タワマン節税封じ、第1弾・第2弾の全貌|通達に書かれた乖離補正と、書かれなかった調査結果

タワマン節税封じ、第1弾・第2弾の全貌|通達に書かれた乖離補正と、書かれなかった調査結果
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はじめに

令和5年10月、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を公表し、令和6年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から、いわゆるタワーマンション節税に対する規制の第1弾がスタートしました。

そして令和7年12月19日に公表された令和8年度与党税制改正大綱で、第2弾となる「貸付用不動産の評価方法の見直し」が明記されました。

本稿では、この2段構えの規制がどのような設計思想でつながっているのか、そして国税庁が過去に把握しながら、今回の通達本文には直接書かなかった乖離の実態について、実務家の視点から整理します。

第1弾:居住用区分所有財産(マンション)評価の見直し

通達の概要

令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(分譲マンション一室)の相続税評価額は、従来の評価額に「区分所有補正率」を乗じて計算することになりました(マンション自体の購入時期ではなく、相続、遺贈または贈与により取得した課税時期が基準です)。

区分所有補正率は、以下の評価乖離率をもとに算定されます。

評価乖離率=A(築年数×△0.033)+B(総階数指数×0.239)+C(所在階×0.018)+D(敷地持分狭小度×△1.195)+3.220

評価水準(1÷評価乖離率)が0.6を下回る場合、評価乖離率×0.6まで評価額を引き上げる補正がかかります。

この算式の出自と限界

この算式は、有識者会議が平成30年分の取引事例(約2,000件)を対象に行った重回帰分析から導かれたものです。しかし、以下の点で実務家として看過できない弱点があります。

単年・限定サンプルの固定化 平成30年という一時点、しかも限られたサンプル数の回帰係数を、その後の全期間・全国一律に適用しています。平成30年以後に生じたマンション価格の上昇や市場構造の変化は、算式上は織り込まれていません。決定係数(R²)や検証データでの当てはまりなど、統計的な検証過程も公表資料からは確認できません。

乖離要因の経済的メカニズム 総階数が高いマンションほど乖離が大きくなる背景には、建築基準法上の容積率緩和(総合設計制度や都市再生特別地区など)があります。容積率が緩和されるほど戸数が増え、1戸あたりの敷地権割合(敷地利用権の面積)は物理的に縮小します。評価額の根拠(土地の按分)は階数が増えるほど縮小する一方、時価の根拠(眺望・希少性)は階数が増えるほど拡大する。この逆方向の力学が、高層マンションほど評価額と時価の乖離を広げる構造的な原因です。

地積規模の大きな宅地との交錯 相続税評価には、面積要件(三大都市圏500㎡以上等)に加え、容積率300%(東京都特別区)・400%(それ以外)未満という要件を満たす宅地について、規模格差補正率により評価額を減額する「地積規模の大きな宅地」の規定があります。有識者会議の回帰分析にあたり、この減額の適用関係を独立した説明変数として調整したかどうかは、公表資料からは確認できません。仮に調整されていなければ、敷地規模や容積率に由来する評価減の影響が、総階数指数(B)や敷地持分狭小度(D)の係数に取り込まれている可能性があり、その場合は脱落変数バイアスが生じていることになります。

「0.6」という水準の理論的な出自の違い 土地の相続税路線価は、地価公示価格水準の80%程度を目安として設定され、市場価格の変動を一定程度反映する仕組みになっています。これに対し、マンションの建物部分は、市場価格を直接評価する方式ではなく、再建築価格を基礎とする固定資産税評価額によって評価されます。土地部分も、敷地全体の評価額を各戸の敷地権割合で按分する仕組みです。

国税庁は、戸建住宅の一般的な評価水準との均衡を図る観点から、マンションについても統計的に予測した市場価格の60%程度を評価の下限水準としました。しかし、戸建住宅とマンションでは、評価額と市場価格の乖離が生じる構造が異なります。原因の異なる乖離について、同じ「0.6」という数値水準を設定しても、従来の評価方法自体が抱える構造的な問題まで解消されるわけではありません。

国税庁通達も、評価水準0.6未満の場合に「評価乖離率×0.6」を適用するとともに、算式と0.6の水準を適時見直すとしています。

通達に反映されなかった、もう一つの調査結果

区分所有補正率の算式の基礎となったのは、前述の平成30年分約2,000件の取引事例です。これとは別に、国税庁は平成23年から平成25年分の譲渡所得税申告に係る20階建て以上のマンション343件を対象に、市場価格と相続税評価額の乖離状況を調査しています。この調査結果は、乖離率の平均値3.04、中央値2.98、最大値6.93、最小値0.57というものでした。

この平均約3倍という調査結果は、現行のマンション評価通達における補正率の算式(評価水準0.6までの補正)には直接現れていません。また、通達評価額と鑑定評価額等との間に3倍以上の乖離があれば直ちに総則6項が適用されるという公式な数値基準が存在するわけでもありません。ただし、この調査結果が平均3.04倍、中央値2.98倍であったことから、実務上は「3倍程度の乖離」が一つの警戒水準として意識されているとみられます。もっとも、総則6項の適用は乖離倍率だけで決まるものではなく、取得時期、借入れの有無、相続税負担の減少効果、取得から売却までの一連の行為その他の事情を含めて総合的に判断される点には留意が必要です(最高裁令和4年4月19日判決参照)。

制度の構造を見る限り、国税庁は、

  • 通常のマンションについては、区分所有補正率により評価水準を統計的に予測した市場価格の60%程度まで引き上げる
  • それでもなお著しく不適当な結果となる個別事案については、総則6項によって対応する

という二段構えを維持したものと考えられます。ただし、これはあくまで公表資料から読み取れる制度上の構造についての筆者の分析であり、国税庁が「3倍」を総則6項の公式な発動基準として定めたという意味ではありません。むしろ国税庁関係資料では、形式的な倍率基準を設けるとその基準を逆用した租税回避を誘発しかねないため、事例ごとに実質判断するという考え方が示されています。

第2弾:貸付用不動産の評価見直し

令和8年度与党税制改正大綱(令和7年12月19日公表)で、貸付用不動産の評価方法の見直しが明記されました。理由として、通達評価額には個々の不動産の収益性などが反映されていないことが乖離の主な要因である旨が記載されています(なお、政府の「令和8年度税制改正の大綱」は令和7年12月26日に閣議決定されています)。

制度の骨格

令和9年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得する財産の評価に適用され、対象となるのは、被相続人または贈与者等が、課税時期前5年以内に、対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産です(相続人側の保有期間ではなく、被相続人等の取得時期が基準である点に注意が必要です)。

  • 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産が対象
  • 原則として、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価
  • 課税上の弊害がない限り、取得価額を基に課税時期までの地価変動等を考慮して計算した価額の80%相当額によって評価することができる

課税時期前5年を超えて取得・新築された貸付用不動産については、原則として従来の路線価方式・固定資産税評価額方式に戻ります(ただし総則6項の適用可能性が排除されるわけではありません)。

なお、一定の新築家屋については経過措置が設けられる予定です。具体的には、改正通達を定める日までに、被相続人等がその日の5年前から所有している土地に新築した家屋については、同日に建築中のものを含め、この5年ルールを適用しないこととされています。

第1弾との共通点

第1弾(マンション評価)が「評価方法の算式そのものに補正率を組み込む」アプローチだったのに対し、第2弾は「取得から一定期間内は原則として通常の取引価額に切り替え、一定の要件下で取得価額基準の簡便評価を認める」という、より直接的な封じ方です。

背景には、令和4年最高裁判決事案のように、通達評価額が購入価額を大幅に下回る事案が繰り返し問題となってきたことがあります。総則6項による対応には、個別事案ごとの事実認定と判断が必要です。借入れによる不動産購入を利用した評価引下げが実務上広く提案されてきたことも踏まえると、個別否認に依存するのではなく、一定の短期取得物件について通達自体で先回りして網をかける方向へ舵を切ったものと考えられます。最高裁判決の判断も、乖離倍率だけでなく、購入・借入れによる租税負担の軽減効果などを踏まえたものであり、総則6項はあくまで通達評価が「著しく不適当」となる例外的場面に対応する位置付けです。

今後の見通し(第3弾はあるか)

貸家建付地・貸家の評価減(借家権割合等による評価減)についても、時価を反映していないのではないかという指摘が実務家から既に出ています。土地については、相続税路線価が地価公示価格水準の80%程度を目安として設定され、建物については固定資産税評価額を基礎として評価されます。そこに貸家建付地・貸家の評価減が重なるため、物件によっては市場価格との乖離がさらに拡大する構造があります。

もっとも、貸家建付地・貸家の評価減には、単なる節税措置ではなく、賃貸借による利用制限、立退き・明渡しの困難性、所有者が自由に使用収益・処分できない制約を評価に織り込むという本来の趣旨があります。そのため「時価との乖離を生みやすい」という理由だけで直ちに縮小・廃止されるとは限りません。

もう一つの論点:非上場株式評価における「3年しばり」との関係

個人が直接保有する貸付用不動産への規制とは別に、法人、特に非上場会社が保有する不動産については、従来から別の取扱いが設けられています。

財産評価基本通達185の括弧書きでは、非上場株式を純資産価額方式で評価する際、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等および家屋等について、通常の路線価や固定資産税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされています。ただし、その不動産の帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、帳簿価額によって評価することができます。

ここで、令和8年度税制改正大綱に示された個人側の5年ルールと、非上場株式評価における3年ルールを比較すると、次のような違いがあります。

  • 個人側の5年ルール:被相続人等が課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産が対象。原則として通常の取引価額で評価し、課税上の弊害がない場合には、取得価額を基礎として地価変動等を反映した価額の80%相当額で評価できる
  • 法人側の3年ルール:評価会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等・家屋等が対象。貸付用に限定されず、通常の取引価額に相当する金額で評価する。ただし帳簿価額が通常の取引価額に相当する場合は帳簿価額を使用できる

両者は、直前の不動産取得による評価額の引下げを制限するという点では共通しますが、対象財産、適用場面、評価方法および制度目的は完全には一致しません。したがって、個人側が5年、法人側が3年であることだけを理由として、直ちに制度上の不整合があるとはいえません。しかし、同じ不動産を個人で保有するか、非上場会社を通じて保有するかによって、適用される期間や評価水準が異なることは事実です。

今後、貸付用不動産の5年ルールが実際に運用される中で、非上場株式評価における3年以内取得不動産の取扱いとの関係が、制度間の比較検討を要する論点となる可能性はあります。ただし、現時点で具体的な見直し方針が公表されているわけではなく、「第3弾」と断定するのではなく、今後の検討課題の一つとして位置付けるのが妥当でしょう。

令和9年1月1日施行の第2弾の運用状況(駆け込み贈与の動向、実務上の混乱の程度)を見ながら、次の有識者会議あるいは税制改正大綱で、貸家建付地・貸家の評価減規定、あるいは非上場株式評価の3年しばりに検討が及ぶ可能性は、今のところ否定できない、という程度にとどめておくのが実務家として妥当な見立てでしょう。

まとめ

  • 第1弾(マンション評価通達)は、平成30年分約2,000件の取引事例に基づく回帰式で評価水準を戸建て並みの0.6まで補正する仕組みだが、その統計的な検証過程は公表資料からは十分に確認できない。また、これとは別の調査(平成23〜25年分、20階建て以上343件)で判明していた「平均3倍」という乖離の実態は、通達本文の算式には直接反映されていない
  • 第2弾(貸付用不動産評価見直し)は、令和9年1月1日から、被相続人等が課税時期前5年以内に取得・新築した貸付用不動産について、原則として通常の取引価額で評価し、課税上の弊害がない場合には、取得価額を基礎とした算定価額の80%相当額による評価を認めるという、より直接的な封じ方
  • 今後の検討論点としては、貸家建付地・貸家の評価減の見直しに加え、個人の貸付用不動産に対する5年ルールと、非上場株式評価における法人保有不動産の3年ルール(財産評価基本通達185の括弧書き)との関係が挙げられる
  • いずれも「評価方法の理論的な正しさ」よりも「行き過ぎた節税スキームへの対症療法」という性格が強く、評価方法論・事業承継政策・租税回避対策という3つの異なる課題が、整理されないまま通達・税制改正の中に混在している

顧客への説明においては、「評価額が下がる=節税成立」という単純な理解ではなく、取得時期・保有期間・総則6項の発動リスクまで含めた総合的なシミュレーションが今後さらに重要になってきます。

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