この記事の目的
顧問先には親会社・子会社の両方をお預かりしているグループが多くあります。グループ内で資産を売買した場合、売った年に繰り延べた譲渡損益について、その後、償却・再譲渡・除却などの事由が生じたときに戻し入れる処理が必要です。 特に減価償却資産では、翌年以降も毎年戻入れが続くことがあるため注意が必要です。
なかでも重要なのが、簡便法を使うかどうかの手続を、譲渡のタイミングで確実に行うことです。簡便法を適用する場合は、譲渡後遅滞なく譲受法人へその旨を通知し、さらに譲渡日の属する事業年度の確定申告書に所定の明細を記載します。原則として、この手続を行わなかった場合、後から簡便法を適用することはできません(税務署長がやむを得ない事情があると認めた場合の例外があります)。
1. 対象になる取引
次の3つの条件をすべて満たす取引が対象です。
- 完全支配関係(100%の資本関係)がある法人間の譲渡であること
- 親子会社だけでなく、同じ社長が100%を持つ兄弟会社同士も対象です。
- 直接100%だけでなく、間接保有や一の者による100%支配も含まれます(親会社→子会社→孫会社のように、間に別法人を挟んでいても対象になります)。
- 固定資産・土地(土地の上に存する権利を含む)・有価証券(譲渡法人または譲受法人で売買目的有価証券となるものを除く)・金銭債権・繰延資産の譲渡であること
- 譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上であること
- 判定は資産ごとに行います(建物は1棟ごと、機械は1台ごとなど)。
チェックのきっかけ:仕訳入力で「固定資産売却益(損)」が出ていて、相手先がグループ会社なら、必ず担当税理士に報告してください。
2. 売った年の処理(譲渡法人)
会計上は譲渡益がそのまま計上されます。税務上は、その利益を繰り延べます。
| 申告書 | 記載内容 |
|---|---|
| 別表四 | 「譲渡損益調整勘定繰入額」を減算・留保 |
| 別表五(一) | 「譲渡損益調整勘定」を△(マイナス)で計上 |
| 別表十四(六) | 完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整に関する明細書を作成 |
このとき必ず決めること(最重要):減価償却資産について簡便法を適用する場合は、譲渡後遅滞なく譲受法人へその旨を通知し、譲渡年度の確定申告書に所定の明細を記載します。原則として、この手続を行わなかった場合、後から簡便法を適用することはできません(やむを得ない事情がある場合の例外があります)。
| 判断のポイント | 原則法が向いている | 簡便法が向いている |
|---|---|---|
| 買った会社からの償却費の通知 | 毎年確実に受け取れる | 毎年受け取るのが難しい |
| 戻入額の考え方 | 譲受法人の実際の償却に応じて戻したい。定率法などで償却が早ければ、戻入れも早くなる | 実際の償却費に関係なく、耐用年数と月数で平準的に戻したいい |
| 管理の手間 | 毎年、償却費の確認が必要 | 耐用年数が分かれば、あとは月数で計算できる |
| 申告書での明細 | 簡便法の明細の記載は不要 | 譲渡年度の申告書に簡便法の明細を記載 |
- 簡便法は譲渡資産ごとに選択します。 譲渡後遅滞なく譲受法人へ簡便法を使う旨を通知し、譲渡年度の申告書に計算明細を記載します。原則として、この手続を行わなかった場合、後から簡便法を適用することはできません(やむを得ない事情がある場合の例外があります)。
- 決めた方法は、管理表の「適用方法」欄に入力し、申告書の控えと一緒に保存してください。
3. 翌年以降の処理(毎年の戻入れ)
買った側(譲受法人)が償却すると、売った側で毎年戻入れが必要です。
| 方法 | 戻入額の計算 |
|---|---|
| 原則法 | 譲渡利益額 × 買った側の損金算入償却費 ÷ 買った側の取得価額 |
| 簡便法 | 譲渡利益額 × その年の月数 ÷(買った側の耐用年数 × 12) |
- 掛けるのは当初の譲渡利益額です。期首の残高に掛けてはいけません。
- 簡便法の月数は、譲渡日以後の月数で数え、1か月未満は1か月に切り上げます。
- 別表四で「譲渡損益調整勘定戻入額」を加算・留保し、別表五(一)の残高を減らします。
例:譲渡利益3,000万円、耐用年数20年、簡便法の場合
- 1年目(10月譲渡・3月決算で6か月分):75万円
- 2年目以降:毎年150万円
- 原則として耐用年数に応じて長期間にわたり戻入れが続きます(耐用年数の短縮承認を受けた場合は、その短縮後の耐用年数を使う取扱いがあります)。
原則法と簡便法で戻入額が異なる場合
留意点:原則法と簡便法では、戻入額の計算の基礎が異なります。
- 原則法:譲受法人で実際に損金算入された減価償却費を基礎に計算します。 原則法の戻入額 = 譲渡利益額 ×(譲受法人の当期損金算入償却費 / 譲受法人の取得価額)
- 簡便法:譲受法人が適用する耐用年数を月数に換算し、当期の月数で按分して計算します。実際の償却費とは関係なく計算されるため、たとえば譲受法人の損金算入償却費がゼロの期があっても、簡便法の戻入れは行います。 簡便法の戻入額 = 譲渡利益額 ×(譲渡法人の当期の月数(※) /(譲受法人がその資産について適用する耐用年数 × 12)) 分子と分母で法人が違う点に注意してください。 分子の月数は譲渡法人(売った側)の事業年度の月数、分母の耐用年数は譲受法人(買った側)がその資産について適用する耐用年数です。 (※)譲渡法人の当期の月数:通常は譲渡法人の事業年度開始の日からその終了の日までの月数です。ただし、譲渡の日を含む事業年度(=譲渡年度)は、譲渡の日から譲渡法人のその事業年度終了の日までの期間の月数になります。
譲受法人が取得した資産が中古資産で、中古資産としての耐用年数を適用している場合、簡便法では新品の法定耐用年数ではなく、その中古資産について実際に適用する耐用年数を使用します。
同じ資産・同じ譲渡利益額でも、原則法と簡便法では毎年の戻入額が異なることがあります。特に譲受法人が定率法で償却している場合、原則法は実際の償却費の推移に応じて戻入額も変動します。
前提:譲渡利益3,000万円、譲受法人の取得価額8,000万円、中古資産について簡便法により算定した耐用年数16年(法定耐用年数20年・経過年数5年から、20-5+5×20%=16年)、譲受法人は定率法(耐用年数16年の償却率0.125)で償却。譲受法人が事業年度開始の日に取得・事業供用し、各年度とも12か月分の減価償却を行うものとします。
簡便法の分母は、耐用年数16年を月数に換算した192か月です。当期の月数(12か月)が、この192か月のうち何か月分にあたるかで按分するため、戻入額は3,000万円×12/192=**187.5万円(毎年一定)**になります。
以下の表は、譲受法人の償却費が「期首帳簿価額×0.125」で計算される期間の比較例です(定率法は後半、償却保証額を下回ると改定取得価額による計算に切り替わります。その期間は別途計算が必要です)。
| 年目 | 期首帳簿価額 | 譲受法人の償却費(計算式) | 原則法の戻入額(計算式) | 簡便法の戻入額 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 8,000万円 | 8,000万×0.125=1,000万円 | 3,000万×(1,000万/8,000万)=375万円 | 187.5万円 |
| 2年目 | 7,000万円 | 7,000万×0.125=875万円 | 3,000万×(875万/8,000万)=328.1万円 | 187.5万円 |
| 3年目 | 6,125万円 | 6,125万×0.125=765.6万円 | 3,000万×(765.6万/8,000万)=287.1万円 | 187.5万円 |
| 4年目 | 5,359.4万円 | 5,359.4万×0.125=669.9万円 | 3,000万×(669.9万/8,000万)=251.2万円 | 187.5万円 |
- 原則法の戻入額は、償却費の推移に連動します。 この例のように毎期12か月償却する定率法では、初年度が最も大きく、その後は逓減します。譲受法人での取得・事業供用が期中の場合は、その年度の償却費は月割計算となります。
- 簡便法の戻入額は「耐用年数で均等に割る」のではなく、耐用年数を月数に換算した期間(この例では192か月)に対する当期の月数の割合で按分します。 実際の償却費とは無関係です。事業年度が12か月であれば、この例では毎年187.5万円で一定になります。
- 同じ譲渡損益調整資産について、原則法と簡便法を年によって使い分けることはできません。 譲渡年度に選んだ方法を、その資産については継続して使います。
- 譲受法人が定額法で、簡便法で使用する耐用年数と同じ耐用年数により、毎期12か月分を通常どおり償却している場合には、原則法と簡便法の戻入額が一致することがあります。 ただし、期中取得、償却不足その他の事情がある場合には一致しません。
- 原則法は、譲受法人の実際の損金算入償却費を把握しなければ正確に計算できません。 法令上、戻入事由が生じた事業年度終了後遅滞なく、譲受法人から譲渡法人へ必要事項を通知することとされており、原則法による償却の場合には損金算入した償却費の額も通知対象になります。原則法を選ぶ資産は、この情報を毎年確実に把握できるかどうかを、譲渡年度のうちに確認しておいてください。
参照:国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」問12(譲渡損益調整資産に係る譲渡損益額の戻入れ)
4. 会社相互の通知
戻入れを正しく行うため、法人税法施行令122条の12で、売った会社と買った会社が互いに通知することが定められています。
| 誰から誰へ | 法定の時期 | 内容 |
|---|---|---|
| 売った会社 → 買った会社 | 譲渡後遅滞なく | 譲渡損益調整資産該当資産である旨(簡便法を使う場合はその旨も) |
| 買った会社 → 売った会社 | 通知を受けた後遅滞なく | 簡便法の場合:適用する耐用年数等 |
| 買った会社 → 売った会社 | 戻入事由が生じた事業年度終了後、遅滞なく | 再譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却等の旨とその日。原則法による償却の場合は、損金算入した償却費の額もあわせて通知 |
**簡便法を適用する減価償却資産については、通常の償却額を毎年通知する必要はありません。**取得時に通知した耐用年数で自動的に計算できるためです。再譲渡・除却など、通常の償却以外の事由が生じたときだけ通知します。
当事務所の運用
- 法定の通知期限は上の表のとおりです。事務所内のルールとしては、「遅滞なく」を待たず、再譲渡・除却などの事由が判明した時点ですぐに担当者間で連絡してください。
- 両社とも当事務所の顧問先であっても、通知書は必ず作成し、両社のフォルダに保存してください。
- 買った会社の決算時に、償却費・除却の有無を確認し、売った会社の担当者へ回付します。
- 通知書に決まった様式はありませんが、日付・資産名・金額が分かる形で残してください。税務調査で戻入額の根拠になります。
5. 再譲渡・除却・完全支配関係がなくなった場合
次の事由が生じた場合は、譲渡損益調整勘定の戻入れが必要です。
- 買った会社がその資産を再譲渡したとき(グループ内の他法人への譲渡を含む)、または除却したとき
- グループ外の第三者だけでなく、グループ内の別法人への再譲渡も戻入事由になります。
- 資産の全部を再譲渡・除却した場合は、原則としてその資産に対応する残額を戻し入れます。
- 土地の一部譲渡など、資産の一部について事由が生じた場合は、その部分に対応する金額を戻し入れます。
- グループ内の別法人へ再譲渡した場合には、元の譲渡について戻入れを行い、新しい譲渡について改めてグループ法人税制による繰延べが生じることがあります。
- 譲渡法人と譲受法人との100%関係がなくなったとき(株式の一部譲渡、第三者割当増資、M&Aなど)
- 一定の例外を除き、完全支配関係を有しないこととなった日の前日の属する事業年度において、その時点の未戻入額を戻し入れます。期中に株式譲渡が行われた場合も、通常の決算期末ではなく、この「前日の属する事業年度」で戻し入れる点に注意してください。
顧問先から株式の移動や増資の相談があった場合は、譲渡損益調整勘定の残高がないかを確認し、担当税理士に報告してください。一括戻入れによって大きな課税が生じることがあります。
6. 毎年の決算チェックリスト
売った会社の申告時に、次の項目を確認してください。
- [ ] 前期の別表五(一)に「譲渡損益調整勘定」の残高があるか
- [ ] 残高がある場合、当期の戻入額を計算したか
- [ ] 管理表の期末残高と別表五(一)の残高が一致しているか
- [ ] 原則法の場合、買った会社から償却費の通知を受け取ったか
- [ ] 買った会社で再譲渡・除却がなかったか
- [ ] 株主構成に変化がなく、100%関係が続いているか
- [ ] 別表十四(六)を作成したか
7. 資産ごとの管理表を作ることの重要性
譲渡損益調整勘定は、会計帳簿には残らず、申告書の別表五(一)にだけ残高が引き継がれていく性質のものです。1件の資産について、譲渡年度から戻入れが終わるまで数年から長ければ20年以上にわたって処理が続くため、申告書の控えだけを見て毎期の状況を追いかけるのは現実的ではありません。
このため、資産ごとに次の情報をまとめた管理表を作成し、決算のたびに更新することが欠かせません。
- 譲渡日、譲渡利益額(当初の繰延額)
- 原則法・簡便法のどちらを選択したか(簡便法の場合は、譲渡年度の申告書への明細記載の有無)
- 譲受法人の取得価額・耐用年数
- 毎期の戻入額と、その計算根拠(原則法なら償却費、簡便法なら月数)
- 戻入れの累計額と期末残高
管理表を作っておくことで、次のようなメリットがあります。
- 毎期の戻入額を機械的に確認できるため、計算漏れや二重計上を防げます。
- 期末残高を別表五(一)の残高と照合でき、申告書への転記ミスにすぐ気づけます。
- 担当者が交代しても、経緯や計算方法を確実に引き継げます。
- 株式異動やM&Aの相談があった際に、未戻入残高をすぐに把握でき、一括戻入れによる想定外の課税を防げます。
管理表がないまま年数が経過すると、「なぜこの残高が別表五(一)に残っているのか分からない」という状態になりやすく、税務調査でも説明に窮する原因になります。譲渡年度に管理表への記載を始めることを、決算・申告のルーチンに組み込んでください。
8. 担当の引継ぎ・新規受託の際
- 担当を交代するときは、譲渡損益調整勘定の残高の有無と管理表の場所を必ず引き継いでください。
- 新しく顧問先を受託したときは、前任税理士の申告書の別表五(一)を確認してください。残高があれば、発生した経緯と計算方法を確認します。
実務上の注意
譲渡損益調整勘定は、初年度の繰延べだけで終わる処理ではありません。翌年以降も戻入れが続くため、前任税理士からの引継ぎ漏れや担当者交代によって、戻入れ自体が失念されている例があります。また、原則法と簡便法を取り違えた計算ミスも起こりやすい論点です。
さらに、譲渡時の会社間通知がされていないと、後年度の戻入計算に必要な情報が残らず、処理全体が不安定になります。譲渡時の通知・申告書への記載・管理表への登録までを一連の手続として処理することが重要です。
まとめ
- グループ内での売却益は課税が先送りされているだけです。
- 簡便法を使う場合は、譲渡後遅滞なくの通知と、譲渡年度の申告書への明細記載が必要です。原則として、行わなかった場合は後から適用できません(やむを得ない事情がある場合の例外があります)。
- 減価償却資産は、原則法では買った側の償却に応じて、簡便法では耐用年数と月数に応じて、売った側で毎年戻入れが必要です。
- 管理表・会社相互の通知・チェックリストの3つで漏れを防ぎます。
- 100%関係が崩れる相談を受けたら、必ず残高を確認してください。
参照条文・通達・Q&A
本文中で引用した法令・通達・国税庁資料です。改正で条文番号や様式が変わることがあるため、実際の申告時は最新版を確認してください。
法令
- 法人税法 第61条の11(完全支配関係がある法人の間の資産の譲渡取引等)
— 繰延べ(第1項)、戻入れ(第2項)、完全支配関係を有しないこととなった場合の一括戻入れ(第3項) - 法人税法施行令 第122条の12(譲渡損益調整資産の譲渡損益額の計算等)
— 対象資産の帳簿価額基準、簡便法、申告要件、通知義務
通達(法人税基本通達 第12の4章 完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整)
- 国税庁:第3節 譲渡損益調整額の戻入れ(通達本文一覧)
- 12の4-3-5 土地の一部譲渡に係る譲渡損益調整額の戻入れ計算
- 12の4-3-10 譲渡損益調整資産の耐用年数を短縮した場合の簡便法による戻入れ計算
国税庁 Q&A・情報
- 国税庁:8 譲渡損益調整額の戻入れ(グループ法人税制の趣旨説明)
- 国税庁:平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係) — 原則法・簡便法の計算方法、簡便法における通知の考え方
- 国税庁:通算グループ内の法人の間の取引の損益調整(戻入事由の一覧)
- 国税庁:譲渡損益調整資産を譲渡した通算子法人が通算グループから離脱した場合の譲渡損益の戻入れ時期
申告様式
- e-Tax:法人税申告書別表等(明細記載を要する部分)一覧(令和8年4月1日以後終了事業年度分) — 別表十四(六)「完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整に関する明細書」の様式・記載要領を確認できます








