「役員退職金 功績倍率3.0の根拠とは?【昭和55年判決から解説】

「役員退職金 功績倍率3.0の根拠とは?【昭和55年判決から解説】

功績倍率「3.0倍」の歴史的根拠とは

昭和55年東京地裁判決から現代実務まで

役員退職金の税務を考えるとき、必ずといってよいほど登場するのが「功績倍率3.0倍」というキーワードです。

「社長なら最高3倍まで大丈夫」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、その根拠は何か、いつ誰が決めたのか、意外と説明できる方は少ないものです。

今回は、功績倍率3.0の歴史的な根拠を、判決の流れとともに分かりやすく解説します。

「結論から言うと、功績倍率3.0倍は昭和55年東京地裁判決を起点に実務上定着した“目安”であり、絶対基準ではありません。」

役員退職金の金額設定は、
会社の状況や役員の貢献度により大きく異なります。

役員退職金が否認される具体的な判断基準については、
こちらの記事で詳しく解説しています。

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目次

◆ そもそも「功績倍率」とは何ですか?

職 員先生、役員退職金の計算でよく「功績倍率」という言葉が出てきますが、改めて教えていただけますか?
先 生はい。役員退職金の「適正額」を計算するときの一般的な方法が、功績倍率法と呼ばれるものです。計算式はシンプルで、こうなります。

適正な退職金 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

先 生このうち「功績倍率」の部分は、役職ごとの貢献度を数値化したものです。代表取締役(社長)は会社経営への貢献度が最も高いため、最も高い倍率が設定されています。
職 員なるほど。では、社長の功績倍率が「3.0倍」とされているのはなぜですか?
先 生それが今回のテーマです。実は、昭和55年の東京地裁判決にまで遡る必要があるんです。

功績倍率「3.0倍」の原点:昭和55年東京地裁判決

職 員昭和55年の判決が根拠なんですか?ずいぶん古い話ですね。
先 生おっしゃる通り、今から40年以上前の判決です。しかしこれが、税務実務における「功績倍率3.0」の出発点になっています。 事案の概要はこうです。不動産売買・仲介を業とする会社が、退職する役員4名に対して合計6,000万円の退職金を支給しました。ところが、税務署が「過大だ」として課税してきたのです。
職 員税務署はどのような根拠で「過大」と判断したのですか?
先 生そこが重要なポイントです。課税庁側は「株式会社政経研究所」が昭和47年(1972年)6月時点で調査した、全上場1,603社の役員退職金実態データを根拠として持ち出しました。 その調査結果から算出された役職別の功績倍率の平均値が、以下の数値でした。
役 職功績倍率(目安)備 考
代表取締役(社長)3.0 裁判例・実務の最頻値
専務取締役2.4  
常務取締役2.2  
平取締役1.8  
監査役1.6  
先 生この数値を使って算定した金額が「適正額」であり、それを超える部分は損金不算入だと主張したわけです。そして東京地裁はこの考え方を採用しました。
【判決の概要】 事件名:役員退職給与損金不算入課税処分取消請求事件 判決日:昭和55年(1980年)5月26日 裁判所:東京地方裁判所 出 典:訟務月報26巻8号1452頁 / 税務訴訟資料113号442頁 内 容:課税庁が用いた功績倍率(社長3.0等)による適正額の算定方法を合理的と判断。

◆ 地裁から最高裁へ:判決の流れ

職 員地裁判決だけで終わったわけではないですよね?
先 生その通りです。この判決は高裁・最高裁へと続き、課税庁側の考え方が最終的に認められました。一連の流れを時系列で整理するとこうなります。
昭和47年 (1972年)株式会社政経研究所が全上場1,603社の 役員退職金実態を調査。役職別の功績倍率平均を算出。
昭和50年 (1975年)最高裁第三小法廷判決(昭和50年2月25日) 功績倍率法の考え方が示される。
昭和55年 (1980年)東京地裁判決(5月26日) 【訟務月報26巻8号1452頁・税資113号442頁】 課税庁の功績倍率(社長3.0等)を裁判所が採用。 「3.0倍」の原点となる判決。
昭和56年 (1981年)東京高裁判決(11月18日) 地裁の功績倍率による算定方法を追認・是認。
昭和60年 (1985年)最高裁第三小法廷判決(9月17日) 課税庁側の考え方を最終的に是認。 「3.0倍」が実務上の共通言語として確立。
先 生注意していただきたいのは、最高裁が「社長3.0倍」と新たに明示したわけではない、という点です。地裁・高裁で採用された功績倍率法という方法論を、最高裁が是認した、という形です。
職 員つまり「最高裁が3.0と決めた」というより、「3.0倍を使う考え方を最高裁が認めた」ということですね。
先 生まさしくその通りです。ここは誤解されやすいポイントなので、しっかり覚えておいてください。

◆ なぜ40年以上経った今も「3.0倍」が使われるのか?

職 員40年以上前の上場企業調査データを、なぜ今も使い続けるのですか?
先 生確かに不思議に思えますよね。理由はいくつかあります。 第一に、この後も多くの裁判例・国税不服審判所の裁決例が、功績倍率法を前提に議論を展開してきたという歴史の積み重ねがあります。 第二に、税務当局も実務家も、「功績倍率法×社長3倍前後」を一種の共通言語として使うことで、交渉や審査の枠組みが安定するというメリットがあります。 判決自体は古くても、『功績倍率法という思考枠組み』が今も更正処分・審判・裁判の議論の起点として機能しているのが実情です。
職 員なるほど。では「3.0倍以内に収めれば絶対に安全」と考えてよいですか?
先 生いいえ、それが大切な注意点です。「3.0倍=安全水準」ではなく、あくまで一つの目安にすぎません。 近時の裁判例では、3.0倍よりかなり低い功績倍率が認定される事例も増えています。例えば令和2年の東京地裁では、創業者・勤続34年の社長であっても、平均功績倍率1.06倍とされた事案があります。 逆に、3.3〜3.6倍を認めた裁決例も存在します。 つまり、個別事情(業績の推移、他役員とのバランス、在任期間、企業規模など)によって、実際の認容倍率はかなり幅があるのです。
【近時の裁判例の傾向】 ● 令和2年東京地裁:創業者・勤続34年でも平均功績倍率1.06倍と認定された事案あり ● 一方で3.3〜3.6倍を認めた国税不服審判所裁決例も存在 ● 個別事情(業績・在任期間・企業規模・他役員とのバランス等)が判断を左右する

◆ 実務での活用のポイント

職 員では実務上、どのように考えればよいのでしょうか?
先 生退職金規程を整備する段階では、功績倍率の初期設定値として3.0倍前後を話のスタートにすることは合理的です。 しかし実際の退職金を決定する場面では、以下の点を必ず検討することをお勧めします。
  • ① 同業・類似規模法人との比較(同業類似法人比較法・一人当たり平均退職金額法も検討する)
  • ② 在任期間中の会社への貢献度・業績の実績
  • ③ 他の役員との退職金バランス
  • ④ 近時の裁判例・裁決例の傾向(特に同業種・同規模のケース)
  • ⑤ 役員退職金規程の事前整備と、支給の決議・議事録の作成
先 生特に、役員退職金規程が存在しない場合や、支給決議の手続きが不明確な場合は、税務調査で問題になりやすいです。 「3.0倍だから大丈夫」という思い込みではなく、総合的な根拠の積み重ねが大切です。 事前に税理士に相談しながら、しっかりとした準備をしてください。

◆ まとめ

● 功績倍率3.0の根拠は、昭和55年東京地裁判決にあります。 ● その背景には、昭和47年の全上場1,603社調査データがあります。 ● 地裁→高裁→最高裁の流れで功績倍率法という方法論が是認されました。 ● 「3.0倍=絶対安全」ではなく、個別事情による幅があります。 ● 退職金規程の整備・手続きの適正化・近時判例の確認が実務の要です。

役員退職金は、長年会社に貢献した経営者に対する大切な報酬であるとともに、適切な税務対策の一環でもあります。金額が大きくなりがちな分、事前の準備と専門家との連携が欠かせません。

ご不明な点やご相談がございましたら、ぜひ当事務所までお気軽にお問い合わせください。

 

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