はじめに
令和8年度税制改正により、通勤手当の非課税限度額が改正され、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から適用されています。今回の改正のポイントは大きく2つです。
- 通勤距離が片道65km以上の人の非課税限度額が引き上げられたこと
- 一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする人について、月額5,000円を上限として、距離区分に応じた非課税限度額に加算できるようになったこと
2点目は「駐車場代が独立して非課税になる」制度ではなく、距離区分の非課税限度額に、駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算できるという制度です。また、単発・一時的な利用ではなく、通常の通勤方法として駐車場等を利用し、料金を負担していることが前提である点にご注意ください。
国税庁から公表された「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」(令和8年4月)をもとに、実務上の取扱いを整理します。給与計算・年末調整を担当される経理担当者様、通勤手当の規程見直しを検討されている経営者様はぜひご確認ください。
出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」(令和8年4月) https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026tsukin/pdf/01.pdf
1. 改正の概要と適用時期
改正後の非課税限度額は、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用されます。同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものは対象外です。
「令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」に該当するかどうかは、契約や慣習等により支給日が定められている場合はその支給日、定められていない場合はその支給を受けた日で判断します。給与規程の改訂を遡って実施した場合の差額支給についても、原則として改訂の効力が生じた日で判断しますが、令和8年4月1日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものには改正後の非課税限度額は適用されません。
2. 改正後の1か月当たりの非課税限度額(自動車・自転車等使用者)
自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当の非課税限度額は、通勤距離の区分に応じて以下のとおりです。今回の改正で新設・引き上げられたのは片道65km以上の区分です。
| 通勤距離の区分 | 非課税限度額(改正後) |
|---|---|
| 片道2km未満 | 全額課税 |
| 片道2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 片道10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 片道15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 片道25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 片道35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 片道45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 片道55km以上65km未満 | 38,700円(改正前と同額) |
| 片道65km以上75km未満 | 45,700円(新設) |
| 片道75km以上85km未満 | 52,700円(新設) |
| 片道85km以上95km未満 | 59,600円(新設) |
| 片道95km以上 | 66,400円(新設) |
改正前は「片道55km以上」が一区分で38,700円が上限でしたが、改正後は65km以上の区分が細分化され、最大95km以上の区分で66,400円まで引き上げられています。長距離通勤者を抱える企業にとっては、非課税枠が広がる形になります。
なお、交通機関や有料道路を利用する人の非課税限度額(1か月当たりの合理的な運賃等の額、最高限度150,000円)に変更はありません。
3. 対象となる駐車場・駐輪場の範囲
Q&Aでは、非課税の対象となる「一定の要件を満たす駐車場等」を次のように定義しています。
通勤のために使用する交通用具の駐車のための施設のうち、その通勤手当の支払を受ける人の勤務する場所の周辺又はその人が通勤のために利用する交通機関の駅若しくは停留所その他の施設(フェリー乗り場や空港などを含みます)の周辺にあるもの
ポイントは以下のとおりです。
- 自転車・バイクの駐輪場も含まれます。自動車の駐車場に限りません。
- 複数の駐車場等を利用している場合は、それぞれの料金の合計額(上限5,000円)が対象になります。
- 対象となるのは、勤務先周辺または利用する交通機関の駅・停留所その他の施設の周辺にある駐車場等に限られます。
- 通勤距離が片道2km未満の人は、そもそも駐車場代の非課税枠の対象から除外されます。
- あくまで、通常の通勤方法として利用し、料金を負担することを常例としている人が対象です。単発・一時的な利用ではなく、通常の通勤方法として駐車場等を利用し、料金を負担していることが前提です。
4. 自宅付近の駐車場と駅周辺の駐車場
「自宅の近くにあるかどうか」ではなく、「勤務先周辺または利用する駅・停留所等の周辺にあるかどうか」が非課税判定の基準です。この2つを整理すると次のようになります。
- 自宅付近にあるだけの駐車場等は対象外です。
- ただし、その駐車場等が、通勤のために利用する駅や停留所の周辺にも該当する場合は、駅・停留所周辺の駐車場等として対象になる可能性があります。
- したがって、駐車場の所在地と実際の利用形態(どの交通機関に乗り換えるために利用しているか等)に基づいて、個別に判断する必要があります。
「自宅にも近いから対象外」と一律に断定することはできず、あくまで駐車場の所在地が勤務先や駅・停留所の周辺に該当するかどうかがポイントになります。
5. 電車・自動車・駐車場を併用する場合
自宅から車で最寄駅まで行き、駅周辺の駐車場に車を置いて電車に乗り換える、いわゆる「パーク&ライド」のようなケースでは、その駐車場代も非課税の加算対象になり得ます。「駅若しくは停留所その他の施設の周辺」にある駐車場等が対象に含まれるためです。
この場合は、電車(交通機関)・自動車(交通用具)・駐車場等の3要素を組み合わせて利用することになるため、非課税限度額は次の①~③の合計額(上限150,000円)で計算します(Q&AのQ3-2、ケースE)。
- 1か月当たりの合理的な運賃等の額(定期代など)
- 自動車の通勤距離の区分に応じた非課税限度額
- 1か月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)
交通機関と交通用具を併用する場合、距離区分は自宅から勤務先までの全区間ではなく、自動車等の交通用具を使用する区間の距離で判定します。
Q&AのケースEでは、定期代115,000円+自宅から駅までの自動車使用区間(片道50km)に対応する手当32,300円+駅周辺駐車場代4,000円=合計151,300円を支給する場合、非課税限度額は150,000円(上限)となり、超過した1,300円が課税対象になる例が示されています。
このように、同じ「車を使う通勤」でも、駐車する場所が勤務先・駅周辺に該当するかどうかによって非課税の可否が分かれる点が実務上のポイントです。従業員から駐車場の所在地や利用形態を確認しておくことが望まれます。
6. 駐車場等の料金相当額の計算方法
「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」は、駐車場等の料金の定め方によって、月額換算の方法が異なります。
- 月単位で料金が定められている場合:その料金の額(3か月24,000円なら月8,000円)
- 年単位で料金が定められている場合:12で除した金額(年79,200円なら月6,600円)
- 利用の都度負担する場合(コインパーキング等):実際に支払った月間合計額、または1回当たりの料金×月間利用回数など、合理的な方法で算出した金額
- その他の場合:年間料金相当額を12で除した金額
消費税・地方消費税が含まれている場合は、その税額を含めた金額で計算します。
具体的な計算例
Q&Aで示されているケースをもとに、実務での計算イメージをご紹介します。
ケース:片道通勤距離50km、駐車場代(月額)8,000円の従業員に、通勤手当32,300円+駐車場代相当8,000円=合計40,300円を支給する場合
- 通勤距離に応じた非課税限度額:32,300円(片道45km以上55km未満)
- 1か月当たりの駐車場等の料金相当額:5,000円(実際の料金8,000円は上限5,000円を超えるため5,000円で頭打ち)
- 非課税限度額:37,300円(32,300円+5,000円)
- 支給額40,300円のうち、超過した3,000円が課税対象になります。
このように、駐車場代自体の実費が5,000円を超えていても、加算できるのは5,000円までです。超過分は給与として課税されるため、規程の見直しや源泉徴収の計算に注意が必要です。
なお、Q&Aでは、距離区分に応じた手当と駐車場代相当額を区分せずに一括して通勤手当として支給しているケースについても計算例が示されており(ケースD)、合計支給額が非課税限度額の範囲内であれば、区分の有無にかかわらず全額非課税となります。距離区分の手当と駐車場代相当額を給与明細上で分けて支給することは、非課税の法令上の要件ではありません。ただし、非課税限度額の計算根拠を明確にするため、社内資料や通勤手当台帳では区分して管理しておくことが実務上望ましいでしょう。
7. 会社が従業員に代わって駐車場を契約する場合
Q&Aでは、従業員が選んだ会社付近の駐車場を、会社が従業員に代わって契約し、毎月の駐車場代を負担しているケースが示されています(Q4-2)。
会社が駐車場代を直接支払っていても、実態として従業員に駐車場代相当額の通勤手当を支給しているのと変わらないため、距離区分に応じた非課税限度額と駐車場等の料金相当額を合算して判定します。会社が「福利厚生費」等の名目で処理していても、実質的な取扱いは変わりません。
例:片道50kmの従業員に、距離区分に応じた通勤手当32,300円を支給し、会社が会社付近の駐車場代6,000円を直接負担している場合、通勤手当の支給額は合計38,300円として扱われます。
- 通勤距離に応じた非課税限度額:32,300円(片道45km以上55km未満)
- 1か月当たりの駐車場等の料金相当額:5,000円(実際の料金6,000円は上限5,000円を超えるため5,000円で頭打ち)
- 非課税限度額:37,300円(32,300円+5,000円)
- 支給額38,300円のうち、超過した1,000円が課税対象になります。
なお、会社が業務用車両の保管場所として駐車場を契約している場合や、社用車を従業員に持ち帰らせている場合については、会社が駐車場代を負担しているという事実だけで一律に「通勤手当」となるわけではありません。今回のQ&Aが直接扱っているのは、あくまで従業員が選んだ駐車場を会社が代わって契約・負担しているケースであり、車両の使用目的、社用車持帰りの業務上の必要性、駐車場の契約目的など、社用車に関する個別の実態に応じて判断する必要がある点にご留意ください。
8. 実務上の確認事項
- 駐車場等の料金が記載された契約書や領収書等の提示を受けること自体は、法令上の必須要件ではありません。ただし、「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」を算出するため、契約書、領収書、料金表などにより必要な金額を確認する必要があります。
- 一度確認した後に駐車場等の料金に変更があった場合は、従業員からの申出を受けて再確認する必要があります。ただし、料金相当額が既に5,000円を超えている場合に、その後さらに値上げがあったときは、非課税限度額の計算のためにあえて申出を受ける必要はありません。
- 給与規程・通勤手当規程に、駐車場代相当額の支給根拠や上限(5,000円)、常例性の判断基準などを明記しておくと、年末調整や税務調査の際の説明がスムーズになります。
- 令和8年4月1日前後の支給については、契約・慣習上の支給日や、給与規程を遡及改訂した場合の効力発生日等に基づいて、新旧どちらの限度額が適用されるかを確認する必要があります。
まとめ
今回の改正により、長距離通勤者の非課税限度額が引き上げられたことに加え、一定の要件を満たす駐車場等を継続的に利用し、その料金負担を常例としている人について、距離区分の非課税限度額に駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算できるようになりました。一方で、対象となる駐車場等の所在地(勤務先・駅周辺かどうか)や、実費が5,000円を超える部分の取扱いなど、細かい要件があります。通勤手当規程の見直しや年末調整・源泉徴収事務への影響について、当事務所では法人・個人事業主のお客様からのご相談を承っております。
本記事は国税庁「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」(令和8年4月公表、https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026tsukin/pdf/01.pdf)をもとに作成しています。個別の事案については所轄税務署または当事務所までお問い合わせください。








