はじめに
顧問先の経営者様や総務・経理ご担当者様から、「休日の電話当番手当は非課税にできますか」「宿直手当を導入したいが、いくらまでなら源泉徴収不要ですか」というご相談をいただくことがあります。
宿直料・日直料(以下「宿日直手当」)には、一定の範囲について所得税を課税しない取扱いがありますが、適用要件や非課税限度額の判定を誤ると、その全部または一部が給与として課税され、後日の税務調査で源泉所得税の徴収漏れを指摘される可能性があります。また、非課税かどうかの判定と、労働基準法上の許可の要否、社会保険料の算定への算入の要否は、それぞれ別の制度・別の判断基準によることにも注意が必要です。
本稿では、①所得税法上の非課税限度額の考え方、②非課税・課税の判定基準、③計算例、④労働基準法上の宿日直許可との関係、⑤社会保険上の取扱い、の順に整理し、最後に顧問先向けのチェックポイントをご紹介します。
1. 宿日直手当とは
宿直・日直とは、従業員が本来の勤務時間外に、電話対応や来訪者対応、施設の巡回などを行う勤務形態です。夜間に宿泊を伴うものを「宿直」、日中(休日等)に行うものを「日直」といいます。
宿日直勤務について、労働基準法上の労働時間・休憩・休日に関する規制の適用除外を受けるためには、所轄労働基準監督署長から「断続的な宿直又は日直勤務」の許可を受ける必要があります。許可がないからといって宿日直勤務を行わせること自体が直ちに禁止されるわけではありませんが、その勤務時間は原則として通常の労働時間として取り扱われ、法定労働時間を超える場合などには時間外・休日・深夜の割増賃金の支払いが必要になります。
この労務上の許可制度と、これから説明する所得税上の非課税取扱いは、制度趣旨も判定基準も異なるため、混同しないよう注意が必要です。
2. 所得税法上の非課税限度額
宿直料・日直料は、所得税法上は原則として給与所得に該当し、課税の対象となります。
しかし、所得税基本通達28-1により、一定の要件を満たす宿日直手当については、**その勤務1回につき支給される金額のうち4,000円まで(食事の支給がある場合は、4,000円からその食事の価額を控除した残額まで)**が非課税とされています。
支給額の全額が無条件で非課税になるわけではなく、非課税となるのは所得税基本通達28-1に定める範囲に限られます。
3. 非課税の対象外となる宿日直料
所得税基本通達28-1は、「非課税となる積極的な要件」を定めているわけではありません。正確には、
宿直料・日直料は原則として給与所得に該当する。ただし、通達に掲げる次のいずれにも該当しないものについては、勤務1回につき4,000円まで(食事の支給がある場合は4,000円からその食事の価額を控除した残額まで)を課税しない
という構造になっています。つまり「非課税の3要件を満たせば非課税」なのではなく、「除外事由に当てはまらない限り、4,000円までは非課税」という組み立てです。
【非課税取扱いの対象外となる宿日直料】
| No. | 内容 |
|---|---|
| ① | 休日・夜間の留守番だけを行うために雇用された人や、その場所に居住し留守番を含む勤務を行うものとして雇用された人に、その留守番勤務について支給されるもの |
| ② | 宿日直勤務を通常の勤務時間内の勤務として行った人や、その勤務によって代日休暇が与えられる人に支給されるもの |
| ③ | 通常の給与額に比例する金額、または給与額の等級区分などに応じて給与比例額に近似するよう定められた金額(「給与比例額」)により支給されるもの |
したがって、単に「休日や夜間に勤務した」「電話当番をした」というだけで、当然に4,000円まで非課税になるわけではありません。雇用形態、通常の勤務時間との関係、代日休暇の有無、手当額の決定方法を個別に確認する必要があります。
なお、休日や夜間の電話当番手当であっても、通常の勤務時間内の勤務として行われるもの、代日休暇が与えられるもの、通常の給与額に比例して支給されるものなどは、所得税基本通達28-1による非課税取扱いの対象外となります。
また、電話対応や事務処理などの通常業務が頻繁に発生する場合には、そもそも労働基準法上の断続的な宿日直勤務として許可を受けられるかという別の問題が生じます(次章参照)。手当の名称だけで判断せず、雇用条件・勤務時間・勤務実態・代休の有無・手当の算定方法を確認する必要があります。
給与比例額と定額部分が混在する場合の注意点
宿日直料が「給与比例額」と「それ以外の定額部分」の合計で支給されている場合、非課税取扱いの対象外となるのは給与比例額の部分に限られます。定額部分については、他の除外要件に該当しなければ、1回4,000円までの非課税取扱いを検討できます。「一部にでも給与比例的な要素があれば全額課税」というわけではない点に注意してください。
4. 計算例
非課税限度額の考え方を、具体的な数値で確認します。
例1:宿日直料3,300円+食事700円のケース
- 宿日直料と食事価額の合計:3,300円+700円=4,000円
- 非課税限度額(4,000円)の範囲内 → 全額非課税
例2:宿日直料3,800円+食事700円のケース
- 非課税とできる宿日直料の上限:4,000円-700円(食事の価額)=3,300円
- 実際の宿日直料は3,800円のため、超過額が課税対象
- 課税額:3,800円-(4,000円-700円)=500円が課税
このように、食事の支給がある場合は「4,000円から食事の価額を差し引いた残額」が非課税の上限となる点に注意が必要です。
(注)同一人が日直と宿直を引き続いて行う場合の取扱い(所基通28-2)
同一の従業員が日直と宿直を連続して行う場合には、通常の日直または宿直に相当する勤務時間を経過するごとに、それぞれ1回の勤務として上記の非課税判定を行います。1回あたりの勤務時間を通常より不自然に区切って非課税枠を複数回適用する、といった運用は認められません。
5. 労働基準法上の宿日直許可との関係
税務上の非課税取扱いとは別に、宿日直勤務について労働基準法上の労働時間・休憩・休日に関する規制の適用除外を受けるためには、所轄労働基準監督署長の許可が必要です。申請には「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書(様式第10号)」を使用します。
許可を受けた断続的な宿日直勤務については、労働基準法上の労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されます。そのため、許可された宿日直勤務それ自体については、原則として時間外労働や休日労働としての割増賃金は発生しません。
一方、深夜割増賃金に関する規定は適用されます。ただし、宿直手当の金額に深夜割増賃金相当額を含めて支給することは可能です。厚生労働省の宿日直許可に関する資料でも、宿直手当の最低額は「深夜割増賃金を含む」金額として示されています。
また、許可を受けていても、宿日直中に通常業務が発生した場合には、その通常業務に従事した時間は労働時間として取り扱い、必要に応じて時間外・休日・深夜の割増賃金を支払う必要があります。
許可を得るための一般的な基準としては、次のようなものが挙げられます(厚生労働省が示す一般的許可基準による)。
- 宿直は原則週1回、日直は原則月1回を限度とすること(人員不足など一定の事情があり、かつ労働密度が薄い場合には、これを超えて許可されることもあります)
- 宿直の場合、相当の睡眠設備を設けていること
- 宿日直手当(深夜割増賃金を含む)の最低額が、同種の労働者に支払われている賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと
労基署の許可を受けていない宿日直勤務については、「宿日直」という名称を使用していても、労働時間・休憩・休日に関する規制の適用除外を受けることはできません。その勤務時間は原則として通常の労働時間として取り扱われ、法定労働時間を超える場合などには、時間外・休日・深夜の割増賃金の未払いが問題となる可能性があります。
したがって、税務上の非課税判定とは別に、労務面では許可の有無と実際の勤務内容を確認する必要があります。
6. 社会保険料の算定における取扱い
所得税では非課税となる宿日直手当についても、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の標準報酬月額の算定においては、原則として「報酬」に含めて計算する必要があります。
日本年金機構の資料でも、標準報酬月額の対象となる金銭支給の一つとして、基本給や役付手当などと並んで日直手当・宿直手当が明記されています。所得税が非課税だからといって、社会保険料の算定基礎からも除外できるわけではない、という点は誤解が生じやすいポイントです。
なお、宿日直手当を支給した都度、直ちに標準報酬月額が変更されるわけではありません。資格取得時決定や定時決定(算定基礎届)では、通常のルールに従って宿日直手当を含めた報酬を算定します。一方、随時改定(月額変更届)は固定的賃金の変動など所定の要件を満たす場合に行われるものであり、宿日直の回数によって変動する手当が増減しただけで、直ちに随時改定の対象となるわけではありません。
7. 顧問先向けチェックポイント
宿日直手当の導入・見直しにあたっては、次の点をご確認いただくことをお勧めします。
- [ ] 就業規則・給与規程に、宿日直勤務の労働時間(始業・終業時刻)と手当額が明確に定められているか
- [ ] 宿日直手当の全部または一部が、通常の給与額に比例した金額(給与比例額)になっていないか。なっている場合、その部分を区分して課税処理しているか
- [ ] 宿日直勤務中に本来業務が常態的に発生していないか(実態が「断続的労働」といえるか)
- [ ] 労働基準監督署の断続的労働許可(様式第10号)を取得しているか
- [ ] 食事の支給がある場合、非課税限度額の計算(4,000円-食事の価額)を給与計算に正しく反映しているか
- [ ] 社会保険の標準報酬月額の算定に、宿日直手当を報酬として含めているか
おわりに
宿日直手当は、税務・労務・社会保険の3つの制度がそれぞれ異なる基準で関わってくる、実務上見落としやすい論点です。非課税限度額の適用を誤ると追徴課税のリスクがあり、また労基署の許可なく断続的勤務をさせている場合には、労務コンプライアンス上の問題にも発展しかねません。
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