株主を分散すれば配当還元方式で評価できる?非上場株式評価と経営権喪失のリスク

株主を分散すれば配当還元方式で評価できる?非上場株式評価と経営権喪失のリスク

※本記事は、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)」(2026年7月3日開催)の配付資料で紹介されている事例を基に解説しています。 参考資料:取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)配付資料(国税庁)

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はじめに ~評価額が下がっても、失うものがある~

相続税・事業承継の相談を受けていると、「できるだけ株式の評価額を下げたい」というご要望を数多くいただきます。非上場株式の評価では、株主構成を工夫することで評価方式が「原則的評価方式(純資産価額方式・類似業種比準方式)」から「配当還元方式」に変わり、評価額が数十分の一になるケースもあります。

しかし、評価額が下がる代わりに、目に見えにくい形で会社の経営権を手放すことになっていないでしょうか。そして、その評価方式そのものが、後日の税務調査で否認されるリスクを抱えていないでしょうか。

今回は国税庁の資料で紹介されている事例をもとに、この2つの視点から解説します。

まず「経営権」の視点から ~誰の目にも分かりやすいリスク~

株主を分散すれば配当還元方式で評価できる?非上場株式評価と経営権喪失のリスク

ある資産管理会社(X社)の株主構成を例に考えてみます。創業家の長男・次男・三男の3名で株式の12.5%を保有し、残りの87.5%を、かつて関係会社の役員だった7名(それぞれ12.5%ずつ)に分散して保有させたケースです。

議決権割合を細かく分散させ、どのグループも15%未満に抑えることで、「同族株主のいない会社」の要件を満たし、形式上は、全株主について配当還元方式による評価が可能となるように設計されています。その結果、評価額は原則的評価方式の約2%程度まで圧縮されます。

一見、税務上は非常に効果的な対策に見えます。しかし、ここで立ち止まって考えていただきたいのは次の点です。

  • 株式を分散させた7名の元役員は、あくまで名義上は別グループの株主です。将来、この方々に相続が発生すれば、株式はその相続人へとさらに分散していきます。
  • 元役員という立場上、経営情報にも一定程度通じている場合が多く、将来的に創業家と利害が対立した場合、単独では小さな議決権でも、複数名が結束すれば創業家グループ(12.5%)を上回る議決権を持つことになります。
  • 株式の名義がいったん外部に分散すると、それを取り戻す(買い戻す)ことは簡単ではありません。相手にも生活や意向があり、贈与税・譲渡所得税の負担も生じます。
  • 資産管理会社が金融機関からの借入によって資産を取得している場合、金融機関は通常、実質的な経営者に個人保証を求めます。株式を多数の元役員等に分散させても、金融機関がその全員に保証を求めることは考えられず、保証責任(経済的リスク)は結局のところ創業家に残ったままになります。議決権は薄まっても、リスクだけは背負い続けるという、割に合わない構造が生じ得るのです。

つまり、このスキームは「相続税評価額を下げる」という目的は達成できても、引き換えに「会社を将来にわたって創業家がコントロールし続けられるか」という、事業承継における最も本質的な問題を犠牲にしている可能性があるのです。評価額の圧縮効果だけを見て飛びつくのではなく、「その株式を持つ人は、本当に経営に関与しない人と言い切れるか」という視点を持つことが欠かせません。

本題:実質判定による更正リスク

そして、実務上さらに重要なのが、このような株主構成が税務調査で否認される可能性があるという点です。

形式要件と実質判定は別物

財産評価基本通達188の判定は、まず議決権割合等の形式に基づいて行われます。しかし、その前提となる株主関係や議決権行使の実態に仮装・名義分散・実質的な一体関係がある場合には、形式上の株主名簿だけを前提に安全と考えることはできません。

配当還元方式が認められる前提は、「経営に対する影響力を持たない、単に配当を期待するだけの少数株主」であるということです。この前提が崩れていれば、たとえ議決権割合の数字上は15%未満であっても、実質的には同族株主と同様に扱われ、評価方式そのものが否認される可能性があります。

実務上、否認の糸口となり得るポイント

税務調査の現場で実際に確認・指摘され得る点として、次のようなものが挙げられます。

  • 株主総会への出席状況:分散された株主が実際に株主総会へ出席しているか、あるいは委任状によって創業家側に議決権行使を委ねていないか。出席実態がなく、常に特定の者に議決権行使を委任している場合、実質的な議決権の所在が疑われます。
  • 元役員という属性そのもの:かつて経営陣の一員であった者は、一般の少数株主と異なり、経営情報や意思決定プロセスに一定の理解を持つ立場にあります。この点から「経営に関与しない株主」という前提と実態が乖離していないかが問われます。
  • 株主間の協調関係の有無:分散された株主同士、あるいは分散株主と創業家との間に、議決権の行使方法について合意や覚書、口頭での取り決めなど、協調して行動することをうかがわせる事実がないか。
  • 株式取得の経緯と対価:分散株主への株式移転が、実勢の取引条件から見て不自然な形で行われていないか。無償に近い形での移転であれば、実質的な支配関係が継続していると見られる余地があります。
  • その後の株式の動き:評価後、一定期間を経て株式が再び創業家側に集約されるような動きがあれば、当初から一時的な名義分散に過ぎなかったと判断される材料になり得ます。

これらはいずれも、「議決権割合の数字」という形式だけでは見えてこない部分です。国税当局の実地調査においては、株主名簿や議決権割合の資料だけでなく、株主総会議事録や委任状の有無、株主間のやり取りなど、実態面まで踏み込んで確認されることがあります。

法人税基本通達に見る「一体で議決権を行使する者」の考え方

相続税評価そのものの通達ではありませんが、税務上「別人に見える株主を、実質的に一体として見る」場合の考え方として参考になるのが、法人税基本通達1-3-7・1-3-8です。これは法人税法上の同族会社判定における「同一の内容の議決権を行使することに同意している者」の意義を定めたものです。

通達1-3-7では、ある個人・法人と同一内容の議決権を行使することに同意している者に当たるかどうかは、契約や合意などにより、実際にその意思と同一内容の議決権を行使することに同意している事実があるかどうかで判定するとされています。その上で、単に過去の株主総会等において同一内容の議決権行使を行ってきたという実績や、出資・人事・雇用・資金・技術・取引面で緊密な関係があるという事実だけでは、この「同意している者」には該当しないとも明記されています。

一方で、通達の解説では、次のようなケースは「同意している事実がある」と考えられるとしています。

  • 株式を組合形態で保有しており、特定の組合員の意思により議決権が行使される旨の合意が組合契約等にあるとき
  • 株式を信託形態で保有しており、委託者・受託者・他の受益者の意思や指図によって議決権を行使する旨の定めがあるとき
  • 株式を相互に持ち合っており、お互いの意向に沿って議決権を行使する旨の合意があるとき
  • 継続的に白紙委任状を提出しているとき

つまり、単に「元役員だから」「取引関係が深いから」というだけでは協調関係ありとは認定されない一方で、継続的な白紙委任状の提出や、議決権行使について合意・取り決めが存在する事実があれば、実質的に一体として議決権を行使しているとみなされ得る、ということです。

これは相続税評価における同族株主・少数株主の判定とは制度趣旨も条文の根拠も異なりますが、「名義上は別人格でも、議決権行使の実態が一体であれば、その実態を重視する」という税務当局の基本的な発想は共通しています。先の事例⑥のように株式を多数の元役員に分散させたケースでも、それらの者が総会への委任状を継続的に同じ方向で提出している、あるいは議決権行使について何らかの取り決めがあるといった事実が確認されれば、形式上の議決権割合とは別に、実質的な支配関係が認定される可能性は十分にあると考えられます。

(参考:法人税基本通達1-3-7・1-3-8の趣旨説明(国税庁)

「合法だから安全」ではない

こうしたスキームを検討される際に注意していただきたいのは、「通達の要件を形式的に満たしているから絶対に安全」というわけではないということです。租税回避の意図が明確で、実質的な支配関係が継続していると判断されれば、後日の税務調査で更正処分を受け、追徴税額に加えて延滞税・加算税の負担が生じるリスクがあります。

数年後に更正処分を受ければ、当初の節税効果どころか、それ以上の負担を強いられることにもなりかねません。

まとめ

非上場株式の評価対策は、事業承継・相続対策において非常に重要なテーマですが、次の2つの視点を欠かすことはできません。

  1. 経営権の視点:評価額を下げるための株主構成の変更が、将来にわたって会社の支配権を脅かすことにならないか
  2. 実質判定の視点:形式的な議決権割合の数字だけでなく、株主総会への出席実態や株主間の協調関係など、実質面から見て評価方式の前提が崩れていないか

株式評価対策は、目先の評価額だけでなく、10年、20年先の会社の姿を見据えて設計する必要があります。当事務所では、相続税・事業承継・組織再編・M&Aといった専門分野の知見を踏まえ、こうしたリスクも含めた総合的なアドバイスをご提供しております。株主構成や評価方式について不安な点がございましたら、お早めにご相談ください。

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