解散した会社が期限切れ欠損金を使うには、「残余財産がないと見込まれる」ことを説明する必要があります。そのための代表的な書類が、実態貸借対照表です。実態貸借対照表では、資産を、帳簿価額ではなく、処分したときに手元に残る金額(処分価格)で評価します。
実際には、科目ごとの評価方法に迷うことが少なくありません。この記事では、実態貸借対照表の考え方と、資産・負債の科目別の評価方法を、表で整理します。
期限切れ欠損金そのものの仕組みは、別の記事(「期限切れ欠損金で債務免除益をゼロにする方法」)で解説しています。
実態貸借対照表は、「換金したら手元に残る額」で資産を評価します
実態貸借対照表とは、会社の資産と負債の価額で作る貸借対照表のことです。清算中に終了する各事業年度の終了の時に作り、「残余財産がないと見込まれる」ことを説明する書類として使います。
解散を決議した会社の資産と負債は、通常の事業活動のなかで回収・返済されるものではありません。清算という特殊な状況で、財産を換金して処分し、債務を弁済または免除してもらうことになります。そのため、資産には、原則として、事業の清算を前提とした「処分価格」を付します。
処分価格とは
処分価格とは、売却(処分)できる見積額から、売却(処分)にかかる費用の見積額を引いた金額です。言い換えると、資産を換金・処分したと仮定したときに、手取りで現金として回収できる見込額です。
例外:事業譲渡を前提とする解散の場合
会社の解散が事業譲渡などを前提としていて、会社の資産が、継続して他の法人の事業に使われる見込みである場合は、処分価格ではなく、その資産が使用・収益されるものとして、事業年度終了の時に譲渡される場合に通常付される価額で評価します(法人税基本通達12-3-9の注)。
税務の課税所得の計算とは別のルールです
実態貸借対照表は、残余財産がないと見込まれるかどうかを判断するために作る書類です。税務上の課税所得の計算ルールは、適用されません。実務上は、日本公認会計士協会の研究報告第11号「継続企業の前提が成立していない会社等における資産及び負債の評価について」が参考にされています。
資産の評価:科目ごとに、処分価格の考え方が異なります
| 科目 | 処分価格の考え方 |
|---|---|
| 現金 | 現金の保有高(帳簿価額) |
| 預金 | 元本に、作成日までの未収利息(経過利息)を加えた額 |
| 金銭債権 | 債権残高から、取立不能見込額と取立費用見込額を引いた額。貸倒引当金は表示しない。貸付金は、未収利息を加える |
| 棚卸資産 | 市場価格があれば、市場価格から売却費用の見積額を引いた額。なければ、売却可能価額を見積もり、売却費用の見積額を引いた額 |
| 有価証券 | 市場価格があれば、市場価格から処分費用見込額を引いた額。なければ、売却可能価額を見積もり、処分費用見込額を引いた額 |
| 前払費用・仮払金 | 現金で回収できる見込みの部分は、未収入金に計上する。それ以外はゼロ |
| 土地 | 近隣の取引事例、公示価格、路線価などをもとに、売却可能価額を見積もり、処分費用見込額を引いた額。建物を取り壊して更地で売る必要があれば、取壊費用も見積もって引く |
| その他の有形固定資産 | 処分できるものは、処分可能価額から処分費用見込額を引いた額 |
| 無形固定資産 | 原則としてゼロ。処分できるものは、処分可能価額から処分費用見込額を引いた額 |
| 繰延資産 | 原則としてゼロ。税務上の繰延資産で、契約を解除すれば現金で回収できる見込みの部分は、未収入金に計上する |
金銭債権は、個別に、回収できない見込額と、取り立てにかかる費用を見積もる必要があります。有価証券のうち市場価格のないものは、処分価格を付すことが難しい場合があります。その場合は、移動平均法に基づく原価法で評価した金額を計上し、その旨を注記する方法があります。
負債の評価:法的な債務として確定しているものを計上します
負債は、債権者への調査で確定した価額、基本的には、法的な債務としての性質があるものを計上します。
| 科目 | 評価の考え方 |
|---|---|
| 未払金 | 契約を解除すると違約金を支払うものは、その違約金を未払金に計上する |
| 借入金 | 作成日までの経過利息を、未払金に計上する |
| 未払退職給付 | 原則として、作成日現在の、会社都合で支給する要支給額を計上する |
| 法人税、住民税、事業税 | 清算中の各事業年度の、損益法で計算した所得金額に対する税額を、可能な範囲で見積もる |
| 偶発債務 | 保証債務などで、履行が確実に見込まれるものは、履行見込額を未払金に計上する。割引手形は、受取手形(資産)と割引手形(負債)を両建てで表示する方法がある |
清算中の各事業年度の税額は、見積もって、実態貸借対照表に計上します。国税庁の質疑応答事例でも、事業年度末の貸借対照表に、未払法人税等を負債として含めて、「残余財産がないと見込まれるとき」の判定を行う取扱いが示されています。
作成の注意点:継続企業の会計とは考え方が異なります
- 繰延資産・引当金・繰延税金は、原則として計上しません。 実態貸借対照表は、適正な期間損益計算を行うための書類ではないためです。ただし、契約を解除して返還を受けられる金額などは、回収できる債権として計上します。
- 負債は、法的な債務性のあるものを計上します。 解約すると違約金が生じる契約(たとえばファイナンス・リース)があれば、その違約金を未払金として計上します。
- 事業年度ごとに作ります。 期限切れ欠損金を使う事業年度の末ごとに、その時点の現況で判定します。その後の事業年度で財産の状況が変わったことだけを理由に、過年度の判定をやり直すものではありません。ただし、過年度の評価や申告に誤りがあった場合は、別に検討が必要です。
中小企業の最後の事業年度は、シンプルになることが多い
中小企業の清算では、最後の事業年度に役員借入金の債務免除を受けるケースが多くあります。その場合、残余財産確定の日の実態貸借対照表は、借方が現預金、貸方が未払金だけという、とても簡単な内容になります。多数の科目について処分価格を計算する作業は、通常、必要ありません。
実在性のない資産があるとき
帳簿には載っていても、実際には存在しない資産(実在性のない資産)が見つかることがあります。実態貸借対照表では、この資産はないものとして評価します。そのうえで、過去の帳簿書類を調べ、資産を計上した原因が、更正期限内の事業年度に生じたのか、期限を過ぎているのか、不明なのかによって、申告の処理が異なります。個別の事情によって判断が分かれるため、税理士にご相談ください。
実態貸借対照表の添付が不要になる場合
清算の手続によっては、実態貸借対照表の代わりに、別の書類で足りる場合があります。
- 破産・特別清算:破産手続開始決定通知書、または特別清算開始通知書の写し(特別清算は、清算業務の遂行に著しい支障を来すおそれがあることだけを開始の理由とする場合を除く)
- 民事再生・会社更生、公的機関や第三者が関与する私的整理:手続の中で作成された書類などで足りる場合がある
まとめ:実態貸借対照表は、「換金したら手元に残る額」で作ります
実態貸借対照表のポイントは、次の4つです。
- 資産は、売却見込額から処分費用を引いた「処分価格」で評価する(事業譲渡を前提とする場合は例外)
- 負債は、法的な債務として確定しているものを計上し、清算中の事業年度の税額も見積もって含める
- 繰延資産、引当金、繰延税金資産・負債は原則として計上しない。ただし、契約解除によって返還を受けられる金額などは、回収可能な債権として計上する
- 中小企業の最後の事業年度は、現預金と未払金だけの簡単な内容になることが多い
税理士法人松野茂税理士事務所では、会社の解散・清算に伴う実態貸借対照表の作成や、期限切れ欠損金を使った申告のご相談をお受けしています。阪神尼崎駅から徒歩1分の事務所です。お気軽にお問い合わせください。
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※この記事は一般的な内容を解説したものです。実際の取扱いは、会社の個別の事情によって異なる場合があります。具体的な手続や申告については、必ず専門家にご相談ください。








