役員借入金のある会社を清算するとき、借入金の免除を受けると、会社に債務免除益が生じて法人税が課税されます。しかし、一定の条件を満たせば、青色欠損金に加えて「期限切れ欠損金」を使い、課税所得をゼロにできる場合があります。
中小企業の解散・清算では、社長などの役員からの借入金が残っているケースが多く、清算の税務の中でも特に実務上の影響が大きいテーマです。この記事では、期限切れ欠損金を使うための条件である「残余財産がないと見込まれるとき」の考え方を、2つの事例とあわせて解説します。
※この記事は、解散・清算の税務全体を解説した別の記事(「会社を解散・清算するとき、税金はどうなる?」)の続編です。
役員借入金を免除してもらうと、会社に債務免除益が生じます
会社が役員から借りたお金の返済を免除してもらうと、会社にとっては「返さなくてよくなった分」が利益になります。これが債務免除益で、法人税の計算では益金に入ります。
平成22年度の税制改正で清算所得課税が廃止され、清算中の会社も、継続している会社と同じ損益法で所得を計算するようになりました。そのため、債務免除益が出ると、その分だけ所得が増えます。
債務超過の会社を清算する場合、貸主が役員であれば、役員が債権の放棄に同意する限り、債務の整理をつけて清算を結了させることができます。一方、銀行からの借入金は簡単には免除してもらえないため、通常の清算で結了させるのは難しくなります。
この債務免除益が青色欠損金の控除だけでまかなえれば問題ありません。しかし、まかなえない場合も少なくありません。その場合に重要になるのが、期限切れ欠損金を使えるかどうかです。
期限切れ欠損金を使える条件は「残余財産がないと見込まれるとき」です
解散した会社に残余財産がないと見込まれるときは、清算中に終了する事業年度の所得の計算で、期限切れ欠損金を損金に入れることができます(法人税法59条4項)。使えるのは清算中の事業年度で、解散事業年度では使えません。
使う順序と金額
- 使う順序:先に青色欠損金を使い、その控除後に残った所得に対して、期限切れ欠損金を使います。
- 使える上限:青色欠損金などの控除後の所得金額までです。
- 金額の計算:次の①から②を引いた金額です(法人税法施行令117条の5)。
- ① 適用年度(清算中の事業年度)終了の時における、前事業年度以前から繰り越された欠損金額の合計(実務上は、別表五(一)の期首の利益積立金額がマイナスの場合の、その金額)
- ② その事業年度の所得の計算で、青色欠損金として損金に入れられる金額(別表七(一)の当期控除額)
なお、資本金等の額がゼロ以下の場合などには、別途の調整が必要になります。
「残余財産がない」とは?債務超過だけでなく純資産ゼロも対象
事業年度末の時点で債務超過であれば、「残余財産がないと見込まれるとき」に該当します(法人税基本通達12-3-8)。判定は、清算中の事業年度ごとに、その事業年度末の現況で行います(同12-3-7)。
債務超過かどうかを示すために、原則として「実態貸借対照表」を作ります。これは資産を処分価格で評価した貸借対照表で、売却の見込額から処分の費用を引いた、いわば「換金したら手元に残るお金」で資産を評価します(同12-3-9)。
中小企業の清算では、最後の事業年度に役員借入金の免除を受けるケースが多く、その場合の実態貸借対照表は、現預金と未払金だけのとてもシンプルなものになります。多数の科目について処分価格を細かく計算する必要は、通常ありません。
純資産がちょうどゼロの場合も該当します。たとえば、資産が現預金12万円、負債が未払金12万円で純資産がゼロであれば、株主への分配はゼロなので、「残余財産がないと見込まれる」に当たります。
なお、いったん期限切れ欠損金を使った後で状況が変わり、翌年の判定で残余財産が生じる見込みとなっても、過去の事業年度にさかのぼって申告を修正する必要はありません。
事例1:借入金3,000万円の会社は、現預金で一部を返済してから免除を受けます
乙社は9月30日に解散を決議しました。解散時の資産は、現預金250万円、棚卸資産50万円、売掛金120万円、建物350万円、土地2,000万円で、合計2,770万円です。負債は、買掛金120万円、未払金30万円、オーナーからの借入金3,000万円です。
その後、売掛金は全額回収し、棚卸資産は80万円で売却し、買掛金と未払金も支払いました。建物と土地は1,800万円で売却できました。一方で、この1年間に給与などの費用1,680万円も支払っています。現預金の動きは次のとおりです。
| 現預金の動き | 金額 |
|---|---|
| 解散時の現預金 | 250万円 |
| 売掛金の回収 | +120万円 |
| 棚卸資産の売却 | +80万円 |
| 建物・土地の売却 | +1,800万円 |
| 買掛金・未払金の支払 | △150万円 |
| 給与1,200万円、旅費交通費250万円、その他経費150万円、支払利息80万円 | △1,680万円 |
| 清算中の最初の事業年度末の現預金 | 420万円 |
この結果、清算中の最初の事業年度が終わった時点の貸借対照表は、次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金(資産) | 420万円 |
| 借入金(オーナーからの借入) | 3,000万円 |
| 純資産(資本金1,000万円、利益剰余金△3,580万円) | △2,580万円 |
借入金3,000万円は、オーナー個人からのものです。免除を受けた時点で、乙社に債務免除益が生じます。このとき、現預金が手元に残ったまま免除を受けると、免除後に残余財産が残ってしまいます。そうなると、期限切れ欠損金が使えず、課税所得が生じるおそれがあります。
対処法:現預金で一部を返済し、残りの借入金の免除を受ける
乙社は、現預金420万円で借入金の一部を返済し、返済後に残った借入金2,580万円の免除を受けました。その結果、最後の事業年度の終了時には、資産も負債もなくなり、残余財産がない状態になりました。
最後の事業年度に繰り越される利益積立金額は△3,580万円です(別表五(一)に調整項目がないものとします)。免除益2,580万円が益金に入っても、青色欠損金と期限切れ欠損金の控除を使うことで、課税所得はゼロになりました。なお、青色欠損金の残高は示していませんが、期限切れ欠損金の控除可能額が、青色欠損金を控除した後の所得以上あるものとします。
事例2:債務免除益3,304万円が、青色欠損金と期限切れ欠損金で課税所得ゼロになる計算
丁社(3月決算)は、前年の3月31日に解散し、翌年の1月20日に残余財産が確定しました。最後の事業年度は、解散の翌日から残余財産確定の日(1月20日)までです。
前提は次のとおりです。
- 解散した事業年度の末(3月31日)の利益積立金額は、△3,500万円(別表五(一))
- 青色欠損金の残高は、820万円(別表七(一))
- 最後の事業年度の損益計算書で、オーナーからの借入金の免除による債務免除益が3,304万5,000円生じ、当期純利益は2,500万円
- 借入金は、残余財産がちょうど残らないよう、一部を返済したうえで、残りの免除を受けた
所得の計算
| 項目 | 金額(円) |
|---|---|
| 当期純利益 | 25,000,000 |
| 加算:損金に入らない法人税等(納税充当金) | 52,500 |
| 欠損金控除前の所得 | 25,052,500 |
| 青色欠損金の控除 | △8,200,000 |
| 期限切れ欠損金の控除 | △16,852,500 |
| 課税所得 | 0 |
期限切れ欠損金の上限は、前期末の利益積立金額のマイナス3,500万円から、青色欠損金820万円を引いた2,680万円です。青色欠損金を控除した後の所得は1,685万2,500円で、この上限の範囲内におさまるため、全額を期限切れ欠損金で控除できます。その結果、債務免除益に対する法人税は生じません。ただし、法人住民税の均等割などは、所得がゼロでも別に納める必要があります。この事例では、均等割相当額5万2,500円を費用計上しているものとします。
申告書には、期限切れ欠損金の損金算入に関する明細(別表七(四))のほか、「残余財産がないと見込まれることを説明する書類」として、実態貸借対照表などを添付します。
失敗しやすいポイント:免除を受けた結果、資産が負債を上回ってしまう場合
期限切れ欠損金を使うには、清算中の事業年度末において、残余財産がないと見込まれることが必要です。債務超過の場合だけでなく、資産と負債が同額で純資産がゼロの場合も該当します。そのため、次の流れには注意が必要です。
- 清算中の最初の事業年度、2年目の事業年度は、実態貸借対照表が債務超過なので、期限切れ欠損金を使える状態だった
- 最後の事業年度に、役員から多額の債務免除を受けた
- その結果、債務免除後も現預金などの資産が残り、実態貸借対照表で資産が負債を上回る状態になった
- 最後の事業年度は、期限切れ欠損金が使えず、債務免除益に多額の課税が生じた
手元に一定の資産を残したまま多額の債務免除を受けたことが、資産が負債を上回る状態になった原因です。この場合は、債務の一部を弁済して、財産を残さないようにする方法を、事前に検討する必要があります。
そのほかの注意点
- 銀行借入金がある場合:銀行は簡単には債務を免除しないため、通常の清算を結了させるのは難しくなります。
- 特別清算との関係:株式会社が債務超過の疑いのある状態で清算する場合は、特別清算の申立義務が問題になることがあります(会社法511条2項)。通常の清算を続けてよいかどうかは、会社法の面から別に確認が必要です。
- 返済の順序:現預金で借入金の一部を返済する方法は、債権者への公告・催告の手続や、他の債権者との公平も考えて進めます。単純に「現金を返せば解決する」わけではありません。
- 実態貸借対照表の作成:資産は処分価格で評価し、負債は法的な債務として確定しているものを計上します。解約により違約金が生じる契約があれば、未払金として計上します。
- 破産・特別清算・民事再生などの手続の場合:裁判所の決定書の写しなどで足り、実態貸借対照表の添付が不要になる場合があります。
まとめ:免除を受ける前に、実態貸借対照表で債務超過かどうかを確認しましょう
役員借入金の債務免除益は、一定の条件を満たせば、青色欠損金と期限切れ欠損金で課税所得をゼロにできます。ポイントは次の3つです。
- 期限切れ欠損金を使うには、清算中の事業年度末に「残余財産がないと見込まれる」こと(実態貸借対照表で債務超過、または純資産ゼロ)が必要
- 最後の事業年度に免除を受けて資産が負債を上回ると、期限切れ欠損金が使えなくなるおそれがある
- 免除の時期・金額、借入金の返済の順序は、会社法の手続も含めて、事前に設計する
税理士法人松野茂税理士事務所では、会社の解散・清算に伴う税務申告や、実態貸借対照表の作成、役員借入金の整理のご相談をお受けしています。阪神尼崎駅から徒歩1分の事務所です。お気軽にお問い合わせください。
- 所在地:〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
- 電話:06-6419-5140
※この記事は一般的な内容を解説したものです。実際の取扱いは、会社の個別の事情によって異なる場合があります。具体的な手続や申告については、必ず専門家にご相談ください。








