「台風で壊れた設備を元に戻した。工事費が高額になったが、原状回復だから全額修繕費でよいのか」。このご相談は、決算期に、よくいただきます。
結論から言うと、原状回復の範囲内で、改良や性能向上の要素がなければ、全額が修繕費になるというのが、基本的な考え方です。ただし、「原状回復」という名目だけで、全額を修繕費にできるわけではありません。実際に直した内容に、改良や性能向上の部分が含まれていないかが、確認ポイントです。
本記事では、修繕費の意義と判断の軸を、事例とあわせて整理します。通達の原文は、国税庁の法人税基本通達 第7章第8節「資本的支出と修繕費」で確認できます。20万円・60万円などの形式基準は、こちらの記事で解説しています。
修繕費の意義:通常の維持管理と原状回復(法基通7-8-2)
法基通7-8-2は、修繕費を次のように定めています。法人が、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、次のいずれかに当たる部分が、修繕費になります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| ① 通常の維持管理のための費用 | 固定資産を使用していくうえで、予定された機能・性能を維持するために、日常的に行われる点検、清掃、給油、補修など |
| ② 原状回復のための費用 | き損した固定資産を、元の状態に戻すために要した費用 |
通達では、一定の要件を満たす建物の移えい・解体移築、機械装置の移設、地盤沈下した土地の原状回復のための地盛り、水はけ改善のための砂利・砕石の敷設や補充なども、修繕費の例として挙げています。
ただし、建物の解体移築や土地の地盛りには個別の適用条件があるため、すべての工事が修繕費になるわけではありません。
どちらも、共通するのは、現状の効用(価値)を維持するためのものという点です。一方、資本的支出は、使用可能期間を延ばしたり、価値を増やしたりする部分です。
判断の軸は「反復性・予測可能性」と「非常性・非予測性」
反復性・予測可能性は、法人税基本通達に明記された要件ではなく、支出が通常の維持管理に当たるかを考えるための実務上の判断材料です。最終的には、資産の現状の効用を維持する支出なのか、使用可能期間を延長し、価値を高める支出なのかを判断します。
修繕費の2つの区分は、性格がまったく異なります。
| 区分 | 性格 | 例 |
|---|---|---|
| 通常の維持管理 | 反復性と予測可能性がある | 一定の周期で行う部品交換、定期的な点検・整備 |
| 原状回復 | 非常性と非予測性がある | 事故や災害で生じた破損の復旧 |
通常の維持管理は、固定資産を使い続ける以上、繰り返し必要になることが予想されます。そのため、反復性と予測可能性があると考えられます。
これに対して、原状回復は、事故や災害のように、突発的に起こる破損への対応です。反復性や予測可能性はありませんが、元の状態に戻すだけであれば、現状の効用を維持する費用として修繕費になります。
なお、定期的に行われない大規模な補修であっても、原状回復に当たれば、修繕費になる場合があります。逆に、反復性も予測可能性もなく、元の状態に戻すだけでもない支出は、通常の維持管理とは言えません。たとえば、新たな機能を付け加えたり、建物を改造したりする支出は、資本的支出になります。
事例:航空機の破損修復が取得価額の約60%でも修繕費とされた事例
東京税理士会の研修資料では、航空機の破損事故に伴う修復費用が、取得価額の約60%に達しても、修繕費とされた事例が紹介されています。
この事例が示す重要な点は、修繕費か資本的支出かは、単純に取得価額に対する工事費の割合で決まるものではない、ということです。き損した固定資産を元の状態に戻すための支出であり、改良や性能向上の要素が含まれないのであれば、多額の修復費用でも、修繕費に該当する余地があります。
ただし、この事例の判決・裁決等の原典は確認できていないため、個別の認定事実まで一般化することはできません。「取得価額の何割を超えたら資本的支出」という基準も、通達にはありません。金額が大きい支出は、調査でも内容を確認されやすくなりますので、原状回復の範囲内であることを、工事内容で説明できるようにしておく必要があります。
事例:長年使った機械のオーバーホール
事例:機械のオーバーホール
- 長年、事業の用に供してきた機械について、オーバーホール(分解、修理、点検、整備)を行った。
- 部品の交換で、品質や性能の高いものに取り替えたものでない限り、修繕費でよいとされた事例がある。
オーバーホールは、その機械装置を使い続けるうえで必要な、現状の効用を維持するための費用です。一定の周期で必要になるものであり、反復性と予測可能性が明らかに認められます。
家屋の修繕
同じ考え方で、家屋の壁の塗替え、床の毀損部分の取替え、畳の表替え、毀損した瓦やガラスの取替え、障子・襖の張替えなどの費用は、原則として修繕費と判断されます。建物を使い続けるうえで予想されるメンテナンスだからです。
ただし、中古資産を取得して事業に使用するために必要な改修費用や、長期間使用していなかった資産を再び使用するための改修費用については、通常の修繕費とは異なる判断が必要になる場合があります。特に、資産を事業の用に供するために直接必要な費用は、取得価額に含めるべき場合があります。単に「原状回復工事」という名称だけで判断せず、取得時の状態や工事目的を確認します。
法令改正への対応費用(スピードリミッター、粒子状物質減少装置、会計ソフト改訂)
法令や条例の改正で、固定資産を引き続き使うために必要になる費用は、どう扱われるのでしょうか。
次のような事例が紹介されています。
| 事例 | 取扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 大型貨物自動車への速度抑制装置(スピードリミッター)の装着費用 | 修繕費 | 使用可能期間の延長や価値の増加をもたらすものではなく、法令の改正に従って行う不可避的なもの |
| ディーゼル車への粒子状物質減少装置の装着費用 | 修繕費 | 排ガス規制(条例)に対応して、現状の機能と価値を維持できなくなることを防ぐための費用 |
| 消費税率の引上げに伴う会計ソフトの改訂費用 | 原則として修繕費 | 法令改正後も、ソフトウエアを従前どおり使い続けるために必要な費用 |
これらは、東京国税局が、トラック協会からの照会に回答した内容(速度抑制装置は2003年11月、粒子状物質減少装置は2003年2月に公表)として報道されています。いずれも、法令改正に対応して、従前どおり使用し続けるために不可避な費用であり、現状の効用を維持するための費用だという整理です。
ソフトウエアの場合
国税庁は、インボイス制度の実施に伴うシステム修正費用について、取扱いを公表しています(「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」)。
- 既存のシステムを、制度開始後も使い続けるための修正(登録番号や軽減税率の表示の追加、税額計算の調整など)は、現状の効用を維持するためのもので、修繕費にできます。
- 新しい機能を追加するもの(取引先の登録番号を公表サイトと自動で照合する機能の追加など)は、現状の効用の維持にはあたらず、原則として資本的支出に該当します。ただし、20万円未満など、少額の修理・改良等に関する形式基準が適用できる場合があります。
- 工事(発注)の内容が、現状の効用の維持を目的としていることを、書面で明らかにしておく必要があります。
つまり、法令改正への対応であれば、何でも修繕費になるわけではありません。新しい機能の追加を伴うかどうかが、区分のポイントです。
注意:改良・性能向上の要素が入ると区分が必要
原状回復や通常の維持管理でも、元より性能の高いものに取り替えると、全額が修繕費にはなりません。
法基通7-8-1は、資本的支出の例として、次のものを挙げています。
- 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分に係る費用
- 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した費用
- 機械の部分品を、特に品質や性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えに要する費用を超える部分
3つ目のとおり、部品を取り替える場合は、全額が資本的支出になるのではなく、通常の取替えに要する費用を超える部分が資本的支出になります。残りは、修繕費です。
区分が必要になる例
| 工事の内容 | 区分の考え方 |
|---|---|
| 劣化した配管を、同じ材質で取り替える | 修繕費 |
| 配管を、塩化ビニール製から耐久性の高いステンレス製に取り替える | 改良の要素があり、資本的支出とされた事例がある |
| 破損した壁を、同じ仕様で直す | 修繕費 |
| 壁を、全面的に別の仕上げに変える | 建物の改造にあたり、資本的支出 |
区分は、工事の見積書や請求書の内訳で、原状回復の部分と、改良や性能向上の部分に分けられるかどうかで決まります。内訳が分かれていないと、区分が難しくなります。工事を発注する段階で、内訳を分けた見積書を取っておくことをお勧めします。
まとめ
- 修繕費は、通常の維持管理と原状回復のための費用(法基通7-8-2)。どちらも、現状の効用を維持するためのもの。
- 通常の維持管理には反復性・予測可能性、原状回復には非常性・非予測性がある。
- 原状回復の範囲内で、改良の要素がなければ、金額が大きくても全額修繕費になる事例がある。
- 法令改正に対応して、従前どおり使い続けるための費用も、修繕費になる事例がある。ただし、新しい機能の追加は別。
- 品質・性能の高いものへの取替えなど、改良や性能向上の要素があれば、通常の取替えを超える部分は資本的支出。区分できる資料を残す。
「原状回復だから全額修繕費」と決めつけず、工事の内容を確認することが大切です。大きな工事の前に、見積書の内訳の取り方をご相談いただくと、決算での説明がしやすくなります。
当事務所では、修繕費・資本的支出の区分判定、固定資産台帳の整備、決算対策のご相談をお受けしています。 税理士法人松野茂税理士事務所(阪神尼崎駅 徒歩1分) TEL:06-6419-5140 / メール:[email protected]
[内部リンク:資本的支出と判断された5つの事例] [内部リンク:災害で被災した建物の補強工事、修繕費にできる?(法基通7-8-6)]
参考(国税庁ほか)
- 法人税基本通達 第7章 第8節 資本的支出と修繕費(7-8-1〜7-8-6)
- タックスアンサー No.5402 修繕費とならないものの判定
- 消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて(国税庁)
- 東京国税局・速度抑制装置の装着に係る費用は修繕費に該当(税務ニュース)
- 東京国税局・粒子状物質減少装置の装着費用は修繕費(税務ニュース)
- 東京税理士会・東京税理士協同組合「貸倒損失と修繕費・資本的支出等の実務」(令和7年4月21日、全国統一研修会、講師:太田達也氏)の研修資料
※事例は、それぞれの事実関係を前提とした取扱いです。個別の工事に当てはめる場合は、内容によって結論が異なることがあります。








