少数株主だから配当還元方式で評価できる――
そう思っていても、
「会社が自己株式を取得しただけで」
評価方法が変わることがあります。
しかも、自分は何もしていなくてもです。
なお、自己株式の取得により議決権割合が5%以上となった場合、
配当還元方式ではなく原則的評価方式(類似業種比準方式等)が適用され、
評価額が大幅に上昇する可能性があります。
自己株式など資本政策前に贈与などで配当還元法を使いたい方は尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所まで
Q1 伯父がA社に株式200株を譲渡する予定です。私が保有する45株を長男が相続する際、評価方法に影響はありますか?
事務所のスタッフが先生に質問します。
【前提条件】
- A社の発行済株式数:1,000株(すべて同族関係者が保有)
- 伯父の家族:700株保有(→ 中心的な同族株主に該当)
- 質問者:45株保有(議決権割合 4.5%)
- 長男:A社株式を現在は保有していない
- 伯父が200株をA社に譲渡予定(→ A社が自己株式として保有)
- A社の株式1株につき1個の議決権がある
スタッフ:先生、お客様からご相談をいただきました。A社は発行済株式1,000株のうち、伯父の家族が700株を持っているため、伯父は中心的な同族株主に当たります。お客様は45株しか持っていないので、万が一の際に長男が相続しても、配当還元方式で評価できると聞いていたそうです。ところが、その伯父が200株をA社に買い取ってもらう予定とのこと。これで評価方法に影響が出るのでしょうか?
先生:これは非常に重要な論点です。結論からいうと、伯父がA社に200株を譲渡することで、長男の議決権割合が5%以上になってしまい、配当還元方式が使えなくなります。順を追って説明しましょう。

A 自己株式を保有する評価会社の議決権総数の計算方法
先生:取引相場のない株式の評価方法を判定するとき、配当還元方式が使えるかどうかは「議決権割合が5%未満かどうか」で判断します。この議決権割合を計算するときに、評価会社が自己株式を保有している場合は、その自己株式の議決権をゼロとして議決権総数を計算するというルールがあります。
スタッフ:自己株式は議決権がないと会社法でも定められていますが、評価の場面でも同じ考え方なのですね。
先生:そうです。財産評価基本通達188‐3に明確に定められています。少し読んでみましょう。
財産評価基本通達 188‐3(評価会社が自己株式を有する場合の議決権総数)
通達188の(1)から(4)において、評価会社が自己株式を有する場合には、その自己株式に係る議決権の数は0として計算した議決権の数をもって評価会社の議決権総数となることに留意する。
議決権割合の変化を具体的に計算する
スタッフ:実際に数字で確認してみたいです。伯父が200株をA社に譲渡する前と後で、長男の議決権割合はどう変わりますか?
先生:では、譲渡前と譲渡後を比較してみます。
【譲渡前】伯父がA社に200株を譲渡する前
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| A社の発行済株式総数 | 1,000株 |
| 自己株式 | 0株 |
| 議決権総数(自己株式を除く) | 1,000個 |
| 長男が相続する株式数 | 45株 |
| 長男の議決権割合 | 45 ÷ 1,000 = 4.5% |
→ 5%未満のため、配当還元方式の適用要件(議決権割合)をクリアしている
【譲渡後】伯父がA社に200株を譲渡した後
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| A社の発行済株式総数 | 1,000株(変わらず) |
| 自己株式(A社が取得) | 200株 |
| 議決権総数(自己株式200株を除く) | 800個 |
| 長男が相続する株式数 | 45株(変わらず) |
| 長男の議決権割合 | 45 ÷ 800 = 5.625% |
→ 5%以上になってしまうため、配当還元方式を適用できなくなる
スタッフ:長男が保有する株式数(45株)は何も変わっていないのに、伯父の取引が原因で評価方法まで変わってしまうのですね。それは驚きです。
先生:そうなのです。自分は何もしていないのに、他の株主の行動によって評価方法が変わってしまう。これが自己株式取得の盲点の一つです。分母である「議決権総数」が減ることで、分子の株式数が同じでも割合が上がってしまうのです。
配当還元方式が使える条件を整理する
スタッフ:改めて、配当還元方式を適用するための要件を整理していただけますか?
先生:財産評価基本通達188(1)により、以下の条件をすべて満たす場合に、配当還元方式による評価が認められます。
- 評価会社の株式を、同族関係グループが議決権総数の50%超保有していること(つまり同族株主のいる会社であること)
- その同族関係グループの中に中心的な同族株主が存在すること
- 株式を取得した者が中心的な同族株主でないこと
- 株式を取得した者が評価会社の役員でないこと(申告期限までに役員になっていないこと)
- 株式を取得した者の議決権割合が5%未満であること
スタッフ:今回のケースでは、①~④はクリアしていても、⑤の議決権割合が5.625%になって5%未満の要件を満たせなくなってしまうわけですね。
先生:正確にその通りです。⑤は単純な数値要件ですが、自己株式の取得によって分母が変わることを見落としがちです。相続税の申告の場面で初めて気づいた、では遅すぎます。株主構成や自己株式の状況は、相続発生前に定期的に確認しておくことが大切です。
実務上の留意点
スタッフ:同じようなケースで、他に気をつけるべき場面はありますか?
先生:いくつか挙げてみましょう。
- 自己株式取得の前後で評価方法が変わることがある
今回のように、他の株主が会社に株式を売却するだけで、少数株主の議決権割合が5%以上になるケースがあります。複数の少数株主がいる会社では、特に注意が必要です。 - 自己株式の消却(減資)があった場合も同様
自己株式を保有したままであっても、その後に消却して発行済株式総数自体が減少した場合も同じ論理が働きます。発行済株式総数の変動は常に把握しておきましょう。 - 議決権割合の確認は相続開始時点が基準
議決権割合の判定は、相続開始時点(死亡日)の状況で行います。伯父が生前にA社に株式を譲渡していれば、相続開始時点ですでに自己株式800株が議決権総数になっています。 - 配当還元価額と原則的評価方式との差は大きい
非上場株式の原則的評価方式(類似業種比準方式や純資産価額方式)と配当還元方式では、評価額に何倍もの差が生じることがあります。評価方式の変化は相続税額に直結する重大な問題です。
スタッフ:自己株式の取得は会社側の事情で行われることが多いですが、少数株主にとっても無関係ではないということですね。事前に確認しておくことが大切だとわかりました。
先生:そうです。「自分の持ち株数は変わっていないから大丈夫」という思い込みは禁物です。非上場株式の評価は、会社全体の株式構成を把握したうえで判断する必要があります。相続対策を検討されているお客様には、毎年の決算時に株主名簿と自己株式の状況をあわせて確認することをお勧めしています。
まとめ
- 評価会社が自己株式を保有する場合、その自己株式の議決権は0として議決権総数を計算する(財産評価基本通達188‐3)
- 伯父が200株をA社に譲渡すると、議決権総数が1,000から800に減少する
- その結果、長男の議決権割合は4.5%から5.625%に上昇し、5%以上になる
- 5%以上になると配当還元方式の要件を満たさなくなり、原則的評価方式(類似業種比準方式または純資産価額方式)で評価しなければならない
- 相続対策として、自社の株式構成・自己株式の保有状況を定期的に確認することが重要
非上場株式の評価は、保有株数だけでなく、会社全体の株式構成や自己株式の状況によって大きく変わります。「配当還元方式で大丈夫」という前提が崩れることのないよう、早めのご確認とご相談をお勧めします。
※当事務所では、
・非上場株式の評価
・相続前の株主構成の見直し
・自己株式取得の影響分析
について、顧問契約を前提としたご相談を承っております。
単発の評価のみのご依頼は原則お受けしておりませんのでご了承ください。







