税理士も対象となるマネー・ローンダリング対策|犯収法の特定事業者・取引時確認・疑わしい取引の届出

税理士も対象となるマネー・ローンダリング対策|犯収法の特定事業者・取引時確認・疑わしい取引の届出

税理士業務においても、マネー・ローンダリング対策は無関係ではありません。犯罪収益移転防止法(犯収法)では、税理士も「特定事業者」とされ、一定の業務について取引時確認や記録保存、疑わしい取引への対応が求められます。

今回、警察庁犯罪収益対策室(JAFIC)主催・日本税理士会連合会協力による研修を受講しました。この記事では、研修内容をもとに、税理士実務で注意すべきポイントを整理します。

目次

1.マネー・ローンダリングとは?

スタッフ

そもそも「マネー・ローンダリング」って何ですか?

松野先生

簡単にいうと、犯罪で得たお金を「正当な収入」に見せかける行為のことです。麻薬の売買や詐欺、窃盗などで得た犯罪収益を、普通の取引に紛れ込ませることで出所を隠す。これが資金洗浄(マネー・ローンダリング)です。

対策の目的は2つです。犯罪収益を剥奪して犯罪者に利益を与えないこと、そして組織犯罪やテロの資金源を断つことです。

スタッフ

なぜ国際的な取り組みが必要なんですか?

松野先生

マネロンは国境を越えて行われます。そこで1989年にFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)が設立されました。日本を含む約40カ国・地域が加盟し、国際基準の策定と各国への相互審査を行っています。日本は2021年のFATF第4次審査で「対応不十分」と指摘を受けており、この分野の強化が課題とされています。

2.日本のマネーロンダリング対策体制

スタッフ

日本ではどんな体制で対策しているんですか?

松野先生

日本では国家公安委員会がFIU(Financial Intelligence Unit:金融情報機関)として機能しています。その実務を担うのが警察庁刑事局のJAFIC(犯罪収益対策室)です。JAFICは次の3つの役割を担っています。

① 疑わしい取引の届出の集約・分析
② 制度・施策の立案・調査
③ 外国FIUや国際機関との連携・協力

事業者から届け出された「疑わしい取引」の情報を一元的に受け取り、捜査機関に提供する仕組みです。

3.マネー・ローンダリングの流れ

スタッフ

実際にどうやってお金を洗浄するんですか?

松野先生

典型的な流れはこうです。犯罪組織が詐欺や窃盗などで得た収益を、銀行送金・宝石や貴金属の売買・不動産取引などを使って転々とさせ、最終的に「正規の収入」に偽装します。暗号資産取引所を使うケースも増えています。

ここで問題なのが、弁護士・司法書士・行政書士・公認会計士・税理士などの士業が「専門的知識と社会的信用を悪用」されるケースが現実に起きているということです。取引に介在させることで、犯罪色を薄める目的に利用されます。

4.特定事業者とは―税理士も含まれます

スタッフ

「特定事業者」というのはどういう業者ですか?

松野先生

犯罪収益移転防止法(犯収法)第2条第2項に規定された、取引時確認等の義務を課される事業者のことです。主な特定事業者は次のとおりです。

カテゴリ具体例
金融機関等銀行・貸金業者・資金移動業者・暗号資産交換業者・両替業者など
その他金融関連ファイナンスリース事業者・クレジットカード事業者
不動産関連宅地建物取引業者
物品等宝石・貴金属取扱事業者(古物商・質屋を含む)
サービス業郵便物受取サービス事業者・電話受付代行業者・電話転送サービス業者
士業(46〜49号)司法書士・弁護士・行政書士・公認会計士・税理士

📌 ポイント
税理士は犯収法第2条第2項第49号の特定事業者に該当します。国税庁も、税理士・税理士法人には犯収法により特定の業務・取引について一定の義務が課されると案内しています。

5.特定事業者に課される義務(犯収法)

スタッフ

特定事業者になると、どんな義務が生じるんですか?

松野先生

犯収法では、特定事業者に対し、業種や対象取引に応じて、取引時確認、確認記録・取引記録の作成保存、疑わしい取引の届出、内部管理体制の整備などの義務が定められています。税理士についても、一定の特定業務・特定取引に該当する場合には、これらの義務を意識する必要があります。

義務根拠条文内容
取引時確認第4条特定業務を行う際、顧客の本人確認等を行う
確認記録の作成・保存第6条取引時確認の記録を7年間保存
取引記録等の作成・保存第7条取引に係る記録を7年間保存
疑わしい取引の届出第8条疑わしい取引を発見した場合、行政庁へ届け出る(守秘義務に係る事項を除く)
取引時確認等を的確に行うための措置第11条内部管理体制の整備等

📌 令和6年4月1日施行の改正
令和6年改正により、士業者との一部取引について確認事項の追加や疑わしい取引の届出義務が追加されています。最新の内容を確認しておくことが必要です。

6.税理士の「特定業務」と「特定取引」

スタッフ

税理士のどんな業務が対象になるんですか?通常の申告業務も含まれますか?

松野先生

税理士の特定業務は限定列挙されています。通常の記帳代行・税務申告業務は対象外です。対象となる特定業務は以下の3つです。

特定業務の類型対象取引(取引時確認が必要)
① 宅地・建物の売買に関する行為または手続の代理等当該代理等を行う旨の契約の締結
② 会社等の設立・合併等に関する行為または手続の代理等当該代理等を行う旨の契約の締結
③ 現金・預金・有価証券その他の財産の管理または処分200万円を超える財産の管理・処分に関する契約の締結

📌 ハイリスク取引(より厳格な確認が必要)
次のいずれかに該当する取引は、ハイリスク取引として特別な確認が求められます。
① なりすましの疑いがある顧客との取引
② イラン・北朝鮮に居住・所在する顧客との取引
③ 外国PEPs(重要な公的地位にある者)との取引

📌 「特別の注意を要する取引」
対象取引以外でも、次の取引は特別の注意が必要です。
・マネー・ローンダリングの疑いがあると認められる取引
・同種の取引と著しく異なる態様で行われる取引

スタッフ

M&Aや組織再編の業務は対象になりますか?

松野先生

はい。会社の設立・合併・分割・株式移転など組織再編に関与する業務は「②会社等の設立・合併等」に該当します。M&A、事業承継、組織再編、不動産取引、相続財産の管理などは、高額な財産移転を伴うことが多いため、税理士実務でも特に慎重な確認が求められる分野です。

7.マネー・ローンダリングを行っている主体

スタッフ

実際には誰がマネー・ローンダリングをやっているんですか?

松野先生

研修では主に3つのグループが紹介されました。

① 匿名・流動型犯罪グループ

近年急増しているのが「闇バイト」などSNSや求人サイトを通じて集まる匿名・流動型犯罪グループです。中核的人物が匿名のまま末端メンバーに指示を出す構造で、強盗・窃盗・特殊詐欺・性風俗関連など複数のグループが並立しています。組織的な犯罪に比べ実態把握が難しく、捜査の障壁になっています。

② 暴力団

暴力団によるマネー・ローンダリング事犯の検挙件数は、令和6年は80件(全体の約6.2%)でした(警察庁資料・令和6年)。組織的犯罪処罰法に係るものが大半を占め、麻薬特例法に係るものも一定数あります。

③ 来日外国人犯罪グループ

来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯は令和6年で142件(全体の約11.1%)に上り、令和2年の91件から増加傾向にあります(警察庁資料・令和6年)。

8.前提犯罪の特徴

スタッフ

どんな犯罪から生まれたお金が洗浄されているんですか?

松野先生

令和3年〜令和6年の累計(3,673件)で多い前提犯罪は次のとおりです(警察庁資料より)。

前提犯罪令和6年(件)令和3〜6年累計(件)
詐欺4621,293
窃盗3861,179
電子計算機使用詐欺288595
常習賭博・賭博場開張等図利1656

特殊詐欺(振り込め詐欺等)、ネット詐欺、窃盗(スキミング・クレジットカード不正利用等)が上位を占めています。電子計算機使用詐欺(ネットバンキング等)の急増も目立ちます。

9.士業者が悪用された事例

スタッフ

実際に士業が悪用された具体的な事例はありましたか?

松野先生

研修では3つの事例が紹介されました。

事例1:宅地・建物の売買に関する事例
不動産売買の手続代理等に士業者が関与し、犯罪収益による不動産取得に利用されたケース。

事例2:会社等の設立・合併等に関する事例
幽霊会社の設立やペーパーカンパニーへの合併等に関与させられ、犯罪収益の移転経路に組み込まれたケース。

事例3:財産の管理・処分に関する事例(税理士関与)
現金・預金・有価証券等の財産管理・処分に税理士が介在させられ、犯罪収益の隠匿・移転に利用されたケース。相続や事業承継に関わる資産管理業務が狙われやすいとされています。

いずれも、士業者が「取引に介在させて専門的知識と社会的信用を悪用」されるパターンです。善意で関与していたとしても、結果として犯罪収益の移転に利用されてしまうリスクがあります。

10.疑わしい取引の届出―現状と実務

スタッフ

疑わしい取引の届出って、実際どれくらいされているんですか?

松野先生

全事業者の届出件数は令和6年に約84万9,861件と過去最多水準に達しています(警察庁資料・令和6年)。一方、研修資料によれば、士業者による届出件数は金融機関等に比べて極めて少なく、税理士による届出はまだほとんど行われていない状況とされています。この点は、今後のFATF審査や制度運用の中で、税理士業界としても意識しておくべき課題です。

スタッフ

どんな取引が「疑わしい」と判断されるんですか?

松野先生

研修資料では「いくら以上の現金取引、何回以上の取引といった画一的な基準は設けられていない」とされています。個々の取引形態や顧客の属性によって判断します。各行政庁が参考事例を公表していますので、それを目安にしつつ、事業者自身が疑わしいと判断した場合には、守秘義務との関係を確認しつつ、届出の要否を検討する必要があります。

実務上、リスクが高いとされる要素はこういったものです。

リスク区分具体的な要因
取引形態からのリスク非対面取引・現金取引・外国との取引
国・地域からのリスクマネー・ローンダリング対策が不十分な国・地域との取引
顧客属性からのリスク暴力団・国際テロリスト・非居住者・外国PEPs・実質的支配者が不透明な法人

11.疑わしい取引の届出方法

スタッフ

実際に届け出るにはどうすればいいんですか?

松野先生

届出方法は3通りあります。JAFICはe-Gov電子申請を推奨しています。

届出方法提出方法手順・備考
e-Gov電子申請(推奨)インターネット経由① JAFICへ事業者ID発行申請
② 事業者プログラムで届出書を作成
③ e-Govを通じて届出
電磁的記録媒体書留または直接持参(財務省国際局)事業者プログラムで作成
書面書留または直接持参(財務省国際局)犯収法施行規則第25条の様式を使用

📌 届出情報の厳守事項(犯収法第8条第4項)
届出を行ったことや行おうとしていることを、当該顧客やその関係者に漏らしてはなりません。捜査関係事項照会書の回答に届出に関する記載や資料の添付もNGです。届出情報は国家公安委員会が厳正に管理し、一切公表されません(犯罪者による証拠隠滅防止のため)。

問い合わせ先

機関連絡先
警察庁 犯罪収益対策室(JAFIC)03-3581-0141(代表)
疑わしい取引の届出ヘルプデスク050-1722-4998
JAFICホームページhttps://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/index.htm

まとめ

スタッフ

税理士として、今後どんな点に気をつければいいですか?

松野先生

整理すると次の3点です。

① 特定業務の範囲を正確に把握する
通常の申告・記帳業務は対象外ですが、M&A・組織再編・不動産売買の関与・200万円超の財産管理については取引時確認が必要になります。

② 取引時確認と記録保存を確実に行う
確認記録・取引記録はいずれも7年間の保存義務があります。

③ 疑わしい取引への適切な対応
特定業務に関連して、犯罪収益の移転が疑われる場合には、守秘義務との関係を確認しつつ、必要に応じて所管行政庁への届出を検討します。なお、届出を行ったことや届出を検討していることを、顧客や関係者に漏らしてはいけません。

私たちの社会的信用と専門性を守るためにも、マネー・ローンダリング対策を「他人事」にせず、実務の中で着実に対応していくことが大切です。

※本記事はJAFIC(警察庁犯罪収益対策室)・日本税理士会連合会による研修資料および警察庁公表統計をもとに、税理士法人松野茂税理士事務所が解説したものです。個別の具体的な案件については、専門家にご相談ください。
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