非上場株式評価の落とし穴|純資産価額方式で営業権を忘れていませんか?

非上場株式評価の落とし穴|純資産価額方式で営業権を忘れていませんか?

カテゴリ:非上場株式の評価 / 相続対策 / 自社株対策


目次

はじめに

非上場株式(自社株)の相続税評価で純資産価額方式を使うとき、土地や有価証券の含み益には気を配る方が多いのですが、「営業権」の計上を忘れてしまうというケースが実務でよく見受けられます。

帳簿に計上されていない資産であっても、財産評価基本通達の定めにより、評価上は資産に組み入れなければなりません。営業権はその代表例です。今回は、この「純資産価額計算の落とし穴」とも言うべき営業権について、わかりやすく解説します。


よくある質問(Q&A)


Q1. そもそも「営業権」って何ですか?

先生: 営業権とは、一般的に「のれん」とも呼ばれているもので、英語では「goodwill(グッドウィル)」といいます。

企業が長年かけて培ってきた社会的信用、取引先との関係、立地優位性、特殊技術、ブランド力、顧客基盤などを総合的に表した無形の財産価値のことです。

たとえば、同じ業種・規模の会社でも、「あの会社は独自の技術を持っている」「長年の顧客との信頼関係がある」という会社は、純粋な資産価値以上の収益を生み出す力=超過収益力を持っています。この超過収益力が営業権の本質です。


Q2. 営業権は帳簿に載っていないのに、なぜ相続税評価に入るのですか?

スタッフ: たしかに、帳簿(貸借対照表)に営業権として計上されている会社はほとんど見かけません。なぜ評価が必要なのでしょうか?

先生: それが「純資産価額の落とし穴」なんです。

純資産価額方式では、会社の資産・負債を相続税評価額に洗い替えて評価します。そのため、帳簿に計上されていない資産であっても、財産評価基本通達により評価すべきものは、株式評価上の資産として検討する必要があります。

国税庁タックスアンサーでも、小会社の純資産価額方式は「会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替える」と説明されています。

無償で取得した借地権や特許権・商標権などと同様に、営業権も帳簿価額ゼロであっても、計算式に従って算出した価額を資産に計上する必要があるのです。

根拠は、財産評価基本通達165・166です。


Q3. 営業権の計算方法を教えてください。

先生: 計算は2段階で行います。


▶ステップ1:超過利益金額の計算

超過利益金額 = 平均利益金額 × 0.5 - 標準企業者報酬額 - 総資産価額 × 0.05

この計算式の意味を噛み砕くと:

  • 「平均利益金額 × 0.5」:会社の平均的な利益の半分を、営業権の収益基盤として捉えます
  • 「標準企業者報酬額を引く」:オーナー社長の働きによる部分を除外します
  • 「総資産価額 × 0.05 を引く」:通常の資産運用で得られる5%分の利益(いわば資本コスト)を除外します

これら控除をすべて引いても残る利益=**「普通の会社では稼げない超過分の利益」**が超過利益金額です。


▶ステップ2:営業権の価額の計算

営業権の価額 = 超過利益金額 × 複利年金現価率(持続年数:原則10年)

複利年金現価率は、課税時期に応じた基準年利率により変動します(国税庁が公表)。低金利の場合には、持続年数10年の複利年金現価率が10に近い数値となることがあり、超過利益金額の約10年分に近い営業権が算出されることもあります。


▶標準企業者報酬額の早見表

平均利益金額の区分標準企業者報酬額の計算式
1億円以下平均利益金額 × 30%+1,000万円
1億円超〜3億円以下平均利益金額 × 20%+2,000万円
3億円超〜5億円以下平均利益金額 × 10%+5,000万円
5億円超平均利益金額 × 5%+7,500万円

(財産評価基本通達166に基づく)


Q4. 具体的な数値でイメージを教えてください。

スタッフ: 実際に計算するとどのくらいになるのでしょうか?

先生: では、次のケースで試算してみましょう。

【設例】
 平均利益金額(過去3年平均):1億5,000万円
 総資産価額(相続税評価額):8億円
 複利年金現価率:9.730(※課税時期の基準年利率により変動します)

① 標準企業者報酬額  1億5,000万円 × 20% + 2,000万円 = 5,000万円

② 超過利益金額  1億5,000万円 × 0.5 − 5,000万円 − 8億円 × 0.05  = 7,500万円 − 5,000万円 − 4,000万円  = △1,500万円(マイナス)→ ゼロ

この場合は、超過利益金額がマイナスになるため、営業権はゼロとなります。


では、高収益の会社ではどうでしょうか。

【設例2】
 平均利益金額:3億円
 総資産価額:5億円
 複利年金現価率:9.730(※課税時期の基準年利率により変動します)

① 標準企業者報酬額  3億円 × 20% + 2,000万円 = 8,000万円

② 超過利益金額  3億円 × 0.5 − 8,000万円 − 5億円 × 0.05  = 1億5,000万円 − 8,000万円 − 2,500万円  = 4,500万円

③ 営業権の価額  4,500万円 × 9.730 = 約4億3,785万円

高収益会社では、営業権が4億円を超えるという計算になりました。これが純資産価額に上乗せされますから、株式評価に与えるインパクトは非常に大きいことがわかります。


Q5. どんな会社に営業権が算出されやすいのですか?

スタッフ: 先ほどの計算を見ると、利益が大きくて、逆に総資産が小さい会社ほど営業権が出やすいということでしょうか?

先生: そのとおりです。言い換えると、少ない資産で大きな利益を生み出す会社、つまり資産効率(ROA)が高い会社ほど営業権が算出されやすくなります。

営業権が出やすい業種・会社の特徴:

  1. IT・ソフトウェア会社  固定資産が少なく、人材と技術が主な資産のビジネスモデル。総資産が小さくても高い利益を上げるため、超過利益金額が大きくなりやすい。
  2. 専門的なサービス業・コンサルティング業  同様に固定資産が少なく、独自のノウハウや顧客基盤で高収益を実現している会社。
  3. 特許権・商標権等の知的財産を有する会社  特許権や商標権が収益に貢献している会社では、開業直後であっても営業権が算出される可能性があります。
  4. ブランド力のある小売業・飲食チェーン  優れた顧客基盤や立地優位性により、業界平均以上の利益率を継続的に維持している会社。

逆に営業権が出にくい会社:

  • 製造業・不動産保有会社など、総資産規模が大きい会社は、「総資産 × 0.05」の控除額が大きくなるため、利益が多くても超過利益がゼロになりやすい。
  • 平均利益金額が5,000万円以下の会社では、標準企業者報酬額だけで超過利益がほぼ消えるため、営業権が算出されにくくなります。

 たとえば、平均利益金額がちょうど5,000万円の場合を確認してみましょう。  「平均利益金額 × 50%」= 2,500万円  標準企業者報酬額 = 5,000万円 × 30% + 1,000万円 = 2,500万円  この時点で差し引きがゼロになり、総資産価額 × 5% を引く前にすでに超過利益は消えてしまいます。

  • 平均利益金額が1億円以下で総資産が2億円程度あれば、実質的に営業権は算出されないケースがほとんどです。

Q6. 注意が必要な「例外」はありますか?

先生: 重要な例外が2つあります。

① 医師・弁護士などの個人の属人的な能力による営業権は評価しない

財産評価基本通達165の注書きには、次のような定めがあります。

医師、弁護士等のようにその者の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権で、その事業者の死亡とともに消滅するものは、評価しない。

個人の能力・才能に依存するビジネスで、その人が亡くなれば収益力も消える性格のものは、営業権として評価しないということです。法人の場合でも、組織としての収益力が問われますので、個別の判断が必要です。

② 大会社が類似業種比準方式で評価する場合は、営業権の論点が出ないことがある

総資産価額・従業員数・取引金額などにより大会社に該当し、類似業種比準方式を原則として評価できる場合には、相続税評価上、営業権を個別に純資産価額へ反映させる場面が出ないことがあります。

大会社は原則として類似業種比準方式により評価するため、類似業種比準方式だけで評価する場合には、営業権を個別に計算して純資産価額へ加算する論点は通常出てきません。

ただし、株式売買の際に法人税法上の評価(純資産価額参照)が必要になる場面では、会社規模にかかわらず営業権の評価が問題になることがあります。M&Aの場面では特に注意が必要です。


Q7. 実務ではどこで間違いが起きやすいですか?

スタッフ: 実際の相続税申告や株価評価で、どんなミスが多いのでしょうか?

先生: よくある見落としを整理すると、以下の3点です。

【ミス①】 第5表の「営業権」欄を空欄のまま提出してしまう  帳簿に計上がないからといって、計算すらしないのは誤りです。必ず計算式を当てはめ、超過利益がゼロであることを確認した上で「ゼロ」と記載しなければなりません。

【ミス②】 平均利益金額の計算を誤る  平均利益金額は、単純な法人税申告書の所得金額ではありません。非経常的な損失は控除しない、非経常的な利益は加算しないなどの修正が必要です。また、原則として直前期末以前3年間の平均を使います。

【ミス③】 M&Aで取得した営業権(有償取得)と混同する  M&Aで有償取得した営業権(買収価格と純資産の差額)が帳簿に計上されている場合、これは帳簿価額と相続税評価額(通達165に基づく計算額)を別々に把握して第5表に記載する必要があります。帳簿価額がそのまま評価額にはなりません。


営業権を忘れると、非上場株式の評価額が過少になることがある

非上場株式の評価では、土地・建物・有価証券などの目に見える資産だけでなく、営業権のような無形の財産価値も検討対象になります。

特に、純資産価額方式で評価する場合、**営業権を計算せずに第5表を作成してしまうと、株式評価額が過少になる可能性があります。**相続税申告や贈与税申告で自社株評価を行う場合には、営業権がゼロになるかどうかを必ず確認しておく必要があります。


まとめ

非上場株式の純資産価額方式による評価では、「営業権」は帳簿に計上がなくても必ず検討が必要です。

高収益で資産規模がコンパクトな会社では、営業権が数億円規模で計上されることもあり、相続税額に甚大な影響を与えます。

一方で、ほとんどの中小企業では計算の結果として営業権はゼロになります。しかし「ゼロになることを計算で確認する」というプロセスは必須であり、ここを省略してしまうことが「落とし穴」の正体です。

自社株の評価、特に事業承継や相続対策をご検討の方は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。


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本記事は、財産評価基本通達(令和6年改正対応)に基づいて執筆しています。個別の税務判断については、必ず専門家にご相談ください。

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