非上場株式の評価で見落としがちな借地権|社長個人の土地を同族会社が使う場合の注意点

非上場株式の評価で見落としがちな借地権|社長個人の土地を同族会社が使う場合の注意点
目次

はじめに

非上場会社の株式を相続税評価する場面では、会社の決算書だけを見ていては見落としてしまう財産があります。

特に注意が必要なのが、社長個人やその親族が所有する土地の上に、同族会社や関係会社が建物を建てて事業を行っているケースです。尼崎で相続税申告や非上場株式評価のご相談を受ける中でも、実務上見落とされやすい論点の一つです。

このような場合、会社の貸借対照表(BS)には建物だけが計上され、土地は社長個人の所有であるため、会社の資産には表示されません。さらに、権利金を支払っていなければ、会社のBSに「借地権」が計上されていないことも少なくありません。

しかし、相続税の申告で非上場株式を純資産価額方式により評価する場合には、帳簿に借地権が載っていないからといって、そのまま無視できるとは限りません。

社長個人が地主で、同族会社がその土地を借りて建物を所有している場合には、契約内容、地代の水準、無償返還届出書の有無、相当の地代方式の採用状況などを確認し、相続税評価上、借地権または土地使用権の取扱いを慎重に判断する必要があります。

今回は、社長個人の土地を同族会社が使用している場合を中心に、BSに借地権が計上されていなくても注意すべき代表的な3つのケースを整理します。

なぜ非上場株式の評価で借地権が問題になるのか?

職員: 先生、非上場株式の評価において「借地権」が問題になるケースがあると聞きました。どういう意味でしょうか?

先生: 純資産価額方式で非上場株式を評価する場合、会社の資産を帳簿上の価額(取得原価)ではなく、**相続税評価額(時価ベース)**で評価し直します。ここで重要なのは、「帳簿に計上されていない資産であっても、実態として会社に帰属するものは評価に組み込む」という考え方です。

職員: 帳簿に載っていないのに評価に含めるのですか?

先生: そうです。典型的なのが「借地権」です。会社が他人の土地を借りて建物を建て事業を行っている場合、**契約内容や地代の水準によっては、その会社に借地権または借地権に準じる経済的価値が認められることがあります。**ところが、権利金を支払わずに土地を借りた場合、帳簿には借地権が計上されないことが非常に多いのです。

職員: でも権利金を払っていないなら、借地権の価値はないのでは?

先生: そうとは言い切れません。経済的な実態として、借地権相当の価値が存在する場合があります。「隠れた借地権」が問題になる代表的な3つのケースを、順を追って見ていきましょう。

純資産価額方式における借地権の取扱いの基本

職員: まず、純資産価額方式の基本的な計算の流れを教えていただけますか?

先生: 純資産価額方式では、おおむね次の手順で評価します。

  1. 会社の全資産を相続税評価額で評価(時価ベースに置き換える)
  2. 全負債を帳簿価額で評価
  3. 評価差額(含み益)に対して37%の法人税等相当額を控除
  4. ①-②-③が純資産価額となり、1株当たりの評価額を計算します

この①の「全資産の相続税評価額」の中に、借地権を含める必要があるかどうかが今回の論点です。

職員: 借地権を含めるかどうかで、どれくらい評価額が変わるのでしょうか?

先生: 例えば、路線価で1億円の土地(借地権割合60%)を借りている会社で、地代が据え置きになっているケースでは、借地権価額が3,000万円を超えることもあります。これが評価に漏れると、株式の評価額が大幅に低く計算されてしまい、税務調査で問題になります。

ケース①:相当の地代方式

相当の地代方式とは?

職員: 最初のケースは「相当の地代方式」ですね。どのような方法でしょうか?

先生: 本来、他人の土地に建物を建てて使用する場合、土地の利用権(借地権)の対価として「権利金」を支払うのが商慣行とされている地域があります。法人が権利金を収受しない場合は、税務上、権利金相当額について「認定課税」が行われます。

職員: それを回避するために相当の地代を払うわけですね。

先生: そうです。通常の地代よりも高い「相当の地代」(土地の更地価額の年6%程度)を支払うことで、権利金の認定課税を回避できます。これが相当の地代方式です。同族会社が株主(オーナー個人など)の土地を借りているケースでよく使われます。

なぜBSに借地権が計上されないのか?

職員: 相当の地代方式では、なぜBSに借地権が計上されないのですか?

先生: 「権利金」という対価を支払っていないからです。会計上、資産として計上するためには原則として取得原価(支出金額)が必要です。権利金を支払わずに土地を借りている場合、借地権に対応する取得原価がないため、BSには計上されません。


重要:「固定方式」と「変動方式」で評価が大きく異なる

職員: 相当の地代方式と一口に言っても、種類があるのですか?

先生: これが非常に重要なポイントです。相当の地代方式には「固定方式」と「変動方式」の2種類があり、相続税評価上の取扱いが根本的に異なります。根拠となる通達は次の2つです。

【参考通達】

  • 昭和60年6月5日付個別通達(相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて) → https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/850605/01.htm
  • 昭和43年10月28日付個別通達(相当の地代を収受している貸宅地の評価について 直資3-22) → https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/681028/01.htm


変動方式(地代改訂方式)

職員: 「変動方式」とはどのような方法ですか?

先生: 変動方式とは、税務署に「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を提出し、地価の変動に合わせて原則として3年ごとに地代を改訂していく方法です(法基通13-1-8(1))。地代を常に相当の地代に保つことで、法人税法上は自然発生借地権が発生しません。

職員: では借地権価額はゼロになるのですか?

先生: 法人税法上は、適正に相当の地代を支払っている限り、権利金の認定課税や自然発生借地権の課税は問題になりにくいですが、相続税評価上、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付けている場合には、地主側の土地評価との整合性から、会社の純資産価額の計算上、自用地評価額の20%相当額を加算する取扱いになります。

この20%の根拠は、昭和43年直資3-22通達にあります。同通達は「課税時期における被相続人所有の貸宅地は、自用地としての価額から、その価額の**20%に相当する金額(借地権の価額)**を控除した金額により評価する」と定めています。

また昭和60年通達第6項(1)でも「相当の地代を収受している場合の貸宅地は自用地の100分の80に相当する金額」と規定されており、両通達が一致した取扱いを示しています。

なお昭和60年通達の(注)には「被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合においては、昭和43年直資3-22通達の適用があることに留意する」と明記されており、同族会社への貸付にはこの20%加算の取扱いが示されています。

純資産への加算額(変動方式)= 自用地評価額 × 20%

借地権割合には関係なく、一律20%が加算対象です。

【設例】変動方式の場合(20%加算)

項目金額・内容
土地の相続税評価額1億円
地代の改訂状況届出書提出・適切に改訂実施

◆ 地主(個人)の土地評価額:自用地評価額 × 80% = 8,000万円

◆ 借地人(会社)の純資産への加算:自用地評価額 × 20% = 2,000万円

地主の土地評価(8,000万円)+ 会社の純資産加算(2,000万円)= 自用地評価額(1億円)

職員: 地代を適切に改訂しているのに、それでも2,000万円を純資産に加算しなければならないのですね。

先生: そうです。「変動方式だから問題ない」という思い込みが、この加算漏れの最大の原因になります。


固定方式と「自然発生借地権」

職員: 「固定方式」とはどのような方法ですか?

先生: 固定方式とは、届出書を提出しないか(届出なしは自動的に固定方式:法基通13-1-8)、または届出をしても地代を改訂せずに据え置く方法です。地価上昇局面では、実際の支払地代が相当の地代を下回り続けます。

職員: この場合の借地権価額はどう計算するのですか?

先生: 次の算式で計算します。

自然発生借地権 = 自用地評価額 × 借地権割合 × (1 − 実際支払地代の年額 ÷ 相当の地代の年額)

この算式で発生する借地権を「自然発生借地権」といいます。権利金を払って取得したわけではなく、地代を据え置いたまま地価が上昇することで借地人側に自然に蓄積されていく借地権です。

【設例】固定方式で地価が上昇したケース(自然発生借地権)

項目金額・内容
契約時の土地の価額5,000万円
当時の相当の地代(年額)300万円(5,000万円 × 6%)
設定した地代(年額)300万円(固定方式のため据え置き)
現在の土地の相続税評価額1億円(地価上昇)
現在の相当の地代(年額)600万円(1億円 × 6%)
実際の地代(年額)300万円(据え置き)
借地権割合60%

◆ 借地人(会社)の自然発生借地権(純資産への加算額):

1億円 × 60% × (1 − 300万円 ÷ 600万円)= 1億円 × 60% × 50% = 3,000万円

◆ 地主(個人)の土地評価額:

1億円 × {1 − 60% × (1 − 300万円 ÷ 600万円)}= 1億円 × 70% = 7,000万円

自然発生借地権(3,000万円)+ 地主の土地評価額(7,000万円)= 自用地評価額(1億円)


重要:法人税法では認識しない含み益を、相続税は課税時期で評価する

職員: 自然発生借地権は、法人の帳簿には計上されていないのに、相続税の評価では認識するということですか?

先生: これが相続税実務の核心です。法人税法と相続税では、自然発生借地権の取扱いが根本的に異なります。

◆ 法人税法上の取扱い:未実現の含み益として課税を繰り延べ

固定方式で自然発生借地権が発生しても、法人税法上はその時点では課税されません(法基通13-1-8関連)。自然発生借地権は法人側の「含み益」として経済的に蓄積されていきますが、土地の含み益に対しては未実現の段階での課税は行わないというのが法人税法の基本スタンスです。

課税されるのは、その借地権を譲渡したとき、または地主へ返還したときです(法基通13-1-15(2))。この時点で初めて、帳簿価額ゼロの借地権の譲渡益として益金算入されます(課税の繰延べ)。

したがって、会社のBSには自然発生借地権は計上されておらず、含み益として「見えない状態」で蓄積されています。

◆ 相続税の純資産価額方式:課税時期(相続発生時)の評価で認識する

一方、相続税の純資産価額方式では、課税時期(相続発生日)における実態で評価するという原則があります。

法人税法では「未実現だから課税しない」とされている自然発生借地権も、相続税評価においては課税時期の時点の地価・地代を基に計算し、その金額を会社の純資産に加算しなければなりません。

BSに計上されていないことは関係なく、「課税時期においてその資産がいくらの価値を持つか」が相続税評価の出発点だからです。

観点法人税法相続税(純資産価額方式)
自然発生借地権の認識認識しない(未実現)認識する(課税時期の評価)
課税のタイミング譲渡・返還時相続発生時(株式評価に反映)
BSへの計上なしなし(しかし評価では加算)
根拠法基通13-1-8、13-1-15昭和60年相当地代通達(直資2-58)

職員: 「法人税では課税しない含み益を、相続税は課税時期で評価する」という整理が、この論点の核心なのですね。

先生: まさにそうです。BSに何も書いていない資産が、相続税申告では重大な加算項目になる。これが「借地権の落とし穴」の本質です。


固定方式と変動方式の比較

職員: 両方式の違いを表で整理していただけますか?

先生: 次の表で確認しましょう。

比較項目変動方式固定方式(地価上昇時)
届出書「改訂方法に関する届出書」提出届出なし or 提出しても据え置き
根拠通達法基通13-1-8(1)法基通13-1-8(2)・届出なしは自動適用
自然発生借地権発生しない発生する
法人税上の取扱い課税なし含み益として課税を繰延べ
純資産価額方式での加算額自用地評価額 × 20%自用地 × 借地権割合 × (1 − 実際地代/相当の地代)
地主(個人)の土地評価自用地評価額 × 80%自用地 × {1 − 借地権割合 × (1 − 実際地代/相当の地代)}
加算額 + 底地の合計自用地評価額と一致自用地評価額と一致
相続税節税効果(地主側)小(自用地×20%分のみ圧縮)大(自然発生借地権が大きいほど圧縮)

職員: 変動方式・固定方式を問わず、純資産価額への加算の確認が必要なのですね。

先生: 相当の地代方式については、「相当の地代を払っているから借地権は一切考えなくてよい」と考えるのは危険です。変動方式・固定方式のいずれかを確認し、方式に応じた評価額を検討する必要があります。

また、**法人税法上の認定課税の問題と、相続税における同族会社株式の純資産価額評価とは、分けて考えることが重要です。**法人税上問題がなくても、相続税評価では別途確認が必要なケースがあります。

実務上のチェックポイント①

職員: 実務でどのような手順で確認すればよいですか?

先生: 次のステップで確認してください。

【ステップ1】固定方式か変動方式かを確認する

  • 「相当の地代の改訂方法に関する届出書」の提出有無を確認
  • 届出なし → 固定方式(自動適用)
  • 届出あり → 変動方式(ただし実際の改訂も確認必要)

【ステップ2】方式に応じた計算を行う

  • 変動方式:自用地評価額 × 20%(借地権割合に無関係・一律20%)
  • 固定方式:自用地評価額 × 借地権割合 × (1 − 実際地代 ÷ 相当の地代)(自然発生借地権)

【ステップ3】計算した加算額を純資産価額に組み込む

  • BSに借地権が計上されていなくても評価差額として加算
  • 法人税上「未実現」であっても相続税は課税時期の評価が原則

特に固定方式で地価が大きく上昇しているケースでは、自然発生借地権が多額になっています。会社設立当初から同じ土地で事業を継続している同族会社では、必ずこの論点を確認してください。


ケース②:無償返還届出書

無償返還届出書とは?

職員: 2つ目のケースは「無償返還届出書」ですね。どのような制度ですか?

先生: まず前提として、権利金の授受の慣行がある地域において、権利金を収受せずに土地を貸すと、本来であれば借地権相当額が贈与・受贈されたものとして認定課税(権利金の認定課税)が行われます。同族会社と役員・株主の間でも同様です。

土地の無償返還に関する届出書」とは、この借地権の認定課税を回避するための届出です(法基通13-1-7)。将来、借地人が土地を無償で地主に返還することを書面で約束し、地主と借地人の連名で税務署に提出することで、権利金の認定課税が行われません。相当の地代を支払わなくてもよいという点が、相当の地代方式との大きな違いです。

つまり、無償返還届出書は次の2つの要件を満たすことで効力を持ちます。

  1. 将来、無償で土地を返還することを契約書で明確にしていること
  2. 地主と借地人の連名で税務署長に届け出ること

同族会社が株主(オーナー個人)の土地を低い地代で借りているケースで広く利用されています。

職員: 相当の地代以下の地代しか払っていなくても、届出書があれば認定課税されないということですね。

先生: そうです。ただし、無償返還届出書は、税務上の権利金認定課税を避けるための届出であり、土地の利用関係そのものを不要にするものではありません。届出書を提出したとしても、契約書の有無、地代の水準、賃貸借か使用貸借かの確認は引き続き必要です。

相続税評価上の取扱い

職員: 無償返還届出書がある場合、相続税評価上の借地権価額はいくらになりますか?

先生: 原則として、借地人(会社)の借地権価額はゼロとされます。一方、地主(個人)の土地評価は次のように区分されます。

区分地主の土地評価(相続税評価額)借地人の借地権
賃貸借(通常の地代あり)自用地価額 × 80%ゼロ
使用貸借(固定資産税相当以下)自用地価額 × 100%ゼロ

職員: 借地権価額がゼロなら、純資産価額方式での評価には影響しないのでは?

先生: そう思いがちですが、ここにも見落としがちな落とし穴が複数あります。

無償返還届出書の落とし穴

<落とし穴その1>届出書が提出されているか確認が取れないケース

先生: 「昔、前の税理士が無償返還届出書を提出したはず」という会社が少なくありません。しかし届出書の控えが見当たらない、あるいは税務署側の確認が取れない、というケースがあります。

届出書がない場合、原則に戻って権利金の授受がないことが問題になります。場合によっては相当の地代方式の計算式(ケース①)で借地権価額を認識しなければならなくなる可能性があります。必ず顧問先に届出書の控えの有無を確認し、存在しない場合は税務署への照会を検討してください。

職員: 届出書の確認は必須なわけですね。

<落とし穴その2>賃貸借か使用貸借かの区別と「固定資産税3倍」の基準

先生: まず国税庁の取扱い(使用貸借通達)では、**支払地代が固定資産税等の相当額以下の場合は「使用貸借」**として取り扱われます。しかし、これは「以下なら使用貸借」という下限を定めたに過ぎず、固定資産税相当額を超えていれば必ず賃貸借になる、というわけではありません。

職員: 固定資産税より多く払っていても、使用貸借とみなされることがあるのですか?

先生: あります。裁決事例では、固定資産税等の1.7倍の地代でも使用貸借と判断された事例や、固定資産税の数倍を払っていても使用貸借とされた事例(平成13年9月27日裁決等)があります。

では、どのくらい払えば賃貸借として認められるかですが、実務上は**「固定資産税等の年税額の3倍程度」が一つの参考水準として語られることがあります。**この「3倍」の根拠の一つとして、法人税法上、非営利法人(宗教法人等)の住宅貸付けが収益事業に該当するかの判断基準として「固定資産税の3倍以上」が設定されていること(法人税法施行令第5条)が挙げられます。

ただし、これは明確な安全基準ではなく、先にご紹介した裁決事例のように固定資産税の数倍を払っていても使用貸借と判断された事例もあります。契約書の有無、地代の算定根拠、帳簿処理、地主側の申告状況などを含めた総合判断になります。

地代の水準一般的な判断傾向
固定資産税等以下使用貸借(通達上明確)
固定資産税等の1〜2倍程度使用貸借と判断されるリスク大
固定資産税等の3倍程度以上賃貸借と説明しやすくなるが、総合判断が必要
相当の地代(更地価額の6%)明確に賃貸借(借地権発生の論点へ)

使用貸借か賃貸借かで、地主(個人)の土地評価が大きく異なります。

区分地主の土地評価借地人の借地権
賃貸借自用地 × 80%ゼロ
使用貸借自用地 × 100%ゼロ

職員: 地代の水準以外に、判断を左右する要因はありますか?

先生: 地代の水準が最重視されますが、それ以外にも次の点が総合的に判断されます。

  • 賃貸借契約書が正式に締結されているか
  • 地代の金額の算定根拠が明確か(なぜその金額にしたかの合理的説明)
  • 地代を**「支払地代」として帳簿計上**しているか(「公租公課」として計上では不利)
  • 領収書に**「地代」と明記**されているか
  • 地主が地代を不動産所得として申告しているか

先の裁決事例で使用貸借とされたのは、固定資産税の1.7倍を払っていても「領収書のただし書が固定資産税分の記載のみ」「帳簿で公租公課として計上」「賃貸借契約書がない」という事実があったからです。地代の金額だけでなく、貸借の実態を書類で明確に証明できることが不可欠です。

この区分を誤ると、地主(個人)の相続財産評価と、同族会社(借地人)の株式評価が矛盾することになります。

<落とし穴その3>相当の地代方式から無償返還方式への切替え

先生: かつては相当の地代方式だったが、ある時点で無償返還届出書を提出して切り替えたケースも注意が必要です。

切替え前の期間について、それまで積み上がっていた「借地権価額」の取扱い(切替え時の処理)を確認する必要があります。また、切替え前の地代の据え置き状況によっては、借地権価額が生じていた期間があった可能性もあります。

職員: 整理が複雑になりますね。

先生: そうです。特に相続発生直前に切替えが行われているケースは、税務調査でも指摘されやすい論点の一つです。過去の経緯を丁寧に確認することが重要です。


ケース③:借地権通達ができる前からの土地の賃借

借地権通達とは?

職員: 3つ目のケースは「借地権通達ができる前からの土地の賃借」とのことですが、これはどういう意味ですか?

先生: 昭和48年(1973年)11月に、国税庁は法人間の土地賃貸借において権利金を収受しない場合の課税上の取扱いを定めた通達(いわゆる「借地権通達」)を整備しました。この通達が出る以前から、権利金なしに土地の賃貸借契約が結ばれていたケースが今回の論点です。

職員: 昭和48年より前から土地を借りている会社があるということですか?

先生: そうです。戦後の混乱期や高度経済成長期に創業し、当時から事業を続けている会社では、現在もその当時の契約関係が続いているケースがあります。特に、創業者(オーナー個人)が所有する土地を会社に使わせてきたケースでよく見られます。

なぜ借地権が認識されなかったのか?

職員: なぜ昭和48年以前は、権利金なしで土地を借りることができたのですか?

先生: 当時は現在ほど地価が高くなく、権利金の支払いが一般的な商慣行として確立されていなかった地域も多かったからです。また、特に親族間・同族グループ内では「権利金などというものは必要ない」という感覚で、口頭契約に近い形で賃貸借が行われていました。

職員: その結果、会社のBSに借地権が計上されていないわけですね。

先生: そうです。権利金を支払っていないため、BSには借地権が計上されていません。しかし、問題はここからです。

現在の評価上の取扱い

職員: このような古い契約に基づく賃貸借について、現在の相続税評価上はどうなるのですか?

先生: 重要なのは、評価時点での法的・経済的実態に基づいて判断するという点です。借地権通達が出る以前に締結された賃貸借契約であっても、現在の借地借家法(旧借地法)のもとで有効に存続している借地権は、相続税評価上も「借地権」として認識します。

つまり、「当時は権利金を払わなかった」「BSに計上していない」という事実は、評価における借地権の存在を否定する理由にはなりません。

職員: では、このケースでの借地権価額はどう計算するのですか?

先生: 権利金の授受がなかった理由を問わず、現在の賃貸借関係が借地権の実態を持つものであれば、通常の借地権と同じ計算式が原則として適用される場合があります。

借地権価額 = 自用地評価額 × 借地権割合

ただし、**実際には地代の水準、契約書の内容、権利金の授受の有無、無償返還届出書の有無、相当の地代方式の適用有無などにより評価方法が変わるため、単純に借地権割合を掛ければよいとは限りません。**個別の事情を丁寧に確認することが必要です。

実際によくあるケース

職員: 具体的にどのような会社でこの問題が発生するのですか?

先生: 例えば次のような状況です。


【設例】昭和40年代から続く賃貸借(通常の借地権として評価する場合の単純化した設例)

  • 昭和43年、創業者(現在の被相続人)が個人で持つ土地(現在の路線価評価額:2億円、借地権割合:70%)を創業した会社に貸した
  • 当時の商慣行として権利金の授受はなし
  • 月5万円(年60万円)の地代で50年以上契約継続
  • 会社のBSには建物は計上されているが、借地権は計上されていない

このケースで通常の借地権として評価した場合の借地権価額: 2億円 × 70% = 1億4,000万円

※ 実際の評価では、地代水準・相当の地代方式の適用有無・使用貸借該当性等を個別に確認する必要があります。

職員: 1億4,000万円もの借地権がBSに計上されていないとは、驚きです。

先生: そうです。これを純資産価額方式の計算に含めなければ、株式の評価額が大幅に低くなり、税務調査で大幅な修正申告を求められるリスクがあります。また、仮に地代の水準が低く「相当の地代に達していない」状況であれば、ケース①の計算式を適用して借地権価額を算出することになります。

使用貸借との区別

職員: 借地権通達以前からの賃借でも、使用貸借の場合は扱いが違いますか?

先生: これは重要な区別です。使用貸借(無償または固定資産税相当額以下の地代)であれば借地権は生じません。昭和48年以前の契約であっても:

  • 通常の賃貸借(ある程度の地代あり):借地権として認識・評価が必要
  • 使用貸借(無償または固定資産税以下):借地権なし(地主の土地は自用地100%評価)

したがって、実際の地代の水準と契約内容を確認することが不可欠です。


3つのケースの比較整理

職員: ここまで3つのケースを教えていただきましたが、全体像を整理していただけますか?

先生: まとめると次のようになります。

ケースBSに借地権がない理由評価上の借地権価額主な落とし穴
①相当の地代方式(変動方式)権利金の授受なし自用地評価額 × 20%「変動方式だから借地権ゼロ」という誤解
①相当の地代方式(固定方式)権利金の授受なし自用地 × 借地権割合 × (1 − 実際地代 ÷ 相当の地代)(自然発生借地権地代の据え置きで自然発生借地権が増大する
②無償返還届出書権利金の授受なし原則ゼロ届出書の存在確認不足・賃貸借 vs 使用貸借の区別
③借地権通達以前からの賃借 当時の商慣行・権利金なし原則として個別判断(通常の借地権評価となる場合あり)古い会社で気づかれにくい・多額の借地権が埋没 |借地権通達以前からの賃借

実務上の総合チェックポイント

職員: 非上場株式の評価を行う際に、実務上どのような手順で確認すればよいですか?

先生: 以下のフローで確認することをお勧めします。

ステップ1:会社が土地を使用しているか確認する

BSに「土地」が計上されていない会社でも、賃借・使用貸借で土地を使用しているケースがあります。会社の所在地・工場・駐車場等の土地の所有者を必ず確認してください。

ステップ2:使用形態を確認する

  • 自社所有:相続税評価額(路線価等)で評価。土地に借地権が設定されていれば底地評価。
  • 賃借(有償):借地権の認識が必要か検討(以下のステップ3へ)
  • 使用貸借(無償または固定資産税以下):借地権なし

ステップ3:賃借の場合、さらに詳細を確認する

  1. 賃貸借契約書の確認(地代の額・改訂状況・契約年月日)
  2. 権利金の授受の有無
  3. 無償返還届出書の提出の有無とその控えの確認
  4. 契約の年月日を確認し、昭和48年以前か以後かを把握
  5. 相当の地代方式の場合:現在の「自用地価額 × 6%」と実際地代の比較

ステップ4:借地権価額を計算し、純資産価額に組み込む

各ケースの計算式を適用し、BSに計上されていない借地権を評価差額として純資産価額に加算します。この加算漏れが税務調査の指摘事項になります。


まとめ

職員: 今日の内容をまとめていただけますか?

先生: はい。非上場株式の純資産価額方式による評価において、会社の貸借対照表に借地権が計上されていなくても、以下の3つのケースでは評価上の借地権の取扱いに特別な注意が必要です。

①相当の地代方式では、地代が据え置きになっていると、地価上昇に伴って借地権価額が発生します。「かつては相当の地代を払っていたから大丈夫」と安心することなく、現在の地代水準が相当の地代に達しているかを毎回確認することが重要です。

②無償返還届出書の場合、借地権価額は原則ゼロですが、届出書の存在確認・賃貸借と使用貸借の区別を怠ると、誤った評価につながります。また、過去に相当の地代方式だった期間との整合性も確認が必要です。

③借地権通達以前からの賃借の場合、当時は権利金の授受がなく帳簿にも計上されていませんが、現在の評価においては通常の借地権と同様に認識しなければなりません。戦後や高度成長期に創業した歴史ある会社では特に見落とされやすく、多額の借地権が純資産評価に反映されていないケースがあります。

職員: 非上場株式の評価は、決算書を相続税評価額に単純に置き換えるだけでは済まないということがよくわかりました。

先生: その通りです。純資産価額方式は、帳簿に現れない「隠れた資産・負債」を正確に把握することが求められます。借地権の問題は、その典型的な例の一つです。税務調査でも確認されやすい論点ですので、相続税申告の際には会社の不動産使用状況を丁寧に調査することが不可欠です。


【ご注意】 借地権の評価は、契約書の内容、地代の水準、権利金の授受の有無、無償返還届出書の有無、土地所有者と会社との関係などにより結論が変わります。本記事は代表的な考え方を整理したものであり、実際の評価では個別事情の確認が不可欠です。具体的な判断については、税理士等の専門家にご相談ください。


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