スタッフ: 先生、先日お客様から「養子を何人でも迎えれば、その分相続税が安くなるんですよね?」というご質問を受けたのですが、私、正直きちんと説明できませんでした…。
先生: それはよくある誤解だね。実は「民法」と「相続税法」とで、養子の扱いがまったく違うんだ。今日はそこを整理して説明しよう。
民法上は、養子の数に制限はない
先生: まず民法の話からしよう。民法上、養子縁組をすれば養子は実子と同じ「法定相続人」になる(民法第809条、第887条第1項)。これは何人養子を迎えても変わらない。10人養子を迎えれば、10人とも法定相続人として法定相続分を持つことになる。
スタッフ: つまり民法の世界では、養子の数に上限はないんですね。
先生: そのとおり。民法は家族関係のルールを定めているだけだから、そこに税負担を軽くするための制限を設ける発想はないんだ。
ところが相続税法では、養子の数に制限がある
スタッフ: でも先生、相続税の計算では養子の数に制限があると聞いたことがあります。
先生: よく知っているね。相続税法では、相続税の計算に使う「法定相続人の数」に含めることができる養子の数に上限がある(相続税法第15条第2項)。具体的には、
- 被相続人に実子がいる場合 → 養子は1人まで
- 被相続人に実子がいない場合 → 養子は2人まで
としか、法定相続人の数にカウントできないんだ。民法上は何人でも法定相続人になれるのに、相続税の計算上は人数が絞られてしまう。
人数制限以内でも、必ず認められるとは限らない
スタッフ: それでは、実子がいる場合でも、養子1人までは必ず法定相続人の数に含められるのですか?
先生: 原則としてはそうだけれど、例外がある。養子を法定相続人の数に含めることによって、相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、人数制限以内であっても、その養子を法定相続人の数に算入できないことがある。これは相続税法第63条に定められており、判定の考え方は相続税法基本通達63-1・63-2に示されている。
スタッフ: 「1人または2人までなら絶対に認められる」という意味ではないんですね。
先生: そのとおり。ただし、単に相続税の軽減も考えて養子縁組をしたというだけで、直ちに養子縁組そのものが無効になるわけではない。民法上の養子縁組の有効性と、相続税の計算上その養子を法定相続人の数に含めるかどうかは、分けて考える必要があるんだ。
なぜこんな制限があるのか ―― 昭和の時代の「行き過ぎた養子対策」
スタッフ: どうしてわざわざ制限をかけているんですか?
先生: これは昭和の時代の話に遡るんだ。相続税にはもともと「法定相続人の数」が多いほど税負担が軽くなる仕組みがいくつもある。そこに目をつけて、節税だけを目的にたくさんの養子縁組をするケースが横行した時期があった。
スタッフ: 養子を増やせば増やすほど、税金が安くなる仕組みを利用したということですね。
先生: そういうこと。本来、養子縁組は家族関係を築くための制度であって、税金を安くするための道具ではない。この行き過ぎを防ぐために、昭和63年の税制改正で、相続税の計算上カウントできる養子の数に上限が設けられたんだ。
具体的に、どこに制限が効いてくるのか
スタッフ: 「法定相続人の数」が使われる場面って、具体的にはどこですか?
先生: 主に4つある。一つずつ説明しよう。
① 基礎控除額の計算
先生: 相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。養子を無制限にカウントできれば、養子を増やすだけで基礎控除がどんどん膨らんでしまう。だからここに人数制限がかかる。
② 相続税の総額の計算
先生: 相続税は、遺産総額を法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して、それぞれに超過累進税率を適用し、それを合計して「相続税の総額」を出す、という少し独特な計算をする。相続人の数が増えれば増えるほど、一人あたりの取得金額が小さくなり、適用される税率が下がる。つまり養子を増やすことで、この累進課税の効果を人為的に薄めることができてしまうんだ。ここにも同じ人数制限がかかっている。
③ 生命保険金の非課税枠
先生: 死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠がある。ここも法定相続人の数が基準だから、養子の人数制限がそのまま効いてくる。
④ 退職手当金等の非課税枠
先生: 死亡退職金についても、生命保険金と同じく「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある。ここも同様だね。
スタッフ: なるほど。基礎控除・相続税の総額・生命保険金・死亡退職金、この4つの計算すべてに「法定相続人の数」が使われていて、そこに養子の人数制限がかかっているということですね。
先生: そのとおり。ただし、この人数制限によって法定相続人の数に算入されない養子であっても、民法上の相続人でなくなるわけではない。法定相続分を持ち、遺産分割にも参加する。また、その養子が取得した財産が相続税の課税対象から外れるわけでもない。あくまで、これら4つの計算に使用する「法定相続人の数」を制限する制度なんだ。
例外的に、人数制限を受けない養子もいる
スタッフ: ということは、どんな養子でも一律に「実子がいれば1人まで」となってしまうんですか?
先生: いや、そこにも例外がある。次の人は、相続税法上「実子」とみなされ、養子の人数制限を受けない。
例外① 特別養子縁組による養子
先生: 一つ目は「特別養子縁組」によって養子になった人だ。
スタッフ: 特別養子縁組というと、実親との親子関係を切り離す制度ですよね。
先生: そのとおり。普通養子縁組は実親との親子関係を残したまま養子になるけれど、特別養子縁組は家庭裁判所の審判を経て、原則として実親やその血族との法律上の親族関係を終了させ、養親との間に実子と同様の親子関係を成立させる制度だ(民法第817条の2、第817条の9)。戸籍の続柄も「長男」「長女」など、実子と同様の形で記載される。
スタッフ: だから、税制上も実子と同じ扱いにする、ということなんですね。
先生: そのとおり。特別養子縁組は主に子どもの福祉のための制度であって、節税目的で使われる性質のものではない。実質的に実子と変わらない関係だから、人数制限の対象から外されているんだ(相続税法第15条第3項第1号)。
例外② 配偶者の実子(連れ子)を養子にした場合
先生: 二つ目は、被相続人の配偶者の実子を養子にしたケースだ。相続税法上、実子と同じ扱いを受けるのは、次の2つのパターンだ。
- 配偶者の実子(いわゆる連れ子)で、被相続人の養子となった人
- 婚姻前から配偶者の特別養子だった人で、婚姻後に被相続人の養子となった人
スタッフ: 再婚のときによくあるパターンですね。ここも、節税目的で養子縁組をしたわけではないから例外になる、ということですか?
先生: いや、ここも①と同じで、例外に該当するかどうかは養子縁組の主観的な目的で決まるわけではない。相続税法に定められた要件に当てはまるかどうかで判断されるんだ。配偶者の実子は、被相続人と婚姻関係にある配偶者の実子という身分をすでに持っている。その子を被相続人が養子にした場合、法律上、実子として取り扱うことが明確に定められている(相続税法第15条第3項第1号、相続税法基本通達15-6)。
スタッフ: 婚姻前から配偶者の特別養子だった人のケースも、同じ考え方なんですか?
先生: そうだよ。婚姻前の時点で、その子はすでに配偶者の特別養子、つまり配偶者にとって実子と同じ身分を持つ子だった。被相続人が婚姻後にその子を養子にした場合も、配偶者の実子を養子にした場合と同じく、法律上、実子として取り扱うことが定められているんだ(相続税法第15条第3項第1号、相続税法施行令第3条の2、相続税法基本通達15-6)。
例外③ 代襲相続人となった直系卑属
先生: 三つ目は少し複雑だけど、被相続人の子・養子・直系卑属が、死亡、あるいは相続欠格・廃除などによって相続権を失い、その人に代わってその直系卑属が相続人となったケースだ(相続税法第15条第3項第2号、民法第887条第2項)。
スタッフ: 「死亡」だけでなく、「相続欠格」や「廃除」で相続権を失った場合も含まれるんですね。
先生: そうなんだ。代襲相続というと、本来の相続人が亡くなっていた場合をイメージしがちだけど、それだけではない。相続人に著しい非行があって相続欠格に該当した場合(民法第891条)や、被相続人の意思で家庭裁判所の審判を経て廃除された場合(民法第892条)も、その人は相続権を失い、代わりにその直系卑属が相続人になる。理由がどれであっても、「本来の相続人に代わって、その直系卑属が相続人の地位を引き継ぐ」という構造は同じだから、いずれも例外の対象になる。
スタッフ: たとえば、被相続人の子が先に亡くなっていて、その子の子(つまり孫)が養子になっていて、代襲相続人として相続する場合ですか。
先生: そういうことだ。この場合、その孫は被相続人の養子であると同時に、亡くなった親に代わる代襲相続人でもある。ただし、相続税法上の「法定相続人の数」では一人として数え、その孫は実子とみなされるため、養子の人数制限の対象にはならない。民法上の二重資格による相続分の計算と、相続税法上の人数の数え方は分けて考える必要があるんだ。
スタッフ: 死亡・相続欠格・廃除の3つは分かりました。似たようなもので「相続放棄」の場合はどうなるんですか?
先生: それが、実は放棄だけは扱いが違うんだ。参考として押さえておくといい。死亡・相続欠格・廃除の3つは、いずれも代襲相続が生じる原因になる。ところが相続放棄をした場合は、代襲相続が生じない。
スタッフ: どうして放棄だけ違うんですか?
先生: 民法上、相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われる(民法第939条)。欠格や廃除は「相続人だったが資格を失った」という位置づけなのに対して、放棄は本人の意思で「最初から相続人でなかったことにする」制度だからね。相続人でなかった以上、その人の子や孫が代わりに相続人になる、という代襲の仕組みは働かないんだ。
スタッフ: つまり、被相続人の子が相続放棄をしても、その子の子(孫)は代襲相続人にはならないんですね。
先生: そのとおり。仮にその孫が被相続人の養子になっていたとしても、それは「代襲相続人となった養子」には当たらないから、通常どおり養子の人数制限の対象になる。放棄のケースは例外③には含まれない、ということは実務上よく確認しておきたいポイントだね。
スタッフ: どの例外も、法律の条文にきちんと定められている類型なんですね。「節税目的かどうか」を一件ごとに判断しているわけではない、と。
先生: そのとおり。相続税法が養子の数を制限しているのは、節税だけを目的とした養子縁組の乱用を防ぐためだ。ただし、実際にどの養子が例外になるかは、動機を個別に審査するのではなく、①特別養子縁組、②配偶者の実子(連れ子)、③代襲相続人となった直系卑属、という法律上明確に定められた類型に当てはまるかどうかで判断される。この3類型は、制度の性質上、そもそも節税目的の水増しには当たりにくいと法律が類型的に判断して、例外として定めているんだ。

まとめ
先生: 最後に整理しよう。
- 民法上、養子の数に制限はない。何人養子を迎えても、全員が法定相続人になる。
- 相続税法では、基礎控除額・相続税の総額・生命保険金の非課税枠・退職手当金の非課税枠の計算に使う「法定相続人の数」について、カウントできる養子は実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までに制限される。
- この制限は、昭和の時代に養子縁組を利用した行き過ぎた節税対策が横行したことへの対策として設けられた。
- ただし、①特別養子縁組による養子、②配偶者の実子(連れ子)を養子にした場合(婚姻前から配偶者の特別養子だった者を婚姻後に養子にした場合を含む)、③被相続人の子・養子・直系卑属が死亡または相続欠格・廃除等により相続権を失い、その者に代わって相続人となった直系卑属は、相続税法上、実子として取り扱うことが明確に定められており、例外として人数制限を受けず、実子と同じ扱いを受ける(相続放棄は代襲相続の原因にならないため、この③には含まれない)。
- なお、人数制限の範囲内であっても、養子を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、相続税法第63条によりその養子が法定相続人の数から除かれることがある。
スタッフ: よく分かりました。次にお客様からご質問を受けたときは、自信を持ってご説明できそうです。
先生: 養子縁組は相続税対策として語られることが多いテーマだけに、正しい理解が特に大切だ。ご不安な点があれば、いつでもご相談いただきたい。
参照条文・通達
- 民法第809条、第887条第1項・第2項(養子の身分、子及びその代襲者の相続権)
- 民法第817条の2、第817条の9(特別養子縁組の成立、実方との親族関係の終了)
- 民法第891条(相続人の欠格事由)
- 民法第892条(推定相続人の廃除)
- 民法第939条(相続の放棄の効力)
- 相続税法第15条第2項・第3項(遺産に係る基礎控除、実子とみなされる養子の範囲)
- 相続税法第63条(相続人の数に算入される養子の数の否認)
- 相続税法施行令第3条の2
- 相続税法基本通達15-6、63-1、63-2
※本記事は一般的な解説であり、個別の事案については専門家にご相談ください。







