相続税の土地評価において、「道路として使われている部分」の評価を誤ると、税額に大きな差が生じます。逆に、本来ゼロで申告できるはずの部分を通常の宅地として評価してしまい、納めすぎている事例も少なくありません。
この記事では、私道、セットバック部分、歩道状空地、分譲地に残された私道を中心に、旗竿地の専用通路や公開空地との違いも含めて、相続税評価額が0円になる場合とならない場合を、根拠条項とともに整理します。
特に歩道状空地については、最高裁平成29年2月28日判決を受けた国税庁の取扱いが過去に遡って適用されるため、過去の申告についても更正の請求により還付を受けられる可能性があります。マンション・アパートの敷地を相続された方は、第4章をご確認ください。
1. まず結論|評価額と判断軸の一覧
| 類型 | 相続税評価 | 主な判断軸 |
|---|---|---|
| 通り抜け私道 | 0円 | 不特定多数が通常通行できる公衆用の性格 |
| 公共施設・商店街等への通行路 | 0円になり得る | 行き止まりか否かではなく、不特定多数の実際の利用状況 |
| バス転回場・停留所がある私道 | 0円になり得る | 公共交通利用者を含む不特定多数の利用実態 |
| セットバック済み部分 | 0円または30% | 供用済みでも、評基通24後段の「不特定多数」該当性で判定 |
| 歩道状空地 | 0円または30% | 評基通24の適用対象か、さらに不特定多数の通行供用か |
| 行き止まり私道 | 原則30% | 専ら特定の者の通行の用に供される私道 |
| セットバック未了部分 | 評基通24-6による減額 | 相続開始時に後退未了で、セットバックを必要とする宅地か |
| 自分専用の通路(旗竿地の竿部分) | 一体評価 | 奥の宅地のための専用通路であり、私道評価の対象外 |
| 公開空地 | 原則一体評価 | 総合設計制度等に基づく建物敷地の一部か |
0円評価の中核は、あくまで「不特定多数の者の通行の用に供されている」ことです。 「通り抜けだから」「セットバック済みだから」といった形式的な理由で0円になるわけではありません。
なお、これとは別に、分譲地に残された私道については、評基通24の定型的な処理とは別に、客観的交換価値を個別に検討すべき場合があります(第5章)。
各類型の詳細は第2章以下で解説します。評価額と根拠をまとめた一覧表は第6章に掲載しています。
2. 私道の評価(財産評価基本通達24)
2-1. 通達の構造
財産評価基本通達24は、私道の用に供されている宅地について次のように定めています。
- 前段 … 評基通11から21-2までにより計算した価額の 100分の30 で評価する
- 後段 … その私道が不特定多数の者の通行の用に供されているときは、その私道の価額は評価しない
つまり、評基通24の適用対象となる私道供用宅地は、その内部で「30%評価」か「0円評価」かに分かれ、その分岐点は不特定多数の者の通行の用に供されているかどうかです。
この二択は、あくまで評基通24の対象となる私道の中での話である点に注意してください。後述する自分専用の通路(旗竿地の竿部分)は、そもそも評基通24にいう「私道」に当たりませんので、この二択の外側にあります。
2-2. 「不特定多数の者の通行の用に供されている私道」の3類型
国税庁の質疑応答事例では、次の3つが例示されています。
イ 通り抜け私道 公道から公道へ通り抜けできる私道。最も典型的な0円評価のパターンです。
ロ 公共施設等に通じる私道 行き止まりであっても、その私道を通行して不特定多数の者が地域の集会所、地域センター、公園などの公共施設や商店街等に出入りしている場合。
行き止まり=30%と機械的に判断してしまう誤りが最も多い箇所です。私道の先に神社、墓地、公園、集会所、河川管理道路などがないか、必ず現地と住宅地図で確認してください。
ハ バスの転回場・停留所がある私道 私道の一部に公共バスの転回場や停留所が設けられ、不特定多数の者が利用している場合。
2-3. 30%評価になる場合
上記に該当しない行き止まり私道は、自用地価額の30%で評価します。共有私道の場合は、30%評価額に持分割合を乗じます。
相互持合型(各自が細長い土地を分筆所有し、互いに通行を認め合う形態)を「自己所有部分だから100%評価」と誤らないよう注意が必要です。
2-4. 私道に該当せず、奥の宅地と一体で評価する場合
自分の家に入るためだけの通路は、私道ではありません。
道路から細い通路が奥に伸び、その先に敷地が広がっている土地を「旗竿地(はたざおち)」と呼びます。上から見た形が、旗を掲げた竿に似ていることからこの名前がついています。この竿にあたる細長い通路部分が「路地状敷地」です。
この通路を通るのは、そこに住んでいるご家族と来訪者だけです。他人が通り抜けることはありません。自分専用の出入口にすぎませんから、道路として他人に使わせている私道とは性質が異なります。
したがって、竿の部分だけを取り出して30%に減額することはできず、奥の敷地と合わせて、利用の単位となっている1画地の宅地として通常どおり評価します(評基通7-2)。
宅地の評価単位は、登記の筆数ではなく「利用の単位となっている1画地」で判定します。登記簿上で竿の部分が別の地番に分かれていても、結論は変わりません。登記の形ではなく、実際に誰が通っているかで判断します。
なお、竿の部分が細長いことで敷地全体が使いにくくなっている点は、不整形地補正(評基通20)や間口狭小補正・奥行長大補正で評価額に反映されます。減額がまったくないわけではありません。
図1 私道の評価区分4パターン

2-5. 30%評価の計算で最も多いミス
自用地価額を算出する段階で、間口狭小補正・奥行長大補正・不整形地補正を適用してから30%を乗じます。私道は細長い形状が通常ですから、これらの補正の適用漏れは評価額に直結します。
路線価が付されていない場合は、特定路線価の設定申出(評基通14-3)を検討します。
2-6. 判定の基礎となった最高裁判決
最高裁平成29年2月28日判決は、私道供用宅地の減額の要否および程度について、その宅地の位置関係、形状等、道路としての利用状況、これらの事情に基づく建築基準法等の法令上の制約の有無等を総合考慮して決すべきであると判示しました。
原審が「建築基準法上のセットバックの対象ではないから減額不要」とした形式的判断を破棄したもので、公図上の分筆状況ではなく現地の利用実態で判断するという現在の実務の基礎となっています。
3. セットバック部分の評価
建築基準法42条2項道路(幅員4m未満のいわゆる2項道路)に面する宅地では、建替えの際に道路中心線から2mまで後退する必要があります。この後退部分の評価は、未了か済みかで根拠条項が変わります。
3-1. セットバック未了の場合(評基通24-6)
まだ後退しておらず、現況が宅地の一部として使われている部分については、財産評価基本通達24-6「セットバックを必要とする宅地の評価」が適用されます。
控除割合 = 道路敷きとして提供する部分の地積 ÷ 宅地の総地積 × 0.7
評価額 = 提供不要とした場合の価額 −(その価額 × 控除割合)
ひとつの式にまとめると次のとおりです。
評価額 = 提供不要とした場合の価額 ×(1 − 後退部分の地積 ÷ 宅地の総地積 × 0.7)
後退必要部分に対応する価額について、70%相当額を控除する計算です。宅地全体を一律30%評価するものではありません。 全体に0.7を掛けてしまう誤りが散見されます。
計算例
- 宅地の総地積 200㎡、うち後退部分 10㎡
- 提供不要とした場合の自用地価額 40,000,000円
控除割合 = 10㎡ ÷ 200㎡ × 0.7 = 0.035 控除額 = 40,000,000円 × 0.035 = 1,400,000円 評価額 = 38,600,000円
3-2. セットバック済みの場合(評基通24)
すでに後退し、現に道路として提供している部分については、評基通24-6ではなく、評基通24の私道評価を検討します。
判定は、私道と同じ基準によります。
- その部分が不特定多数の者の通行の用に供されている場合 → 評価しません(0円)
- 専ら特定の者の通行に供されている場合 → 原則として30%評価
2項道路であれば当然に0円になるわけではありません。2項道路にも行き止まりの道路は存在します。 通り抜けの可否、公共施設へのアクセスの有無、バス停留所等の状況を、第2章の基準に沿って個別に確認してください。
24-6と24を重ねて適用することはできません。
図2 セットバック未了と提供済みの評価の違い

3-3. 判定の基準時
未了か済みかは、相続開始時の現況で判断します。相続開始後に建替えでセットバックした場合でも、開始時に未了であれば24-6の適用です。
相続開始時点の写真、住宅地図、Googleストリートビューの撮影年月などを証拠として保存しておくことをお勧めします。
3-4. 中心線の確定が出発点
道路中心線が不明確では、後退部分の地積が確定しません。次の資料で確認します。
- 市町村の道路台帳
- 狭あい道路整備要綱に基づく後退指導図面
- 建築確認申請書の配置図
3-5. 一方後退のケース
道路の片側が崖地、河川、線路敷その他これらに類する状況にあり、建築基準法42条2項ただし書による一方後退の扱いとなる場合には、原則として当該側の道路境界線から水平距離4mの線が道路境界線とみなされます。この場合、後退は自己の側から一方的に行うことになります。
ただし、一方後退の可否および後退線の位置は、道路種別、現況、行政庁の取扱いおよび建築確認上の判断により確認します。 道路台帳、指定道路図、狭あい道路協議図面、過去の建築確認資料等で必ず確認してください。
同じ現況幅員で比較すると、一方後退の場合の後退幅は中心後退の場合の2倍となります。
現況幅員 2.0m の場合
中心後退 :(4.0m − 2.0m)÷ 2 = 1.0m
一方後退 : 4.0m − 2.0m = 2.0m
間口が同じであれば後退面積も2倍となり、控除額に直結します。道路の反対側の状況は図面では判別できませんので、現地確認が不可欠です。
3-6. 24-6が適用できないケース
建築基準法43条2項2号(旧43条ただし書)の許可を前提とする敷地は、42条2項道路に面する宅地ではないため、評基通24-6の適用対象とはなりません。
接道状況による利用制限が評価額に及ぼす影響については、その制限の内容や市場性を踏まえ、個別に検討する必要があります。
4. 歩道状空地の評価
4-1. 国税庁質疑応答事例の内容
マンションやアパートの敷地のうち、道路に沿って歩道状に整備されている部分について、国税庁は質疑応答事例「歩道状空地の用に供されている宅地の評価」を公表しています。
歩道状空地の用に供されている宅地が、法令上の制約の有無のみならず、その宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、客観的交換価値に低下が認められる場合には、評基通24に基づき評価するとされています。
4-2. 判定は2段階|「24を適用するか」と「0円か」は別問題
歩道状空地は、3要件を満たせば直ちに0円になるわけではありません。 判定は次の2段階です。
第1段階:評基通24を適用して評価する対象か
単に歩道のように舗装されているというだけで評基通24が適用されるものではありません。法令上の制約の有無、土地の位置・形状、道路としての利用状況、道路以外の用途への転用の難易等に照らして、客観的交換価値の低下が認められるかを総合判断します。
国税庁は、その典型例として次の3つを満たすものを挙げています。
① 都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、地方公共団体の指導要綱等を踏まえた行政指導によって整備されたものであること ② 道路に沿って、歩道としてインターロッキングなどの舗装が施されたものであること ③ 居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていること
第2段階:不特定多数の者の通行の用に供されているか
第1段階をクリアして評基通24の適用対象となったうえで、その歩道状空地が不特定多数の者の通行の用に供されている場合に、その価額を評価しません。
そうでない場合は、私道と同じく30%評価となります。第2章の判定基準がそのまま当てはまります。
なお、舗装の有無だけで機械的に判定するものではありません。 上記②はあくまで典型例の記述であり、最終的には第1段階の総合判断によります。
4-3. 従来の課税実務と最高裁判決
従来の取扱い
国税庁が公表した情報「財産評価基本通達24における『歩道状空地』の用に供されている宅地の取扱いについて」によれば、従来は、評価通達24に定める「私道」について、道路としての利用状況や、所有者が自己の意思によって自由に使用・収益をすることに制約が存すること等の事実関係に照らして判断していました。
その結果、歩道状空地の用に供されている宅地について、建物の敷地の一部として、評価通達24を適用せずに評価していた事例があったとされています。
最高裁平成29年2月28日判決の判示事項
最高裁は、私道供用宅地について客観的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を、建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はないとしたうえで、減額の要否および程度は次の要素を考慮して決定する必要があると判示しました。
- 私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無
- 当該宅地の位置関係、形状等
- 道路としての利用状況
- これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易
事案へのあてはめ
最高裁が減額を認めるべきとした具体的な事実関係は、次のとおりです。判定の実務では、この4点を自らの案件に当てはめて検討することになります。
- 車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されていること
- いずれも相応の面積があること
- 共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていること
- 共同住宅を建築する際、開発行為の許可を受けるために市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったものであり、共同住宅が存在する限りにおいて、道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難いこと
さらに最高裁は、共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、そのことから直ちに減額して評価をする必要がないということはできないとしています。
従来の課税実務では「所有者が自らの選択で制約を受け入れた」ことを減額否定の根拠としていましたが、この論拠が明確に否定された点が実務上の転換点です。
4-4. 【最重要】公開空地との違い
見た目が同じような歩道状の空地でも、根拠となる制度によって結論が正反対になります。
| 区分 | 根拠制度 | 相続税評価 |
|---|---|---|
| 歩道状空地 | 都市計画法の開発許可+地方公共団体の指導要綱 | 評基通24で評価。不特定多数の通行に供されれば0円、そうでなければ30% |
| 公開空地 | 建築基準法59条の2 総合設計制度(容積率の割増し) | 建物の敷地として評価(減額なし) |
国税庁の質疑応答事例「公開空地のある宅地の評価」は、公開空地について建物の敷地として評価するとしています。総合設計制度では、建物の敷地内に日常一般に公開する一定の空地を有するなどの基準に適合して許可を受けることにより、容積率や建物の高さに係る規制の緩和を受けることができるところ、この制度によって設けられた公開空地は、建物を建てるために必要な敷地を構成するものだからです。
(参考:国税庁「公開空地のある宅地の評価」)
つまり、**「容積率割増の対価だから減額しない」のではなく、「建物の敷地そのものだから減額しない」**という整理です。
両者は外観が似ているため、許可の根拠を書面で確認することが唯一の確実な判別方法です。開発許可書と建築確認関係書類を取り寄せ、総合設計制度による許可の有無を確認してください。
図3 歩道状空地と公開空地の評価の違い

4-5. 確認すべき資料
- 開発許可書・開発行為許可申請書(都市計画法29条)と添付の土地利用計画図
- 当該市区町村の開発指導要綱・宅地開発等指導要綱の該当条文
- 総合設計制度による許可(建築基準法59条の2)の有無 ← これがあれば公開空地であり減額不可
- 建築確認申請書の配置図
- 公共施設等の管理協定書
4-6. 現地で確認すべき事項
- 舗装形状(インターロッキング、点字ブロック、街灯、植栽)
- 道路に沿って連続的に設置されているか
- 門扉、チェーン、「関係者以外立入禁止」表示の有無 ← 第三者の自由な通行が制限されていれば要件を満たしません
- 敷地内通路(エントランスへのアプローチ)との区別 ← 居住者専用の通路は歩道状空地に該当せず、宅地と一体評価です
4-7. 過去の申告を見直せる可能性があります
国税庁は前記の情報において、この取扱いは過去に遡って適用されることを明記しています。
法定申告期限から原則5年以内であり、歩道状空地部分について評基通24の適用が認められる場合には、更正の請求により納め過ぎた税額の還付を受けられる可能性があります。
該当する可能性が高いケース
- 賃貸マンション・アパートの敷地を、歩道状空地部分も含めて貸家建付地として一体評価して申告している
- 開発許可を受けて建築された共同住宅で、道路沿いにインターロッキング舗装等の歩道状の部分がある
- その部分を居住者以外の第三者が自由に通行している
平成29年以前の申告を含め、申告時に歩道状空地の存在や利用実態の検討が漏れていた案件では、申告期限との関係を確認したうえで見直しの対象となる可能性があります。マンション敷地の相続税申告では、この検討が漏れているケースが少なくありません。
期限にご注意ください
更正の請求は、原則として、その相続税または贈与税の法定申告期限から5年以内に行います(国税通則法23条1項)。相続税の法定申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月です。
なお国税庁の情報には、法定申告期限等から既に5年(贈与税の場合は6年)を経過しているものについては法令上減額できない旨の記載があります。この「贈与税6年」は、税務署長が減額更正をできる期間(除斥期間)に関する記述であり、納税者が行う更正の請求の期間そのものは、相続税・贈与税とも原則5年とお考えください。
ただし、申告時期、申告内容、取扱い変更の経緯および国税通則法上の特例的な請求事由の有無によって期限判定が異なる場合があります。過年度申告を見直す際は、申告書控え、申告年月日および法定申告期限を確認したうえで、個別に期限を判定してください。
更正の請求にあたっては、開発許可書、指導要綱、現況写真、公図・測量図など、評基通24の適用対象であることを示す資料の添付が重要になります。
5. 分譲地に残された私道 ― 評基通24とは別に客観的交換価値を検討する場面
5-1. 検討の枠組み
分譲業者の所有に残る私道については、評基通24の定型的な処理とは別に、課税時期における客観的交換価値が認められるかを個別に検討すべき場合があります。
具体的には、次のような事情を確認します。
- 利用者・隣接地所有者への有償譲渡の可能性
- 通行利用の対価または設備設置料等の収益可能性
- 分譲契約・通行承諾の内容
- 接道要件を満たすための取得需要の有無
- 第三者への処分可能性
5-2. 評価額を0円とする場合の考え方
有償譲渡や対価収受の可能性がないことは、財産価値が乏しいと評価するための重要な事情となり得ます。しかし、それだけで当然に評価額を0円とできるものではありません。
評基通24は、私道を原則30%評価とし、不特定多数の者の通行に供されるときに限って「評価しない」と定めています。分譲地に残る私道について客観的交換価値がない、または極めて乏しいと主張する余地は個別事情次第で検討され得ますが、通達外の一般ルールとして0円評価が可能というものではありません。
評価額0円を採用する場合は、根拠となる裁決・判決・税務当局との照会回答等を確認し、具体的な事実関係と立証資料を評価明細書に明記する必要があります。
5-3. 交換価値が認められる方向に働く事実
次のような事実があれば、財産価値が乏しいとはいえず、0円評価は困難になります。
- 隣接地所有者から接道要件を満たすための買い増し需要がある(位置指定道路の一部を売却した実例がある地域)
- 電柱・変圧器の設置料、地下埋設物の使用料、看板・自動販売機の設置料を収受している
- 分譲時の契約において、業者が対価性を留保している
収益可能性がないことは消極的事実の立証となるため、決算書の雑収入内訳、電力会社・通信事業者との契約の有無を確認し、調書として残しておく必要があります。
5-4. 分譲会社の株式評価における取扱い
被相続人が分譲会社の株式を保有し、その会社の棚卸資産に私道が残っているケースがあります。
評基通185は、純資産価額の計算において「課税時期における各資産を評価通達により評価した価額」の合計によるものとしています。したがって、法人が保有する資産も個人が保有する場合と同じ物差しで評価します。
評基通132・133(販売用不動産の評価)は、販売が予定されている資産を前提とした規定です。分譲済みの地域に道路として残り、販売の対象から外れている私道は、勘定科目が棚卸資産であっても実質は販売用不動産ではありません。会計上の表示区分が相続税評価の方法を決めるわけではないと考えられます。
現場ごとの判定が必要
分譲会社は複数の現場を保有していることが多く、現場ごとに事情が異なります。ある現場は通り抜けで24後段により0円、別の現場は行き止まりで30%評価、さらに別の現場は隣接地所有者への売却実績があり通常の交換価値が認められる、ということが起こり得ます。一括処理せず、現場ごとに判定して評価明細に根拠を残すことが重要です。
帳簿価額との差額
相続税評価額が帳簿価額を下回れば、評価差額はマイナスになります。道路築造費を私道の取得原価に配賦している場合、簿価が相応の金額になっていることがあり、純資産価額を押し下げる要素として無視できません。
5-5. 分譲会社を解散する場合、残った私道はどうするのか
評価額が0円であっても所有権が消滅するわけではありません。会社を清算する場合には、会社名義のまま残さず、分譲地所有者への無償移転や地方公共団体への寄附等を検討する必要があります。
6. 評価割合の比較一覧
| 区分 | 具体例 | 評価額 | 根拠・要件 |
|---|---|---|---|
| 0円 | 通り抜け私道 | 評価しない | 評基通24後段。不特定多数の者の通行の用に供される |
| 0円 | 公共施設・商店街等に通じる私道 | 評価しない | 評基通24後段。不特定多数の実際の利用状況を確認 |
| 0円 | バス転回場・停留所のある私道 | 評価しない | 評基通24後段。不特定多数の利用実態を確認 |
| 0円 | セットバック済み部分 | 評価しない | 評基通24後段。不特定多数の者の通行の用に供される場合 |
| 0円 | 歩道状空地 | 評価しない | 国税庁質疑応答事例・評基通24後段。評基通24の適用対象となり、かつ不特定多数の通行に供される場合 |
| 個別検討 | 分譲地に残された私道 | 客観的交換価値を個別に判定 | 評基通24の明文外。譲渡可能性・収益可能性・通行制約・契約内容等を含む具体的事実により検討 |
| 30% | 行き止まり私道 | 自用地価額×30% | 評基通24前段。専ら特定者の通行の用に供される場合 |
| 30% | 共有私道 | 自用地価額×30%×持分 | 評基通24前段 |
| 30% | セットバック済み部分 | 自用地価額×30% | 現に道路供用されても、専ら特定者の通行用である場合 |
| 30% | 歩道状空地 | 自用地価額×30% | 国税庁質疑応答事例・評基通24前段。評基通24の適用対象でも、不特定多数供用に至らなければ30%評価 |
| 24-6による減額 | セットバック未了部分 | 後退必要部分に対応する価額の70%を控除 | 評基通24-6 |
| 一体評価 | 旗竿地の竿部分 | 奥の宅地と一体 | 評基通7-2。専用通路であり私道評価の対象外 |
| 一体評価 | 公開空地 | 建物敷地として評価 | 総合設計制度により設けられた公開空地 |
同じ「セットバック済み部分」「歩道状空地」が0円の行と30%の行の両方に現れている点にご注目ください。 類型で決まるのではなく、不特定多数の通行の有無という利用実態で分岐します。
7. 見落としやすい実務上の注意点
7-1. 固定資産税の非課税とは別問題
固定資産税で公衆用道路として非課税(地方税法348条2項5号)であっても、相続税評価が自動的に0円になるわけではありません。 行き止まり私道は非課税でも30%評価です。
相続人の方への説明で最も誤解が生じやすい箇所ですので、丁寧な説明が必要です。
7-2. 小規模宅地等の特例との関係
私道部分に小規模宅地等の特例を適用できるかは、私道の所有関係、利用形態、主たる宅地との機能的一体性および租税特別措置法上の要件を踏まえ、個別に判定します。
私道が評基通24により30%評価となることだけで、当然に主たる宅地と同じ区分の特例対象となるわけではありません。
特例適用の可否と限度面積の判定は、土地ごとの利用区分、評価単位および取得者ごとの取得・保有要件を含めて確認してください。
なお、評価額が0円となる私道については、特例を適用する実益がありません。セットバック未了部分については、後退部分も宅地の地積に算入されます。
7-3. 地積規模の大きな宅地(評基通20-2)との関係
私道部分を別の評価単位とするかは、有利・不利によって選択するものではなく、評基通7-2に基づき、利用の単位となっている1画地の宅地ごとに判定します。
私道が独立した評価単位となる場合には、主たる宅地の評価単位の地積から当該私道部分を除いて、地積規模の大きな宅地の地積要件を判定します。その結果、**三大都市圏では500㎡、それ以外の地域では1,000㎡**の基準を下回ることがあります。
したがって、評価単位の判定過程を明確に記録したうえで、地積規模の大きな宅地の適用可否を検証してください。
セットバック未了部分は、同一画地内にある限り、総地積に含めて判定します。なお、セットバック未了部分については、地積規模の大きな宅地の評価を適用した自用地価額から、評基通24-6の控除計算を行うという順序になります。
7-4. 隅切り部分
隅切りには、建築基準法42条2項道路のセットバックに伴うもののほか、開発許可、位置指定道路、条例・要綱、任意協力によるものなど、複数の根拠があります。
42条2項道路のセットバックとして必要となる部分であれば、評基通24-6の適用を検討します。
一方、開発許可、位置指定道路、条例・要綱または任意提供に基づく隅切りは、当該制度上の制約、相続開始時の供用状況および不特定多数の通行供用の有無を踏まえ、評基通24その他の取扱いを個別に検討します。
7-5. 過年度申告の見直し
歩道状空地について貸家建付地として申告していた案件は、更正の請求により還付を受けられる可能性があります。詳細は前記4-7をご覧ください。
セットバック部分や私道の判定誤りについても同様に、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求の対象となります。相続税申告を他の税理士に依頼された方でも、申告書と土地評価明細書をお持ちいただければ検証は可能です。
8. 実務チェックリスト
案件ごとに、次の項目を確認してください。
現況の証拠化
- [ ] 相続開始日時点の現況写真、航空写真、ストリートビューの撮影時期
- [ ] 車止め、門扉、チェーン、通行禁止表示その他の利用制限の有無
公的資料
- [ ] 公図、地積測量図、登記事項証明書
- [ ] 道路台帳、指定道路図
- [ ] 建築基準法42条2項道路か、位置指定道路か、単なる私道か
不特定多数の通行の判定
- [ ] 公道への通り抜けの有無
- [ ] 行き止まりの先に公園、集会所、墓地、河川敷、商店街、バス停等があるか
歩道状空地・公開空地の判定
- [ ] 開発許可書、土地利用計画図、行政指導文書、管理協定
- [ ] 総合設計制度による許可の有無(公開空地であれば建物の敷地として評価)
セットバックの判定
- [ ] セットバック未了か提供済みか(相続開始時の現況)
- [ ] 未了なら、相続開始時の道路幅員・中心線・一方後退該当性
評価額の算定
- [ ] 30%評価の場合、私道でないものとして算定した自用地価額に画地調整を適切に反映しているか
- [ ] 評価単位を評基通7-2により判定し、その過程を記録しているか
- [ ] 評価単位確定後の地積で、地積規模の大きな宅地の要件(三大都市圏500㎡、その他1,000㎡)を判定しているか
9. まとめ
相続税評価の判定は、次の順序で行うと整理しやすくなります。
- 自分専用の通路か(旗竿地の竿部分など、他人が通らない出入口か) → はい:奥の宅地と合わせて1画地として評価
- 公開空地か(総合設計制度による許可を受けているか) → はい:建物の敷地として評価
- 評基通24を適用して評価する対象か(私道、セットバック済み部分、歩道状空地) → いいえなら通常の宅地評価
- 24の対象であれば、不特定多数の者の通行の用に供されているか → はい:評価しない(0円) / いいえ:自用地価額×30%
- セットバック未了部分があれば、別途評基通24-6による減額を適用
図4 私道評価の判定フロー

これとは別に、分譲地に残された私道については、客観的交換価値を個別に検討すべき場合があります(第5章)。
評基通24の適用対象となる私道、供用済みセットバック部分および歩道状空地について、0円評価の中核となるのは「不特定多数の者の通行の用に供されているか」という利用実態です。 通り抜けの有無やセットバックの完了は、それ自体が結論を決めるものではありません。
分譲地に残された私道は、これとは別に客観的交換価値を個別に検討します。
判断の分かれ目はいずれも現地の利用実態にあります。公図や登記簿だけで判定せず、現地確認と行政資料の突合を行うことが、適正な評価と税務調査対応の両面で重要です。
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本記事は令和8年8月時点の法令・通達等に基づいて作成しています。個別具体的な事案への適用については、必ず税理士にご相談ください。








