役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に改定しなければなりません。
それでは、年度途中で社長が急逝し、別の取締役が新しく代表取締役に就任した場合はどうなるのでしょうか。
新社長は、それまでとは職務内容も責任も大きく変わります。当然、役員報酬を増額する必要が生じることもあるでしょう。
このような場合、役員の職制上の地位の変更に伴う「臨時改定事由」に該当すれば、年度途中の増額であっても、改定前後の役員報酬をそれぞれ定期同額給与として扱うことができます。
ただし、あらかじめ予定されていた社長交代についてまで、自由に期中増額できるわけではありません。
今回は、国税庁の質疑応答事例「役員の分掌変更に伴う増額改定」をもとに解説します。
1.国税庁の事例|代表取締役が急逝したため、後任者の報酬を増額
国税庁では、次のような事例を公表しています。
3月決算の法人で、代表取締役Aが急逝しました。
そこで、10月1日に急きょ臨時株主総会を開催し、取締役Bを新しい代表取締役に選任しました。
同時に、Bの役員報酬を月額50万円から、前任者Aと同額の月額100万円に増額することを決議しました。
国税庁の事例:役員報酬の改定
改定前(取締役B)
50万円
月額役員報酬
改定後(代表取締役B)
100万円
月額役員報酬
10月1日:代表取締役に就任し、報酬増額を決議
この会社の事業年度は4月1日から翌年3月31日までです。
期首から3か月を経過した後の10月に役員報酬を増額しているため、通常の定期同額給与の改定時期から外れています。
それでも国税庁は、増額前の月額50万円と増額後の月額100万円は、それぞれ定期同額給与として取り扱われると回答しています。国税庁
2.なぜ期中増額が認められたのか
法人税法施行令第69条第1項第1号ロでは、臨時改定事由による役員報酬の改定を認めています。
臨時改定事由には、役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情が該当します。
今回の国税庁の事例では、次の事情が重要です。
- 代表取締役が急逝したこと。
- 急きょ後任の代表取締役を選任する必要が生じたこと。
- 新しい代表取締役の職制上の地位が変更されたこと。
- その変更に伴い役員報酬を増額したこと。
国税庁は、代表者の急逝に伴う役員の職制上の地位の変更を理由として、臨時改定事由に該当すると判断しています。
つまり、単に報酬額を増やしたのではなく、予期しなかった社長交代に伴って、役員報酬を改定する必要が生じたという事情があったわけです。
3.社長が急死しなければ認められないのか
ここは誤解しやすいところです。
国税庁の質疑応答事例は代表取締役の急逝を前提としていますが、臨時改定事由が認められるのは、社長が死亡した場合だけではありません。
法人税基本通達9-2-12の3では、定時株主総会から次の定時株主総会までの間に社長が退任し、臨時株主総会の決議によって副社長が社長に就任する場合を例示しています。
また、合併によって役員の職務内容が大幅に変更される場合も例示されています。法令集
したがって、社長の死亡だけでなく、年度途中の予期しなかった退任などに伴う交代でも、臨時改定事由が認められる可能性があります。
ただし、社長が退任したという事実だけで、すべての期中増額が認められるものではありません。
社長交代に至った経緯、後任役員の地位や職務の変更、報酬改定の必要性を確認する必要があります。
4.予定されていた社長交代ならどうなる?
例えば、次のようなケースを考えてみましょう。
3月決算の会社で、以前から10月1日に社長を交代することが決まっていました。
父親である社長が会長に退き、専務取締役の長男が代表取締役社長に就任するという事業承継です。
これに合わせて長男の役員報酬を月額50万円から100万円に増額したとします。
この場合、社長交代は以前から予定されていたものです。
臨時改定事由は、通常の改定時期には予測しがたい事情などによって、あらかじめ定めていた役員報酬を改定せざるを得なくなった場合を想定しています。国税庁
そのため、あらかじめ予定されていた社長交代を理由として、当然に臨時改定事由が認められると考えるのは危険です。
ただし、予定されていた交代であれば法律上一律に認められない、とまで断定することもできません。職制上の地位や職務内容の実質的な変更など、具体的な事情を踏まえた判断が必要です。
実務上は、予定されている社長交代であれば、原則として通常の役員報酬改定の時期に合わせて金額を決定する方が安全でしょう。
5.改定前と改定後の役員報酬はそれぞれ定期同額給与になる
臨時改定事由に該当する場合には、改定前後の給与をそれぞれ判定します。
国税庁の事例では、取締役Bに支給する月額50万円と、代表取締役就任後に支給する月額100万円について、それぞれの期間の各支給時期における金額が同額であることを条件としています。
例えば、次のように毎月支給されていれば、臨時改定事由に該当することを前提に、改定前後とも定期同額給与として扱われます。
| 支給期間 | 月額 | 期間合計 |
|---|---|---|
| 4月~9月 | 50万円 | 300万円 |
| 10月~翌年3月 | 100万円 | 600万円 |
| 年間合計 | 900万円 |
一方、臨時改定事由に該当しない期中増額であれば、増額部分について損金不算入が問題となります。
同じ月額50万円から100万円への増額でも、改定理由によって税務上の取扱いが異なるわけです。
6.社長交代時に残しておきたい資料
役員報酬を期中増額する場合には、臨時改定事由に該当する事情を説明できる資料を残しておくことが重要です。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 株主総会・取締役会議事録 | 代表取締役の選任と役員報酬改定の決議 |
| 社長退任に関する資料 | 死亡、病気、急な退任などの経緯 |
| 職務分掌表 | 改定前後の担当業務・責任 |
| 決裁権限規程 | 経営上の決定権限の変更 |
| 役員報酬の決定資料 | 増額理由と報酬額の算定根拠 |
| 給与台帳 | 改定前後の毎月の支給額 |
特に重要なのは、なぜ年度途中に役員報酬を変更する必要が生じたのかという点です。
単に「代表取締役に就任したため増額した」と記載するだけでなく、前任者の退任事情や職務内容の変更を具体的に整理しておくことが望ましいでしょう。
また、臨時改定事由が認められても、増額後の役員報酬が不相当に高額な場合には、別途、損金算入が制限される可能性があります。
7.社長交代による増額と、利益増加による増額は違う
役員報酬の改定を考える際には、何を理由として金額を変更するのかを明確にすることが重要です。
| 改定理由 | 税務上の取扱い |
|---|---|
| 社長の急逝による後任者への交代 | 国税庁が認めた具体例 |
| 社長の期中退任による副社長の就任 | 基本通達に例示あり |
| 予定されていた社長交代 | 個別判断。通常改定時期での対応が安全 |
| 肩書のみの形式的な変更 | 実態の確認が必要 |
| 利益が予想以上に増加した | それだけでは臨時改定事由にならない |
なお、定期同額給与の臨時改定について、事前確定届出給与のような税務署への事前届出は必要ありません。
ただし、届出が不要であることと、期中増額が無条件に認められることは別です。
8.まとめ|社長交代があれば自由に増額できるわけではない
年度途中で代表取締役が急逝し、後任者が新たに代表取締役に就任する場合には、臨時改定事由による役員報酬の増額が認められることがあります。
また、急逝以外の社長退任についても、法人税基本通達では臨時改定事由となる場合が例示されています。
一方、あらかじめ予定されていた社長交代では、臨時改定事由に該当するかどうか、慎重な判断が必要です。
社長に就任したから役員報酬を増額できるのではなく、職制上の地位や職務内容の変更と、その改定を必要とする事情が重要なのです。
予定されている事業承継であれば、役員報酬の変更時期も含めて事前に計画しておくことをお勧めします。
参考資料
- 国税庁「役員の分掌変更に伴う増額改定(定期同額給与)」
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与」
- 法人税法第34条第1項第1号
- 法人税法施行令第69条第1項第1号ロ
- 法人税基本通達9-2-12の3








