孫養子の「二重身分」相続 ― 養子と代襲相続人を兼ねる場合の相続分・相続税の実務

孫養子の「二重身分」相続 ― 養子と代襲相続人を兼ねる場合の相続分・相続税の実務

孫を養子にしており、その孫の親(被相続人の実子)が被相続人より先に死亡している場合、孫は被相続人の「養子」としての相続資格と、亡くなった親の代わりに相続する「代襲相続人」としての相続資格を、同時に持つことがあります。実務では「二重資格」「二重身分」と呼ばれるこのケースは、相続分の計算だけでなく、相続税の基礎控除・養子の数の制限・相続税額の2割加算にも影響するため、正確な理解が欠かせません。本稿では、民法上の相続分の考え方から相続税実務上の取扱いまで整理します。

目次

1. どのような場合に「二重資格」が生じるか

典型例は次のようなケースです。

  • 被相続人(祖父)Xには実子A・実子Bがいた
  • Bが先に死亡し、Bの子(Xの孫)Cが残された
  • XはCを自分の養子とした(いわゆる孫養子)
  • その後、Xが死亡した

このとき、Cは被相続人Xとの関係で二つの相続資格を同時に持ちます。

  • Xの養子として「子」の資格(民法809条により、養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します)
  • 亡きBの代襲相続人として「子」の資格(民法887条2項。代襲相続の要件は、被代襲者が相続開始以前に死亡していることです)

いずれも被相続人Xから見て「第1順位の血族相続人(子)」という同一順位の資格である点がポイントです。関係を図にすると次のようになります。

孫養子が代襲相続人を兼ねる場合の関係図。被相続人Xの実子Aと実子B、Bが被相続人より先に死亡し、Bの子CがXの養子でもあるため、Cは養子としての相続分1/3と代襲相続人としての相続分1/3を合わせた2/3を取得する。
孫の2重身分のケース

2. 民法上の相続分 ― 二つの資格分を合算するのが実務の扱い

このように同一順位の血族相続人としての資格を二重に有する場合、実務・登記先例では、双方の相続分を合算して取得できるとされています(登記先例 昭和26年9月18日民事甲第1881号)。学説上も、養子縁組と代襲相続はそれぞれ独立した法律要件であり、一方の地位が他方を排斥する規定がない以上、両方の相続分を認めるのが多数説です。

計算例

被相続人X、相続人はA(実子・存命)とC(養子かつ代襲相続人)の2名のみのケースで考えます(図1)。

相続分の頭数は「実際の人数」ではなく「資格の枠の数」で数えます。ここではA・C(養子)・C(Bの代襲相続人)の3枠とみなし、各枠に均等な相続分(各3分の1)を割り当てたうえで、Cは2枠分を合算して取得します。

相続人資格相続分
A実子1/3
C養子としての枠1/3
CBの代襲相続人としての枠1/3
C 合計2/3

結果として、Aが1/3、Cが2/3(養子分1/3+代襲相続分1/3)を取得することになります。実子1名・孫養子1名という頭数だけを見ると「半分ずつ」と誤解しやすい点に注意が必要です。

参考:異なる順位間の二重資格は合算されない

同様の「二重資格」という言葉が使われる場面でも、配偶者としての資格と兄弟姉妹としての資格を併有するような、順位の異なる二重資格については扱いが異なります。この場合は配偶者としての相続分のみが認められ、血族相続人としての資格は吸収されて消滅するとされています(登記先例 昭和23年8月9日)。配偶者の法定相続分がもともと優遇されていることが理由とされます。孫養子+代襲相続人のケースとは前提が異なりますので、混同しないようにご留意ください。

なお、相続税実務でも、相続税法基本通達15-4は、代襲相続人であり、かつ被相続人の養子となっている者について、「この場合の相続分は、代襲相続人としての相続分と養子としての相続分との双方を有するのであるから留意する。」と明示しています。登記先例だけでなく、相続税の取扱いを定める通達自身が二重の相続分を前提としている点は、実務上の説得力として押さえておきたいところです。

3. 相続税実務での取扱い

民法上は相続分が合算されて多くなる一方、相続税の計算では次の3点を押さえておく必要があります。

(1) 法定相続人の数はあくまで1人でカウント

基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、生命保険金・死亡退職金の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を計算する際の「法定相続人の数」は、二重資格者であっても頭数は1人として数えます(相続税法基本通達15-4)。相続分が2/3であることと、法定相続人の人数カウントが1人であることは別の話である点に注意してください。

(2) 養子の数の制限の対象外(実子とみなす)

相続税法上、基礎控除等の計算に算入できる養子の数には制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとされています(相続税法15条2項)。

しかし、実子・養子・直系卑属が被相続人の相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため、その者に代わって相続人となった直系卑属(代襲相続人)は、相続税法15条3項二号により「実子とみなす」養子とされ、この人数制限の枠外で法定相続人に算入されます(国税庁タックスアンサーNo.4170「相続人の中に養子がいるとき」)。

したがって、C自身は通常の養子について設けられている人数制限によって法定相続人から除外されることはありません。また、Cは相続税法上「実子」とみなされるため、別に通常養子がいる場合には、原則として「実子がいる場合」の取扱いとなり、法定相続人の数に算入できる通常養子は1人までとなります。節税目的で別途養子縁組を検討する場合の頭数管理においても、この点は実務上重要な確認ポイントです。

(3) 相続税額の2割加算は対象外

被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者が相続・遺贈により財産を取得した場合、相続税額にその20%相当額を加算する制度があります(相続税法18条、いわゆる2割加算)。

孫を養子にしただけで、その親(被相続人の実子)が存命であるケース(代襲原因が生じていない通常の孫養子)は、民法上は養子として一親等の法定血族となりますが、相続税法18条2項により、2割加算の判定上は「一親等の血族」から除外されるため、原則として2割加算の対象になります。

相続税法18条2項は、「前項の一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となっている場合を含まないものとする。ただし、当該直系卑属が当該被相続人の相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため、代襲して相続人となっている場合は、この限りでない。」と定めています。

つまり、孫養子は原則として「一親等の血族」から除外され2割加算の対象になりますが、ただし書きにより、実親が被相続人より先に死亡する等して代襲相続人となっている場合は、この除外の対象から外れる(=一親等の血族として扱われ、2割加算の対象外となる)という構造です。Cのように実親が先に死亡し代襲相続人となっているケースは、まさにこのただし書きに該当し、2割加算の対象から外れます。代襲原因の有無が、同じ「孫養子」でも2割加算の適用を分けるという点は、申告実務で見落としやすいポイントです。

4. 数値でみる比較

被相続人の遺産総額を1億円、相続人を実子A・孫養子兼代襲相続人Cの2名(前記の計算例のとおりAが1/3、Cが2/3を取得)とした場合のイメージは次のとおりです。

  • 法定相続人の数:2人(A、C)→ 基礎控除額 3,000万円+600万円×2人=4,200万円
  • Cの取得分にかかる相続税額:2割加算なし(代襲相続人であるため)

仮にCが代襲相続人ではなく、実親がまだ存命のまま孫養子となっているだけの場合は、Cの取得分(遺贈や遺産分割による取得分)に対して2割加算が生じ、税負担が変わってきます。同じ「孫養子」という言葉でも、被相続人の相続開始時に代襲相続人となっているかどうかによって、相続分の計算方法も税負担も大きく異なります。

5. 実務上の留意点

  • 養子縁組の成立時期と、実親の死亡等の代襲原因が生じた時期を戸籍等で確認し、被相続人の相続開始時に「養子」と「代襲相続人」の双方の資格を有しているかを確認することが重要です。代襲相続が成立するのは、被代襲者が相続開始以前に死亡し、又は相続欠格・廃除により相続権を失った場合に限られます。
  • 遺産分割協議や遺言作成の場面では、二重資格者の相続分・遺留分割合について相続人間の認識にズレが生じやすいため、事前の説明が重要です。
  • 相続税申告における法定相続人の数の算定、養子の数の制限との関係、2割加算の要否は、いずれも申告書の記載・税額計算に直結します。誤りがあると税額計算全体に影響するため、該当するケースでは戸籍謄本一式による親族関係の確認と条文の当てはめを慎重に行う必要があります。

まとめ

孫養子が代襲相続人を兼ねる「二重資格」のケースでは、①民法上の相続分は養子分と代襲相続分を合算して取得できる一方、②相続税の法定相続人の数のカウントは1人、③養子の数の制限の枠外(実子とみなす)、④相続税額の2割加算は対象外、という4点を整理して押さえておくことが重要です。単なる孫養子(代襲原因が生じていないケース)とは扱いが異なりますので、実際の申告や相続対策の場面では、被相続人の相続開始時点で「養子」と「代襲相続人」の双方の資格を満たしているかを確認したうえで、個別に当てはめて判断することをおすすめします。


よくある質問(Q&A)

Q. 孫を養子にすれば、必ず相続税の2割加算を回避できますか? A. いいえ。回避できるのは、その孫が「代襲相続人」でもある場合、すなわち孫の親(被相続人の実子)が被相続人より先に死亡している場合に限られます。実親が存命のまま孫を養子にしただけのケースは、原則どおり2割加算の対象です。

Q. 二重資格者がいる場合、相続税の基礎控除は増えますか? A. 二重資格者自体は1人としてしかカウントされないため、その人がいることによって法定相続人の数が2人分になるわけではありません。代襲相続人でもある孫養子は、相続税法15条3項により実子として取り扱われるため、その者自身について通常養子の人数制限は適用されません。ただし、その結果「実子がいる場合」として扱われるため、別に通常養子がいる場合、その算入限度は原則1人となります。

Q. 遺産分割協議での相続分も、必ず民法どおり合算されますか? A. 遺産分割協議は相続人全員の合意があれば法定相続分と異なる割合で分割することも可能です。ここで説明した合算のルールは、あくまで合意が調わない場合や遺留分算定の基礎となる「法定相続分」の考え方です。

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