税務調査のオンライン化が本格スタート|電子帳簿保存法・インボイス制度との関係も解説
〜 コロナが変えた税務調査の形 〜
国税庁は、令和7年11月に「税務行政におけるオンラインツールの利用に関するQ&A」を公表し、令和8年3月以降、金沢国税局・福岡国税局以外の国税局等でも順次オンラインツールの利用を開始する方針を示しています。
このQ&Aでは、オンラインツールの利用は税務調査・行政指導・滞納整理・査察調査等で必要に応じて行うとされており、全てがオンラインで完結するわけではなく、双方の合意と国税当局の判断が前提とされています。今回は、そのオンライン化の背景と実務上のポイントを対話形式でわかりやすく解説します。
目次
1.そもそも、なぜオンラインで税務調査ができるようになったのですか?
| スタッフ | 先生、税務調査といえば、調査官が会社に来るものとずっと思っていました。オンラインでできるようになったのはなぜですか? |
| 松野先生 | きっかけはコロナ禍です。2020年(令和2年)、感染拡大で調査官が事業所に訪問できない状況になりました。そこで、インターネット回線とオンライン会議システムを使ったリモート対応が事実上スタートしたのです。 |
| スタッフ | つまり、制度が先にあったのではなく、現実の必要性から始まったのですね。 |
| 松野先生 | そうです。実態が先で、制度整備は後追いでした。2021年6月に国税庁が「税務行政の将来像2.0」を公表し、『あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会』を目指すとして、中小法人にもオンライン調査を広げる方針を明示しました。そして2025年9月からは全法人・個人・全税目に拡大、令和8年3月以降は大阪国税局を含む全国で本格運用が始まります。 |
● オンライン税務調査の沿革
| 時期 | 内容 |
| 2020年(令和2年)〜 | コロナ禍を契機に大企業向けリモート調査が事実上スタート |
| 2021年(令和3年)6月 | 国税庁「税務行政の将来像2.0」公表。中小法人にも拡大方針を明示 |
| 2022年(令和4年)10月〜 | 特別国税調査官所掌法人(資本金約40億円以上)対象に国税局がリモート調査を本格実施 |
| 2025年(令和7年)9月〜 | 全法人・個人・全税目でオンライン調査を段階的拡大 |
| 2025年(令和7年)10月 | 金沢国税局・福岡国税局管内でGSSによるオンラインツール利用開始 |
| 2025年(令和7年)11月 | 国税庁がQ&A(全18問)を公表し本格化を宣言 |
| 2026年(令和8年)2月 | 国税庁「調査におけるオンラインツールの活用」資料を公表 |
| 2026年(令和8年)3月〜 | 大阪国税局管内を含む全国の国税局等で順次運用開始予定 |
2.国税庁が使うオンラインツールは何ですか?
| スタッフ | 具体的にどんなツールを使うのでしょうか? |
| 松野先生 | 令和7年9月以降、デジタル庁が提供するGSS(ガバメントソリューションサービス)という政府共通の業務環境を順次導入しています。そこで使われるのが次の4つのツールです。 |
| ツール | 用途 | 特記事項 |
| インターネットメール(Outlook) | 日程調整・資料依頼・連絡 | nta.go.jpドメインを受信可能に設定 |
| Web会議(Microsoft Teams) | 面談・質問検査 | 録音・録画・チャット禁止 |
| オンラインストレージ(PrimeDrive) | 大容量データの受渡し | ダウンロード後に国税側で削除 |
| アンケート作成ツール(Microsoft Forms) | 登録・意思確認フォーム | 国税庁HPに税務署ごとのフォームを掲載 |
| 松野先生 | メールとTeamsとPrimeDriveはセットで使うイメージです。まずメール登録をして、そのメールでTeamsのURLやPrimeDriveのリンクが送られてくる仕組みになっています。 |
3.利用手続きの流れを教えてください
| スタッフ | 実際に調査でオンラインツールを使うには、どんな手続きが必要ですか? |
| 松野先生 | まず大前提として、オンラインツールの利用は『税務署の担当者と利用者双方の合意』が必要です。どちらかが嫌なら使わなくてよい、という建てつけです。 |
| スタッフ | 強制ではないのですね。合意した場合の手順は? |
| 松野先生 | 実地調査の場合、事前通知後に口頭で意思確認が行われます。同意すれば、国税庁ホームページに掲載されている各税務署ごとのMicrosoft Formsフォームにアクセスして、メールアドレス等を登録します。その後、テストメールの送受信で疎通確認をして利用開始です。調査終了時にはメールの利用も終了します。 |
| スタッフ | 税理士と納税者、それぞれ別々に手続きが必要ですか? |
| 松野先生 | はい。双方が使う場合はそれぞれが登録する必要があります(問3)。また、以前の調査でTeamsを使ったことがあっても、別の調査では一から登録し直しです(問2)。調査ごとにリセットされる点は実務上注意が必要です。 |
| 【重要】登録に使うメールアドレスは原則1件(最大3件)。国税庁の専用アドレス(nta.go.jpドメイン)からのメールが受信できるよう、事前に設定確認が必要です。 |
4.Teamsによる面談で注意することは?
| スタッフ | Teams面談では何に気をつければいいですか? |
| 松野先生 | いくつか重要な制約があります。まず、録音・録画は禁止です。チャット機能も使えません。また、カメラをオンにして本人確認を行い、関与税理士以外の第三者の立ち会いは不可とされています。第三者が確認された場合は即座に会議中止となります。 |
| スタッフ | 従来の対面調査よりも厳しいですね。 |
| 松野先生 | そうですね。録音できないとなると、やり取りの記録・確認が難しくなります。重要な確認事項はその場でメモを取るなど、従来以上に注意が必要です。なお、利用者側からの画面共有(帳票を映すなど)は可能ですが、税務署側からの画面共有はできません。 |
5.臨場前にデータを提出させられた場合、調査開始日はいつですか?
| スタッフ | 臨場の前にPrimeDriveで帳簿データを提出するよう言われることもあるようですが、その場合、調査の開始日はいつになりますか? |
| 松野先生 | これは実務上とても重要なポイントです。国税庁のQ&A(問6)によると、臨場前にオンラインで帳簿等を提出させることは質問検査権の行使に該当しますが、実地の調査の開始には当たらないとされています。 |
| スタッフ | つまり、データを提出していても… |
| 松野先生 | 調査開始日はあくまで『事業所等に臨場する日』です。データを先に出したからといって調査期間のカウントが始まるわけではありません。顧問先にもこの点をきちんと説明しておく必要があります。 |
6.電子帳簿保存法との関係はどうなりますか?
| スタッフ | オンライン調査では帳簿データをPrimeDriveで提出することになりますが、電子帳簿保存法との関係はどう整理すればよいでしょうか? |
| 松野先生 | とても重要な視点です。電子帳簿保存法は、帳簿・書類を電子データで保存する場合のルールを定めた制度です。特に、メールで受け取った請求書やPDFの領収書などの電子取引データについては、原則として電子データのまま保存する必要があります。一方、今回のオンラインツールは、その保存された電子データを調査官に提出・共有するための手段です。両者は別々の制度ですが、実務上は密接に絡み合っています。 |
| スタッフ | 具体的にはどういう場面で絡み合うのでしょうか? |
| 松野先生 | たとえば、電子帳簿保存法に基づいてPDFや会計データで保存している場合、調査官からPrimeDriveへのアップロードを求められることがあります。電子データとして適切に保存されていれば、スムーズに対応できます。逆に、紙で保存しているものをスキャンして提出するといった手間も生じうる。電子保存への移行が進んでいる会社ほど、オンライン調査への対応もスムーズになるといえます。 |
| スタッフ | 電子帳簿保存法の対応が遅れている顧問先は、オンライン調査でも苦労する可能性があるということですね。 |
| 松野先生 | そのとおりです。また注意点として、電子帳簿保存法では、電磁的記録の真実性・可視性を確保するための要件(訂正削除履歴の確保、検索機能など)が定められています。PrimeDriveで提出したデータが、こうした要件を満たした形で保存されたものかどうかも確認が必要です。 |
| スタッフ | 提出後のデータはどうなりますか? |
| 松野先生 | PrimeDriveにアップロードしたデータは、国税当局がダウンロードした後に削除されます。提出した内容の事後確認ができないため、何を提出したか自分で記録しておくことが大切です。メールで添付したものは送信履歴で確認できますが、PrimeDriveの場合はその記録が残りません。 |
| 【ポイント】電子帳簿保存法への対応が進んでいる会社ほど、オンライン調査への対応もスムーズになります。会計データ・証憑のデジタル化は、DX推進と調査対応の両面で重要性が高まっています。 |
7.インボイス制度との関係と今後の展望
| スタッフ | インボイス制度(適格請求書等保存方式)との関係はどうでしょうか? |
| 松野先生 | これは将来を見据えた非常に重要な視点です。インボイス制度では、売手が発行する適格請求書(インボイス)を買手が保存することが、仕入税額控除の要件になっています。電子インボイスとして発行・受領・保存している場合、そのデータは消費税の調査において重要な確認対象になります。 |
| スタッフ | つまり、消費税の調査でインボイスデータの提出を求められる可能性があるということですか? |
| 松野先生 | 十分あり得ます。現時点では、調査官が事業所に臨場して帳簿・請求書の原本を確認するのが基本ですが、オンライン調査が普及すれば『PrimeDriveに適格請求書のデータをアップロードしてください』といった形で、請求書データの提出を求められる場面が増えていく可能性があります。 |
| スタッフ | 請求書が紙のまま保存されている会社は対応が大変そうですね。 |
| 松野先生 | そうです。紙のインボイスをスキャンして提出するのは相当な手間ですし、枚数が多ければ実質的に困難です。一方、電子インボイスをシステムで一元管理している会社なら、検索・抽出・提出がスムーズです。このことは、電子インボイスへの移行を早める動機の一つになると思います。 |
| スタッフ | 将来的にはどこまで進むと思われますか? |
| 松野先生 | 国税庁は、令和8年9月に国税システムの更改を予定しており、税務行政全体のデジタル化はさらに進んでいくと考えられます。すぐに電子インボイスのデータが国税側のシステムと直接連携されるわけではありませんが、将来的には、請求書データ・帳簿データ・申告データを横断的に確認する流れが強まっていく可能性があります。その意味で、インボイスの電子化は、単なる業務効率化にとどまらず、税務調査対応の観点からも避けては通れない課題になっていくでしょう。 |
| 【将来展望】電子インボイス・電子帳簿保存法・オンライン調査は、それぞれ別の制度・取組みですが、実務上は一体的に進んでいく流れにあります。請求書・帳簿のデジタル化が遅れている顧問先は、今後の税務調査対応でも不利になる可能性があります。早めの対応をお勧めします。 |
8.今後の展望と税理士として準備すべきこと
| スタッフ | 今後、オンライン調査はどのくらい広がっていくでしょうか? |
| 松野先生 | 現実的には当面、こういった段階で広がると思います。まずはメールによる日程調整・資料依頼が最初に普及しやすいでしょう。Teamsによる本格的な調査面談は、大企業・調査課所管法人から徐々に広がり、中小法人への浸透にはもう少し時間がかかるかもしれません。 |
| スタッフ | 事務所として準備しておくべきことはありますか? |
| 松野先生 | いくつかあります。まずMicrosoft Teamsが使える環境を整えておくこと。スマートフォンの場合は事前にアプリのダウンロードが必要です。次に、nta.go.jpからのメールが受信できるよう設定確認。そして顧問先への説明です。特に『録音できない』『第三者立ち会い不可』『調査ごとに再登録が必要』という点は顧問先が混乱しやすいので、事前の説明が大切です。 |
| 【まとめ】オンライン税務調査は、コロナ禍で始まったリモート対応が、国税庁のデジタル化の流れの中で、実務上の選択肢として定着しつつあるものです。令和8年3月以降、大阪国税局管内(尼崎税務署を含む)でも順次運用が始まる予定です。 今後は、税務署との連絡や資料提出だけでなく、電子帳簿保存法に基づく電子取引データ、インボイス制度に対応した請求書データ、会計ソフトの仕訳データなどを、調査時にどのように提示・提出できるかが重要になります。 「オンライン調査に対応する」ということは、単にTeamsを使えるようにすることではありません。日頃から、請求書・領収書・帳簿データを整理し、必要な資料をすぐに検索・提出できる状態にしておくことが、これからの税務調査対応ではますます重要になります。 |
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※本記事は令和8年2月現在の国税庁公表資料に基づく情報です。今後、取扱いが変更される可能性があります。