非上場株式の評価|贈与後に役員になる場合の配当還元方式の判定|尼崎の税理士が解説

非上場株式の評価|贈与後に役員になる場合の配当還元方式の判定|尼崎の税理士が解説
目次

【非上場株式|配当還元方式の判定フロー】



START

① 同族株主か?
↓ YES
② 中心的同族株主か?
↓ NO
③ 議決権割合5%未満か?
↓ YES
④ 役員か?
├ YES → 原則評価(類似業種比準方式)
└ NO → 配当還元方式

結論:
・副社長に就任 → 配当還元不可(原則評価)
・経理部長に就任 → 配当還元可

同じ取締役でも評価が変わるため注意が必要です。

同族株主のいる会社 原則法 配当還元法 フローチャート

【職員】 先生、今日は非上場株式の評価について質問があります。贈与を受けた方が、贈与時点では役員ではないのですが、近いうちに役員に就任する予定がある場合、評価方法はどうなるのでしょうか?

【先生】 それは実務でも迷いやすいケースですね。具体的な事例を使って説明しましょう。

◆ 事例の概要

大会社であるA社の株主構成は次のとおりです。

株主属性株式数
A社 代表取締役社長7,000株
A社 取締役副社長(甲の弟)2,000株
その他の株主(親族外)1,000株
合計 10,000

乙は、長男・丙に400株、二男・丁に300株を贈与することになりました。

丙と丁は現在それぞれ別の会社に勤めていますが、翌年1月末に、丙はA社の取締役副社長に、丁は取締役経理部長に就任する予定です。

(株式はすべて普通株式で1株につき1個の議決権。A社は指名委員会等設置会社ではありません。)

【職員】 丙も丁も贈与時点ではまだ役員ではないわけですね。ということは、どちらも配当還元方式で評価できますか?

【先生】 そこが今回のポイントです。結論から言うと、丙は原則的評価方法(類似業種比準方式)、丁は特例的評価方法(配当還元方式)で評価することになります。同じような立場に見えて、評価方法が変わるんです。

◆ ステップ1:同族株主グループの確認

【先生】 まず同族株主の判定から整理しましょう。財産評価基本通達188では、同族株主以外の株主が取得した株式については、特例的評価方法(配当還元方式)が適用されます。贈与直後の甲グループの議決権割合は過半数を超えているため、甲グループは「同族株主のいる会社の同族株主」に該当します。

【職員】 ということは、丙も丁も「同族株主」になるのでしょうか?

【先生】 そうです。ただし、同族株主に該当するからといって、すべて原則的評価方法になるわけではありません。ここで「中心的な同族株主」の概念が登場します。

◆ ステップ2:中心的な同族株主の確認

【先生】 財産評価基本通達188の(2)では、株式を取得した同族株主が「中心的な同族株主以外の同族株主」であり、かつ一定の条件(役員でない、議決権割合5%未満など)を満たす場合は、例外的に配当還元方式を適用できると定めています。

贈与直後の丙・丁の議決権割合を確認してみましょう。

 ・丙:400株 ÷ 10,000株 = 4.0%(5%未満)

 ・丁:300株 ÷ 10,000株 = 3.0%(5%未満)

どちらも5%未満です。また、中心的な同族株主(保有割合25%以上となるグループの中心株主)については、甲・乙は該当しますが、丙・丁は中心的な同族株主ではありません。

【職員】 では、丙も丁も「中心的な同族株主以外の同族株主」で、議決権割合も5%未満。あとは役員かどうかだけが判定基準になるわけですね?

【先生】 その通りです。ここが今回の核心です。

◆ ステップ3:「役員」の判定時期と範囲

【先生】 財産評価基本通達188の(2)では、役員かどうかの判定について、次の2つの時点で確認することとされています。

 ① 課税時期(贈与日)において役員であるかどうか

 ② 課税時期の翌日から贈与税の法定申告期限(翌年3月15日)までの間に役員となったかどうか

つまり、贈与時点で役員でなくても、申告期限までに役員に就任した場合は、役員として取り扱われます。

【職員】 丙は翌年1月末に取締役副社長に就任する予定ということは、申告期限の3月15日より前ですよね。ということは丙は「役員」として判定されるわけですか?

【先生】 そうです。丙は申告期限前に役員に就任しますので、配当還元方式は使えません。原則的評価方法(類似業種比準方式)で評価することになります。

◆ ステップ4:「役員」の範囲 ~ 丁の取締役経理部長は役員か?

【職員】 では丁はどうでしょうか?丁も同じく1月末に取締役経理部長に就任しますよね。同じ「取締役」とついているのに、評価方法が変わるのはなぜですか?

【先生】 ここが重要な実務ポイントです。財産評価基本通達188の(2)でいう「役員」の範囲は、法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号、第4号に該当する者に限定されています。

【役員に該当する者(法人税法施行令71条第1項)】

該当する役職
第1号代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
第2号副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
第4号取締役(指名委員会等設置会社の取締役および監査等委員である取締役に限る)、会計参与、監査役、監事

【職員】 なるほど。第4号の「取締役」は、指名委員会等設置会社の取締役と監査等委員の取締役に限られているのですね。A社は指名委員会等設置会社ではないから、通常の取締役は第4号には該当しない…。

【先生】 その通りです。では丁の「取締役経理部長」はどこに当てはまるか考えてみてください。

【職員】 第2号の「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」…「経理部長」はこれに準ずる職制とは言えないでしょうか?

【先生】 「経理部長」は、使用人としての職制上の地位であり、副社長・専務・常務のような経営全般を統括する地位とは性質が異なります。法人税法施行令71条第2号にいう「これらに準ずる職制上の地位」とは、会社の経営の中枢を担う者を指しています。したがって、「取締役経理部長」は同令71条第1項各号のいずれにも該当しないため、財産評価上の「役員」には当たりません。

【職員】 つまり丁は、申告期限までに「取締役経理部長」に就任しても、評価上の「役員」とは見なされないため、配当還元方式が適用できる、ということですね。

【先生】 その通りです。整理するとこうなります。

【評価上の「役員」とは】

✔ 該当
・代表取締役
・副社長、専務、常務

✖ 非該当(今回)
・取締役経理部長
・一般取締役(非委員会会社)

188(2)に出てくる「役員」の定義

財産評価基本通達188(2)のカッコ書きは、次のように規定しています。

  • 「課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。」

ポイントは次のとおりです。

  • 188(2)の“配当還元方式OKとなる少数同族株主”からは、
    「評価会社の役員」および「申告期限までに役員になる予定の者」を除外している。
  • ここでいう役員は、法人税法施行令71条1項1号・2号・4号に掲げる役員
    (取締役・執行役・監査役等で、使用人兼務役員とされない者)を指す。
  • したがって、従業員的色彩の強い“使用人兼務役員”は、原則この『役員』には含まれない整理になります(評価通達2・16等と同趣旨)
  • 非常勤取締役であっても、
    • 会社法上の取締役で、
    • 法人税法施行令71条1項にいう「使用人兼務役員とされない役員」に該当する限り、
      → 評価通達188の(2)における「役員」に該当する(=5%未満でも配当還元方式の対象にはならない)と整理するのが通常です。
  • 「一定の取締役」=会社法上の全ての取締役ではなく、
    指名委員会等設置会社の取締役・監査等委員である取締役という、ガバナンス上中心的な役割の取締役に絞った概念。
  • したがって、通常の取締役会設置会社の“平取締役”は、71条1項4号の「一定の取締役」には該当せず、他号該当(1号・2号・5号)か、そもそも「使用人兼務役員」と認定できるかどうかで別途判定することになります。

参考
指名委員会等設置会社は、取締役会の内部に「指名委員会・監査委員会・報酬委員会」の3つの委員会を置き、取締役は主に“監督”、執行役が“業務執行”を担うガバナンス重視型の株式会社です。取締役会の中にこの3委員会を設置し、それぞれの委員の過半数は社外取締役で構成することが必要です。

監査等委員である取締役
= 監査等委員会設置会社において、監査等委員会を構成する取締役。
監査等委員会= 取締役3名以上(過半数は社外取締役)で構成され、取締役の職務執行を監査する機関。監査等委員は、「監査役」ではなく「取締役」であるため、他の取締役の職務執行について、法令・定款遵守の観点から監査を行い、さらに経営判断として妥当かどうかの観点から監督も行います。

法人税法施行令71条1項4号は、「使用人兼務役員とされない役員」として「指名委員会等設置会社の取締役」「監査等委員である取締役」を含めており、評価通達188の(2)でいう「役員」の範囲にも含まれる位置付けです

◆ まとめ

判定項目丙(取締役副社長)丁(取締役経理部長)
贈与直後の議決権割合4.0%(5%未満)3.0%(5%未満)
中心的な同族株主か非該当非該当
申告期限前の役員就任ありあり
法令71条第1項該当第2号該当(副社長)非該当(経理部長)
評価方法原則的評価方法 (類似業種比準方式)特例的評価方法 (配当還元方式)

【職員】 同じ「取締役」でも、役職名によって評価方法が大きく変わってしまうのですね。これは実務上、非常に重要な判断ですね。

【先生】 そうですね。取締役に就任することが決まっている場合、その肩書が評価上の「役員」に該当するかどうかを、贈与前に必ず確認しておく必要があります。また、今回のケースでは、丙と丁の役職が仮に逆だったとしたら評価方法も逆になります。贈与の時期と役員就任のタイミングを含め、事前の計画が非常に重要な事案です。株式の贈与や相続を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。

【関連する通達・条文】

・財産評価基本通達188、188-2

・法人税法施行令第71条第1項

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