配当還元方式10%は本当におかしいのか|本当の問題は「2円50銭」と資本金等の額にある

配当還元方式10%は本当におかしいのか|本当の問題は「2円50銭」と資本金等の額にある

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」が令和8年4月以降、複数回にわたって開催されています。報道や各種解説のなかで、配当還元方式の還元率「10%」について、「今の金利水準(1%台)と乖離していておかしい」という趣旨の議論が紹介されることがあります。実務の現場でも、「10%という還元率を現在の金利水準と単純に比較してよいのか」という声を聞くことがあります。

当事務所は30年にわたり非上場株式評価・組織再編・M&Aを専門としてきた立場から、この論点を掘り下げてみたいと思います。

先に結論を申し上げます。「10%が今の金利水準と合っていないからおかしい」という切り取られた論法は、制度趣旨を取り違えた的外れな議論になりがちです。そして配当還元方式の本当の問題は「10%が高すぎる(評価を下げすぎる)」という方向ではなく、むしろ逆方向に——理論的にはゼロのはずの株式に評価額を立て、無配・債務超過・組織再編といった局面で評価が経済実態から離れていく——という「2円50銭」の下限と資本金等の額への依存にあります。

順を追って説明します。

目次

1.そもそも配当還元方式の「10%」とは何か

配当還元方式は、財産評価基本通達188・188-2に定められた、少数株主(同族株主以外の株主等)が取得した非上場株式の特例的評価方式です。計算の骨格は、その株式に係る年配当金額を還元率10%で割り戻して元本(株価)を逆算するというものです。

この10%は、昭和39年の評価通達制定以来、一度も変更されていません。だからこそ「制定当時の金利と今の金利は全く違う。10%は時代遅れだ」という指摘が出てきます。

しかし、この10%は市場金利や国債利回りを反映した“市場連動の利率”ではありません。少数株主の株式評価をあえて低く抑えるために、税法が政策的に置いた「固定の還元利率(政策パラメータ)」です。ここを誤解すると、議論全体がずれていきます。

「金利と合っていない=おかしい」が的外れになる理由

第一に、10%は少数株主保護のための政策的な仕掛けです。少数株主は会社支配力に乏しく、流動性(換金性)も低く、実質的には配当を受け取ること以外に直接の経済的利益を享受しにくい立場にあります。「高めの還元率(10%)で割り戻す」設計は、分母が大きいぶん株価が低く算定されることを意味します。10%は少数株主の評価額を意図的に抑えるための係数なのです。

第二に、市場金利に連動させると政策目的に反します。仮に還元率を1%台に連動させると分母が小さくなり、株価は跳ね上がります。低金利期ほど少数株主の相続税・贈与税負担が重くなり、「少数株主に配慮する」という制度本来の目的と矛盾します。

第三に、予見可能性が損なわれます。金利変動のたびに自社株評価が上下する制度では、数年〜十数年単位で組み立てる相続・事業承継対策が成り立ちません。

つまり「金利と合っていないからおかしい」という一点だけの批判は、制度の目的論を踏まえていないため、専門家から見ると説得力に欠けます。

2.本当の歪みは逆方向にある——下限「2円50銭」の存在

ここからが本題です。配当還元方式には下限が設けられています。年配当金額が2円50銭未満(無配を含む)の場合は、2円50銭として計算する取扱いです(通達188-2)。

配当還元方式は「年配当金額 ÷ 10%」で株価を逆算しますから、本来は配当がゼロなら理論株価もゼロのはずです。ところが下限により、無配会社でも年配当金額を2円50銭とみなして計算します。具体的には次のようになります。

無配の場合の配当還元価額
=(2円50銭 ÷ 10%)×(1株当たり資本金等の額 ÷ 50円)
= 25円 ×(1株当たり資本金等の額 ÷ 50円)

= 1株当たり資本金等の額 × 50%

つまり、配当還元方式の算式上は、一度も配当を出していない会社の株式でも評価額はゼロにならず、「1株当たり資本金等の額の2分の1」が算出されるという構造です。

ここに明確な「非対称性」があります。10%という高い還元率は評価を下げる方向に働く一方、下限の2円50銭は評価を底上げする方向に働く。同じ配当還元方式のなかに、評価を下げる装置と、評価を下げきらせない装置が同居しているのです。

下限の趣旨は「無配でも会社には純資産や残余財産分配の可能性があり、株式価値はゼロではない」と説明されます。しかしこの理由づけは、配当への期待だけで評価するという方式の建付けと整合していません。配当への期待を貫くなら無配=期待ゼロ=株価ゼロが論理的帰結のはずで、そこに純資産的な発想を持ち込んで下限を置くのは、方式の内的一貫性を犠牲にした政策的な辻褄合わせだと言えます。

3.下限評価額は「資本金等の額」だけで決まる——実態を反映しない

下限がさらに不合理なのは、その「一定水準」を決める物差しです。

前述のとおり、無配会社の評価額は実質「1株当たり資本金等の額 × 50%」に収束します。年配当金額は2円50銭で固定されますから、評価額を実際に動かすのは1株当たり資本金等の額だけです。無配会社では、株価が純資産でも収益力でもなく、資本金等の額という一点だけで決まってしまうのです。

資本金等の額は会社の実態価値を表す指標ではありません。設立時や増資時の払込みの履歴、過去の資本政策の結果にすぎません。同じ純資産1億円の会社でも、資本金等が1,000万円の会社と8,000万円の会社では、無配なら配当還元評価額が8倍違います。逆に純資産が大きくても資本金等を小さく設計してあれば、無配なら評価は低く出る。

仮に「無配であっても株式価値を完全にゼロとは見ない」という政策的な考え方を採るのであれば、本来は純資産価額のような実態に紐づく指標を基準にする方が自然です。ところが配当還元方式の計算構造の都合上、たまたま残っていた資本金等の額にぶら下げてしまった。結果として、実態価値と無関係に、資本構成の作り方次第で評価額が上下する制度になっています。しかも資本金等の額は、資本取引や組織再編などによって変動し得る数値ですから、無配会社では経済実態そのものではなく、過去の資本政策や再編処理の影響によって評価額が左右される余地さえ残ります。

4.債務超過会社では、下限評価の限界が露呈する

この歪みが端的に表れるのが、債務超過会社のケースです。

債務超過の会社を純資産価額方式で評価すると、1株当たり純資産価額はマイナスとなり、評価額はゼロになります。会社の実態価値が負である以上、これは経済的に正しい結論です。

なお、ここで注意が必要です。配当還元方式には、配当還元価額が原則的評価方式による価額(通達179)を超える場合には、原則的評価方式による価額を用いるという上限規定(188-2ただし書き)があります。そのため、債務超過会社について、直ちに「原則法0円・配当還元方式プラス」という単純な逆転結論になるわけではありません。

しかし、この上限規定が存在すること自体が、配当還元方式の下限2円50銭が経済実態とずれる可能性を物語っています。無配で、純資産もマイナスで、残余財産の分配可能性もない会社についてまで、算式上はいったん資本金等の額に応じた評価額が発生し得る。そのうえで、原則的評価方式との比較によって調整する——という構造になっているわけです。

本来、配当への期待を基礎にする方式であれば、無配かつ債務超過の会社については、評価額ゼロに向かうのが自然です。ところが現行算式は、下限2円50銭と資本金等の額を組み合わせることで、経済実態とは別の評価額をいったん機械的に算出してしまう。この点に、配当還元方式の内在的な無理が表れています。

5.組織再編では、資本金等の額が実態から大きく乖離する

そして、その「資本金等の額への依存」が最も顕著に問題化するのが、組織再編です。これは当事務所が30年扱ってきた領域でもあります。

組織再編を経た会社では、税務上の資本金等の額が会社の経済実態から大きく離れることがあります。特に、抱合せ株式を伴う合併などでは、合併法人がその簿価相当を増加資本金等の額から減算する処理が入るため、税務上の資本金等の額が大きく減少し、場合によっては極端な値を取ることがあります。

前述のとおり、無配会社の配当還元評価額は、下限2円50銭が効いた後、実質的に1株当たり資本金等の額に強く依存します。そのため、組織再編によって資本金等の額が経済実態から乖離すると、株式評価もまた実態から離れた動きをすることがあります。

私が実務で確認した事例でも、組織再編の前後で配当還元価額が通常想定される水準から大きく乖離し、正常時の評価額と比べて著しく高い評価額となったケースがありました。重要なのは、個別事例の数字そのものではなく、配当還元方式が資本金等の額という税務上の数値に過度に依存しているため、組織再編を経た会社では評価が実態と無関係に動き得るという点です。

まとめ——本当の問題は「2円50銭」と資本金等の額にある

ここまでの論点を一本の線でつなぐと、配当還元方式の構造が見えてきます。

① 10%の誤解:10%は市場金利ではなく少数株主保護の政策利率。単純な金利比較は的外れ。

② 下限の存在:無配会社では下限2円50銭により、理論株価ゼロのはずが「資本金等の額×50%」が必ず立つ。

③ 資本金等への依存:その下限評価額は純資産でも収益力でもなく、資本金等の額だけで決まり、実態を反映しない。

④ 債務超過での限界:上限規定(188-2ただし書き)で調整される一方、その存在自体が下限の歪みを物語る。

⑤ 組織再編での乖離:資本金等の額が経済実態から離れ、株式評価も実態と無関係に動き得る。

世間で語られる「10%が金利と合わない」という議論は、配当還元方式を下げすぎている方向で批判します。しかし実際に制度を動かしているのは、配当でも金利でもなく、「2円50銭の下限」と「資本金等の額」という、会社の経済実態とは切り離された数値です。本当に見直すべき論点は、金利水準ではなく、この下限と資本金等の額への依存の側にあります。

この構造は、有識者会議が問題視する「評価額の操作可能性」「資本移転による純資産の圧縮スキーム」とも地続きです。会議は類似業種比準方式や純資産価額方式の操作を主に論じていますが、配当還元方式の下限が資本金等の額に依存している点も、同じ「実態と切り離された数値で評価が決まり、操作余地がある」という病理の一種だと位置づけられます。

今後の見通しと当事務所の対応

報道ベースでは、有識者会議は今秋頃までに見直し案の論点整理を行い、令和9年度税制改正大綱、パブリックコメントを経て、早ければ令和10年1月から新しい評価方法が適用される見通しです。今回の見直しは、個々の微修正ではなく、取引相場のない株式の評価体系全体に及ぶ可能性があります。

当事務所では、有識者会議の各回資料を継続的に追跡し、相続・事業承継・M&A・組織再編をご検討中のお客様に、改正の方向性を踏まえた早めの対策をご提案しています。とりわけ組織再編を経た会社の自社株評価には、本稿で述べたような注意点があります。自社株評価や事業承継スキームについてご懸念がある場合は、お早めにご相談ください。


税理士法人松野茂税理士事務所(尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F/阪神尼崎駅徒歩1分)は、非上場株式評価・組織再編・M&A・相続を専門とする税理士事務所です。

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