが、実務にとっては評価の前提そのものが入れ替わる改正です。

現時点ではあくまで案の段階であり、有識者会議での議論や2027年度税制改正大綱、その後公表される具体的な制度・通達の内容を経て、詳細が明らかになるものと考えられます。当事務所では引き続き議論の推移を追い、確定した内容に基づき顧問先ごとの試算をご提供してまいります。


本記事は2026年8月19日時点の報道内容に基づく速報的な整理であり、確定した制度を解説するものではありません。実際の判断にあたっては、公表される会議資料および通達改正の内容をご確認ください。

税理士法人松野茂税理士事務所
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