源泉所得税の納付が法定納期限に遅れると、原則として不納付加算税の対象となります。税率は10%、自主納付でも5%。本税自体が大きくなりやすい源泉徴収の世界では、加算税だけで数千万円規模になることも珍しくありません。
国税通則法67条1項ただし書は「正当な理由があると認められる場合」にこれを免除しますが、この規定が実際にどこまで使えるのかは、条文を読んだだけでは見えてきません。
本稿では、「正当な理由」が認められた事例と認められなかった事例を対置し、両者を分けた事情を整理します。あわせて、10%と5%を分ける「予知」の判定についても、近年の裁決を紹介します。
1. 不納付加算税の基本構造
課税要件
源泉徴収による国税が法定納期限までに完納されなかった場合に課されます。申告所得税や法人税の加算税と異なり、「申告の適否」ではなく納付の遅延そのものが課税事由である点が特徴です。
税率
| 区分 | 割合 | 根拠 |
|---|---|---|
| 納税の告知を受けた場合/告知を予知して納付 | 10% | 通則法67条1項本文 |
| 告知を予知せず自主的に期限後納付 | 5% | 通則法67条2項 |
| 正当な理由がある場合 | 不適用 | 通則法67条1項ただし書 |
| 法定納期限から1月以内の納付+一定要件 | 不適用 | 通則法67条3項 |
| 隠蔽・仮装がある場合(重加算税に置換) | 35%(加重時45%) | 通則法68条3項・4項 |
いずれの場合も延滞税は別途発生します。
67条3項による免除
平成19年1月1日以後の法定納期限分から、次の両方を満たせば不納付加算税は課されません。
- 法定納期限から1月を経過する日までに納付していること
- おおむね直前1年間に、納税の告知を受けたことがなく、かつ、告知を受けることなく法定納期限後に納付された事実がないこと
判定期間は単純な「納付日前1年間」ではありません。通則法施行令27条の2は、その納付に係る法定納期限の属する月の前月の末日から起算して1年前の日までの間に法定納期限が到来する源泉徴収による国税を対象としています。実務で微妙なケースに当たったときは、必ず政令の文言で計算してください。
「1月の猶予」が置かれているのは、源泉徴収義務者に対する配慮と解されています。もっとも、原則として、対象期間中に過去の期限後納付があるとこの救済は使えません。納期の特例(7月10日・1月20日)の失念が繰り返されるケースでは、2回目以降は5%が立つことになります。
端数計算でゼロになる場合
- 計算基礎となる税額は1万円未満切捨て(通則法118条3項)
- 加算税額が5,000円未満は全額切捨て(通則法119条4項)
自主納付5%なら基礎税額が9万円以下、10%でも4万円以下で加算税はゼロです。少額の納付漏れで相談を受けたときの第一チェックポイントになります。
2. 源泉徴収制度の特異性
「正当な理由」の射程を考えるうえで、源泉徴収制度そのものの性格を押さえておく必要があります。
自動確定方式
源泉徴収による所得税は、支払の時に納税義務が成立し、何らの確定手続を要せず自動的に税額が確定します。納税告知処分は、それ自体が税額を確定させる課税処分ではありません。
つまり、支払者は自ら源泉徴収の要否を判断できなければならない制度設計になっています。「正当な理由」の有無も、この前提を踏まえて判断されるべきものです。
求償権の非対称
源泉徴収義務者は、受給者に対して本税は求償できます。ところが不納付加算税については求償権が認められていません。
支払者の責めに帰すべきでない原因で発生した加算税を、支払者が最終的に負担せざるを得ない。この非対称性については、そもそも徴収しない規定を設けるべきではないかという立法論も示されています。
憲法上の位置づけ
源泉徴収制度の合憲性については、最高裁昭和37年2月28日大法廷判決が、徴収方法として能率的かつ合理的であり、徴収義務者の義務は公共の福祉によって要請されるものとして、憲法29条1項に違反しないと判示しています。徴収義務者が財産上の負担を負うとしても、同条3項の補償を要する場合には当たらないとされました。
なお、日本の源泉徴収制度は昭和15年(1940年)4月1日、戦時特例法として給与に対する源泉徴収から始まったものです。現行制度の原型は昭和22年の税制改正で整いました。
3. 「正当な理由」の意義
裁判例・裁決例で確立している定義は次のとおりです。
不納付加算税は、源泉所得税の不納付による納税義務違反の事実があれば原則としてその違反者に課されるものであり、当初から適正に徴収納付をした納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収納付の実現を図る行政上の措置である。この趣旨に照らせば、「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、不納付加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。
課税庁の取扱基準としては、平成12年7月3日付「源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」が、源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由のない例として次の4類型を挙げています。
- 税法の解釈に関し、給与等の支払後に取扱いが公表されたため、その公表された取扱いと源泉徴収義務者の解釈とが異なることとなった場合において、その解釈について相当の理由があると認められるとき
- 扶養控除等申告書、配偶者特別控除申告書、保険料控除申告書等に基づいてした控除が過大であった等の場合において、これらの申告書に基づき控除したことにつき源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由がないと認められるとき
- 最寄りの収納機関が遠隔地であるため収納機関以外の金融機関に納付を委託した場合において、その委託が通常であれば法定納期限内に納付されるに足る時日の余裕をもってされているにもかかわらず、委託を受けた金融機関の事務処理誤り等により納付が法定納期限後となったことが、当該金融機関の証明書等により証明されたとき
- 災害、交通・通信の途絶その他法定納期限内に納付しなかったことについて真にやむを得ない事由があると認められるとき
このうち1については、**「税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくものはこれに当たらない」**と注記されています。ここが実務上いちばん効いてくる歯止めです。
なお、資金繰り難や担当者の失念、納税者側の通常のシステムトラブルは、原則として「正当な理由」にはなりません。他方、災害や通信の途絶といった外部的・客観的な事情は、指針自身が正当な理由の例に挙げています。原因が自社の内側にあるか外側にあるかが、ひとつの目安になります。
4. 認められた事例① 破産管財人事件
大阪地判平成20年3月14日・大阪高判平成20年10月15日
破産管財人である弁護士が、①破産前の雇用関係に基づく退職手当等の債権に対する配当、②自らへの管財人報酬の支払について、いずれも源泉徴収をしなかったところ、納税告知処分と不納付加算税の賦課決定を受けた事案です。
裁判所の結論は、同じ事件のなかで真っ二つに分かれました。
| 対象 | 「正当な理由」 |
|---|---|
| 退職手当等の債権に対する配当 | あり |
| 破産管財人報酬 | なし |
配当について認められた理由
決め手は、実務慣行と課税庁の態度でした。
遅くとも平成5年以降、破産債権の配当について破産管財人は源泉徴収義務を負わないという実務慣行が形成され、破産裁判所も破産管財人もその共通認識のもとに破産管財業務を遂行ないし監督してきた。そして課税庁においても、これに対する態度を明確にしないまま、この実務慣行をいわば黙認してきた——。
ここが重要です。単に「実務ではそう理解されていた」というだけでは足りません。課税庁自身が長年黙認してきたという事情が加わって初めて、真に責めに帰することのできない客観的事情と評価されたのです。
報酬について認められなかった理由
管財人報酬は破産法上も「報酬」とされ、所得税法204条1項2号の「報酬」に当たると解する方が文言上自然であること、また破産管財人が補助者を雇用した場合の賃金についても源泉徴収義務があることに異論はないこと——こうした事情から、真に責めに帰することのできない客観的事情があるとはいえないとされました。
条文の文言から素直に読める場合には、実務上の異なる理解があっても救済されない、ということです。
その後の最高裁判決
この事件は上告され、最判平成23年1月14日(民集65巻1号1頁)が次のように判示しました。
- 弁護士である破産管財人は、自らの報酬の支払について所得税法204条1項2号の源泉徴収義務を負う
- 破産管財人は、破産債権である所得税法199条所定の退職手当等の債権に対する配当について、源泉徴収義務を負わない
配当については、そもそも本税の納税義務自体が否定されたため、加算税の議論に立ち入るまでもなく処分が失効しました。理由づけとしては、源泉徴収義務を課す趣旨が「支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって、徴税上特別の便宜を有し、能率を挙げ得る点」にあるところ、破産管財人と労働者との間にそのような密接な関係はない、というものです。
なお、この判決を受けて国税庁は「破産前の雇用関係に基づく給与又は退職手当等の債権に対する配当に係る源泉所得税の還付について(お知らせ)」を公表しています。
5. 認められた事例② 非居住者である賃貸人への賃借料
平成25年5月21日裁決
店舗の賃借人が、賃貸人が非居住者であることを知らずに賃借料を支払い、源泉徴収をしなかった事案です。審判所は不納付加算税の全部を取り消しました。
判断根拠として挙げられたのは、次のような当事者間の関係の希薄性です。
- 賃貸借契約には賃貸人の母が立ち会っていた
- 契約後の数回の連絡は、賃貸人が委任した管理人に対して行っていた
- 賃貸人と賃借人とが直接接触した事実も、その必要性もなかった
- 賃貸料の支払は一貫して賃貸人名義の国内銀行口座に振り込んでいた
- 管理人から非居住者である旨の連絡を受けた後、遅滞なく源泉徴収手続を行っている
注目すべきは、審判所が賃料を支払う都度、賃貸人が居住者か非居住者かを確認する義務までは認めなかった点です。賃貸人との接触をほとんど必要としない継続的取引において、賃借人が非居住者への変更を直ちに知り得なかったこと、そして判明後に速やかに納付したことが重視されました。
支払者が知り得ない受給者側の事情については救済され得る、という線引きです。
6. 認められなかった事例 非居住者からの不動産購入
東京地判平成28年5月19日・東京高判平成28年12月1日
一方、同じ非居住者判定の場面でも、正反対の結論となった判決があります。
不動産業を営む東証一部上場企業が、売主から杉並区所在の土地建物を7億6,000万円余で取得し(平成20年3月)、源泉徴収をしなかったところ、売主が非居住者であるとして納税告知処分を受けた事案です。
売主の属性が紛らわしかった
| 居住者に見える事情 | 非居住者を示す事情 |
|---|---|
| 住民票上の住所地は当該不動産の所在地 | 米国籍および社会保障番号を取得 |
| 日本の国籍喪失の届出をしていない | 米国発給の旅券で日本に入国 |
| 登記書類等も国内住所 | 日本滞在は平成20年で55日(1年の15.1%) |
| 担当者の問いに「そうですよ」と回答 | 米国の住居で長男と同居 |
裁判所は、生活の本拠は米国内の住居にあり、支払日まで1年以上日本国内に居所を有していたともいえないとして、非居住者と認定しました。
確認義務を尽くしていない
争点は、買主にどこまでの確認義務があるかです。裁判所は次の事実を挙げて、注意義務を尽くしたとはいえないとしました。
- 売主が約1か月にわたり米国に帰国し、以前に同国で生活していた旨を担当者に説明していた
- 譲渡対価を26口に分割して米国所在の銀行の18口座に振り込むよう依頼していた
- 送金依頼書には米国内の住所が記入されていた
これらの事情のもとでは、売主が米国内に生活の本拠を有している可能性を検討する必要があったのに、担当者は特段の質問をしていない。米国における家族関係の確認も必要だったのに、それが困難であったことを窺わせる事情もない——という判断です。
買主側は、公的書類で確認したこと、プライバシーに関わる質問は取引通念を超えること、税務当局ほどの調査権限がないことを主張しましたが、いずれも退けられました。
「加算税が課されていないこと」を根拠にできるか
この事件で興味深いのは、課税庁が延滞税を免除し、不納付加算税を課していなかったという事実です。
納税者側はこれを逆手に取り、「延滞税の免除を受け、不納付加算税も賦課されていないのは、処分行政庁が、必要な調査を尽くしたにもかかわらず非居住者と判断できなかったことを認めた証左である」と主張しました。
裁判所はこれを退けています。免除や不賦課の理由が「調査を尽くしたと評価した結果」であることを認め得る証拠はなく、確認義務を尽くしていないという認定判断は、延滞税の免除および不納付加算税の賦課決定の不存在によって左右されるものではない、と。
課税庁の処理の実績から「正当な理由」の存在を逆算する主張は通らないということです。
7. 認められる/認められないを分けるもの
これまでの事例を並べると、判断軸が見えてきます。
| 判断要素 | 破産管財人(退職手当等への配当) | 賃借人(平25裁決) | 不動産会社(東京高判) |
|---|---|---|---|
| 情報へのアクセス | 元従業員との関係は希薄 | 管理人経由のみ、直接接触なし | 担当者が繰り返し面会 |
| 課税庁の態度 | 長年黙認 | ― | ― |
| 取引の性質 | 破産手続上の配当 | 継続的賃貸借、国内口座 | 高額な事業上の不動産取引 |
| 判明後の対応 | ― | 連絡後、遅滞なく納付 | ― |
| 結論 | 正当な理由あり | 正当な理由あり | 正当な理由なし |
整理すると、次の4点が実質的な判断要素になっています。
- 支払者と受給者の関係の密接性 — 確認する機会が現にあったか
- 取引の性質 — 高額な取引、事業として行う取引ほど高い注意義務
- 警戒すべき兆候の有無 — 海外口座の指定、長期出国など
- 課税庁側の事情 — 誤った指導、または長年の黙認があったか
逆に言えば、支払者側の主観的な事情(知らなかった、忙しかった、慣行だと思っていた)だけでは足りない。客観的に見て確認が不可能または著しく困難だったといえるか、あるいは課税庁側に原因を求められるか——ここが分水嶺です。
8. 10%と5%を分ける「予知」の判定
「正当な理由」が認められない場合でも、10%を5%に抑えられる余地は残ります。通則法67条2項の「当該国税についての調査があったことにより当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するかどうかです。
原則的な取扱い
前掲の事務運営指針は、源泉徴収義務者に対する臨場調査、その取引先に対する反面調査等、当該源泉徴収義務者が調査のあったことを了知したと認められる後に自主納付された場合の当該自主納付は、原則として「告知があるべきことを予知してされたもの」に該当する、としています。
つまり原則としては、調査を了知した後の納付は10%です。しかし、それが常に貫かれるわけではありません。
令和3年1月20日裁決
調査担当職員が実地調査の日程調整を依頼した際に源泉徴収義務の存否に関する発言をしており、原処分庁は「その後の調査が進行すれば告知に至るであろうことを予知して行った納付だ」と主張しました。
審判所はこれを排斥し、予知に当たらないと判断しています。
判断枠組みは、①調査の内容・進捗状況、②それに関する納税者の認識、③納付に至る経緯、④納付と調査の内容との関連性——これらを総合考慮するというものです。
そのうえで、署内調査を行い実地調査の日程調整を依頼した時点では、やがて納税の告知に至る可能性が高い状況にあったとはいえるものの、
- その発言からは具体的な取引内容も調査対象期間も示されていない
- そのため請求人は署内調査の内容・進捗状況を具体的に認識していない
- 請求人は当該納付を自主的に行ったと認められ、納付と署内調査との関連性も乏しい
として、5%の適用を認めました。
実務上の含意
顧問先で源泉徴収漏れが判明したとき、すでに調査の連絡が来ていたとしても、具体的な指摘に至る前であれば5%で済む可能性があります。「もう連絡が来てしまったから10%だ」と諦める必要はありません。
判明した時点で速やかに納付する。この一手の有無が、税率を半分にし、場合によっては67条3項でゼロにします。
9. 実務上のチェックポイント
平時の備え
- 納期の特例の納付期限(7月10日・1月20日)を必ずカレンダー管理する。 対象期間中に期限後納付があると、原則として67条3項の救済が使えなくなる
- 退職金支給時は「退職所得の受給に関する申告書」を必ず受領する。 未収受なら退職所得控除も1/2課税も適用されず、支払額の20.42%が源泉徴収税額となり、そこに加算税が乗る
- 役員への経済的利益(社宅の賃料相当額不足、認定賞与)を定期的に洗う
非居住者が関わる取引
不動産取引では、売買金額が1億円以下でかつ個人が自己または親族の居住用として購入する場合を除き、10.21%の源泉徴収が必要です。裁判所は「正当な理由」について極めて形式的で固い判断をしており、1億円を超える取引では特に慎重な確認が求められます。
顧問先の法人が不動産を取得する際は、次の点を確認し、やりとりを書面で残すことを勧めます。
- 売主に対し、日本の税法上の居住者・非居住者の区別と、買主に源泉徴収義務が生じることを説明したか
- 滞在日数、家族の所在、職業活動の場所を確認したか
- 振込先口座の所在国を確認したか
- 確認が困難であった場合、その事情を記録に残したか
住民票と登記だけでは足りない、というのが東京高判平28.12.1の教訓です。
漏れが判明したとき
- まず納付する。 法定納期限から1月以内で、かつ67条3項・施行令27条の2の要件を満たせばゼロ
- それを過ぎていても、具体的な指摘の前なら67条2項で5%
- 端数計算を確認する。基礎税額9万円以下(5%の場合)なら加算税はゼロ
- 「正当な理由」を主張するなら、課税庁側の事情または確認不可能性を軸に組み立てる
おわりに
不納付加算税の「正当な理由」は、条文上は簡潔な一文ですが、認められるハードルは相当に高いというのが実情です。
一方で、破産管財人事件のように課税庁が長年黙認してきた実務慣行があれば認められ、平25裁決のように支払者が知り得ない受給者側の事情であれば認められる。まったく道がないわけではありません。
そして何より、67条3項と2項の存在は見落とされがちです。気づいた時点で速やかに納付する——この単純な一手が、ゼロと5%と10%を分けます。
執筆
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