【速報】取引相場のない株式評価、抜本改正の方向性 ― 国税庁が「見直し骨子」を提示

【速報】取引相場のない株式評価、抜本改正の方向性 ― 国税庁が「見直し骨子」を提示

出典:国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(第5回有識者会議・令和8年8月20日机上配付資料) https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05kijoshiryo_kabukaigi.pdf

第5回会議当日に通常の会議資料は公表されましたが、この「見直し骨子」は机上配付資料として扱われ、しばらく公表されていませんでした。その後、議事要旨の公表を経て、第6回会議の直前になって8月20日付の資料として掲載され、具体的な見直し案が初めて外部から確認できる状態となったように思います。

目次

はじめに

令和8年8月20日に開催された第5回有識者会議において、国税庁は「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」を机上配付資料として提示しました。その後、同資料が議事要旨とともに公表され、評価体系全体の見直し方向が初めて具体的な形で明らかになりました。

次回の第6回会議(令和8年9月16日)における議論のたたき台となるものであり、改正の方向性がいよいよ具体化してきたことを示す資料です。事業承継・相続対策を手がける実務家として看過できない内容です。本稿では、この骨子資料の内容を整理し、現行制度との違い、実務への影響、今後注目すべき論点を解説します。

なお、本資料はあくまで有識者会議への「たたき台」であり、評価水準や税負担のあり方を含め、最終的には税制改正プロセスで決定される点にご留意ください。

1. 改正の全体方針 ― 4つの柱

国税庁が示した見直しの方向性は、大きく次の4点に整理されています。

その1:規模別評価体系の廃止と評価方式の一本化

現行制度は、会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式を使い分け、あるいは併用しています。この「規模に応じた評価体系」自体を廃止し、評価方式を原則として一本化する方向が示されました。背景には、評価方式の違いによって、規模の異なる評価会社間で評価額に不公平が生じているという問題意識があります。

その2:企業価値総額からの評価へ

株式評価の考え方そのものも転換されます。現行の類似業種比準方式のように、経営事情の異なる上場会社と比較して1株当たり価格を算定するのではなく、評価会社全体の企業価値総額を算定し、そこから株式の価値を導く方式へと発想を転換する考え方です。

その3:原則的評価方式としてインカムアプローチを導入

規模の大小を問わず、原則的評価方式として「インカムアプローチ」(収益還元に基づく企業価値評価)を導入し、その具体的な手法として「残余利益方式(残余利益モデル)」を採用する方向が示されました。適用可能範囲、将来予測への依存度、執行可能性の観点から選定されたとのことです。評価額の恣意性・操作性の排除も重視されています。

その4:純資産価額方式・配当還元方式の見直し

原則的評価方式の転換を踏まえ、純資産価額方式の適用対象や算式、配当還元方式の対象範囲も見直される見込みです。

2. 見直し後の評価体系イメージ

骨子資料では、見直し後の評価体系の全体像も示されています。ポイントを整理すると以下の通りです。

  • 一般の評価会社:原則的評価方式の対象株主が取得する場合は「残余利益方式(インカムアプローチ)」により評価し、一定の少数株主が取得する場合は、見直し後の配当還元方式により評価
  • 特定の評価会社(資産管理会社、組織再編成直後の会社、開業後5年未満の会社など):原則として純資産価額方式により評価

現行の株式等保有特定会社・土地保有特定会社等をそのまま存続させるのではなく、これらを含む資産保有型の会社について、「資産管理会社」という新たな枠組みで整理する方向が示されています。資産管理会社の形式基準は、事業承継税制における特定資産保有割合70%以上・特定収入割合75%以上の基準を参考に検討される見込みですが、具体的な判定基準は今後の検討事項です。

また、完全支配関係にある子会社・孫会社を有する法人グループについては、連結財務諸表ベースの評価に近い形で、グループ全体の資産内容・収益性を反映させる方向性も示されており、持株会社を活用したグループ経営を行っている企業オーナーの皆様には特に注目していただきたい論点です。

3. 残余利益方式とは何か

今回の見直しの核心となるのが「残余利益方式」です。従来のブログでもご紹介してきましたが、骨子資料でより具体的な算式イメージが示されましたので、改めて整理します。

残余利益方式の基本的な考え方を概念式で示すと、次のようになります。

企業価値 = 簿価純資産 + 将来数年分の残余利益の現在価値

  • 簿価純資産:利益計算の恣意性を排除し、各社を共通の基準で評価するため、原則として法人税申告書上の数値を基礎とする方向です。ただし、子会社株式、オペレーティングリース、多額の含み損を抱える資産などについては、個別調整の必要性が検討されています。事業用不動産なども継続使用を前提とした帳簿価額で評価するため、時価鑑定などの事務負担が軽減される設計です。
  • 残余利益(超過収益力):企業が通常期待される利益水準を上回る部分(=残余利益)を加算します。還元率(割引率)は、例えば上場株式の平均期待収益率などを参考に、CAPM(資本資産価格モデル)によって算定する案が示されています。

赤字企業や収益力の低い企業については、簿価純資産から適正に減額される仕組みとなっており、業績不振の企業の株式評価額が不当に高止まりする現行制度の問題点にも一定の配慮がなされています。

骨子資料11頁に示された具体的な算式イメージでは、利益・配当ともに過去5年間の平均額を用い、5年分の残余利益を還元率によって現在価値に割り引くモデルが示されています。さらに、従業員持株会株式の買取総額や子会社株式の評価額について個別の調整を行う構造となっています。「5年分」は有識者委員の意見にとどまらず、この具体的な算式イメージにも採用されている点に注目です。

4. 実務上の主な検討課題

骨子資料では、今後さらに詰めるべき論点として、以下の4点が挙げられています。いずれも、実際の申告実務に直結する重要な論点です。

(1)残余利益方式で用いる帳簿価額の基準

類似業種比準方式が法人税法上の数値を用いてきた理由(恣意性排除・同一基準での評価)は残余利益方式でも変わらないため、引き続き法人税法上の帳簿価額を用いる方向で検討されています。ただし、バブル期に取得した含み損を抱える事業用土地などの扱いについては、個別の調整の要否が論点として残っています。

(2)利益操作への対応

オペレーティングリース(航空機・船舶・コンテナなど)を利用した損益操作や、親族役員への役員報酬を通じた利益調整について、評価上の恣意性を排除するための調整策が検討されています。特に、代表者の親族である役員に対する役員報酬については、その半額を評価上の損金から除外し、実質的に利益へ加算して株式を評価する案も示されています(決定事項ではなく検討案の段階です)。オーナー企業における役員報酬設計に影響を与える可能性があります。

(3)完全支配関係を有する子会社等への対応

前述のとおり、グループ法人全体の価値を適正に反映させる方向で検討が進んでいます。持株会社を経由した事業承継スキームを検討されている経営者の方は、今後の議論に注意が必要です。

(4)従業員持株会株式・社債類似株式の扱い

固定価格で取引される従業員持株会の株式や、社債に類似した性質を持つ種類株式について、実態に即した評価方法の整理が検討されています。

5. 純資産価額方式・配当還元方式の見直しポイント

純資産価額方式については、退職給付引当金を一定要件のもとで負債として取り扱う方向性や、議決権割合50%以下の同族株主グループに適用される20%評価減の取扱いを廃止する方向性が示されています。個人事業主との均衡という現行制度の発想からの転換に伴うものです。

配当還元方式についても、「特別の例外的措置」としての趣旨を徹底する観点から、同族関係者の判定範囲を「配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等の姻族」に縮小するなど、対象株主の範囲や判定方法の簡略化が検討されています。特に実務上重要なのは、議決権保有割合と株式保有割合の双方を判定要素とし、そのいずれかの割合が3%未満であることを基準とする案が示されている点です。また、前所有者との間に委任・代理関係がある者や、一時的な保有を目的として株式を取得した者は、適用対象から除外する方向とされており、配当還元方式を利用した租税回避スキームへの対策として重要な変更と言えます。

6. 実務家として押さえておきたいポイント

現時点の骨子資料を踏まえ、長年にわたり顧問先の相続対策・事業承継をご支援してきた立場から、特に注視すべき点を整理します。

  • 評価方式一本化のインパクト:会社規模による評価方式の違いがなくなることで、特に小会社(多くの中小企業オーナー会社が該当)の評価額が、現行の純資産価額方式中心の評価から大きく変動する可能性があります。
  • 収益力ベースの評価への転換:類似業種比準方式の廃止により、業種平均株価との比較という「外部基準」から、自社の実際の収益力という「内部基準」への転換が図られます。高収益企業ほど評価額が上昇する可能性がある一方、低収益企業は評価額が抑制される方向に働くと考えられます。
  • 役員報酬設計への影響:親族役員への役員報酬に対する評価上の調整が導入されれば、従来の所得分散を意識した役員報酬設計の見直しが必要になる可能性があります。
  • グループ会社の評価:持株会社・子会社・孫会社という法人グループを構築されているオーナー様は、連結ベースに近い評価への移行を見据えた対策の検討が必要です。

7. 実務家としての率直な見方

ここまで骨子資料の内容を整理してきましたが、申告実務に携わる立場から、率直な所感も付け加えておきたいと思います。

今回の骨子は、単なる「計算方法の修正」にとどまるものではありません。約60年間続いてきた評価体系(規模別の評価方式)を一気に作り替えようとする、かなり踏み込んだ内容です。特に次の点には、国税庁の強い姿勢が表れていると感じます。

  • 会社規模区分を廃止し、類似業種比準方式も原則廃止
  • 親族役員報酬の半額を機械的に利益へ加算する案
  • 持株会社について連結評価と同等の結果を求める
  • 純資産価額方式の20%評価減を廃止
  • 配当還元方式の対象を大幅に絞り込む
  • オペレーティングリースを「なかったもの」として計算し直す

とりわけ「親族役員報酬の半額」の調整案は、慎重な検討が必要だと考えます。仕事内容や勤務実態、報酬水準の相当性を個別に見るのではなく、親族であるという一事をもって一律に半額を利益へ戻すのであれば、所得分散に対する制裁的な調整との批判を招きかねません。

骨子資料自体の言葉も、率直に言ってかなり踏み込んでいます。「租税回避スキームの横行」「廃止せざるを得ないのではないか」といった表現からは、国税庁が今回、純粋な時価評価の追求以上に、評価額を人為的に引き下げる余地を塞ぐことを重視している姿勢がうかがえます。

もう一つ、実務上最大の懸念は、残余利益方式が理論上いかに整合的であっても、実際の中小企業株式には換金性がないという現実です。過去5年の利益をもとに高い企業価値が算定されたとしても、その価格で実際に買い手がつくとは限りません。それでも相続税は現金で納付しなければなりません。高収益・内部留保型の優良中小企業ほど、事業承継時の納税負担がかえって重くなるおそれがあります。

この方式は、過去5年間の平均利益や平均配当を基礎として各年の残余利益を算定し、その5年分を還元率によって現在価値に割り引き、簿価純資産に加算又は減算するものです。このような画一的な算式で、本当に相続税法上の「時価」と言えるのか、という根本的な論点も残ります。業種特性、地域性、経営者への依存度、取引先の集中度、後継者の有無といった中小企業固有のリスクが、この算式にどこまで反映されるのかは不透明です。

国税庁自身も、資料の中で「評価水準・税負担の在り方等も含め、最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」と明記しています。今後は、具体的な評価水準だけでなく、改正をどのような法形式で行うのか、相続税法上の「時価」との整合性をどのように説明するのかについても注視する必要があります。

今回の骨子は、評価方式間の不公平や人為的な株価引下げへの対応を重視するあまり、親族役員報酬の一律調整など、個々の会社の実態を十分に反映できるのか疑問の残る案も含んでいます。換金性の乏しい非上場株式に対し、理論上の収益価値を画一的に算定することが、相続税法上の「時価」として妥当なのかについては、今後さらに慎重な議論が必要だと考えます。

おわりに

今回の骨子は、これまで5回にわたる有識者会議での議論を踏まえた、国税庁としての具体的な方向性の提示です。この資料をたたき台として、第6回会議(令和8年9月16日)でどのような議論が行われるか、引き続き注視してまいります。

評価体系の抜本改正は、相続税・贈与税の申告実務だけでなく、事業承継対策全体の設計に大きな影響を及ぼすものです。当法人では、有識者会議の議論を継続的に追跡し、最新情報をこのブログでお伝えするとともに、実務家の立場から意見発信を行っております。

非上場株式の評価や事業承継対策について具体的なご相談がございましたら、当法人までお気軽にお問い合わせください。


出典:国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(第5回有識者会議・令和8年8月20日机上配付資料) https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05kijoshiryo_kabukaigi.pdf


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