はじめに
相続した実家や空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば「空き家特例」により、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる可能性があります。
しかし、空き家特例は非常に有利な制度である一方で、適用要件が細かく、売却の時期や同居の有無、分割売却の方法によっては使えないケースもあります。
特に、同一被相続人から相続した財産への「1回限り」の制限、被相続人が一人で住んでいたかどうかを判定する「独居要件」、同一年内の分割売却、マイホームの3,000万円控除との併用限度額は、実務でも判断に迷いやすいポイントです。
この記事では、空き家特例シリーズ第9回から第12回までをまとめ、相続した空き家を売却する際に注意すべき4つの重要論点について、尼崎の税理士が実務目線でわかりやすく解説します。
| スタッフ | 先生、第9回から第12回にかけて、空き家特例のちょっと複雑なケースを解説してきましたね。改めてポイントを整理してもらえますか? |
| 先 生 | はい。この4回で取り上げたのは、実務でよくご相談いただく「使えると思っていたのに使えなかった」というケースです。次の4つのポイントをまとめて解説します。 |
① 空き家特例は同一被相続人の財産について「1回限り」の適用(第9回)
② 被相続人が兄弟と同居していた場合は「独居要件」を満たさず適用不可(第10回)
③ 同一年内に分割売却した場合は「合算して3,000万円まで」控除可(第11回)
④ 空き家特例とマイホーム特例を同一年に「併用」する場合も合計3,000万円が上限(第12回)
① 空き家特例は「同一被相続人の財産に1回限り」の適用(第9回)
| スタッフ | 先生、相続した土地が広くて、今年と来年に分けて売ろうと思っています。今年の売却で空き家特例を使えば、来年の売却でもまた使えますよね? |
| 先 生 | 残念ながら、それはできません。空き家特例は、同一の被相続人から相続した財産について「1回しか適用できない」という重大な制限があります。今年の売却で特例を使ってしまうと、来年の売却には適用できません。 |
税法上も、空き家特例は同一の被相続人から相続した財産について、原則として1回のみ適用できる取扱いとされています。
根拠:租税特別措置法第35条第3項、国税庁タックスアンサーNo.3306
| スタッフ | えっ、では今年の確定申告をやり直して来年に移すことはできますか? |
| 先 生 | それもできません。一度適用した年の選択を後から変えることはできないため、分割売却を検討する場合は、最初から売却計画を慎重に立てることが必要です。同一年内に完了させるか、1回の売却でまとめて売るか、事前に検討してください。 |
| ⚠️ 年をまたいだ分割売却は、2回目に空き家特例が使えません!売却計画は事前に税理士にご相談を。 |
なお、空き家特例には「譲渡対価の合計が1億円以下」という要件もあります。分割売却の場合、後の売却によって合計が1億円を超えると修正申告が必要になることもあります。
▶ 詳しくはこちら → 第9回 詳細はこちら|空き家特例:同一被相続人からの相続財産は1回のみの適用です
② 被相続人が兄弟と同居していた場合は「独居要件」を満たさず適用不可(第10回)
| スタッフ | 先生、親と一緒に弟が住んでいた実家を相続しました。空き家特例は使えますか? |
| 先 生 | 使えません。空き家特例には「独居要件」があり、相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったことが要件の一つです。兄弟姉妹であっても「被相続人以外の居住者」に該当しますので、独居要件を満たさず、特例を適用することはできません。 |
税法上、相続開始の直前に被相続人以外の者が居住していた場合は「被相続人居住用家屋」に該当しないとされており、空き家特例の適用対象外となります。
根拠:租税特別措置法第35条第3項、同法施行令第23条、国税庁タックスアンサーNo.3306
| スタッフ | 「誰かが一緒に住んでいたらアウト」ということですね。どんな人が対象になりますか? |
| 先 生 | はい、配偶者・子や孫などの直系卑属・父母や祖父母などの直系尊属・兄弟姉妹・その他の親族・第三者、いずれの場合でも、相続開始直前に被相続人以外の誰かが居住していれば独居要件を満たしません。住民票の記載だけでなく、居住の実態で判断されます。 |
| スタッフ | 老人ホームに入所していた場合はどうですか? |
| 先 生 | 老人ホーム入所については例外があります。要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所し、入所前まで被相続人が一人で居住していた場合、一定要件を満たせば特例が使えます。ただし、入所後から相続開始まで、自宅が事業・貸付・他の者の居住に使用されていないことが必要です。 |
| ⚠️ 独居要件は「被相続人以外に居住者がいないこと」。住民票だけでなく居住の実態で判断されます。 |
▶ 詳しくはこちら → 第10回 詳細はこちら|空き家特例:被相続人が兄弟と同居していた場合は適用できません
③ 同一年内に分割売却した場合は「合算して3,000万円まで」控除可(第11回)
| スタッフ | 先生、広い土地を今年6月と11月の2回に分けて売ります。空き家特例は各回3,000万円ずつ、合計6,000万円使えますか? |
| 先 生 | よくある誤解ですが、それはできません。ただし、同一年内であれば2回の譲渡を「合算」して、3,000万円まで控除を受けることができます。租税特別措置法第35条第1項に「その年中に該当することとなった全部の資産の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除する」と定められており、同条第3項の空き家特例はこれを準用しています。 |
税法上、同一年中に複数回譲渡した場合は、それらを合算した譲渡所得の金額に対して3,000万円を限度として控除できる取扱いとなっています。
根拠:租税特別措置法第35条第1項・第3項、措置法通達35-7
| スタッフ | では今年と来年に分けて売ると、来年はどうなりますか? |
| 先 生 | 今年の売却で特例を適用した場合、来年の売却には空き家特例を適用できません(1回限りルール)。同一年内に完了させることで、2回の譲渡を合算して3,000万円の控除を最大限に活用できます。 |
| 売却のタイミング | 特例の適用 | 控除額 |
| 同一年内に複数回売却 | ○ 適用可 | 合計で最大3,000万円 |
| 翌年以降に売却(1年目に特例適用済) | × 適用不可 | 0円(特例使用済) |
| ✅ 同一年内の分割売却 → 合算して最大3,000万円控除可。年内完結が基本です(措法35①③、措通35-7)。 |
なお、控除の順序は措通36-1により、短期譲渡所得(5年以下)から先に控除し、次いで長期譲渡所得(5年超)から控除となります。
▶ 詳しくはこちら → 第11回 詳細はこちら|空き家特例:同一年に土地を分割して譲渡した場合の取扱い
④ 空き家特例とマイホーム特例を同一年に「併用」する場合も合計3,000万円が上限(第12回)
| スタッフ | 先生、今年、親から相続した空き家と、自分のマイホームの両方を売却します。空き家特例とマイホームの3,000万円控除、それぞれ3,000万円ずつで合計6,000万円使えますか? |
| 先 生 | よくあるご質問ですが、それはできません。空き家特例はマイホーム売却の3,000万円特別控除と同じ条文(租税特別措置法第35条第1項)を準用する仕組みです。同じ枠組みの特例であるため、同一年内に両方を適用した場合でも「全部の譲渡を合算して3,000万円が限度」となります。 |
税法上、空き家特例はマイホーム売却の3,000万円特別控除と同じ条文を準用しているため、同一年に両方を適用した場合でも控除の上限は合計3,000万円となります。
根拠:租税特別措置法第35条第1項・第3項、措置法通達35-7・36-1
| スタッフ | では、どうすれば税負担を減らせますか? |
| 先 生 | 最も効果的なのは、売却年を分けることです。空き家を今年、マイホームを来年に売却すれば、それぞれの年で3,000万円の控除が使え、合計最大6,000万円の控除が可能になります。ただし、各特例には期限(相続開始・居住終了から3年経過後の年末まで)があるため、期限内で売却年を調整する必要があります。また、相続税額が大きい場合は「相続税の取得費加算の特例」との比較検討もお勧めします。 |
| 売却パターン | 適用結果 | 控除額(合計) |
| 空き家とマイホームを同一年に売却 | 両者合算で3,000万円が上限 | 最大3,000万円 |
| 空き家とマイホームを別々の年に売却 | 各年で3,000万円ずつ適用可 | 最大6,000万円 |
| ⚠️ 同一年に両方使うと合計3,000万円が上限。別々の年に売却すれば合計最大6,000万円!売却年の調整が節税の鍵です。 |
▶ 詳しくはこちら → 第12回 詳細はこちら|空き家特例と自己の居住用財産の3,000万円控除を同一年に併用する場合の控除限度額
まとめ
| スタッフ | 先生、4つのポイントを改めて整理してもらえますか? |
| 先 生 | はい。第9回から第12回で解説した「空き家特例の応用編」を整理します。売る前に必ずご確認ください。 |
① 「1回限り」——年をまたいだ分割売却では2回目に特例が使えません。売却計画は必ず事前に。
② 「独居要件」——兄弟姉妹を含む誰かと同居していた場合は適用不可。住民票でなく実態で判断。
③ 「同一年内の分割売却」——合算して3,000万円まで控除可。年内完結が原則。
④ 「同一年の併用」——空き家特例+マイホーム特例も合計3,000万円が上限。別年に売却で最大6,000万円。
相続した空き家の売却は、事前確認が重要
相続不動産の売却は、売却のタイミングと方法一つで税負担が大きく変わります。「売る前」に必ず専門家にご相談ください。
空き家特例は、適用できれば税負担を大きく減らせる制度ですが、売却後に要件を確認しても手遅れになるケースがあります。
特に、年をまたぐ分割売却、被相続人との同居状況、マイホーム特例との併用、譲渡対価1億円以下の判定などは、売却前に確認しておくことが重要です。
相続した実家や空き家の売却を検討されている方は、売買契約を結ぶ前に、空き家特例の適用可否を確認しておくことをおすすめします。
尼崎・阪神間で相続税申告、相続不動産の売却、空き家特例、譲渡所得申告についてお悩みの方は、税理士法人松野茂税理士事務所へご相談ください。
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