結論
阪神土建などの組合員が加入する兵庫県建設国民健康保険組合(兵庫建設国保)は、法人成り後に継続しても、役員報酬が高いほど協会けんぽより有利になります。役員報酬が月30万円では、継続したほうが高くつきます。役員報酬が月額30万円・60万円・90万円の場合を、協会けんぽ(兵庫支部)と比べました(令和8年度、本人・配偶者・子1人、40歳未満)。
- 月額30万円:建設国保は月43,800円。協会けんぽは本人負担15,525円(会社負担を足すと31,050円)。
- 月額60万円:建設国保は月43,800円。協会けんぽは本人負担30,532円(会社負担を足すと61,065円)。
- 月額90万円:建設国保は月43,800円。協会けんぽは本人負担45,540円(会社負担を足すと91,080円)。
建設国保の法人事業主の保険料は、報酬に関係なく43,800円で同じです。協会けんぽは報酬に比例して増え、会社が半分を負担します。そのため、会社負担まで含めた合計では、報酬60万円以上で建設国保が有利になります。従業員が5名・10名いる会社の比較も、後半に載せました。
会社負担を含めると、本人・配偶者・子1人(40歳未満)の場合、役員報酬が月約42.3万円を超えると建設国保が有利になります。この分岐点は保険料率から求めた理論値で、実際の協会けんぽの標準報酬月額の等級とは一致しない場合があります。後半の「損益分岐点」の節で家族構成別に示しています。
前提条件と、継続するための手続き
兵庫建設国保は、兵庫県建設労働組合連合会の傘下の労働組合(阪神土建労働組合、神戸土木建築労働組合、兵庫県土建一般労働組合など)の組合員が加入できる健康保険です。保険料のほかに、労働組合へ納める組合費等が別途必要です。
試算の前提は次のとおりです。
- 阪神土建労働組合の保険料シミュレーション(令和8年度)の区分別の金額を使います。法人事業主は「特別第4種」(年齢を問わず本人分32,600円)です。
- 家族の保険料は1人5,100円(未就学児は4,100円)です。
- 子ども・子育て支援金は、18歳〜74歳の本人と家族1人につき500円です。18歳未満の子にはかかりません。
- 介護保険料は、40〜64歳の本人が4,000円、40〜64歳の家族が1人2,500円です。
- 組合費等は金額が分からないため、試算に含めていません。
- 「継続しない場合」は、法人成り後に協会けんぽ(兵庫支部)へ加入するケースです。
- 家族は、本人、配偶者(収入130万円未満)、子1人(18歳未満の就学児)です。協会けんぽでは配偶者と子は被扶養者で、保険料はかかりません。
- 協会けんぽの保険料率は、兵庫県10.12%、子ども・子育て支援金0.23%、介護保険1.62%(40〜64歳)です。本人負担は折半です。
- 協会けんぽの標準報酬月額は、月額30万円が300,000円、60万円が590,000円、90万円が880,000円です。賞与は考えません。
- 厚生年金は、継続する場合も継続しない場合も加入するため、比較から除きました。
建設国保の継続は、個人事業主のときから加入していることが前提です。阪神土建の資料では、株式会社などの法人事業所や、すでに協会けんぽの適用を受けている事業所は、建設国保に新規加入できないとされています。
継続するには、法人設立などの事実が発生した日から14日以内に、年金事務所へ「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を提出します(日本年金機構の案内)。この手続きは兵庫建設国保でも同じです。法人化を検討する段階で、組合に相談してください。令和9年4月1日からは、承認を要しない申出方式に変わります(厚生労働省)。申出の期限など新制度の具体的な取扱いは、施行前に最新の情報を確認してください。
役員の比較表:本人・配偶者・子1人(40歳未満)
建設国保の月額は、本人32,600円、配偶者5,100円、子5,100円に、本人と配偶者の子ども・子育て支援金500円ずつを加えた合計43,800円です。報酬が3倍になっても変わりません。協会けんぽは標準報酬月額に比例して増えます。
| 月額報酬 | 協会けんぽ 本人 | 協会けんぽ 会社 | 協会けんぽ 合計 | 建設国保(本人全額) |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 15,525円 | 15,525円 | 31,050円 | 43,800円 |
| 60万円 | 30,532円 | 30,533円 | 61,065円 | 43,800円 |
| 90万円 | 45,540円 | 45,540円 | 91,080円 | 43,800円 |
建設国保との差(建設国保-協会けんぽ)は次のとおりです。プラスは建設国保のほうが高く、マイナスは安いことを示します。
| 月額報酬 | 本人負担との差(月) | 合計との差(月) | 合計との差(年) |
|---|---|---|---|
| 30万円 | +28,275円 | +12,750円 | +153,000円 |
| 60万円 | +13,268円 | -17,265円 | -207,180円 |
| 90万円 | -1,740円 | -47,280円 | -567,360円 |
役員の比較表:本人・配偶者がともに40歳以上、子1人
40歳から64歳までは介護保険料が加わります。建設国保は本人4,000円と配偶者2,500円が加わり、月額は合計50,300円です。協会けんぽは被保険者本人だけが介護保険料を負担し、被扶養者の配偶者には保険料がかかりません。
| 月額報酬 | 協会けんぽ 本人 | 協会けんぽ 会社 | 協会けんぽ 合計 | 建設国保(本人全額) |
|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 17,955円 | 17,955円 | 35,910円 | 50,300円 |
| 60万円 | 35,311円 | 35,312円 | 70,623円 | 50,300円 |
| 90万円 | 52,668円 | 52,668円 | 105,336円 | 50,300円 |
建設国保との差(建設国保-協会けんぽ)は次のとおりです。
| 月額報酬 | 本人負担との差(月) | 合計との差(月) | 合計との差(年) |
|---|---|---|---|
| 30万円 | +32,345円 | +14,390円 | +172,680円 |
| 60万円 | +14,989円 | -20,323円 | -243,876円 |
| 90万円 | -2,368円 | -55,036円 | -660,432円 |
読み方は次の3点です。
- 本人の負担だけを見ると、報酬30万円・60万円は協会けんぽのほうが安く、90万円は建設国保が月1,700〜2,400円ほど安くなります。
- 会社負担を含めた合計では、報酬30万円は協会けんぽ、60万円以上は建設国保が有利です。
- 家族が1人増えるごとに、建設国保は月5,100円増えます(未就学児は4,100円)。18歳以上の家族には支援金500円、40歳以上の家族には介護保険料2,500円がさらに加わります。協会けんぽの被扶養者は0円です。
損益分岐点:役員報酬がいくらから建設国保が有利か
建設国保の保険料は固定額で、協会けんぽは報酬に比例する保険料率です。そこで、協会けんぽの保険料(本人+会社)が建設国保の固定額と等しくなる役員報酬を求めました。算式は次のとおりです。
分岐点の報酬(標準報酬月額)= 建設国保の月額 ÷ 協会けんぽの保険料率
保険料率は、40歳未満が10.35%(本人5.175%+会社5.175%)、40歳以上が11.97%(介護保険料率1.62%を含む)です。本人負担だけで比べる場合は、保険料率が半分になるため、分岐点は2倍になります。
40歳未満(兵庫建設国保の特別第4種+家族)
| 家族構成 | 建設国保の月額 | 分岐点(会社負担を含む) | 分岐点(本人負担のみ) |
|---|---|---|---|
| 本人のみ | 33,100円 | 約32.0万円 | 約64.0万円 |
| 本人+配偶者 | 38,700円 | 約37.4万円 | 約74.8万円 |
| 本人+配偶者+子1人 | 43,800円 | 約42.3万円 | 約84.6万円 |
40〜64歳(本人・配偶者ともに40〜64歳)
| 家族構成 | 建設国保の月額 | 分岐点(会社負担を含む) | 分岐点(本人負担のみ) |
|---|---|---|---|
| 本人のみ | 37,100円 | 約31.0万円 | 約62.0万円 |
| 本人+配偶者 | 45,200円 | 約37.8万円 | 約75.5万円 |
| 本人+配偶者+子1人 | 50,300円 | 約42.0万円 | 約84.0万円 |
読み方は次の3点です。
- 役員報酬が「会社負担を含む」分岐点を超えると、会社と本人の合計で建設国保が有利になります。家族が少ないほど分岐点は低くなります。
- 本人の負担だけで見ると、分岐点は約62万〜85万円まで上がります。会社の負担を考えずに本人の手取りだけで判断すると、建設国保が有利になる報酬は高くなります。
- 労働組合の組合費等が月3,000円かかる場合、分岐点は約2.9万円上がります。協会けんぽの標準報酬月額は等級刻みのため、分岐点は目安です。
従業員5名・10名の会社の負担比較
従業員が全員、建設国保(適用除外)に加入した場合と、協会けんぽに加入した場合を比べます。建設国保は本人が全額を負担するため、会社の負担は0円になります。その分、従業員本人の負担が増えます。
前提は、従業員が独身で30歳以上40歳未満(特別第3種21,100円に子ども・子育て支援金500円を加えた月21,600円)、賞与なし、役員は含めない、です。協会けんぽの標準報酬月額は、月給20万円が200,000円、25万円が260,000円、30万円が300,000円です。
1人あたりの月額は次のとおりです。
| 従業員の月給 | 協会けんぽ 本人 | 協会けんぽ 会社 | 建設国保(本人全額) |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 10,350円 | 10,350円 | 21,600円 |
| 25万円 | 13,455円 | 13,455円 | 21,600円 |
| 30万円 | 15,525円 | 15,525円 | 21,600円 |
建設国保にすると、会社の負担は次の金額だけ減ります(協会けんぽの会社負担の年額)。
| 従業員の月給 | 5名(年) | 10名(年) |
|---|---|---|
| 20万円 | 621,000円 | 1,242,000円 |
| 25万円 | 807,300円 | 1,614,600円 |
| 30万円 | 931,500円 | 1,863,000円 |
従業員本人の負担増を含めた「会社と本人の合計」の差(建設国保-協会けんぽ)は次のとおりです。マイナスは建設国保のほうが安いことを示します。
| 従業員の月給 | 本人の負担増(1人・月) | 合計の差(1人・月) | 合計の差(5名・年) | 合計の差(10名・年) |
|---|---|---|---|---|
| 20万円 | +11,250円 | +900円 | +54,000円 | +108,000円 |
| 25万円 | +8,145円 | -5,310円 | -318,600円 | -637,200円 |
| 30万円 | +6,075円 | -9,450円 | -567,000円 | -1,134,000円 |
月給20万円の従業員では、会社と本人の合計はほぼ同額で、むしろ建設国保が少し高くなります。月給25万円以上になると、合計では建設国保が有利です(独身の従業員の場合、保険料率から求めた理論上の分岐点は標準報酬月額約20.9万円です。実際には標準報酬月額の等級によって負担額が決まります)。ただし、建設国保に加入すると会社の負担は減りますが、協会けんぽと比べて従業員本人の負担が増える場合があります。会社の負担減だけでなく、従業員の手取り額や福利厚生への影響も考慮する必要があります。従業員に配偶者や子がいる場合は、建設国保は1人につき月5,100円が加わり、さらに不利になります。協会けんぽの被扶養者は0円です。会社が保険料の一部を補助する場合は、会社の負担減は試算より小さくなります。
法人成り後に採用した従業員も、建設国保の適用除外を受けている法人であれば、組合の加入資格を満たす場合に加入できます(日本年金機構の案内)。ただし、従業員ごとに適用除外承認申請が必要です。阪神土建の保険料区分では、法人従業員(特別第3種)は30歳以上とされています。30歳未満の従業員を含め、実際の加入資格は組合に確認してください。
見落としやすい注意点
- 組合費等:建設国保の保険料のほかに、所属する労働組合へ納める組合費等が別途かかります。試算には含めていないため、実際の負担はその分増えます。
- 本人分の金額:本人分の基本保険料(特別第4種32,600円、特別第3種21,100円)は、公表時点の区分表の金額です。保険料は年度ごとに改定されるため、加入や手続きの前に、阪神土建のシミュレーションまたは支部で最新額を確認してください。
- 従業員の加入資格:適用除外を受けている法人では、新しく採用した従業員も、組合の資格を満たせば加入できる場合があります。従業員ごとに適用除外承認申請が必要です。阪神土建の区分では、法人従業員(特別第3種)は30歳以上とされています。
- 会社負担がゼロの意味:建設国保は組合員本人が全額を負担するため、会社に協会けんぽのような折半の負担義務はありません。会社が保険料の一部を補助する場合は、その分が会社の負担になり、本人への経済的利益としての課税関係も整理する必要があります。従業員の手取りや処遇への影響も、あわせて検討してください。
- 厚生年金は別:建設国保を継続しても、厚生年金は法人で加入します。適用除外になるのは健康保険だけです。
- 給付の違い:協会けんぽには傷病手当金・出産手当金があります。国保組合の現金給付は組合ごとに内容が異なるため、保険料だけで決めないでください。
- 資格の維持:建設工事業が主たる事業でなくなると、組合員資格を失う場合があります。取扱いは組合に確認が必要です。
- 制度改正:令和9年4月1日から、適用除外の手続きが承認を要しない申出方式に変わります(令和8年法律第31号)。申出の期限など、新制度の具体的な取扱いは、最新の情報を確認してください。
まとめ
建設国保を継続するかどうかは、役員報酬、家族の人数、従業員の有無、給付の4点で判断します。保険料だけを見ると、役員報酬が月60万円以上なら、会社負担を含めた合計で建設国保が有利です。30万円程度なら協会けんぽのほうが安くなります。従業員がいる場合は、会社負担が減る一方で、従業員本人の負担が増えることを踏まえて判断してください。法人成りの計画段階で、組合への相談と試算をおすすめします。
本記事の金額は、公表されている保険料と、記事内に示した前提による概算です。実際の保険料は、組合・年金事務所で確認してください。
法人成りと社会保険の選択についてのご相談は、税理士法人松野茂税理士事務所(TEL 06-6419-5140)までどうぞ。この記事が参考になれば幸いです。建設国保の加入条件や保険料など、組合に関するご質問は、各土建組合までお問い合わせください。








