相続税・みなし配当・非上場株式
自社株の相続後に発行会社へ売却を検討している方・実務家の方へ
税理士法人 松野茂税理士事務所専門:相続税・事業承継・非上場株式評価
1.この特例は何のためにあるのか OVERVIEW
Qスタッフ
先生、相続で非上場株式を取得した相続人が、その株式を発行会社に売却するケースが増えています。「みなし配当の特例」があると聞きましたが、どういうものですか?
A税理士
まずはなぜこの特例が必要か、から整理しましょう。
会社が自己株式を取得すると、株主に交付する金銭のうち「資本金等の額に対応する部分」を超える金額は、税務上みなし配当として扱われます(所得税法第25条第1項)。みなし配当は配当所得として総合課税(最高税率55%)の対象です。
ところが、相続した株式を発行会社に売る場合、相続人はすでに相続税を払っています。同じ財産に対して「相続税」と「高率のみなし配当課税」が重なることになり、実質的な二重課税感が生じます。
そこで租税特別措置法第9条の7が、一定の要件のもとで、みなし配当とならずに譲渡所得(申告分離課税20.315%)として課税するという特例を設けているのです。
📌 特例のポイント
みなし配当課税(最高55%)→ 譲渡所得課税(20.315%)へ切り替えることで、相続後の事業承継・株式整理を税制面からサポートする制度です。
2.条文全文(措法第9条の7) LAW TEXT
Qスタッフ
まず条文そのものを確認しておきたいのですが、どのような規定になっていますか?
A税理士
条文は一文で構成されていますが、非常に長く、括弧書きも多い難解な構造です。まず全文を確認した上で、要件ごとに分解していきましょう。
租税特別措置法 第9条の7(抄)
(相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例)
相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この項において同じ。)による財産の取得(相続税法又は第70条の7の3若しくは第70条の7の7の規定により相続又は遺贈による財産の取得とみなされるものを含む。)をした個人で当該相続又は遺贈につき同法の規定により納付すべき相続税額があるものが、
当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る同法第27条第1項又は第29条第1項の規定による申告書(…)の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に
当該相続税額に係る課税価格(同法第19条又は第21条の14から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により当該課税価格とみなされた金額)の計算の基礎に算入された
金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式その他これに類するものとして政令で定める株式を発行した株式会社以外の株式会社(以下この項において「非上場会社」という。)の発行した株式を
その発行した当該非上場会社に譲渡した場合において、
当該譲渡をした個人が当該譲渡の対価として当該非上場会社から交付を受けた金銭の額が当該非上場会社の法人税法第2条第16号に規定する資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に係る所得税法第25条第1項に規定する株式に対応する部分の金額を超えるときは、
その超える部分の金額については、同項の規定は、適用しない
■ 黄色:適用対象者・基本概念 ■ 赤色:適用要件 ■ 緑色:参照条文番号 ■ 橙色:特例の効果
📌 条文読解のポイント
この条文は「~が(主語)、~の間に(期間)、~の株式を(対象)、~に譲渡した場合において(行為)、~の額が~を超えるときは(金額要件)、~の規定は適用しない(効果)」という一文構造です。括弧書きが多く難解ですが、骨格を把握した上で括弧内の補足を読み込むと理解しやすくなります。
3.条文の構造と6つの要件 STRUCTURE
Qスタッフ
条文はかなり長くて難解です。要件を整理していただけますか?
A税理士
条文を分解すると、特例が適用されるための要件は大きく6つになります。この6つをすべて満たさないと特例は使えません。一つひとつを丁寧に確認することが重要です。
要件 ①
納付すべき相続税額があること
相続税の申告があるだけでは不足。実際に納付税額が生じていることが必要
要件 ②
申告期限の翌日から3年以内の譲渡
相続開始翌日〜申告期限翌日後3年以内という厳格な期間制限あり
要件 ③
課税価格に算入された株式
相続税の課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式であること
要件 ④
発行会社への譲渡・株式会社の株式のみ
自己株取得に限定。かつ対象は株式会社の株式のみ。合同会社の持分はNG・有限会社はOK
要件 ⑤
「金銭」の交付を受けること
対価は金銭に限定。借入金との相殺・現物は対象外
要件 ⑥
資本金等対応額を超える部分の存在
対価が資本金等の株式対応額を超える「超過部分」がなければ特例の実益なし
4.要件① 「納付すべき相続税額がある」とは KEY REQUIREMENT
Qスタッフ
「納付すべき相続税額がある」というのは、具体的にどういうことでしょうか。
A税理士
これが最も重要で、かつ実務でミスが起きやすい要件です。条文の「納付すべき相続税額」とは、各種控除・軽減を適用した後の最終的な実際の納付額を指します。
典型的な落とし穴が2ケースあります。
ケース① 基礎控除以下で相続税ゼロの場合
遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)以下の場合、相続税の申告義務自体がなく、当然ながら納付税額もゼロです。
NG課税価格の合計 ≤ 基礎控除額 → 相続税ゼロ → 特例適用不可
↓
結果非上場株式を発行会社に売却してもみなし配当課税の特例は受けられない。超過部分は総合課税(最高55%)のみなし配当となる
ケース② 配偶者の税額軽減で納税額がゼロになる場合
配偶者の税額軽減(相続税法第19条の2)は税額控除です。本来の相続税額があっても、この軽減により納付税額がゼロとなった場合は、「納付すべき相続税額がある」とは言えず、特例の対象外となります。
⚠️ よくある誤り
「相続税の申告はしたから大丈夫」と思いがちですが、申告の有無ではなく実際に相続税が課されているかどうかが判定基準です。要件は「配偶者に実際に相続税が課されていること」であり、金額の多寡(10万円でも100万円でも)は問いません。配偶者の税額軽減で納付税額がゼロになった配偶者は、本特例の対象外です。
| ケース | 納付税額 | 特例適用 |
|---|---|---|
| 基礎控除以下 | ゼロ(申告不要) | ✕ 不可 |
| 配偶者の税額軽減により納付税額がゼロ | ゼロ | ✕ 不可 |
| 未成年者控除・障害者控除により納付税額がゼロ | ゼロ | ✕ 不可 |
| 各種控除後も実際に相続税が課されている(10万円でも100万円でも金額の多寡は問わない) | あり | ○ 可 |
5.要件② 申告期限から3年以内という期間制限 TIME LIMIT
Qスタッフ
期間の計算はどうなりますか?具体的に教えてください。
A税理士
条文の文言は「相続の開始があった日の翌日から、申告書(相続税法第27条第1項又は第29条第1項の規定による申告書)の提出期限の翌日以後3年を経過する日まで」です。
通常の申告期限は相続開始から10か月。そこから翌日を起算点として3年なので、最長で相続開始から約3年10か月が特例を使える期間の上限です。
起点相続開始日の翌日
↓
基準相続税申告書の提出期限(相続開始から10か月)
↓
上限申告期限の翌日から3年経過する日まで → 最長で相続開始から約3年10か月
📌 実務上の注意
遺産分割協議が長引き、申告期限ギリギリに申告したケースでも、申告期限からさらに3年間の余裕があります。ただし、期限内に相続税の申告・納付を済ませることが大前提です。申告期限後に気づいた場合でも、まだ間に合うことが多いので、早期に専門家に相談することをお勧めします。
6.要件③ 課税価格に算入された株式であること ASSET INCLUSION
Qスタッフ
相続時精算課税で受贈した株式はどうなりますか?
A税理士
条文に「(同法第19条又は第21条の14から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により当該課税価格とみなされた金額)」という括弧書きがあります。
第19条は生前贈与加算(相続開始前3〜7年以内の贈与財産の加算)、第21条の14〜18は相続時精算課税の規定です。これらにより「みなして」課税価格に算入された場合も対象に含む、と明示されています。
| 取得の経緯 | 課税価格への算入 | 特例対象 |
|---|---|---|
| 通常の相続・遺贈 | 相続財産として算入 | ○ |
| 生前贈与加算(§19) | 贈与時価額で算入(みなし) | ○(括弧書きで明示) |
| 相続時精算課税(§21の14〜18) | 精算課税の贈与時価額で算入(みなし) | ○(括弧書きで明示) |
| 課税価格に算入されていない株式 | 算入なし | ✕ |
7.要件④ 発行会社への譲渡・「株式会社」に限定 COUNTERPARTY
Qスタッフ
株式を売る相手が発行会社でなく、他の株主や第三者でもよいですか?
A税理士
いいえ、この特例は「その株式を発行した非上場会社」への譲渡に限定されています。条文は明確に「当該株式をその発行した当該非上場会社に譲渡した場合」と規定しています。
第三者や他の株主への売却では、通常の株式譲渡所得(申告分離課税)の問題となり、みなし配当課税は原則として発生しませんが、本特例の問題ではありません。みなし配当が生じるのはあくまで発行会社自身が自己株式を取得する場合です。
対象となるのは「株式会社の株式」のみ
Qスタッフ
最近は合同会社が増えていますが、合同会社の出資持分を発行会社に譲渡した場合でも特例は使えますか?また、昔からある有限会社はどうでしょうか?
A税理士
ここは非常に重要なポイントです。条文をよく見ると「株式会社以外の株式会社(非上場会社)」「株式をその発行した当該非上場会社に譲渡」と明記されています。つまり本特例は「株式会社が発行した株式」に限定されています。
合同会社(LLC)は「持分会社」であり、社員が保有するのは「株式」ではなく「社員の持分」です。条文の「株式会社」にも「株式」にも該当しないため、合同会社の出資持分は本特例の対象外(NG)です。
一方、有限会社については、会社法施行(2006年)以降「特例有限会社」として法律上は株式会社の一種として存続しており、かつての「出資口数」は「株式」に読み替えられます。したがって有限会社の株式(旧出資口数)は本特例の対象(OK)です。
| 会社の種類 | 法的性質 | 持分の種類 | 特例対象 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | 株式会社 | 株式 | ○ OK | 条文どおり |
| 特例有限会社 (旧有限会社) | 会社法上は株式会社として存続 | 株式(旧出資口数から読替) | ○ OK | 法律上「株式会社」に該当 |
| 合同会社(LLC) | 持分会社 | 社員の持分 | ✕ NG | 「株式会社」でも「株式」でもない |
| 合名会社 | 持分会社 | 社員の持分 | ✕ NG | 「株式会社」でも「株式」でもない |
| 合資会社 | 持分会社 | 社員の持分 | ✕ NG | 「株式会社」でも「株式」でもない |
📄 有限会社がOKである法的根拠
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)により、旧有限会社は「特例有限会社」として株式会社の規定が準用されます。旧来の「出資口数」は「株式の数」に、「出資1口」は「1株」に読み替えられるため、税法上も株式会社の株式として取り扱われます。
⚠️ 実務上の確認ポイント
近年、設立コストの低さから合同会社(LLC)が急増しています。相談を受けた際は、まず「その会社は株式会社ですか、合同会社ですか?」を必ず確認してください。商号だけでは判断できない場合もあるため、登記簿謄本で会社の種類を確認することが不可欠です。合同会社の場合は本特例が使えず、みなし配当課税(最高55%)が通常どおり適用されることを事前にご説明ください。
8.要件⑤ 「金銭の交付」であること CASH ONLY
Qスタッフ
株主がその会社から借入金をしていた場合、株式の買取代金と借入金を相殺することはよくあると思いますが、この場合も特例が使えますか?
A税理士
これが非常に重要な論点です。結論から言うと、借入金との相殺では特例は使えません。
条文は「当該非上場会社から交付を受けた金銭の額」と明記しています。キーワードは2つ。
①「金銭」であること — 現金・預金振込に限られる
②「交付を受けた」こと — 現実に受け取っていること
借入金との相殺は民法上の相殺(民法505条)であり、双方の債権を対当額で消滅させる処理です。株主は現実に現金を受け取っていないため、「交付を受けた」という要件を満たしません。
| 対価の形態 | 特例の対象 |
|---|---|
| 現金支払い・預金口座への振込 | ○ 対象 |
| 借入金(会社への返済義務)との相殺 | ✕ 対象外 |
| 有価証券・不動産等の現物交付 | ✕ 対象外 |
| 約束手形・手形による支払い(未決済) | ✕ 対象外 |
| 現金一部+相殺一部の混合 | 現金部分のみ検討(全体否認リスクあり) |
⚠️ 実務上の最大の落とし穴
「どうせ返せない借入金だから相殺してしまおう」という安易な処理は、
①本特例の適用を失う
②みなし配当として源泉徴収義務が会社に残る
という二重のダメージをもたらします。会社側のペナルティリスクにもなります。
正しい実務処理の手順
Step1会社が金融機関等から資金を調達する
↓
Step2会社が株主(相続人)に現金で株式買取代金を支払う
↓
Step3株主(相続人)が受領した現金で会社への借入金を返済する
↓
結果「金銭の交付」要件を充足 → 特例適用可能
一見迂遠に見えますが、現金を実際に動かすことで要件を満たし、相続人の税負担を申告分離課税(20.315%)に抑えることができます。
9.要件⑥ 資本金等対応額を超える部分の存在 AMOUNT
Q
スタッフ
「資本金等の額のうち株式に対応する部分」とは何ですか?
A
税理士
会社が株主に交付した金銭のうち、「資本金等の額」の株式対応部分は純粋な資本の払い戻しであり、みなし配当には該当しません。
みなし配当となるのは、交付金銭額が資本金等対応額を超える部分です。この超える部分がゼロであれば、そもそもみなし配当の問題自体が生じず、本特例の適用を検討する実益もありません。
中小企業の非上場株式では、長年の利益蓄積により純資産が資本金等の額をはるかに超えていることが多く、この「超える部分」が多額になるケースが典型です。
10.特例の効果 — みなし配当から譲渡所得へ EFFECT
Qスタッフ
要件を満たした場合、実際の税負担はどのくらい変わりますか?
A税理士
効果は非常に大きいです。課税区分が根本から変わります。
| 区分 | 特例なし(原則) | 特例あり |
|---|---|---|
| 資本金等対応額の部分 | 譲渡収入(譲渡所得) | 同左(変更なし) |
| 超過部分(みなし配当相当額) | 配当所得・総合課税 (最高55%) | みなし配当とならない → 譲渡所得(20.315%) |
📄 条文の効果規定
「その超える部分の金額については、同項(所得税法第25条第1項)の規定は、適用しない」
→ みなし配当課税規定を排除し、超過部分も含めて全体が株式の譲渡所得として申告分離課税(20.315%)の対象となります。
📌 申告上の注意点
特例の適用を受けるには、確定申告書に適用を受ける旨の記載と必要書類の添付が必要です(措法施行令)。なお、発行会社側では自己株取得に係るみなし配当認識は通常どおり生じるため、源泉徴収義務がある点に注意が必要です。特例は個人の確定申告段階で調整する仕組みです。
11.【実務テクニック】配偶者が1/2超を取得して納税額を発生させる手法 ADVANCED
Q
スタッフ
先ほど配偶者が税額軽減でゼロになる場合は特例が使えないと学びました。でも、相続人が配偶者と子だけで、配偶者が株式を取得して会社に売りたいという要望があります。何か方法はありますか?
A税理士
鋭い質問です。実はあります。配偶者の税額軽減の上限の仕組みを逆手に取る方法です。
配偶者の税額軽減の上限は、次のいずれか大きい額です。
① 課税価格の合計額 × 1/2(法定相続分相当額)
② 1億6,000万円
配偶者の取得財産額がこの上限を超えた場合、超過部分に対応する相続税は軽減されず、実際に納付が必要となります。つまり、意図的に配偶者の取得額を法定相続分(1/2)超に設定することで、納付税額を発生させることができるのです。
💡 スキームの仕組み(設例)
遺産総額6億円、相続人は配偶者・子1人の場合
■ 通常の分割(法定相続分どおり)
配偶者3億円取得 → 軽減上限3億円以内 → 納付税額ゼロ → 特例使えない
■ テクニック適用(配偶者が法定相続分超を取得)
配偶者4億円取得(非上場株式を含む)
→ 軽減上限3億円を1億円超過
→ 超過1億円に対応する相続税が納付税額として発生
→ 「納付すべき相続税額がある」に該当
→ 特例の適用が可能
設計のポイント
| 設計項目 | 内容 |
|---|---|
| 非上場株式を配偶者に集中 | 発行会社への譲渡を配偶者が行うため、株式を配偶者が相続することが前提 |
| 取得額を法定相続分(1/2)超に設定 | 軽減上限を意図的に超えさせる。配偶者に実際に相続税が課されていることが要件であり、金額の多寡(10万円でも100万円でも)は問わない |
| 子の取得財産 | 株式以外の現預金・不動産等で調整し、子の相続税額も試算してトータルコストを比較 |
| 二次相続との通算 | 配偶者取得財産が多いほど二次相続税が増加する点も必ずシミュレーション |
⚠️ 注意事項
超過取得額を大きくするほど配偶者の一次相続での納付税額が増加します。
「特例による節税効果(みなし配当→譲渡所得の差額)」と「配偶者の相続税増加額」を必ずトータルで比較・検討してください。
また、遺産分割協議の段階で判断することが不可欠です。分割後の変更は困難なため、相続発生後できるだけ早期に税理士に相談することが大切です。
12.国税庁の公式情報・実務上の手続き NTA REFERENCE
Qスタッフ
国税庁はこの特例についてどのような情報を公表していますか?実務手続きも含めて教えてください。
A税理士
国税庁はタックスアンサー(No.1477)で特例の概要を公表しています。また、届出書の手続き(A2-31)や文書照会回答も重要です。実務上、特に注意が必要な論点を3つ整理します。
【論点①】届出書の提出 ― 譲渡「前」が絶対条件
Qスタッフ
特例を受けるために必要な手続きはありますか?
A税理士
国税庁(A2-31)によれば、特例の適用を受けるには、非上場株式を発行会社に譲渡する日までに、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出することが必要です。
この届出書は、株主(相続人)→発行会社への提出であり、税務署への提出ではありません。発行会社はこの届出書を受領したうえで源泉徴収の処理を行います。
⚠️ 届出書は「譲渡前」の提出が必須
譲渡後に届出書を提出しても特例の適用を受けることはできません。株式の売買契約と同時、または前に届出書を準備・提出する必要があります。この手続きを失念すると、せっかく要件を満たしていても特例が使えなくなるため、実務上最も注意が必要なポイントです。
📄 国税庁タックスアンサー No.1477 より
「非上場株式をその発行会社に譲渡する日までに『相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書』を発行会社に提出する必要があります。」
(手続名:A2-31 根拠法令:措法第9条の7、措令第5条の2、措規第5条の5)
【論点②】発行会社側の源泉徴収はどうなるか
Qスタッフ
発行会社(自己株を取得した会社)側では源泉徴収が必要ですか?
A税理士
これは実務で混乱しやすいポイントです。整理すると次のとおりです。
本特例の適用がある場合、株主(相続人)にはみなし配当課税が行われません。これに伴い、発行会社の配当に係る源泉徴収義務も不要となります。
ただし、発行会社の法人税法上の処理(利益積立金額からの減算)は通常どおり行われます。特例はあくまで個人株主側の課税区分を変えるものであり、発行会社の会計・税務処理の枠組み自体は変わりません。
| 処理項目 | 特例なし(原則) | 特例あり |
|---|---|---|
| 株主(相続人)の課税 | 超過部分:みなし配当(総合課税) | 超過部分:譲渡所得(申告分離課税) |
| 発行会社の源泉徴収 | みなし配当相当額につき源泉徴収義務あり | 源泉徴収不要 |
| 発行会社の法人税処理 | 利益積立金額から減算 | 同左(変更なし) |
【論点③】相続前から同一銘柄株式を保有している場合の取扱い
Qスタッフ
たとえば、相続人がもともとA社株式を2万株持っていて、相続でさらに1万3千株取得し、合計3万3千株になった場合、一部を会社に売ったときはどうなりますか?
A税理士
東京国税局の文書照会回答(平成22年)でこのケースが明確化されています。
相続前から同一銘柄の株式を持っている株主が、その一部を特例期間内に発行会社に譲渡した場合、「相続により取得した株式から優先的に譲渡したもの」として取り扱うとされています。
これは「取得費加算の特例」(措法第39条)における措置法通達39-20(同一銘柄の場合の取扱い)と同様の考え方を本特例にも適用するものです。
💡 東京国税局 文書照会回答(平成22年)の結論
相続前から同一銘柄株式を所有している株主が、特例期間内に一部を発行会社に譲渡した場合、譲渡株数が相続取得株数の範囲内であれば、その全てを「相続により取得した株式の譲渡」として本特例の適用が認められる。
<設例>
相続前保有:20,000株 / 相続取得:13,333株 / 合計:33,333株
→ 3,600株を発行会社に譲渡(13,333株の範囲内)
→ 全3,600株に本特例の適用あり
📌 取得費加算の特例(措法第39条)との併用も可能
国税庁タックスアンサー(No.1477)は、本特例の適用を受ける場合に「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(措法第39条)」との併用が可能であることを明示しています。
取得費加算の特例とは、相続した資産を一定期間内に譲渡した場合に、納付した相続税額の一部を取得費に加算できる特例です(コード3267参照)。本特例と組み合わせることで、みなし配当回避(措法9条の7)+取得費増額(措法39条)の二重の節税効果を得ることができます。
📄 参照:国税庁公式情報
・タックスアンサー No.1477「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
・手続案内 A2-31「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出」
・東京国税局 文書照会回答(平成22年)「相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用関係について(相続開始前に同一銘柄の株式を有している場合)」
13.まとめ 失敗しないためのチェックリスト CHECKLIST
措法第9条の7 適用前の確認事項
- 相続税の申告を行い、実際に納付税額が生じているか(ゼロは不可)
- 配偶者の税額軽減等の適用後も実際に相続税が課されているか(金額の多寡は問わないが、課税されていることが要件)
- 相続税申告書の提出期限の翌日から3年以内に譲渡するか
- 対象株式が課税価格の計算の基礎に算入されているか
- 譲渡先が株式を発行した非上場会社自身(自己株取得)か
- 発行会社が株式会社(特例有限会社を含む)か — 合同会社・合名会社・合資会社の持分は対象外
- 対価として金銭(現金・振込)の交付を受けるか(相殺・現物は不可)
- 交付金銭が資本金等対応額を超える部分が存在するか
- 確定申告書に特例適用の旨の記載と必要書類を添付するか
- 譲渡前に「みなし配当課税の特例に関する届出書(A2-31)」を発行会社に提出したか
- 発行会社側の源泉徴収不要の処理を確認したか(特例適用時は源泉徴収不要)
- 取得費加算の特例(措法第39条)との併用を検討したか
- 相続前から同一銘柄を保有している場合、相続取得株数の範囲内の譲渡か確認したか
- 配偶者が株式を取得するケースでは法定相続分超の取得設計を検討したか
A税理士
措法第9条の7は、相続後の非上場株式の処分に際して非常に有効な特例ですが、要件が多く、一つでも欠けると適用できません。特に「金銭の交付」という要件と「納付税額の有無」は、遺産分割の設計段階から意識しておかないと後から手が打てないことがあります。
相続発生後、非上場株式の処分を検討している場合は、ぜひ早期にご相談ください。遺産分割協議の前に税理士が介入することが、この特例を最大限活用するための最善策です。
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