非上場株式の譲渡における課税関係の全体像 ― 個人・法人の4パターンと「1物2価」の法理

非上場株式の譲渡における課税関係の全体像 ― 個人・法人の4パターンと「1物2価」の法理

非上場株式(取引相場のない株式)の譲渡は、当事者が個人か法人かによって適用される税目・根拠規定が異なります。また、時価の算定に用いる財産評価基本通達の評価技法自体は各税目で共通する部分が多いものの、「誰の立場で判定するか(判定主体)」と「いつの時点で判定するか(判定時点)」が税目によって異なる点が実務上の最重要論点です。

本記事では、非上場株式の譲渡における課税関係を「①個人→個人」「②個人→法人」「③法人→個人」「④法人→法人」の4つのパターンに整理して解説します。

目次

非上場株式の「時価」と評価方式

非上場株式には市場価格が存在しないため、税務上の「時価」は財産評価基本通達(以下「財基通」)178から189-7までの規定に基づいて算定します。

評価方式は譲渡当事者(誰が売り・誰が買うか)によって異なり、また税目によっても時価の算定基準が異なる点が実務上の重要な論点です。

評価方式の区分

株主の区分評価方式根拠規定
同族株主(原則的評価方式対象者)原則的評価方式
(類似業種比準・純資産価額・折衷)
財基通179
同族株主以外の株主配当還元方式財基通188-2

どちらの評価方式が適用されるかは、誰が株式を取得するか(または譲渡するか)という株主の態様と、税目ごとに異なる判定基準によって決まります。

① 個人から個人への譲渡

課税関係の概要

当事者課税の種類課税の基礎根拠規定
譲渡人(売主)所得税(譲渡所得)実際の譲渡対価所得税法第33条
譲受人(買主)贈与税(みなし贈与)時価と対価の差額相続税法第7条

譲渡人(売主)の課税

個人から個人への低額譲渡では、所得税法第59条(みなし譲渡)は適用されません。同条は法人への贈与・低額譲渡の場合のみ適用される規定であり、個人間の通常の売買・贈与には適用がありません。

したがって譲渡人は、実際の譲渡対価のみで譲渡所得を計算します。時価との差額について追加で課税されることはありません。

※ 所得税法第59条第1項には、法人への贈与・低額譲渡のほか、「限定承認に係る相続・包括遺贈」も列挙されており、この場合は相手方が個人であってもみなし譲渡が生じます。ただし、これは通常の売買・贈与とは異なる場面であるため、本記事では通常の個人間譲渡を中心に解説しています。

譲渡所得 = 実際の譲渡価額 ―(取得費 + 譲渡費用)
税率:所得税15.315% + 住民税5% = 合計20.315%(申告分離課税)

譲受人(買主)の課税

著しく低い価額で株式を取得した譲受人には、相続税法第7条によるみなし贈与課税が生じます。利益を得た者(譲受人)に着目して課税する規定です。

みなし贈与額 = 適正な時価 ― 実際の取得価額

適正な時価の算定(相続税法第7条)

相続税法第7条における時価は財基通による評価額であり、譲受人の株主区分(取得後の議決権割合)で判定します。

  • 譲受人が同族株主に該当 → 原則的評価方式(財基通179)による価額が時価
  • 譲受人が同族株主以外に該当 → 配当還元方式(財基通188-2)による価額が時価

譲受人の株主区分は取得後の議決権割合で判定します(財基通188)。

② 個人から法人への譲渡

課税関係の概要

当事者課税の種類課税の基礎根拠規定
譲渡人(個人)所得税(みなし譲渡)時価(時価の1/2未満の場合)所得税法第59条
譲受人(法人)法人税(受贈益)時価と実際の取得価額の差額法人税法第22条

譲渡人(個人)の課税

法人への低額譲渡においては、所得税法第59条(みなし譲渡)が適用されます。

所得税法施行令第169条により、「著しく低い価額」とは時価の2分の1に満たない金額と定められています。

譲渡価額の水準所得税の課税方法
時価の1/2未満時価で譲渡したものとみなして課税(みなし譲渡)
時価の1/2以上・時価未満実際の対価で課税(所得税法第59条の適用なし)
※ただし所得税基本通達59-3(所得税法第157条)に注意
時価以上実際の対価で課税

なお、時価の1/2以上の対価での譲渡であっても、同族会社への低額譲渡については所得税基本通達59-3(所得税法第157条・同族会社等の行為計算否認)により、税務署長が時価課税することができます。ただし、所得税法第157条はあくまで租税負担を不当に減少させると認められる取引に対する例外的な規定であり、合理的な経済的理由のある通常の取引に対して一律に適用されるものではありません。時価の1/2以上であっても同族会社への低額譲渡には注意が必要ですが、価格設定に合理的な根拠があれば必ずしも否認されるわけではありません。

適正な時価の算定(所得税基本通達59-6)

所得税法第59条の時価は所得税基本通達59-6により算定します。財基通178から189-7の例によりますが、以下の4条件のもとで修正して適用します。

条件内容
(1)株主区分の判定は譲渡者ベース・譲渡直前の議決権の数による(財基通188の(1)〜(4)すべて)
令和2年8月の通達改正で明文化
(2)中心的な同族株主に該当する場合は常に小会社として評価する
(3)土地・上場有価証券は譲渡時における通常の取引価額(時価)で評価する
(4)財基通186-2の法人税等相当額(37%控除)は控除しない

条件(1)は令和2年3月24日最高裁判決(いわゆる「1物2価」判決)を受けた改正により明確化されました。これにより、同一の株式であっても相続税法上の時価(取得者ベース・取得後)と所得税法上の時価(譲渡者ベース・譲渡直前)が異なる価額となりうることが確定しています。

譲受人(法人)の課税

低額で株式を取得した法人には、時価と実際の取得価額との差額を受贈益として益金算入します(法人税法第22条)。

法人側の時価算定は法人税基本通達4-1-6(取得・譲渡の場面)または9-1-14(評価損の場面)により行います。両通達の条件(①中心的な同族株主なら常に小会社・②土地等は取引時価・③37%控除なし)はほぼ同一ですが、9-1-14が本来は評価損の場面の規定であり、取得・譲渡の場面では4-1-6が正確な根拠通達となります。

③ 法人から個人への譲渡

課税関係の概要

当事者課税の種類課税の基礎根拠規定
譲渡人(法人)法人税(低廉譲渡)時価で譲渡したものとして益金算入
差額は寄附金等として処理
法人税法第22条
法基通2-3-4・4-1-5・4-1-6
譲受人(個人)所得税(受贈益課税)時価と対価の差額所得税法第28条・34条・35条等

譲渡人(法人)の課税

法人が資産を無償または低額で個人に譲渡した場合、法人税法上は時価で譲渡したものとして処理します。

  • 時価相当額を収益(益金)に計上
  • 時価と実際の対価の差額は役員・従業員への給与または寄附金として処理

法人側の時価は法基通4-1-6(または9-1-14)により算定します。

譲受人(個人)の課税

法人から低額で株式を取得した個人には、時価と対価の差額について次の区分に応じた所得税が課税されます。

個人と法人の関係差額の所得区分
法人の役員・従業員給与所得(賞与として課税)
法人の株主配当所得(みなし配当)または一時所得
上記以外の個人一時所得

なお、既存株主については、時価以下での第三者割当増資や低額での株式売却によって自己の株式の価値が増加した場合に、相続税法第9条(みなし贈与)の問題が生じることがあります。

④ 法人から法人への譲渡

課税関係の概要

当事者課税の種類課税の基礎根拠規定
譲渡人(法人)法人税時価で譲渡したものとして処理
差額は寄附金として処理
法人税法第22条・第37条
法基通2-3-4・4-1-5・4-1-6
譲受人(法人)法人税(受贈益)時価と実際の取得価額の差額を益金算入法人税法第22条
法基通4-1-5・4-1-6

譲渡人(法人)の課税

法人が非上場株式を低額で他の法人に譲渡した場合、時価で譲渡したものとして処理します。

  • 時価相当額を有価証券売却収益(益金)に計上
  • 時価と実際の対価の差額は寄附金として処理(法人税法第37条)
  • 完全支配関係にある法人間の場合は、グループ法人税制による特別な処理が適用される場合があります

譲受人(法人)の課税

低額で株式を取得した法人には、時価と取得価額の差額が受贈益として益金算入されます。

なお、完全支配関係にある法人間の資産の低廉譲渡については、グループ法人税制による受贈益の益金不算入の特例(法人税法第25条の2)が適用される場合があります。

4つのパターンの課税関係 まとめ

取引形態譲渡人側の課税譲受人側の課税時価の判定基準
個人 → 個人(低額)実際の対価で譲渡所得課税
(時価課税なし)
相続税法第7条によるみなし贈与課税譲受人ベース・取得後の議決権で判定
個人 → 法人(低額)所得税法第59条によるみなし譲渡課税
(時価の1/2未満の場合)
法人税法第22条による受贈益課税譲渡人ベース・譲渡直前の議決権で判定
(所基通59-6・令和2年改正で明文化)
法人 → 個人(低額)法人税法第22条・第37条
時価相当額を益金算入
差額は給与または寄附金処理
給与所得・一時所得等として所得税課税
(既存株主には相続税法第9条のみなし贈与の問題も)
法基通4-1-6・9-1-14
法人 → 法人(低額)法人税法第22条・第37条
時価相当額を益金算入
差額は寄附金処理
法人税法第22条による受贈益課税
(完全支配関係にある場合は特例あり)
法基通4-1-6・9-1-14

税目による時価の違い(1物2価)

令和2年3月24日最高裁判決が確立した最重要の法理が「1物2価」です。同一の株式であっても、税目ごとに時価の算定基準(誰の立場で・いつの時点で判定するか)が異なるため、異なる価額になりえます。

税目時価の判定基準時価の性格
相続税・贈与税(財基通)取得者ベース・取得後の議決権割合取得者が享受する経済的価値
所得税法第59条(所基通59-6)譲渡者ベース・譲渡直前の議決権割合(令和2年改正で全判定に明示)譲渡者に帰属する含み益の実現額
法人税(法基通4-1-6・9-1-14)判定時期の明示なし
(通達上の規定はないが、実務上は譲渡側は譲渡直前・取得側は取得後と整理するのが一般的)
客観的交換価値

この「1物2価」の考え方は、非上場株式の譲渡スキームを検討する際に不可欠の前提です。特に個人から受け皿法人への低額譲渡においては、法人側(相続税・贈与税の観点)では問題が生じないケースでも、譲渡した個人に所得税のみなし譲渡課税が生じるリスクがある点に十分注意が必要です。

まとめ

非上場株式の譲渡における課税関係は、当事者が個人か法人かによって適用される税目・根拠規定が異なります。また、財産評価基本通達を用いた評価技法自体は各税目で共通していますが、「誰の立場で判定するか(判定主体)」と「いつの時点で判定するか(判定時点)」が税目ごとに異なる点が核心的な論点です。

  • 個人→個人:譲渡人は対価課税のみ(時価課税なし)。譲受人には相続税法第7条のみなし贈与課税(時価は取得者ベースで判定)。
  • 個人→法人:譲渡人には時価の1/2未満で所得税法第59条のみなし譲渡課税(時価は譲渡者ベースで判定・所基通59-6)。法人には受贈益課税。
  • 法人→個人:法人側は時価相当額を益金算入・差額は給与または寄附金処理。個人側は給与所得・一時所得等として課税。
  • 法人→法人:譲渡法人は時価相当額を益金算入・差額は寄附金処理。取得法人は受贈益課税。

非上場株式の譲渡・評価・事業承継に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

参考となる主要判例・裁決例

非上場株式の譲渡における課税関係については、以下の判例・裁決例が実務上の重要な指針となっています。

① 最高裁令和2年3月24日判決(第三小法廷) ― 「1物2価」の確立

事案の概要
B社の代表取締役A(譲渡前の持分15.88%)が、保有するB社株式の7.88%を1株75円(配当還元価額)でC社に譲渡。課税庁は1株2,505円(類似業種比準価額)が時価であるとして更正処分。

審級の経緯
東京地裁平成29年8月30日(納税者敗訴)→ 東京高裁平成30年7月19日(納税者勝訴・取得者ベースで判定)→ 最高裁令和2年3月24日(破棄差戻し・課税庁勝訴)→ 差戻控訴審令和3年5月20日(課税庁勝訴確定)

判決の核心
「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎず、その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなる。」「少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべき。」として、時価の判定は譲渡者ベース・譲渡直前で行うべきことを確立しました。

実務への影響
同一株式であっても相続税・贈与税(取得者ベース・取得後)と所得税(譲渡者ベース・譲渡直前)で時価が異なりうる「1物2価」が最高裁により確定。同年8月、所得税基本通達59-6が改正され、財基通188の(1)〜(4)すべての判定について「譲渡直前の議決権の数により判定する」旨が明文化されました。

② 最高裁平成17年11月8日判決(第三小法廷) ― 財基通援用の合理性

判決の核心
所得税基本通達23〜35共-9(4)は、権利行使場面のみならず、株式の低額譲受・低額譲渡全般における時価算定にも妥当するものと解されるとして、財産評価基本通達を参考にして評価することも相当と認めました。令和2年判決に至る礎となった判例です。

③ 最高裁令和4年4月19日判決(第三小法廷) ― 財基通総則6項の適用

事案の概要
90歳・91歳の被相続人が借入金により約13億8,700万円の不動産2棟を取得(相続税対策)。相続人が路線価評価(約3億3,000万円)で申告し相続税をゼロとしたところ、課税庁が財産評価基本通達6項(総則6項)を適用して鑑定評価額(約12億7,300万円)で評価し直し、約2億4,000万円の追徴課税(納税者敗訴確定)。

判決の核心
「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するものではない。」と判示。通達評価額が本来の時価から著しく乖離し、租税負担の公平を害する場合には通達によらない評価が許容されます。

④ 相続税法第7条・みなし贈与関連判例

東京地裁平成19年1月31日判決(非上場株式・みなし贈与)
代表取締役が少数株主から株式を低額で取得した事案。裁判所は「相続税法第7条は、取引当事者間の特殊な身分関係や租税回避目的の有無を問わず適用される。対価と時価の著しい差額があれば実質的に贈与があったとみることができ、それで十分である。」と判示しました(納税者敗訴)。

「著しく低い価額」の基準について
東京地裁平成19年8月23日判決は、相続税法第7条の「著しく低い価額」とは時価より単に低い価額とは区別される概念であり、「著しく低い価額」「単に低い価額」「適正な価額(時価)」の3つの概念が存在すると判示しました。なお、所得税法施行令第169条の1/2基準は課税の理論的根拠を異にするため、相続税法第7条の「著しく低い価額」の判定に援用することはできません(仙台地裁平成3年11月12日判決ほか)。

⑤ 所得税法第157条(行為計算否認)関連判例

最高裁平成6年6月21日判決(無利息貸付事件)
個人が同族会社に対して無利息・無期限・無担保で巨額の資金を貸し付けた事案。最高裁は「所得税法第157条の『不当に減少させる結果』とは、経済的・実質的にみて不自然・不合理な行為又は計算であってそれによって所得税の負担を不当に減少させる結果となるものをいう」と判示し、同条の適用を認めました。

実務上の留意点
所得税法第157条は主観的な租税回避目的は必須要件ではなく、客観的・経済的な合理性の有無が判断基準です。なお、適用にあたっては「通常あるべき行為・計算」の具体的な主張・立証責任は課税当局にあります。時価の1/2以上・1/2未満の区別なく適用されうる規定ですが、合理的な経済的理由のある取引に対して一律に適用されるものではありません(所得税基本通達59-3)。

⑥ 財産評価基本通達188(同族株主判定)の重要論点

「株主の1人」はすべての株主が起点
財基通188の同族株主の判定において、「株主の1人」とは納税義務者(相続人等)に限られず、評価会社のすべての株主が判定の起点となります(国税庁質疑応答)。筆頭株主のみが起点となるわけではない点が実務上しばしば見落とされます。

50%超グループ優先ルール
50%超の議決権を保有するグループが存在する場合、そのグループのみが「同族株主」となり、30%以上のグループに属する株主であっても同族株主には該当しません。

役員除外規定
中心的な同族株主以外の同族株主であり株式取得後の議決権が5%未満であっても、課税時期において評価会社の役員(社長・代表取締役・専務・常務等)に該当する者は配当還元方式の適用から除外されます。

実質的支配関係に基づく判定
法律上の同族関係者に形式的には該当しない場合でも、実質的な支配関係があると認められれば同族関係者として扱い、原則的評価方式による評価が認められた裁判例があります(東京地裁平成27年3月27日判決等)。

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