―知っておきたい重要ポイントと実務の落とし穴―
令和6年1月1日以後の相続等に適用
はじめに ― なぜ今、マンション評価が注目されるのか
分譲マンション(居住用の区分所有財産)の相続税評価は、令和6年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から大きく変わりました。国税庁の検討資料では、従来の相続税評価額と市場価格との乖離が大きいことが問題視され、いわゆる「タワマン節税」への対応として評価方法が見直されました。
また、令和4年4月19日の最高裁判決では、財産評価基本通達の評価額を否認した国側の課税処分が支持され、評価乖離が著しい場合には通達6項(個別評価)の適用もあり得ることが示されました。この最高裁判断も通達改正の大きな引き金となっています。
本稿では、新通達の評価方法を軸に、マンション評価で実務上注意すべき重要ポイントを体系的に整理します。
1 新しいマンションの評価方法
(1)評価の基本的な仕組み
令和6年1月1日以後は、「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)に基づき、従来の相続税評価額に「区分所有補正率」を乗じて評価します。
【評価の算式】
| ①土地部分 | 従来の敷地利用権評価額 × 区分所有補正率 |
| ②建物部分 | 従来の区分所有権評価額 × 区分所有補正率 |
| 評価額合計 | ① + ② |
(2)区分所有補正率の計算
区分所有補正率は、次の3ステップで計算します。
【ステップ1】評価乖離率の計算
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
- A = 築年数 × △0.033
- B = 総階数指数(総階数 ÷ 33、上限1.0) × 0.239
- C = 所在階 × 0.018
- D = 敷地持分狭小度(敷地利用権面積 ÷ 専有面積) × △1.195
【ステップ2】評価水準の確認
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
【ステップ3】区分所有補正率の決定
- 評価水準 < 0.6 の場合:補正率 = 評価乖離率 × 0.6
- 評価水準が0.6以上1以下の場合:補正率 = 1.0(補正なし)
- 評価水準 > 1 の場合:補正率 = 評価乖離率(引下げ補正)
※ 評価乖離率が零または負数となる特殊なケースでは、通常の区分所有補正率の計算とは異なる取扱いとなるため、個別確認が必要です。
(3)新通達の適用対象外となるもの
以下のマンションは、新評価方法の対象外となり、従来の評価方法によります。
- 構造上、主として居住の用途に供することができないもの(事業用テナント物件等)
- 区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンション等)
- 地階を除く階数が2以下のもの(総階数2以下の低層集合住宅等)
- 居住用専有部分が3室以下で、その全てを区分所有者またはその親族の居住の用に供するもの(いわゆる二世帯住宅等)
2 階層や方角が異なる場合の取り扱い
(1)階層による評価の違い
改正前の評価では、建物部分は固定資産税評価額を床面積比率で按分するため、1㎡当たり評価額は低層階も高層階も同額でした。しかし実際の市場価格は高層階ほど高くなることが多く、実態と乖離していました。
新通達では、評価乖離率の計算にC(所在階 × 0.018)を組み込むことで、高層階ほど評価乖離率が大きくなる仕組みとしています。これにより、同じ棟の中でも高層階の補正率が大きくなり、より実態に即した評価となります。
【具体例】同じマンションでも5階と30階では評価乖離率が異なり、高層階の方が区分所有補正率が高くなる(引上げ幅が大きい)ことが多い。
(2)方角(南向き・北向き等)による取り扱い
現行の新通達では、方角(南向き・北向き・角部屋等)は評価乖離率の算定要素には含まれていません。市場価格では方角が大きく影響しますが、通達評価では所在階・築年数・総階数指数・敷地持分狭小度の4要素のみで補正します。
ただし、評価水準が0.6を超えても市場価格との乖離が著しいと認められる場合は、財産評価基本通達6項による個別評価(時価評価)が適用されるリスクが残ることに留意が必要です。
3 宅地の評価単位
(1)マンション敷地全体を一つの評価単位として計算
区分所有マンションの土地部分(敷地利用権)の評価は、まず「一棟の区分所有建物の敷地全体」を一体の宅地として評価し、その評価額に敷地権割合を乗じて一室分の評価額を求めます。
| 敷地利用権の評価額 | 敷地全体の評価額 × 敷地権割合(持分割合) |
(2)評価単位の確定で注意すべき点
- 敷地が複数筆にわたる場合でも、登記上の敷地権の目的となる土地をまとめて一体で評価する
- マンション敷地内に歩道状空地や私道があっても、評価上は敷地面積に算入して計算する(ただし、後述の最高裁判断による除外部分は別途考慮)
- 敷地に公道と私道が混在するケースは、私道部分の取り扱いを個別に検討する必要がある
敷地権割合は、登記簿謄本の「敷地権の割合」欄から確認します。表示登記があれば敷地権として登記されている割合が明記されています。
4 容積率が異なる場合
(1)複数の容積率にまたがるマンション敷地
マンション敷地が容積率の異なる2以上の用途地域にわたる場合、不整形地補正や側方路線影響加算等と同様に、加重平均等による処理が必要となります。
地積規模の大きな宅地の適用判定においても、容積率の取り扱いは重要です。
| 容積率の加重平均 | (A地域の容積率 × A地域の地積 + B地域の容積率 × B地域の地積)÷ 敷地全体の地積 |
(2)地積規模の大きな宅地との関係
地積規模の大きな宅地の評価(規模格差補正)を適用するためには、容積率が400%未満(東京都の特別区においては300%未満)であることが要件の一つです。複数の容積率にまたがる敷地では、加重平均した容積率でこの要件を判定します。
【留意点】容積率が高い商業地域部分と低い住宅地域部分にまたがるケースでは、加重平均後の容積率が400%を超えるかどうかを慎重に確認してください。
5 複数の路線価がある場合
(1)マンション敷地が複数の道路に接する場合
マンション敷地が複数の道路に面する場合(角地・二方路地等)、一般的な宅地評価と同様に正面路線価・側方路線影響加算率・二方路線影響加算率等を用いて計算します。
- 正面路線の決定:各路線価に奥行価格補正率を乗じた価額が最も高い路線が正面路線
- 側方路線:角地の場合は側方路線影響加算率を乗じて加算
- 二方路線:正面路線と裏面路線に接する場合は、二方路線影響加算率を乗じて加算
(2)路線価の地区区分にまたがる場合
マンション敷地がビル街地区・高度商業地区・普通商業地区・普通住宅地区など複数の地区にまたがる場合、正面路線が属する地区の奥行価格補正率等を適用します。
また、地積規模の大きな宅地の評価を適用できる地区区分は「普通商業・併用住宅地区」と「普通住宅地区」に限定されています。正面路線の地区区分がこれ以外(高度商業地区等)の場合は、地積規模の大きな宅地の評価は適用できません。
6 不整形地の評価
(1)不整形地補正が適用されるケース
マンション敷地が旗竿地・くの字形・その他不整形な形状である場合、不整形地補正率を適用して評価額を減額することができます。不整形地補正率は、地積区分表・不整形地補正率表に基づいて求めます。
(2)地積規模の大きな宅地との重複適用
地積規模の大きな宅地の評価に該当する場合、不整形地補正率と規模格差補正率を重複して適用することができます。
| 評価額の計算 | 路線価 × 奥行価格補正率 × 不整形地補正率 × 規模格差補正率 × 地積 |
ただし、二つの補正率を乗じると評価額が大きく下がることから、適用漏れのないよう注意が必要です。マンション敷地は大規模で不整形なものも多く、この組み合わせが有効なケースがあります。
7 土地の評価から除くべき部分 ― 最高裁の判断
(1)平成29年2月28日最高裁判決の内容
マンション敷地内に存在する歩道状の土地について、最高裁は以下の判断を示しました。
【最高裁の判断(平成29年2月28日差戻し判決)】 建築確認の条件として付された歩道状空地のうち、一定の要件を満たすものについては、財産評価基本通達24(私道の用に供されている宅地の評価)に基づき、「私道の用に供されている宅地」として評価する(ゼロまたは30%評価)ことが可能。
この判決を受けて、マンション敷地内の歩道状空地については、一定要件を満たせば私道評価(評価額ゼロ、または30%評価)が認められるようになりました。
(2)歩道状空地の要件
私道評価が認められる歩道状空地の主な要件は以下の通りです。
- 建築確認の条件として設置が義務付けられていること
- 道路に沿って設けられており、不特定多数の者が自由に通行できる状態にあること
- 道路の一部として機能しており、公衆の用に供されていること
- 敷地の一部として利用されておらず、実質的に私道と同様の状況にあること
【私道評価の原則】不特定多数の者が通行する私道はゼロ評価。特定の者のみが通行する私道は30%評価。いずれを適用するかは実態による判断が必要です。
【重要】歩道状空地であれば当然に私道評価となるわけではありません。建築確認・開発許可の内容、管理規約、現況利用状況、通行実態などを確認し、不特定多数の者の通行の用に供されているかを個別に判断する必要があります。実務上は建築指導課・固定資産税課への確認が有効です。
8 公開空地と歩道状空地の違い
(1)公開空地(総合設計制度に基づくもの)
公開空地とは、都市計画法・建築基準法の総合設計制度(昭和46年創設)に基づき、建築主が建築確認の容積率・高さ制限の緩和を受ける代わりに整備する、一般公衆に開放された空地のことです。
公開空地は歩道状空地と似ているようですが、相続税上の取り扱いは根本的に異なります。
| 項目 | 歩道状空地(最高裁判断あり) | 公開空地(総合設計制度) |
| 根拠制度 | 建築確認の条件 | 総合設計制度(建基法59条の2) |
| 容積率緩和 | 建築確認・開発許可等の条件として設置される場合がある | 容積率・高さ制限等の緩和を受けるために整備される |
| 相続税評価 | 私道評価(ゼロ又は30%)が可能 | 歩道状空地のような私道評価の対象とはせず、原則として敷地全体の宅地評価に含めて評価 |
| 非課税扱い | 要件を満たせば非課税相当 | 私道としての非課税扱いの対象外 |
公開空地はマンション敷地として通常通り評価されますが、容積率の緩和を受けた分、建物の容積が大きくなることで敷地持分狭小度(Dの要素)に影響し、区分所有補正率の計算に間接的に影響します。
9 地積規模の大きな宅地の評価
(1)マンション敷地への適用
平成30年1月1日から「広大地の評価」に代わり「地積規模の大きな宅地の評価」が導入されました。マンションの敷地も、一定要件を満たせばこの規模格差補正率を適用することができます(一室の区分所有権であっても、その敷地利用権を通じて間接的に恩恵を受けることができます)。
(2)適用要件(マンション敷地の場合)
| 要件 | 内容 |
| ①面積要件 | 三大都市圏:500㎡以上 / 三大都市圏以外:1,000㎡以上(マンション敷地全体で判定) |
| ②地区区分要件 | 路線価の地区が「普通商業・併用住宅地区」または「普通住宅地区」 |
| ③都市計画要件 | 用途地域が工業専用地域以外 |
| ④容積率要件 | 指定容積率が400%未満(東京都の特別区は300%未満) |
都心部の高容積率エリアや高度商業地区に所在するタワーマンションでは、容積率要件・地区区分要件を満たさず適用できないケースが多くなりますが、郊外・住宅地の中低層マンションで敷地面積が広い場合は適用の可能性が高く、20%以上の評価減になるケースもあります。
(3)規模格差補正率の計算
規模格差補正率 =(敷地面積 × A + B)÷ 敷地面積 × 0.8 (三大都市圏・普通住宅地区の場合:A=0.95、B=25)
算出した規模格差補正率を、奥行価格補正・不整形地補正等と重複して適用します。
10 国税庁Q&Aの主要ポイント(令和6年5月公表)
国税庁は令和6年5月に「居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A」(全22ページ)を公表しました。実務上重要な問答を以下に整理します。
| Q | 一棟の区分所有建物の全戸を所有している場合はどのように評価しますか? |
| A | 一棟の区分所有建物の全ての専有部分及び敷地のいずれも単独で所有している場合は、本通達(区分所有補正率)の適用対象外となります。この場合は、一棟の貸家建付地(または自用地)として評価します。 |
| Q | 貸し付けているマンション(貸家建付地)の評価はどうなりますか? |
| A | 本通達適用後の土地部分の評価額を基礎として、通常の貸家建付地の計算(借地権割合・借家権割合等)を行います。すなわち、区分所有補正率適用後の敷地利用権評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)となります。 |
| Q | 敷地利用権が借地権の場合(底地の評価)はどうなりますか? |
| A | 底地(貸宅地)の評価をする場合には本通達の適用はありません。借地権付分譲マンションの底地は、従来どおり自用地価額×(1-借地権割合)で評価します。 |
| Q | 新通達と財産評価基本通達6項(個別評価)は併用されますか? |
| A | 本通達の適用がある場合でも、本通達による評価額が著しく不適当と認められる特段の事情がある場合には、基本通達6項による評価(時価評価)が適用される可能性は排除されません。ただし、原則として新通達に従った評価で課税当局は判断することになります。 |
| Q | 築年数の計算はどのように行いますか? |
| A | 「建築の時」から「課税時期(相続開始日)」までの期間を築年数とします。期間に1年未満の端数がある場合は切り上げて1年とします。建築の時は、原則として登記簿上の新築年月日によります。 |
| Q | メゾネットタイプ(専有部分が複数階にまたがる)の場合の所在階は? |
| A | 専有部分がその区分所有建物の複数階にまたがる場合(メゾネット)は、階数の低い方の階を所在階として評価乖離率のC(所在階×0.018)を計算します。 |
| Q | 地階(地下)にある専有部分の所在階は? |
| A | 専有部分の所在階が地階の場合は、所在階を「零階」とし、Cの値はゼロとして計算します。 |
| Q | 令和6年1月1日前に取得したマンションはどうなりますか? |
| A | 本通達は令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産に適用されます。令和5年12月31日以前の取得は従来の評価方法(補正なし)によります。マンションが建築された時期は関係なく、取得時期で判断します。 |
| Q | 取引相場のない株式の純資産価額計算でマンションを所有している場合は? |
| A | 令和6年1月1日以後に取得した取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する場合、評価会社が所有するマンション(区分所有権等)についても本通達が適用されます。ただし、評価会社が課税時期前3年以内に取得した場合は通常の取引価額(時価)で計算します。 |
11 借地権付マンションの評価
(1)敷地利用権の種類と基本的な考え方
分譲マンションの敷地利用権(土地部分)は、通常は区分所有者全員による「敷地権(共有)」ですが、マンション敷地が借地の場合もあります。この場合、敷地利用権は地主から借りた「借地権」または「定期借地権」となります。
| 種類 | 普通借地権付マンション | 定期借地権付マンション |
| 法的根拠 | 借地借家法(旧法含む) | 借地借家法22条~24条 |
| 契約更新 | 更新あり(正当事由必要) | 更新なし・期間満了で消滅 |
| 存続期間 | 原則30年以上(更新継続) | 一般:50年以上、事業用:10年以上50年未満 |
| 主な特徴 | 長期にわたり土地使用継続可 | 期間終了後は建物解体・土地返還 |
| 相続税評価 | 自用地評価額×借地権割合 (区分所有補正率適用後) | 経済的利益と残存期間を基に評価 (複利年金現価率使用) |
(2)普通借地権付マンションの評価
① 借地権(敷地利用権)の評価
普通借地権付マンションでは、区分所有者が持つ敷地利用権は「借地権の共有持分」です。
【評価算式】 敷地利用権(借地権)の評価額 = 敷地全体の自用地評価額 × 区分所有補正率 × 借地権割合 × 敷地権割合(共有持分)
ポイントは、区分所有補正率を適用した後の「みなされた自用地としての価額」に借地権割合を乗じるという点です(評価基本通達27)。新通達の適用順序を誤らないよう注意が必要です。
② 路線価図の借地権割合の確認
普通借地権の割合は、路線価図上に記載されたアルファベット(A~G)で確認します。各記号が意味する割合は以下のとおりです。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
(3)定期借地権付マンションの評価
① 原則的な評価方法(経済的利益ベース)
定期借地権は、普通借地権のように単純に借地権割合を乗じるのではなく、設定時の経済的利益と残存期間を基に評価する点が大きな違いです。
定期借地権は、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益とその存続期間を基に評価します(財産評価基本通達27-2)。
【原則算式】 定期借地権の評価額 = 自用地評価額 ×(①設定時に受ける経済的利益の総額 ÷ ②設定時の通常取引価額)×(③残存期間の複利年金現価率 ÷ ④設定期間の複利年金現価率)
①の「経済的利益の総額」とは、設定時に受け取る権利金等(返還不要のもの)、保証金等の運用益相当額(無利息・低利の場合)、地代の前払い相当額の合計です。
② 課税上弊害がない場合の簡便計算
定期借地権の設定時と課税時期とで、借地権者に帰属する経済的利益に変化がない等、課税上弊害がない場合に限り、次の簡便計算が認められます。
【簡便算式(一般定期借地権の目的となっている宅地の底地評価に連動)】 底地評価額 = 自用地評価額 ー 一般定期借地権の価額に相当する金額 一般定期借地権の価額相当額 = 自用地評価額 ×(1 ー 底地割合)×(A残存期間の複利年金現価率 ÷ B設定期間の複利年金現価率)
【課税上弊害がある場合(簡便計算不可)】 ①借地権者と地主が親族間・同族法人等の特殊関係者である場合 ②第三者間であっても税負担回避目的と認められる場合
③ 定期借地権の設定期間と権利内容の確認
- 一般定期借地権(借地借家法22条):50年以上の期間、更新なし、建物解体・土地返還が原則
- 事業用定期借地権(同23条):10年以上50年未満、事業用建物のみ
- 建物譲渡特約付借地権(同24条):30年以上、期間満了時に地主が建物を買い取る
マンション用地として利用される定期借地権は「一般定期借地権(50年)」が最も多く、都市部の有名タワーマンションにも多数見られます。
(4)底地(貸宅地)の評価 ― 新通達の適用はなし
借地権付マンション・定期借地権付マンションの敷地を所有する地主(底地権者)が相続する場合、その底地(貸宅地)の評価には区分所有補正率は適用されません。
【国税庁Q&A 問8の内容】 借地権付分譲マンション・定期借地権付分譲マンションの敷地に供されている「貸宅地(底地)」の評価をする場合には、居住用の区分所有財産の評価に関する通達(区分所有補正率)の適用はない。 → 従来どおり、財産評価基本通達25(貸宅地の評価)に基づき評価する。
① 普通借地権の底地評価
底地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 ー 借地権割合)
借地権者が所有する借地権の評価では区分所有補正率が適用されますが、地主の底地評価には適用されないため、同一の土地に対して非対称な評価となります。
② 定期借地権の底地(一般定期借地権が設定された宅地)評価
底地評価額 = 自用地評価額 ー 一般定期借地権の価額に相当する金額 (一般定期借地権の価額相当額は前記算式による)
一般定期借地権が設定された底地の評価は、「自用地評価額から借地権の価額相当額を控除する」方式です。残存期間が短くなるほど底地権者の権利価値が高まるため、底地評価額は残存期間の短縮とともに上昇します。
(5)借地権付マンション評価の実務上の留意点
- 借地契約書(設定時の権利金・保証金・地代の内容)を必ず取り寄せて経済的利益を確認する
- 定期借地権の場合、「定期借地権等の評価明細書」(国税庁所定様式)を使用して評価する
- 路線価図上で「借地権の取引慣行のない地域」に該当する場合は、普通借地権の評価方法が異なる(評価基本通達25⑵による)
- 借地権者と地主が親族・同族法人の場合は特殊関係者に該当し、原則評価(経済的利益ベース)で計算する
- 借地権付マンションを貸し付けている場合は、借地権評価額をさらに貸家建付借地権として評価する(借地権評価額 × (1 ー 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合))
- 小規模宅地等の特例は、区分所有補正率適用後の評価額を基礎として従来と同様に適用可能
12 総則6項(個別評価)の適用トリガー ― 実務上の整理
(1)令和4年最高裁判決が示した判断枠組み
令和4年4月19日の最高裁判決は、財産評価基本通達6項(以下「総則6項」)の適用が争われた画期的な判決です。最高裁は、通達による評価と「時価(客観的な交換価値)」との間に「著しい乖離」が生じており、通達評価によることが「実質的な租税負担の公平」に反すると認められる「特別の事情」がある場合には、国税庁長官の指示(総則6項)による個別評価が許容されると判示しました。
【財産評価基本通達6項(総則6項)の原文(要旨)】 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
令和6年1月施行の区分所有補正率通達は、従来の乖離問題を制度的に是正するものですが、補正率適用後もなお「特別の事情」が認められる場合には総則6項が別途適用されるリスクが残ります(Q&A問9)。
(2)総則6項が問題となる典型的要素(適用トリガー)
近時の裁判例・国税庁の解説から整理される、区分所有マンションで総則6項が問題となる典型的要素は次の5点です。
| 適用トリガー要素 | 内容のイメージ |
| ① 取得時期 | 相続直前(概ね数年以内)に、多額の借入金を用いてマンションを取得している。取得から相続開始までの期間が短いほど、節税目的の推認が強くなる。 |
| ② 乖離の程度 | 取得価額・不動産鑑定評価額と通達評価額の倍率・乖離額が極端(数倍・数億円単位など)。区分所有補正率適用後もなお著しい乖離が残る場合は特に問題となりやすい。 |
| ③ スキーム性 | 相続税負担をほぼゼロにするなど、節税目的が前面に出た一連の取引構造(複数物件購入・直前の大型借入・養子縁組等との組み合わせ)がある。 |
| ④ 富裕層限定性 | 高額物件の複数購入など、一般の投資家には困難なスキームであり、富裕層のみが享受できる税負担軽減となっている。 |
| ⑤ 公平性の侵害 | 同様の資産規模を持つ他の納税者(現金保有者等)と比較して、相続税負担が著しく軽くなる結果となっており、実質的な租税負担の公平に反する。 |
(3)令和4年最高裁判決の事案のポイント
最高裁が総則6項の適用を認めた令和4年事案では、次の事実関係が認定されています。
- 被相続人が相続開始の約2年前と約9か月前に、銀行借入金でマンション2棟(計約13億円)を購入
- 通達評価額の合計は約3億3千万円(取得価額の約25%)
- 不動産鑑定評価額(時価)は約12億7千万円
- 通達評価による相続税の課税価格は負の遺産(債務が財産を上回る)となり、相続税額はゼロ
- 最高裁は「特別の事情」(著しい乖離+租税負担の公平への反)があると認定し、課税処分を支持
なお、最高裁は「節税目的であっても、それだけで直ちに総則6項が適用されるわけではない」とも述べており、あくまで「著しい乖離」と「公平性の侵害」の両方が必要です。
(4)区分所有補正率通達施行後の総則6項リスク
① 新通達適用後も残る6項リスク
令和6年1月施行の区分所有補正率通達は、従来の乖離問題を制度的に是正しています。しかし、以下のケースでは補正率適用後もなお6項が問題となりうることに注意が必要です。
- 補正率を適用しても、取得価額(時価)と評価額の乖離が依然として著しい場合
- 相続直前(数か月〜1年以内)に大型借入で取得したことが明白な場合
- 複数棟を組み合わせた大規模節税スキームの一部として位置付けられる場合
② 新通達の「評価水準0.6」は安全圏ではない
新通達は「評価水準が0.6以上であれば補正なし」としていますが、これは通達上の補正が不要というだけであり、市場価格(取得価額)との乖離が別途存在すれば、総則6項の適用可能性は排除されません。
【Q&A問9の内容(要旨)】 本通達の適用がある場合でも、本通達による評価額が著しく不適当と認められる特段の事情がある場合には、財産評価基本通達6項(総則6項)による評価(時価評価)が適用される可能性は排除されない。
(5)実務上の対応指針
① 相続税申告における留意点
- 相続開始前の不動産購入履歴・借入状況を必ず把握し、取得時期・取得価額・借入額を申告書類に整理する
- 通達評価額と取得価額の乖離率が大きい物件(目安として乖離率2倍超)は、個別リスクを評価する
- 不動産鑑定評価(時価評価)の取得も検討し、申告後の更正リスクを見積もる
- 借入金による節税スキームとの一体性が推認される場合は、書面添付制度を活用して申告経緯を丁寧に説明する
② 生前の節税対策として検討する場合の注意
- 相続開始から取得時期が離れているほどリスクが低減するが、「何年前なら安全」という明確な基準はない
- 取得目的(投資・賃貸経営)の実態を証拠として残しておくことが重要(賃貸収支・管理状況等)
- 相続税対策のみを目的とした取引であることが明白な場合は、他の節税手法との比較も含めて検討する
書面添付制度(税理士法33条の2)を活用し、評価の根拠・取得経緯・事業性等を詳細に記載した意見書を添付することは、税務調査への有効な抑止力となります。
13 まとめ ― マンション評価は多くの論点が絡む複合問題
区分所有マンションの相続税評価は、令和6年の通達改正により「区分所有補正率」という新たな枠組みが加わりましたが、それ以前から存在する土地評価の論点も引き続き適用されます。実務では以下のポイントを漏れなくチェックすることが重要です。
- 【新通達の適用対象確認】階数・用途・区分登記の有無・全室単独所有かどうか
- 【評価乖離率】築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度の4要素を正確に把握
- 【評価水準】0.6未満(引上げ補正)・0.6以上1以下(補正なし)・1超(引下げ補正)の三区分
- 【歩道状空地】最高裁判断に基づく私道評価の可否を現地確認・建築確認書類で検討
- 【公開空地】総合設計制度に基づくものは非課税にならない点に注意
- 【地積規模の大きな宅地】敷地面積・容積率・地区区分の三点を必ずチェック
- 【不整形地補正】規模格差補正率との重複適用により大幅な評価減になる場合がある
- 【容積率が異なる場合】加重平均容積率で地積規模の大きな宅地の適用要件を判定
- 【借地権付マンション】敷地利用権が借地権・定期借地権の場合は区分所有補正率適用後の価額に借地権割合等を乗じる
- 【底地の評価】地主側の底地(貸宅地)には区分所有補正率は適用されない(Q&A問8)
- 【定期借地権の評価】借地契約書・権利金・保証金・残存期間を確認し、評価明細書を使用して計算する
- 【総則6項リスク】取得時期・乖離の程度・スキーム性・富裕層限定性・公平性侵害の5要素を総合判断。補正率適用後も「著しい乖離+公平性の侵害」が残る場合は適用リスクあり
- 【書面添付】総則6項リスクが高い案件ほど、申告経緯・評価根拠・事業実態を書面添付制度で詳細に説明することが有効
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