役員退職金を検討している経営者の方へ
法人税基本通達「9-2-27(旧34-2)」から読み解く税務判断の基準
前回の記事では、功績倍率「3.0倍」が昭和55年の東京地裁判決に由来することをご説明しました。
しかし、なぜ「功績倍率法」が役員退職金の適正額の判断基準として使われるのか、その法的な根拠はどこにあるのでしょうか。
役員退職金の金額設定や税務調査リスクでお悩みの方は、
尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所までご相談ください。
分掌変更で否認された事例
業績悪化中に高額退職金 → 否認 他役員とのバランス崩壊
今回は、役員退職給与の損金算入に関する通達(法人税基本通達9-2-27、かつての34-2)の趣旨を整理し、税務調査でどのような観点からチェックが入るのかを分かりやすく解説します。
目次
◆ 役員退職給与に関する法令・通達の位置づけ
| 職 員 | 先生、そもそも役員退職金が「損金になる・ならない」というのは、どの法律に書いてあるのですか? |
| 先 生 | まず大元は法人税法第34条第2項です。役員への給与(退職給与を含む)のうち、「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入とされています。 ただし、「不相当に高額かどうか」の具体的な判断基準は法律には書かれていません。法人税法施行令第70条に算定方法の委任がされており、さらにその解釈・取り扱いを示したのが、法人税基本通達9-2-27(かつての34-2)です。 通達というのは法律ではなく、国税庁が税務署員向けに出している行政内部の指示文書ですが、実務上は非常に重要な意味を持ちます。 |
| 職 員 | なるほど。法律→施行令→通達、という階層になっているわけですね。 |
| 先 生 | そうです。そしてその通達をさらに具体化するかたちで、昭和55年の裁判例で功績倍率(社長3.0倍等)が実務の指標として定着した、という流れです。 |
| 根拠・出典 | 内容 |
| 法人税法34条2項 | 役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入 |
| 法人税法施行令70条 | 「不相当に高額」の具体的算定方法の委任 |
| 法人税基本通達9-2-27 (旧34-2) | 功績倍率法等による判断の行政解釈・取扱いを示す |
| 昭和55年東京地裁判決 | 功績倍率(社長3.0等)を裁判所が実務上の基準として採用 |
◆ 役員退職給与が損金に算入されるための基本的な要件
| 職 員 | 通達では、どのような条件が損金算入の要件とされているのですか? |
| 先 生 | 大きく整理すると、次の3つの要件を満たす必要があります。 |
| 要件 | 損金算入の条件 | 実務上のポイント |
| 要件① | 退職の事実があること | 「みなし退職」(分掌変更等)の場合も、実質的に退職に準じる状況かどうかが問われます。 |
| 要件② | 退職の功労に基因して支給されること | 在任中の貢献・功績に対する報酬という性格が必要です。 |
| 要件③ | 金額が「不相当に高額」でないこと | 法人税法34条2項・基本通達9-2-27の判断基準が適用されます。 |
| 先 生 | 特に要件①「退職の事実」については注意が必要です。 例えば、代表取締役が退任して取締役に残った場合(いわゆる「分掌変更」)や、非常勤に退いた場合に退職金を支払うケースがあります。 このような場合、『実質的に退職に準じる状況』かどうかが問われます。名目だけ肩書を変えて退職金を払っても、実態が変わっていなければ認められません。 |
| 【分掌変更時の退職金に関する注意点】 代表取締役→取締役などへの分掌変更で退職金を支払う場合、以下の実態変化が必要です。 ● 報酬が激減(おおむね50%以上の減額が目安)していること ● 実際の業務執行権・代表権が消滅していること ● 対外的にも「退任」として周知されていること これらの実態を伴わない場合、税務調査で「退職の事実なし」として否認されるリスクがあります。 |
◆ 「不相当に高額」かどうかの5つの判断要素
| 職 員 | 要件③の「不相当に高額でないこと」が一番難しそうですね。どのような基準で判断されるのですか? |
| 先 生 | 通達では、以下の5つの要素を総合的に勘案して判断するとされています。 単純に「3.0倍以内だから安全」ではなく、これらをすべて踏まえた総合判断という点が重要です。 |
| No. | 判断要素 | 実務上の着眼点 |
| ① | 職務の内容 | 代表取締役か、業務執行をしていない取締役かで大きく異なります。経営判断の範囲・責任の重さが重視されます。 |
| ② | 会社への功績 | 業績への貢献度、特に創業者や事業を立て直した役員は評価が高くなる傾向があります。ただし、近時は業績悪化期の役員には厳しい判断も見られます。 |
| ③ | 退職の事情 | 自己都合か会社都合か、病気・死亡など不慮の事情か、功績に対する特別な評価があるかなどが考慮されます。 |
| ④ | 会社の収益・資本内容 | 退職金を支払える財務体力があるか、支払後の財務状況はどうかも判断材料になります。 |
| ⑤ | 他役員・従業員とのバランス | 他の役員や従業員の退職金との均衡。突出して高額な場合は「不相当」と判断されやすくなります。 |
| 先 生 | ここで大切なのは「総合的に」という言葉です。 例えば、功績倍率が3.0倍以内であっても、在任中の業績が芳しくなかったり、他の役員との比較で突出して高額だったりすれば、「不相当に高額」と認定される可能性があります。 逆に、功績倍率がやや高くても、創業者として会社を大きく育て、業績への貢献が明確であれば、認容される場合もあります。 |
| 職 員 | 功績倍率の計算だけでは不十分で、これらの要素を根拠として積み上げる必要があるわけですね。 |
| 先 生 | まさにその通りです。税務調査が来たときに、これらの要素を一つひとつ書類で説明できる状態にしておくことが重要です。 |
◆ 税務調査に備えるための実務上の準備
| 職 員 | では、実際に役員退職金を支給する前に、どのような準備をしておくべきでしょうか? |
| 先 生 | 次の5点は必ず整えておくことをお勧めします。 |
- ① 役員退職給与規程の事前整備 → 在任中に規程を作っておくことが大前提。退職直前の制定は「事後的な作成」として疑われやすい。
- ② 株主総会・取締役会の決議と議事録の保存 → 支給額・支給時期・支給事由を明記した決議を行い、議事録を適正に作成・保存する。
- ③ 功績倍率の算定根拠資料の整備 → 最終月額報酬、勤続年数、功績倍率の根拠(同業類似法人比較、業績の推移等)を記録しておく。
- ④ 在任中の功績・業績を客観的に示す資料の整理 → 売上・利益の推移、重要な経営決定の記録など。
- ⑤ 他の役員・従業員の退職金とのバランス確認 → 他の役員と比較して「なぜこの金額か」を説明できる状態にしておく。
| 【書面添付制度の活用】 当事務所では、役員退職金の計上にあたって書面添付制度(税理士法33条の2)を活用しています。 申告内容の根拠を税理士が書面で添付することで、税務調査の前に意見聴取の機会が設けられ、調査省略につながるケースも多くあります。 功績倍率の根拠・退職の事実・各判断要素の整理を書面化しておくことは、顧問先の安心につながります。 |
このようなケースは税務調査で否認される可能性があります。
◆ まとめ
| ● 役員退職給与の損金算入は「退職の事実」「功労への対価」「不相当に高額でない」の3要件が必要 ● 「不相当に高額」かどうかは、職務内容・功績・退職事情・財務状況・他者とのバランスを総合判断 ● 功績倍率3.0倍はあくまで目安。5つの判断要素を根拠として積み上げることが不可欠 ● 役員退職給与規程・決議・議事録・業績資料の事前整備が税務リスク対策の基本 ● 書面添付制度の活用が、顧問先への安心と税務調査対応の強みになる |
役員退職金は、金額が大きくなりがちなだけに、税務調査でも重点的に確認される項目の一つです。
「功績倍率の数字だけ合っていれば大丈夫」という思い込みは禁物です。法令・通達の趣旨を踏まえた総合的な根拠の積み上げが、安全な退職金設計の鍵となります。
退職金チェックリスト
退職金チェックリスト
- □ 退職の実態があるか
- □ 功績の説明ができるか
- □ 他役員とのバランスは取れているか
- □ 財務的に無理がないか
- □ 規程・議事録が整備されているか
ご不明な点やご相談がございましたら、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。
役員退職金は金額が大きく、税務調査でも重点的に確認される項目です。
尼崎市で役員退職金の設計・税務対策をご検討の方は、
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